週刊の情報誌を見ても、美術展がものすごく多いパリ。そうした情報誌に載る有名な美術館での展覧会はもちろんですが、それ以外にもいたるところでアートに触れることができます。そんな、街の中で見つけた美の世界を、ちょっとだけご紹介しましょう。
①靴とクリスマスカード
まずは、私の好きなモンマルトルの街角から。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/19/82e7e489b25aa1bc62e4b08e6c9d93d7.jpg)
“Raymond Massaro~Maitre d’art”(レイモン・マッサロ~アートの巨匠)という看板がかかっていますが、このマッサロ氏、ご存知でしょうか。実は、靴職人。シャネルをはじめ多くのオートクチュールのコレクション用の靴をデザイン・製作しています。JALの機内でカール・ラガーフェルドの日々を追った番組をご覧になった方なら、あ~、あの靴職人、と思い出されるかもしれませんね。試作段階の靴を持っては、自分の店とラガーフェルドのオフィスを行ったり来たりしていた、人のよさそうな職人さんです、たぶん(いつもながら、いい加減で恐縮です)。
周囲の鉄作に掛けられているようなオートクチュールのコレクションに使われたマッサロ氏の作品をケースに入れて展示しているのですが、私にとってはそれ以上に面白かったのが、ラガーフェルドのデッサンやマッサロ氏へ送られたクリスマスカードの数々(マッサロ氏には申し訳ないですが)!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/02/4ba7004f1f65b3ccb878834613405149.jpg)
狭い室内ですが、正面にはラガーフェルドの写真とその両脇にはコレクション用のデッサン。写真右端は、クリスマスカード。ラガーフェルドの直筆のようです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/4f/30bb72206583ac60226332e5c8ce809d.jpg)
これはマッサロ氏のMをうまく生かしたデザインになっていますね。カール・ラガーフェルドとサインされています。
おじいさんも父親も靴職人という、職人一家に育ったマッサロ氏。しかし、自分には後継者がいない。その寂しさを救ってくれたのが、ラガーフェルドを中心としたシャネルの面々だったそうで、そこに家族のような愛情を抱いて仕事をしているとか。2008年春夏のオートクチュール・コレクションもちょっと前に終わったばかりですが、きっと今回も、マッサロ氏、自分の店とラガーフェルドのオフィスを行ったり来たりしたことでしょうね。コレクションには、多くの人が関わっていますが、そこにはまるで家族のような雰囲気もあるようです。
なお、マッサロ氏は、歌手のステージ用の靴も製作しているそうで、顧客にはシルヴィー・ヴァルタン、ジョニー・アリディ、ミシェル・サルドゥなど錚々たる顔ぶれ。また、ナポレオンの履いていた靴も再現。これは神戸ファッション美術館に展示されているとか。まさに靴職人というより、靴を通しての美の制作者といった活躍ぶりです。
②デパ地下
日本ではグルメコーナーがあったり物産展などが行なわれていますが、左岸のおしゃれなデパート、ボンマルシェの地下にはアート・スペースがあります。以前、カンヌ映画祭の歴史を振り返る展覧会をご紹介しましたが、そのスペースで今行われているのは、写真家、ハリー・グリエール展(Exposition photographique de Harry Gruyaert)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/c4/5cf4824127aef1f01dcceec4ce7c2d95.jpg)
おきなポスターが店舗建物はもちろんですが、メトロの駅などにも多く掲げられています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/29/db349e4139dbf6cc22a3d6ba39f3b300.jpg)
ハリー・グリエール。1941年ベルギー生まれ。14歳のときに父親からカメラをもらい、現像作業の手ほどきも受けたそうです。プロのカメラマンになり、1972年からはパリ在住。1986年には多くの優秀なカメラマンが加入している写真家集団「マグナム」の正会員に。アフリカ、フランスを中心に、世界中で風景を、人物を相手にレンズを向けています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/b0/bd06f6e7b239b28752a7507a78f3eabf.jpg)
(スライドでも見せてくれています)
粒子を荒くした幻想的な作品も多いですが、その特徴は、なんと言ってもそのグラフィック的な色彩と素晴らしい造形美。何らトリミングせずに、そのままグラフィック作品として通用するような、ここしかないというアングルで対象が切り取られています。ただひたすら、美しい(このブログの写真では、なかなかその美しさが伝わらないのが残念です)。しかも、その鋭利なナイフのような感性を、幻想的な粗い粒子がふんわりと包んで、いい味になっています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/4a/7882e299aa248c0cb8064b6a284b72f8.jpg)
