竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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春寒や竹の中なるかぐや姫  日野草城

2019-03-08 | 今日の季語


春寒や竹の中なるかぐや姫  日野草城

季語は「春寒(はるさむ)」。暦の上では春になっても、まだ寒いこと。「余寒(よかん)」と同義ではあるが、余寒が寒さに力点を置くのに対し、春寒は春に気持ちを傾かせている。「通夜余寒火葬許可証ふところに」(田中鬼骨)と、余寒はいかにも侘しい。掲句は想像句だが、しかし作者は実際の竹を見ているうちに着想したと思われる。いまごろの竹林は「竹の秋」間近で、いちばん葉の繁っているときだから、奥の方は昼なお暗い。しかしどうかすると、繁った葉から洩れてくる日差しがあたって、そこだけが美しく光っていたりする。と、ここまで見えれば、あと「かぐや姫」までの連想はごく自然な成り行きだ。なんだか、自分が竹取の翁にでもなったような気分になってくる。あの光っている竹をそおっと伐ってみれば、背丈わずかに三寸の可愛らしい女の子が眠っているはずだという想像は、外気が冷たいだけに、春待つ心を誘い出す。こんなふうに自然を眺められたら、どんなに素敵なことか、気が安らぐことか。一読して、たえずギスギスしている私はそう思った。『竹取物語』は平安期に、相当に教養のあった男の書いた話とされている。子供にも面白い読み物だけれど、大人になって読み返してみると、全編が当時の権力者への批判風刺で貫かれていることがわかる。単なるわがまま美女の物語ではなくて、かぐや姫は庶民に潜在していた「一寸の虫にも五分の魂」という気概を象徴しているのだ。しかし、体制はいまとは大違い。女性の地位も、現代では考えられないほどに低かった。したがって帝(みかど)の求婚まで断わるとなった以上は、死をもって償わねばならない。心優しい物語作者は、姫を満月の夜に昇天させるという美しいイメージのなかに、姫の自死を悼んだのだった。『日野草城句集』(2001・角川書店)(清水哲男)

【春寒】 はるさむ
◇「春寒し」 ◇「寒き春」 ◇「春寒」(しゅんかん) ◇「料峭」(りょうしょう)
春になっても残る寒さ。「余寒」と同じであるが、「春寒」には「余寒」ほどの寒さの余韻はない。「料峭」は春の風(東風)により肌寒い様子をいう。

例句          作者

料峭や手燭のゆらぐ躙口 谷口みちる
春寒く虚空に燃やす化学の火 西岡正保
橋一つ越す間を春の寒さかな 成美
春寒やぶつかり歩く盲犬 村上鬼城
春寒し水田の上の根なし雲 河東碧梧桐
切支丹燈籠灯すことなき春の凍て 須藤省子
さびしさと春の寒さとあるばかり 上村占魚
春寒や鬼城の犬ののち知らず 菅原鬨也
廊下よく拭かれし春の寒さかな 赤尾冨美子
春寒し一朶の海苔は流れ行く 前田普羅
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