フランス人は、芝居好き。たとえば、情報誌(l'officiel des spectaclesなど)を見ても、最初に紹介されるのが、芝居のスケジュール。しかも、劇場の数が多い。パリ市内だけでいくつあると思いますか。なんと80以上の劇場が、上演を行なっています。もちろん、伝統や規模はさまざま。でも、どこでも、舞台の熱気はすごい!
(シャイヨー劇場の新シーズンのスケジュールを紹介する広告、16-17日付のル・モンド紙、左上がこのシーズンのシンボル・デザイン、アップにすると・・・)
(見方によっては、いろいろな感想が・・・)
古代ギリシャやイタリアの芝居の模倣から、やがて17世紀のラシーヌ、コルネイユのフランス悲劇の完成へ、そして同時期のモリエールによるフランス喜劇の誕生。長い歴史を持つフランス演劇界なればこそ、外国からやってくる演劇人も多くいます。パリにいついた演劇人、あるいは、パリに住むまではいかなくても頻繁に公演活動を行う外国の演劇人たち・・・
そうした中に、日本からの劇団、あるいは作品がフランスの劇団によって上演される日本の劇作家もいます。たとえば、平田オリザ。1998年頃からフランスでも知られるようになった劇作家なのですが、特に2006年のアヴィニョン演劇祭で上演した『ソウル市民』は大好評、一気に人気作家になっています。こうした背景があるからでしょうか、日本の近代演劇の流れを紹介した記事が、9-10日付のル・モンド紙に出ていました。
(見出しは、「日本、仮面を取った演劇」)
一面を使った記事だけに、日本近代演劇の歴史、特徴が実に詳しく紹介されています。これを読むだけで、その概略がわかってしまうほど。
能や歌舞伎といった日本伝統の芝居に新しく西洋演劇の影響が加わり、「新劇」が誕生する。1924年に小山内薫と土方与志によって築地小劇場が誕生。自由演劇の写実主義やイプセン、チェーホフの心理的自然主義演劇の刺激を受けていました。1937年には文学座が。そして、伝統演劇の仮面や衣装を脱ぎ捨て、日常生活に即した演劇が行なわれるようになりました。
戦後、1950年代、社会変革の動きに合わせたかのように、アングラ劇団が登場する。ブレヒトやアルトの影響を受けた鈴木忠志などがその中心で、西欧の前衛演劇と日本の伝統の融合を目指したものだった。全身を白く塗って上演を行なうbuto(舞踏)もこの頃生まれる。アングラ劇の特徴のひとつは、俳優の肉体を中心にすえたことで、能の観世栄夫ら伝統的演劇人たちをも惹きつけた。そして時代の寵児となったのは、寺山修司率いる天井桟敷。単に文化現象ではなく、社会現象となっていた。
次の世代には、野田秀樹がいた。政治的メッセージは影を潜め、過剰な衣装や舞台装置が観客から受けるようになっていた。そして、バブルの成長とともに、小劇場ブームとなる。その背景には、マンガ、アニメなどのサブカルチャーの影響がある。ここにきて初めて、日本演劇は、外国演劇の影響からではなく、自国内の他の文化の影響を受けて新たな潮流を生み出すようになった。そして、こうした流れの中から平田オリザが登場し、その後に岡田利規らが続く。特に平田オリザのばらばらなものの間に成立する均衡、日常の些細な出来事の積み重ねという新しい演劇手法は、人々に大きなショックを与えた。
今、東京には数え切れないほどの小劇場がある。下北沢、新宿、銀座・・・たとえば2005年には、1,500以上の劇団が2,000以上の上演を行なった。すごい隆盛だ。しかし、問題がないわけではない。小劇場ブームは東京だけで地方への広がりがない。また、バイトの掛け持ちをしなくてはやっていけない現状から、新しい才能の出現が難しい。
よくまとまった記事です。この中で特に注目したいのは、1990年代に入り、ポップカルチャーの影響の下、新しい演劇が生まれてきた、ということです。単に外国演劇の後追いではない。「日本」の中から生まれてきた新しい演劇。そこには、日本のオリジナリティがある。その独自性ゆえに、かえって普遍的である。そうです、西欧の真似をしていては、決して普遍的にはなれない。オリジナルであるからこそ、普遍的になれる。そのことを、バブル以降の演劇が身をもって示してくれています。オリジナルであるからこそ、平田オリザらの演劇が、西欧でも注目され、評価されている・・・。
マンガ、アニメ、ロボット、ファッション、キュイジンヌ(料理)、携帯(利用法)、そして、演劇。経済大国なれど政治小国といわれていた日本。今や、政治でも経済でもなく、ポップカルチャーを中心とした文化の国、文化いづる国としての評価を、少なくともフランスでは受けるようになってきています。21世紀の新しい「日本像」の一端を垣間見るような気がします。いいぞ、日本!