しかも、展示の仕方が、これまたうまい。パーテーションで迷路のようにしながら、フロアーには半透明の岩のような照明。デパ地下と侮ることはできません。
③神話の世界
日本にも神話は多くありますが、神話といえばなんといってもギリシャ。ギリシャの芸術家は、やはりその神話の世界との対話を続けているようです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/77/287a722a6b1f3afbc02927731dc6cde4.jpg)
パレ・ロワイヤルの裏手、les allees du Palais-Royalで会期を2月12日まで延長して開催されているのが、ギリシャの彫刻家、Vana Xenouの作品展、“Arrivee-Passage”。
日本語表記はヴァナ・ゼヌでいいのでしょうか、1949年アテネ生まれで、アテネとパリの美術学校に学ぶ。アテネの大学で彫刻を教えながら、創作に励んでいる。ギリシャを代表する芸術家の一人。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/81/d6311b0474e52433884565e8f1d6c3cd.jpg)
公園のような散歩道に13の作品が並べられ、もうひとつの作品は噴水の水の中に。合計14の作品ですが、いずれも、ギリシャ神話から出発した彫刻家の思想が反映されているそうです。明日へ、未来へとみんなが何かに急き立てられるように走っている現代。人は「聖なるもの」を忘れてしまっている。時には、歩みを停めて、過去を振り返ることが大切だ。過去には多くの叡智が積み重なっている。その知恵と会話を重ねることによって、過去と未来に橋をかけることができる。過去を学び、過去に思いを馳せ、そして現代という足元を見つめる。そこから確かな明日が見えてくる・・・プラトンやヘシオドスらの箴言を交えながらの話がいかにもギリシャらしいそうですが、単にギリシャらしいだけでなく、普遍的な意味を持っている。だからこそ、見る人の国籍などに関わらず、何かを考えさせる力を持っているのかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/e1/911e4293c79bfd118bea5c4384605a5d.jpg)
この散歩道を散策する人、ジョギングする人たちに大きなインパクトを与えるからでしょう、ネット上などで紹介されることが増えているそうです。その話題ぶりから、フィガロ紙も24日に半ページを割いて紹介したほどです。過去から未来へ、ギリシャから世界へ・・・急ぎ過ぎたかもしれない人類に、オリンピックのように、古代ギリシャが再び大きな意味を持つようになってきているのかもしれないですね。
・・・思わぬところで、素晴らしい芸術作品に出会える。これも、パリの街歩き、その楽しみのひとつです。
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まずは、私の好きなモンマルトルの街角から。
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“Raymond Massaro~Maitre d’art”(レイモン・マッサロ~アートの巨匠)という看板がかかっていますが、このマッサロ氏、ご存知でしょうか。実は、靴職人。シャネルをはじめ多くのオートクチュールのコレクション用の靴をデザイン・製作しています。JALの機内でカール・ラガーフェルドの日々を追った番組をご覧になった方なら、あ~、あの靴職人、と思い出されるかもしれませんね。試作段階の靴を持っては、自分の店とラガーフェルドのオフィスを行ったり来たりしていた、人のよさそうな職人さんです、たぶん(いつもながら、いい加減で恐縮です)。
周囲の鉄作に掛けられているようなオートクチュールのコレクションに使われたマッサロ氏の作品をケースに入れて展示しているのですが、私にとってはそれ以上に面白かったのが、ラガーフェルドのデッサンやマッサロ氏へ送られたクリスマスカードの数々(マッサロ氏には申し訳ないですが)!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/02/4ba7004f1f65b3ccb878834613405149.jpg)
狭い室内ですが、正面にはラガーフェルドの写真とその両脇にはコレクション用のデッサン。写真右端は、クリスマスカード。ラガーフェルドの直筆のようです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/4f/30bb72206583ac60226332e5c8ce809d.jpg)
これはマッサロ氏のMをうまく生かしたデザインになっていますね。カール・ラガーフェルドとサインされています。
おじいさんも父親も靴職人という、職人一家に育ったマッサロ氏。しかし、自分には後継者がいない。その寂しさを救ってくれたのが、ラガーフェルドを中心としたシャネルの面々だったそうで、そこに家族のような愛情を抱いて仕事をしているとか。2008年春夏のオートクチュール・コレクションもちょっと前に終わったばかりですが、きっと今回も、マッサロ氏、自分の店とラガーフェルドのオフィスを行ったり来たりしたことでしょうね。コレクションには、多くの人が関わっていますが、そこにはまるで家族のような雰囲気もあるようです。
