映画と本の『たんぽぽ館』

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孤独のススメ

2016年11月26日 | 映画(か行)
孤独な心からの解放



* * * * * * * * * *

オランダの田舎町。
妻を亡くし、息子は家を出て、
ひっそり単調な毎日を送る初老の男、フレッド。
そんなところへ、一人の正体不明の男が舞い込んできます。
彼(テオ)は、あまり言葉も発せず、知的障害があるようにも思える。
けれども、特に生きる目的もない孤独なフレッドには、
同じ家に少しでも話のできる相手がいることは、心の慰めになるのです。
次第に奇妙な友情めいたものが芽生えていく二人。
しかしある時、テオがフレッドの亡き妻の洋服を着て外に出てしまった。
近所の人は、フレッドとテオの関係を完全に誤解してしまいます。
特に、隣家のフレッドと同年輩の男は、異常に彼ら二人に嫌悪を示し、
教会からも締め出そうとします。
そんな時、テオの身元がわかり、その住所を訪ねてみると・・・。



いつも決まった時間にお祈りをしてから食事。
まるで柳沢教授のように几帳面なフレッド。
壁には亡くなった妻と、まだ少年の息子が笑って一緒に写っている写真が掛けてあります。
テオが泊まることになるのは、まだギターなどが立てかけてある、息子の部屋だったであろうと思われる部屋。
息子は出て行ったきりで、帰ってくることはないらしい。
何かそこに秘密があるような気配です。


なんだか次第にテオが、あえて寂しい心の持ち主のところに居着いて、
癒しているかのように見えてくるのです。
まるで無垢な子どものようにちょっと手はかかるけれども、
逆にこちらの気持ちを優しくする。



フレッドも、隣家の男もたいへん信心深く、日曜にはきちんと教会へ通います。
日々のお祈りも欠かしません。
そんな彼らが終盤、ついに衝突し
「神なんかいるわけがない、いるのならなぜ俺はこんなに不幸なんだ!」
と、双方、ついに本音を漏らしてしまいます。
私にはだんだん、テオがほんの少し、
彼らが信じたい「なにものか」の気配を持っているように感じられてきました。
結局はふたりとも、テオによって、閉じ込めていた心が開放されるのですから。



本作の原題は「マッターホルン」で、
フレッドが若い頃に妻とともにマッターホルンへ行ったことが一番の思い出で、
いつかまた、そこへ行ってみたいと思っているのです。
雪を抱いた雄大なマッターホルンの山。
素晴らしい開放感です。
それをあらためて感じられるのも、彼が多くの孤独の時間を過ごしたからこそ・・・
ということでしょうか?


「孤独のススメ」
2013年/オランダ/86分
監督・脚本:ディーデリク・エビンゲ
出演:トム・カス、ロネ・ファント・ホフ、ポーギー・フランセ、アリーアネ・シュルター
孤独度★★★☆☆
無垢度★★★★☆
満足度★★★★☆