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(見方によっては、いろいろな感想が・・・)
古代ギリシャやイタリアの芝居の模倣から、やがて17世紀のラシーヌ、コルネイユのフランス悲劇の完成へ、そして同時期のモリエールによるフランス喜劇の誕生。長い歴史を持つフランス演劇界なればこそ、外国からやってくる演劇人も多くいます。パリにいついた演劇人、あるいは、パリに住むまではいかなくても頻繁に公演活動を行う外国の演劇人たち・・・
そうした中に、日本からの劇団、あるいは作品がフランスの劇団によって上演される日本の劇作家もいます。たとえば、平田オリザ。1998年頃からフランスでも知られるようになった劇作家なのですが、特に2006年のアヴィニョン演劇祭で上演した『ソウル市民』は大好評、一気に人気作家になっています。こうした背景があるからでしょうか、日本の近代演劇の流れを紹介した記事が、9-10日付のル・モンド紙に出ていました。
(見出しは、「日本、仮面を取った演劇」)
一面を使った記事だけに、日本近代演劇の歴史、特徴が実に詳しく紹介されています。これを読むだけで、その概略がわかってしまうほど。
能や歌舞伎といった日本伝統の芝居に新しく西洋演劇の影響が加わり、「新劇」が誕生する。1924年に小山内薫と土方与志によって築地小劇場が誕生。自由演劇の写実主義やイプセン、チェーホフの心理的自然主義演劇の刺激を受けていました。1937年には文学座が。そして、伝統演劇の仮面や衣装を脱ぎ捨て、日常生活に即した演劇が行なわれるようになりました。
戦後、1950年代、社会変革の動きに合わせたかのように、アングラ劇団が登場する。ブレヒトやアルトの影響を受けた鈴木忠志などがその中心で、西欧の前衛演劇と日本の伝統の融合を目指したものだった。全身を白く塗って上演を行なうbuto(舞踏)もこの頃生まれる。アングラ劇の特徴のひとつは、俳優の肉体を中心にすえたことで、能の観世栄夫ら伝統的演劇人たちをも惹きつけた。そして時代の寵児となったのは、寺山修司率いる天井桟敷。単に文化現象ではなく、社会現象となっていた。
次の世代には、野田秀樹がいた。政治的メッセージは影を潜め、過剰な衣装や舞台装置が観客から受けるようになっていた。そして、バブルの成長とともに、小劇場ブームとなる。その背景には、マンガ、アニメなどのサブカルチャーの影響がある。ここにきて初めて、日本演劇は、外国演劇の影響からではなく、自国内の他の文化の影響を受けて新たな潮流を生み出すようになった。そして、こうした流れの中から平田オリザが登場し、その後に岡田利規らが続く。特に平田オリザのばらばらなものの間に成立する均衡、日常の些細な出来事の積み重ねという新しい演劇手法は、人々に大きなショックを与えた。
今、東京には数え切れないほどの小劇場がある。下北沢、新宿、銀座・・・たとえば2005年には、1,500以上の劇団が2,000以上の上演を行なった。すごい隆盛だ。しかし、問題がないわけではない。小劇場ブームは東京だけで地方への広がりがない。また、バイトの掛け持ちをしなくてはやっていけない現状から、新しい才能の出現が難しい。
よくまとまった記事です。この中で特に注目したいのは、1990年代に入り、ポップカルチャーの影響の下、新しい演劇が生まれてきた、ということです。単に外国演劇の後追いではない。「日本」の中から生まれてきた新しい演劇。そこには、日本のオリジナリティがある。その独自性ゆえに、かえって普遍的である。そうです、西欧の真似をしていては、決して普遍的にはなれない。オリジナルであるからこそ、普遍的になれる。そのことを、バブル以降の演劇が身をもって示してくれています。オリジナルであるからこそ、平田オリザらの演劇が、西欧でも注目され、評価されている・・・。
マンガ、アニメ、ロボット、ファッション、キュイジンヌ(料理)、携帯(利用法)、そして、演劇。経済大国なれど政治小国といわれていた日本。今や、政治でも経済でもなく、ポップカルチャーを中心とした文化の国、文化いづる国としての評価を、少なくともフランスでは受けるようになってきています。21世紀の新しい「日本像」の一端を垣間見るような気がします。いいぞ、日本!
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平田オリザさんの「別れの唄」を、しばらく前に偶然テレビで見て、感動したことを思い出しました。
日本語とフランス語ちゃんぽんの、翻訳なしのシナリオで、不思議な面白さがあり、終わった後、ビデオに録画していなかったことが悔やまれました。機会があれば、もう一度見たいと思います。
この作品には、新しい形式?のようなオリジナルなものを感じました。
こんな風に日本の作品が評価されることは、嬉しいことですね。
去年は、平田作品を、シャイヨー劇場とパリ日本文化会館でほぼ同時に上演していました。シャイヨー劇場のほうは、フランスの劇団による上演。平田人気、しっかり根づいているようですね。