竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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冴え返る小便小僧の反り身かな  塩田俊子

2019-02-17 | 今日の季語



冴え返る小便小僧の反り身かな  塩田俊子

季語は「冴(さ)え返る」で春。暖かくなりかけて、また寒さがぶりかえしてくること。暖かい日の後だけに、余計に身の引き締まる感じがする。その寒さを誰にもわかってもらえるように表現するには、自分の体感以外の他の何かに取材しなければならない。暖かいときにはいかにも暖かそうな感じに写り、寒くなればまことに寒そうだという客観的な対象が必要だ。そうでないと、ただ「おお寒い」で終わってしまって、冴え返る感じは伝わらない。真冬と同じことになる。その意味から、掲句の作者が対象に「小便小僧」を選んだときに、すでに句はなったというべきか。あのおおらかな真っ裸の幼児の銅像は、たしかに寒暖の差によって表情が変わって見える。裸の姿が、見る者の肌と体感を刺戟してくるからだろう。しかも、小僧は「反り身」だ。人間「反り身」になるときには、たとえ威張る場合にせよ、当人の懸命さを露出する。だからなおさらに、句の小僧が冴え返った寒さに耐えていると写るのだ。以下余談。真夏だったが、一度だけブリュッセルで元祖・小便小僧を見たことがある。イラストレーターの友人と二人で、パリからアムステルダムを鈍行列車で目指す途中、気まぐれにブリュッセル駅で降りちゃった。で、見るなら「小便小僧だな」ということになったが、さて、西も東もわからない。ガイドブックなんて持ってない。おまけに言葉もしゃべれない。折よく通りかかった警官に、イラストレーターが得意の絵を描いて差し出したところ、彼はたちまち微笑した。「ついてこい」とばかりにウインクしたから、ついて行った。「ここだ」と彼が指さして再びウインクしたので、思わず英語で礼を述べた。そしたら、そこはトイレなのでした。……という「冴えない」実話は、もう何度か書いたことである。『句集すみだ川』(金曜句会合同句集・2002)所収。(清水哲男)

【冴返る】 さえかえる(・・カヘル)
◇「凍返る」(いてかえる) ◇「しみ返る」 ◇「寒返る」 ◇「寒戻る」 ◇「寒戻り」
余寒がきびしいさま。春になって、いったんゆるんだ寒気が、寒波の影響でまたぶりかえすこと。

例句               作者

冴え返る身に黒服のたたみ皺 鍵和田?子(ゆうこ)
冴返る虹いくたびも日本海 黒田杏子
物置けばすぐ影添ひて冴返る 大野林火
冴え返る空を歩いてきたりけり 平井照敏
柊にさえかへりたる月夜かな 丈草
冴返る日の東京に帰りけり 渋沢渋亭
山がひの杉冴え返る谺かな 芥川龍之介
黒板に残す数式冴返る 小野恵美子
冴え返る山国に星押し出さる 雨宮抱星
葱の香のすくりと寒の戻りかな 三田きえ子
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