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爪の先まで神経細やか

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拒絶の歴史(49)

2010年04月04日 | 拒絶の歴史
拒絶の歴史(49)

 雪代は大学生活を終えるにあたり、どこかへ旅行をしたいと言った。いくつかの候補があったが、2番手は大きく離され、最終的にアメリカの西海岸に行くことになった。
「いっしょに行くでしょう?」と、問われれば否定することもできず、もちろん楽しみであるので付いていくことになった。飛行機は飛びつづけ、身体の窮屈さを実感した。しかし、着いてみればそこは別天地であった。

 サンフランシスコではケーブルカーを背景に写真を撮り、彼女は写真に撮られなれているので不自然なポーズはしなかった。その反面、ぼくは違う人物のように写っていた。

 港では海の幸がはいったクラム・チャウダーを食べ、彼女もおいしそうに食べていた。
 サンディエゴという奇跡的に美しい町にも滞在し、たくさんの日射しを浴びた。夜はバーで静かにお酒を飲もうとしたが、アメリカン・フットボールの最終試合が間近にあるらしく、その影響で店は混雑し、盛り上がっていた。ぼくは、野球をスタジアムで観たかったが、それはシーズン・オフだった。にぎわった歓声がきかれる中で、何本かの冷たいビールを飲み、ぼくらはホテルに戻っていった。ホテルに戻ってテレビをつけると、アメフトのいままでの勝ち進んだチームの経緯が放映されており、ぼくも見入ってしまった。前進することの困難さを多少の違いがありながらも、ぼくも似たようなスポーツに興じてきて知っていたのだ。

 彼女は、相手にされないことに不服の表情をしたので、ついテレビのスイッチを消してしまったが、いくらか後ろ髪がひかれる思いが残った。

 その後、ロスアンジェルスに移り、遊園地に行ったり、彼女の買い物に付き合ったりした。

 いくつかの洋服を試着し、その中のいくつかのものが袋に入り、彼女は財布から抜き取ったカードで支払っていた。ぼくは、店の前のベンチで余りにも大きすぎるカップに入ったコーラをストローですすっている。彼女は大きな袋を片手で握りながら出てきたので、ぼくはそれを受け取った。

 ホテルに戻り、温水プールの中で数十分泳ぐと、たまっていた疲れがとれた。彼女もそれから着替え、調べてきた少し高級なレストランへ行った。

 その店はいままで食べてきたアメリカの料理とは違い、洗練されたものが出てきた。ぼくと雪代は無心に食べ、急な睡魔とたたかいながらも、歓談し楽しい時間を過ごした。

 旅行は予約をとり行くまでの時間は長いが、きてしまえばあっさりと時間は過ぎ去ってしまう。来たときより少し荷物の増えた自分と、大幅に増えた雪代のバックがあった。最後のロスアンジェルスのきれいな町並みを送迎の車の中で眺め、目に焼きつくそうとしていた。そこは楽園にいるような太陽に包まれ、日本にいるときより数倍も開放的な気持ちにさせてくれた。雪代もとてもくつろいだ自然な表情をしていた。

 空港に着き、時間があまったのでコーヒーを頼み、その小さな店内に座っている。行き交うひとを見るともなく眺めていた。彼らはきびきびと歩き、小さな男の子はぼくらに何か話しかけたそうな表情をしていた。そのとき、ぼくはある姿を目にしたのだ。彼女は、シアトルの学校にいるかもしれなかった。距離的にどれほど離れているのか、ぼくは知らない。だから、いてもおかしくないがありえない状況とも同時に思っていた。だが、少ないアジア人を目にしたことでただ単純に見間違えたのかもしれなかった。

 しかし、そのひとはあまりにも裕紀に似ていた。彼女は、知らない土地で迷う様子もなく、自分の進みたい道をまっすぐに歩いていた。そのときに、
「あの子、ひろし君が高校生のときに付き合っていた子じゃない?」と雪代が言った。
「どこ?」とぼくは気づかないふりをして、そう返答してしまった。なにが自分をそうさせたのだろう。

「向こうにいたけど、もうあの柱で見えなくなった」と雪代はありのままの様子を述べた。

 ぼくは胸の鼓動の不自然になった規則を感じていた。彼女の記憶にはまだぼくという存在が消されていないのか、それが疑問としてぼくの前に示された。