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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

八ヶ岳亜高山帯のヤマネの食性

2021-11-12 22:30:40 | 論文
八ヶ岳亜高山帯のヤマネの食性

高槻成紀・鈴木詩織

これまで定量的分析がほとんどなかったヤマネの食性を糞分析によって解明した。日本中部の八ヶ岳の亜高山帯のヤマネは夏には主に昆虫(69.2%)を、秋には果実(43.0%)と昆虫(33.4%)を食べていた。夏の果実は育児のため高タンパクを必要とし、秋の果実は冬眠前に脂肪蓄積をするために糖分を必要とするためと考えた。葉は微量しか検出されなかった。
キーワード:ヤマネ、食性、糞分析、昆虫食、果実食

Food habits of the Japanese dormouse in the Yatsugatake Mountains, Japan
Zoological Science, 39(2) online   https://doi.org/10.2108/zs210055 
2021年11月12日受理

ヤマネの糞組成

八ヶ岳亜高山帯のヤマネの食性

2021-11-12 10:42:18 | 論文
Food habits of the Japanese dormouse in the Yatsugatake Mountains, Japan
Seiki Takatsuki1 and Shiori Suzuki
Zoological Science, 39: 1-5.  こちら      

八ヶ岳亜高山帯のヤマネの食性
高槻成紀・鈴木詩織

摘要:
これまで定量的分析がほとんどなかったヤマネの食性を糞分析によって解明した。日本中部の八ヶ岳の亜高山帯のヤマネは夏には主に昆虫(69.2%)を、秋には果実(43.0%)と昆虫(33.4%)を食べていた。夏の果実は育児のため高タンパクを必要とし、秋の果実は冬眠前に脂肪蓄積をするために糖分を必要とするためと考えた。葉は微量しか検出されなかった。
キーワード:ヤマネ、食性、糞分析、昆虫食、果実食

 

ヤマネの糞



八ヶ岳のヤマネの糞組成(%)


ヤマネの糞内容物の占有率ー順位曲線。A: 2013年9月、B: 11月



小金井「はけ」のタヌキの食性

2021-10-28 22:05:40 | 調査
2021.10.28

小金井市はけの森美術館付近のタヌキについて

高槻成紀

2021年9月に安田桂子さんからはけの森美術館に近いあるお宅の庭に動物の糞があるが、何の糞だろうと質問を受けた。そこで9月20日に現地を見に行くことにした。この場所は野川の北で「はけ」があるために段丘の坂道が多く、住宅地ではあるが個人の庭や小金井市の緑地などもあり、比較的林が残っている。このお宅ははけの森美術館と道路を挟んで接するようにある(図1) 。


図1. 調査地の空中写真

そのお宅に行くと確かに軒下に動物の糞がパラパラと落ちていた(図2)。タヌキの糞の可能性が大きいが、私がこれまで見たものはもっと集中的に重ねるようなものが多かったので確定はできないと思った。そこでセンサーカメラを置くことにした(図2)。カメラは1台は静止画、もう一台は動画とした。


図.2 軒下の動物の糞とセンサーカメラ(奥の2台)

 9月24日にセンサーカメラの結果を確認しに行ったところ、20日の夜にタヌキが写っていた(図3)。しかも1つの動画には同時に3頭が写っており、少なくとも3頭が利用していることがわかった。


図3. 撮影された2頭のタヌキ. 2021.10.20
動画によればこの後ろにもう1頭撮影された.

