稔り田に雨や濡れ身の青年佇つ 寺井谷子
豊かに実った田の辺である
おりからの雨はいよいよ強く稲穂を洗う
ふと見やれば人影
雨に全身を差し出している青年
じっと動かず佇っている
失意か咆哮か
知る由もないが
都会から故郷に戻った青年に遭遇した作者
自身の過去の姿を重ね合わせたのかもしれない
(小林たけし)
例句 作者
たくましき稔り田や空従へて 櫂未知子
どこまでも稔り田どこも刈られずに 草間時彦 櫻山
となりあふ荒田稔り田過疎進む 相澤乙代
バス停は稔り田の中三河晴 関野敦子
演歌まみれわが一身も稔り田も 野田信章
刈らるべき稔田や黄に透きとほり 相馬遷子 山河
逆光の稔り田に密着の頬かむり 大胡寿衛
父よ黄泉はこの稔田の明るさか 田所節子
稔り田に雨や濡れ身の青年佇つ 寺井谷子
稔り田に裾ゆるく曳き津軽富士 高井北杜
稔り田に二つの神輿光り合ふ 冨田みのる
稔り田に風神尻をつきし痕 本井英
稔り田に無頼の草が混り立つ 山口誓子
稔り田の白や俄に鷺となる 中山婦美子