竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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春の雨郵便ポストから巴里へ   浅井愼平

2019-02-23 | 今日の季語


春の雨郵便ポストから巴里へ   浅井愼平

作者は、ご存知のカメラマン。雨降りの日に投函するとき、傘をポストにさしかけるようにして出しても、ちょっと手紙が濡れてしまうことがある。私などは「あっ、いけねえ」としか思わないが、なるほど、こういうふうに想像力を働かせれば、濡れた手紙もまた良きかな。この国のやわらかい「春の雨」が、手紙といっしょに遠く「巴里(パリ)」にまで届くのである。彼の地での受取人が粋な人だったら、少しにじんだ宛名書きを見ながら、きっと日本の春雨を想像することだろう。そして、投函している作者の様子やポストの形も……。手紙の文面には書かれていない、もう一通の手紙だ。愼平さんの写真さながらに、知的な暖かさを感じさせられる。本来のウイットとは、こういうものだろう。手紙で思い出した、昔のイギリスでのちょっといい話。遠く離れて暮らす貧しい姉弟がいた。弟の身を気づかう姉は、毎日のように手紙を出した。しかし、配達夫が弟に手紙を届けると、彼は必ず配達夫に「いらないから」と戻すのだった。受取拒絶だ。当時の郵便料金は受取人払いだったので、貧しい彼には負担が重すぎたのだろう。ある日、たまりかねて配達夫が言った。「たまには、読んであげたらどうでしょう」。すると弟は、封筒を日にかざしながら微笑した。「いや、いいんですよ。こうやって透かしてみて、なかに何も入っていなかったら、姉が元気でやっているというサインなのですから」。イギリスは、郵便制度発祥の地である。『二十世紀最終汽笛』(2001・東京四季出版)所収。(清水哲男)

【春の雪】 はるのゆき
◇「春雪」
春になって降る雪。冬の雪と違い、溶けやすく、降るそばから消えて積もることがない。大きな雪片の牡丹雪になることが多い。

句              作者
弥陀ヶ原漾ふばかり春の雪 前田普羅
元町に小さな画廊春の雪 野木桃花
吾子抱けば繭のかるさに春の雪 小室善弘
春雪に火をこぼしつつはこびくる 橋本鶏二
琴の糸煮てゐる比良の春の雪 大川真智子
忘恩の春の雪降り積りけり 上田 操
春の雪よき想ひ出と問はるれば 梶山千鶴子
湯屋までは濡れて行きけり春の雪 来山
手鏡の中を妻来る春の雪 野見山朱鳥
春雪をふふめば五体けぶるかな 加藤耕子
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