 新しい糞を拾って帰り、分析した。分析はポイント枠法という方法を採用した。この方法は間隔が0.5 mmのふるいの上で水洗し、残った物質を顕微鏡で識別し、格子のついたスライドグラスで定量的に評価する方法である。
 9月は新しい糞が4個しか得られなかった。その組成の主体はムクノキの果実で、3例はムクノキの果実が大半をしめたが、1例は昆虫が多かった。タヌキの食物は、多くの場所で夏は昆虫が多くなり、秋は果実が多くなるので、9月中旬はその移行的な段階なのだと思われる。


図4 検出されたムクノキの種子(2021年9月)


 10月には12個の糞が確保された。その組成は全体としては9月と違いがなかった(図5)。


図5. 2021年9月と10月のタヌキの糞組成

果実としてはムクノキが多かったが、コブシやヤブミョウガを含むサンプルもあった(図6)。またほとんどが昆虫(幼虫)に占められていたサンプルやカエルの骨を含んだサンプルもあった。


図5. 2021年10月のタヌキの糞からの検出物

 東京の市街地でもこの場所は「はけ」があり、その水流の周りに良い状態の林が残っているので、タヌキの生息地としては良好であり、タヌキの食糧事情は比較的良好だと思われる。これまで果実・種子としてはムクノキ、エノキ、コブシ、カキノキ、ヤブミョウガが確認された。これらはいずれも落葉樹林の構成種で、ヤブミョウガは常緑樹林にも生育する。ただしカキノキは人家などに植栽される。これまでのところポリ袋などの人工物は検出されておらず、糞組成はここのタヌキが比較的良好な状態の林で生活していることを示唆する。今後、果実が乏しくなったときに、何を食べているか興味が持たれる。

ムクノキ

エノキ

コブシ

ヤブミョウガ



乙女高原に訪花昆虫が戻ってきた

2021-08-08 12:49:57 | 最近の動き
2021.8.12

乙女高原に訪花昆虫が戻ってきた – 2013年との比較 –

高槻成紀(文責)・植原 彰・井上敬子・鈴木辰三

2021年8月8日に訪花昆虫の調査をしました。台風が近づいているというので行こうかどうか迷いましたが、後で後悔するくらいなら行くだけ行ってダメなら諦めればいいと思い、行くことにしました。塩山駅で植原さんに拾ってもらって移動するあいだも半分は「ダメかな」と思わせる曇天で、時おり小雨も降りました。
 現地に着いてようすを見ると、薄曇りで「できなくはない」くらいにはなりました。「ひょっとしたらできるかもしれない」と思えるくらいになって集合の10時になり、鈴木さんと井上さんも来てくれたので、「巻尺張りだけはやろう」ということになりました。調査法の打ち合わせをしている間に、少し空が明るくなってきて、薄日もさすくらいになりました。

乙女高原には歩道があり、管理されているので歩きやすく、歩道の両側には杭があってロープが張ってあります。曲がり角に番号をつけ、その間に「コースB」というようにアルファベットの記号をつけました。これを4人で分担して記録を取ることにしました。ゴールに向かって100mの巻尺を張り、昆虫がいた花の位置を記録できるようにしました。右側幅2mの範囲内の花に昆虫が来ていたら、それを時刻と距離とともに記録するようにしました。つまり往復で歩道の両側4mをカバーすることになります。昆虫は以下の10群に分けました。

ハエ、アブ、アリ、カメムシ、甲虫、ガ、チョウ、
ハチ(マルハナバチ以外)、マルハナバチ、不明

結果をまとめたのが表1で、訪花昆虫が見られた花は26種、訪花昆虫の総数は859匹でした。それぞれの花にきた昆虫の数は1匹というものがいくつかありましたが、多いのはヨツバヒヨドリで260匹も来ていました。次はシシウドの102匹、ノハラアザミの72匹などが続きました。昆虫の数の合計を見ると、アブが209匹、ハエが192匹で、この2つ(双翅目)を合わせると401匹に達しましたから、これが半分近くということです。次が甲虫で151匹、マルハナバチが147匹でした。