なお、マッサロ氏は、歌手のステージ用の靴も製作しているそうで、顧客にはシルヴィー・ヴァルタン、ジョニー・アリディ、ミシェル・サルドゥなど錚々たる顔ぶれ。また、ナポレオンの履いていた靴も再現。これは神戸ファッション美術館に展示されているとか。まさに靴職人というより、靴を通しての美の制作者といった活躍ぶりです。
②デパ地下
日本ではグルメコーナーがあったり物産展などが行なわれていますが、左岸のおしゃれなデパート、ボンマルシェの地下にはアート・スペースがあります。以前、カンヌ映画祭の歴史を振り返る展覧会をご紹介しましたが、そのスペースで今行われているのは、写真家、ハリー・グリエール展(Exposition photographique de Harry Gruyaert)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/c4/5cf4824127aef1f01dcceec4ce7c2d95.jpg)
おきなポスターが店舗建物はもちろんですが、メトロの駅などにも多く掲げられています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/29/db349e4139dbf6cc22a3d6ba39f3b300.jpg)
ハリー・グリエール。1941年ベルギー生まれ。14歳のときに父親からカメラをもらい、現像作業の手ほどきも受けたそうです。プロのカメラマンになり、1972年からはパリ在住。1986年には多くの優秀なカメラマンが加入している写真家集団「マグナム」の正会員に。アフリカ、フランスを中心に、世界中で風景を、人物を相手にレンズを向けています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/b0/bd06f6e7b239b28752a7507a78f3eabf.jpg)
(スライドでも見せてくれています)
粒子を荒くした幻想的な作品も多いですが、その特徴は、なんと言ってもそのグラフィック的な色彩と素晴らしい造形美。何らトリミングせずに、そのままグラフィック作品として通用するような、ここしかないというアングルで対象が切り取られています。ただひたすら、美しい(このブログの写真では、なかなかその美しさが伝わらないのが残念です)。しかも、その鋭利なナイフのような感性を、幻想的な粗い粒子がふんわりと包んで、いい味になっています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/4a/7882e299aa248c0cb8064b6a284b72f8.jpg)
しかも、展示の仕方が、これまたうまい。パーテーションで迷路のようにしながら、フロアーには半透明の岩のような照明。デパ地下と侮ることはできません。
③神話の世界
日本にも神話は多くありますが、神話といえばなんといってもギリシャ。ギリシャの芸術家は、やはりその神話の世界との対話を続けているようです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/77/287a722a6b1f3afbc02927731dc6cde4.jpg)
パレ・ロワイヤルの裏手、les allees du Palais-Royalで会期を2月12日まで延長して開催されているのが、ギリシャの彫刻家、Vana Xenouの作品展、“Arrivee-Passage”。
日本語表記はヴァナ・ゼヌでいいのでしょうか、1949年アテネ生まれで、アテネとパリの美術学校に学ぶ。アテネの大学で彫刻を教えながら、創作に励んでいる。ギリシャを代表する芸術家の一人。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/81/d6311b0474e52433884565e8f1d6c3cd.jpg)
公園のような散歩道に13の作品が並べられ、もうひとつの作品は噴水の水の中に。合計14の作品ですが、いずれも、ギリシャ神話から出発した彫刻家の思想が反映されているそうです。明日へ、未来へとみんなが何かに急き立てられるように走っている現代。人は「聖なるもの」を忘れてしまっている。時には、歩みを停めて、過去を振り返ることが大切だ。過去には多くの叡智が積み重なっている。その知恵と会話を重ねることによって、過去と未来に橋をかけることができる。過去を学び、過去に思いを馳せ、そして現代という足元を見つめる。そこから確かな明日が見えてくる・・・プラトンやヘシオドスらの箴言を交えながらの話がいかにもギリシャらしいそうですが、単にギリシャらしいだけでなく、普遍的な意味を持っている。だからこそ、見る人の国籍などに関わらず、何かを考えさせる力を持っているのかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/e1/911e4293c79bfd118bea5c4384605a5d.jpg)
この散歩道を散策する人、ジョギングする人たちに大きなインパクトを与えるからでしょう、ネット上などで紹介されることが増えているそうです。その話題ぶりから、フィガロ紙も24日に半ページを割いて紹介したほどです。過去から未来へ、ギリシャから世界へ・・・急ぎ過ぎたかもしれない人類に、オリンピックのように、古代ギリシャが再び大きな意味を持つようになってきているのかもしれないですね。
・・・思わぬところで、素晴らしい芸術作品に出会える。これも、パリの街歩き、その楽しみのひとつです。
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