爪の先まで神経細やか

物語の連鎖
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作品(3)-9

2006年06月19日 | 作品3
システム・エラー


会社に遅くまで残っていて、一人で仕事をした後、大事な所に鍵を閉めて、それから、後ろを振りかえって、今日も終わり、なんてつぶやきながら、ビルを出る瞬間が好きなんだ。そして、タクシーの後部座席から、東京タワーが見えてね、今日も輝いているな、とか思って、オレもまだまだ、なんかそうした状況のときに、幸福感が腹の底から浮かんでね。たまには、一人で飲みに行ったりもするよ。その店は誰にも教えていないんだ。良い音楽もかかっているし、素顔を取り戻す瞬間なんだ。

やっぱり、ビリー・ホリディにつながるんだ。格好つけていない気がするもんね。なにもかも引っ剥がしたような潔さがあるじゃんか。なんか体裁とか見栄えとかに、汲々としている自分がほぐれていく気がするよ。そうした部分を誰にもみせたくないしね。どうしても一人で飲んじゃうんだよ。入院なんか、もし仮にすることがあっても、誰にも見舞いなんかに来て欲しくないね。なんか弱った自分を見せるのか恐ろしいんだよ。よく他の人は、あまり親しくない人にも、パジャマ姿とかを見せられるのかな、とか思ったりしてね。

でも、そうして一人で飲んでいても、声をかけられてしまうこともあるよ。雑誌に顔写真を載せてしまったからね。あんなこと、しなければよかった。適当に相槌を打ったりもするけど、本心はそっとしておいてほしいよ。お酒と音楽のある場所ではね。音楽の順位とかも分からないんだ。ジャンルにも拘泥しないしさ。でも、部族くさい音楽が好きなのかな。体臭を感じさせる音楽だよ。

そして、くつろいだ後、やっと自宅に戻るんだ。そこからはメールを返したりさ。いたって普通だよ。テレビ見て、ベッドに入ってさ。そして朝だよ。これも、一番に会社に着くんだ。たまに抜かれるけど。掃除のおばさんが、一生懸命に掃除をしているでしょう。なんかお世辞を言ったりしてね。おばさんに好かれてしまうんだ。なんか知らないけど、こっちはやっぱり若い子に人気が出てほしいと思うけど。なかなかね。それから、たまに打ち合わせと称して、ふらふらと徘徊するんだ。刺激がないと、仕事にも直に影響するし、まあ流行を追っている仕事でもあるし、仕方がない部分があるよ。

ランチを豪勢にしてね。昼間に飲む酒が一番だね。そんなに飲まないけど、ヨーロッパに行ってからの癖でね。なんか労働者に混じって、飲んでみたり。真実の言葉が聞けるのも、そんな場所であったりもするしね。気取っている人って笑っちゃうよね。デパートに行って、ペットと一緒に乗れるエレベーターがあったんだ。そこに、お金持ちそうな女性が、ずっと文句いいながら、その箱に乗っていた。ペットなんか連れてくるなって。あんなに可愛い動物たちなのに。

また会社に戻り、いろいろ心配も出てくるよ。ただ面白いゲームを作っていただけなのに、また作れそうな人間を集めていただけなのに、業績があがると、そうした分野に注目が浴びすぎちゃって、取り巻きも増えるし、会社自体に狙いをつけてくる人たちも出てくるしね。そろそろ本当に危ないんだ。利益追求の結果が見えてきた感じがするよ。また違う方面を模索しなければならなくなりそう。その時は、助けになってくれよな。相談だけじゃないよ。実際に、資金からさ、調達する努力もしてくれよ。ここで、ちょっと成功したけど、あまりこのジャンルにしっくりいかなくなってきたんだ。飽きっぽいのかな? また新たに力を発揮できる分野をみつけないと。誰か拾ってくれるかな。可愛い子犬だったら。放って置かれないけど、こっちは飼い主の手を噛みそうなほど、強暴だしね。そろそろ、この会議室も閉めるのかな? まだ大丈夫かな。もう一杯コーヒーを入れるね。あと少しだけ、まだ大丈夫だろう?

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