表1. 2021年8月の乙女高原での訪花昆虫数


このうち訪花昆虫数が50匹以上と特に多かったトップ5を取り上げたのが図1です。これを見ると明らかな傾向があって、オミナエシとヨツバヒヨドリはハエ・アブが大半を占めていました。一方、ノハラアザミはほとんどがマルハナバチでした。この間にチダケサシとシシウドがあり、チダケサシでは半分くらいが甲虫で、シシウドはハチ、甲虫、ハエなどが3分の1くらいを占めていました。


図1. 202年18月に訪花昆虫がよく来ていた花、トップ5の内訳

図2. 訪花昆虫がよく来ていた花

次に昆虫数が20以上であった8種を取り上げたのが図3です。


図3. 訪花昆虫がよく来ていた花(昆虫数20匹から50匹)


図4. 比較的訪花昆虫が多かった花

訪花昆虫の内訳を見ると、イタドリとワレモコウはハエ・アブが多く、ウスユキソウとイケマはアリが多く、ヤマハギとタチフウロはマルハナバチが多いというはっきりした傾向がありました。傾向がはっきりしないのはヒメトラノオとシモツケソウでハエ、マルハナバチなどが20-30%を占めていました。
 このように多くの花で訪花昆虫にはっきりした傾向があったので、理由を考えてみます。オミナエシ、イタドリ、ワレモコウなどは花が小さく、皿のような形をしているので、ハエ・アブが蜜を舐めやすいだろうと推察できます。逆にノハラアザミ、ヤマハギのように花の形が複雑で蜜が花の奥にある花の場合はハチ・アブは蜜が吸えず、マルハナバチのように口が長く伸びる昆虫しか利用できないだろうという推察もできます。ウスユキソウとイケマは花が小さく開いているのでアリが来ていましたが、これも納得できます。
しかしヨツバヒヨドリも小さな筒型の花なのでこれにたくさん来ていたハエ・アブは蜜がちゃんとなめれるのだろうかと疑問が残ります。一方タチフウロはいかにも蜜が吸いやすいように開放型の形をしているのでハエでも蜜が吸えそうですがほとんどがマルハナバチでした。だから話はそう単純ではなさそうです。
こういうデータがわかってくると、花を何気なく見ていたことに気づきます。もっと花の作りなどをしっかり見ないといけません。

 ところで、この調査は柵を作って乙女高原の花を守ることで花が戻ってきて、その結果、訪花昆虫も戻ってきたことを示したいということで始めたものです。私は2013年に卒業生の加古さんの研究テーマとしてこのことを調べていました。そこで加古さんのデータと比較してみました。表1と同じまとめをしたのが表2です。ただし加古さんはアブとハエを区別せず「アブ」でまとめています。花の種数は18種ですから、2021年の26種は44%増しということになります。特にヤナギランとオオバギボウシは、私は去年まで花を見ていないので、今年花を見ただけでなく、訪花昆虫のデータが取れたのでとても嬉しく思いました。このほか2013年に記録されず、今年記録されたものにはオミナエシ、イタドリ、イケマ、ヒメトラノオがありました。ことにオミナエシは今はたくさんあるので2013年に全く記録がなかったというのは意外感があります。

表2. 2013年8月の乙女高原での訪花昆虫数


 初めに2013年と2021年の昆虫全体の内訳を見ると、基本的にはよく似た組成でした(図5)。どちらもハエ・アブがほぼ半分、マルハナバチが20%ほどでした。2013年の方がチョウが多く、2021年の方が甲虫が多い点は違いました。しかし全体の数が8倍も違うので、2021年にチョウガ「減った」わけではなく、偶然ですがどちらも14匹でした。


図5. 2013年と2021年の訪花昆虫の内訳. 
年の後の()内の数字は合計値.

次に2013年と2021年の訪花昆虫数を比較したのが図6です。全ての花で大幅に増加しましたが、ヨツバヒヨドリは2013年でも最多で、5倍に増えました。そのほかでも大幅に増えましたが、特にシシウド、チダケサシなどは増加が目立ち、オミナエシ、イタドリでは2013年に全く記録がありませんでした。


図6. 2013年と2021年の訪花昆虫数の比較

次に「念のため」という感じで、ある程度訪花昆虫が多かった2種について昆虫の内訳を比較したのが図7です。これを見るとどちらの年でもヨツバヒヨドリではハエ・アブが、ノハラアザミではマルハナバチが多かったということがわかりました。同じ花ですから、年によって違わないのは当然といえば当然です。


図7. ヨツバヒヨドリとノハラアザミの2013年と2021年の訪花昆虫の内訳。訪花昆虫数は花の名前の後に記した。

 このように乙女高原がススキ原のようになっていた2013年に訪花昆虫の調査をし、その後2015年11月に柵が完成し、野草の回復の様子を見守ってきました。(柵については こちら
 それから5年後の去年、訪花昆虫の調査をしてもらい、はっきりと違いがあることがわかりました。去年は週末に雨が続き、私はどうしても都合がつかず、植原先生たちにお任せしたのですが、今年は順調に調査ができました。去年とほぼ同じデータが取れて、大きくいえば一桁訪花昆虫が増えました。これまで見なかった花にも訪花昆虫が確認され、少ししかなかった花に大量の昆虫が訪れていました。植物が回復することは、同時に花と昆虫のつながり(リンク)が回復するということです。昆虫が増えればそれを利用する小動物も増えるなどさらなるリンクが生まれるはずです。豊かな乙女高原が戻ってきたことが確認できてとても嬉しく思いました。




タヌキの食性

2021-08-01 18:58:08 | 研究
タヌキの食性
 裏高尾のタヌキの食性 2019.3.18 完了 「哺乳類科学」に公開 こちら
  津田塾大学のタヌキの食性 完了 「人と自然」に掲載 こちら
  津田塾大学のタヌキの糞に出てくる食べ物の推移 こちら  2019.2.27  
 明治神宮の森のタヌキの食性 こちら 2021.6.1
  仙川(小金井市)のタヌキの食性 2020.6.1分析中 こちら
 東京都小金井市の「はけ」のタヌキの食性 こちら 21.10.10
  八王子市滝山自然公園のタヌキの糞の中身 こちら 2019.1.10
  丹沢のタヌキの糞 2019.5.18 こちら 
  アファン の森のタヌキの食性 こちら 英語版 2018.12.28
  愛媛県八幡浜のタヌキの食性 
こちら  
  高知県のタヌキの食性 胃内容物分析2019.10.17 完了 こちら 
  タヌキの糞からドングリ こちら 2018.3.8
  タヌキの糞からシカの毛が出た こちら 2018.3.10
  タヌキの糞からイチイ こちら 2019.11.20


高槻がタヌキの食性を分析した地点


● タヌキの糞を確実に確保できる人はご一報ください。高槻


金華山での群落とシカ食性の四半世紀の変化

2021-07-01 08:19:50 | 論文
Long-term changes in food habits of deer and habitat vegetation: 25-year monitoring on a small island

Seiki Takatsuki

Ecological Research, 2021: 1-10.
 https://doi.org/10.2108/zs210055 こちら

1975年から2000年までの25年間、シカが高密度で生息する金華山島のススキ群落とシバ群落で植生とシカの糞組成をモニタリングした。大型草食獣による植生変化がたの大型草食獣に影響与える研究はあるが、自らの食性に与える影響は知られていない。また長期的な植生変化の調査はあるが、草食獣の食性の長期調査はない。調査開始から最初の10年間にススキ群落はシバ群落に入れ替わり、これに伴ってシカの食性もススキ、アズマネザサ、シバからほぼシバだけに変化した。シバ群落は強い採食圧により維持されるが、これにはシバの生産特性と高温多湿な日本の気候によるものと考えた。

草食獣による植生への影響は地形や気候が植生に及ぼす影響に比べれば短期間に変化するものであり、草食獣の密度によって変化する。例えば、乾燥地で過放牧になれば植生荒廃が起きることが知られているし(Fernandez–Gimenes, 2000; Hilker et al., 2014)、島にシカが導入されて植物を食べ尽くすという事例も知られている(Klein 1968; Leader-Williams 1988)。しかし多くの場合はそこまで影響は強くなく、植生は動的に変動する。大型草食獣が植物を食べることは生息地を変形することでもある。その場合、ある動物の採食が植生を変化させ、そのことが別の草食獣に影響を与えることがある。セレンゲティではヌーが高い草を食べることがガゼルにプラスになる(Bell 1970)。一方、ヌーの採食によって草丈が低くなるとトピはそれを利用できなくなるというマイナスの影響もある(Murray and Illius 2000)。これは草食獣が資源あるいはハビタットを変化させることによる他種への間接効果と言える。このような変化は同じ年に起きる季節的な変化であり毎年繰り返されるものである。一方、草食獣による植生の変化は長い時間をかけて起きるものがある。Rooney and Weigman (2004)は五大湖地方の森林を50年前と比較し、オジロジカにより草本類が減少し、シカが食べないシダや再生力のあるイネ科が増えたことを示した。そのようなシカの影響を示した長期の植生変化の調査はあるが(Whitney 1984; Van Deelen et al. 1996; Barrett et al. 2006)、シカの食性を長期的に調べた例は知られていない。
北日本の金華山島はシカが50頭/km2程度の高密度で生息しており、シカ密度は森林で低く、草原で高い(高槻1983)。草原の一つに島の西部の緩斜面があり、1970年代には草丈が1-2mのススキ草原であった。シカの密度が200/km2程度であり、1976年の調査ではシカはススキやアズマネザサ、シバ食べていた(Takatsuki 1980)。この場所は次第にススキが減少し、ススキの株の間に匍匐生の「芝生」であるシバ群落が入り込むようになった。そして1990年台前半になるとススキが非常に少なくシバ群落が広がるようになった。シカはシバをよく食べることが観察されるから、シカの食性が大きく変化した可能性がある。
 そこで本調査はシカ生息地においてシカの食物が生息地の食性を採食することの結果としていかに変化するかを25年という長期調査によって示すことを目的とした。

調査地
 金華山島は本州の太平洋側、牡鹿半島の先端約500m、北緯38度17分、東経141度34分に位置し、面積は992haである(図1)。


図1 調査地の位置図

宗教上の理由で野生動物は保護され、シカは500頭程度が生息している。植生は大半は森林だが、一部に森林がない場所があり、ススキ群落が見られる(吉井・吉岡1949)。島の西部に神社(調査地1)があり、ここでは餌付けをしているためにシカの密度が300/haと高く、採食圧が強いため、シバ群落が広がっている(図2)。この景観は25年間変わらなかった。

図2. 調査地1、2の景観の推移

(調査地2)この神社の北側に緩斜面があり、ススキ群落がある。ここには1980年代に30頭程度のシカ(密度100/ha)がいた。ここは1970年代から1980年台前半には草丈1mくらいのススキ群落で、アザマネザサも多かった(Takatsuki 1977, 図3)。調査地2の一角に面積20m2ほどのシバ群落があった。ここにはメギやアザミもある。これらの量は変わらなかった。

 この島には200年前からシカがいたことがわかっている(宮城県史編集委員会, 1960)。頭数は1966年以来直接目撃で追跡されており、当時は40-45頭/km2出会った(Ito 1968)。その後増加して1983年には70/km2になり、1984年に厳冬があって大量死が起きた(Takatsuki et al., 1991, 1994)。約半数のシカが餓死した。3年で50-60に回復し、1996年まで安定していたが、1997に再び大量死が起きた。その後再び3,4年で回復した。この変動と自然死はシカ頭数は環境収容力ギリギリであることを示す。調査地1と2の密度は300 /km2、100 /km2である。この密度は調査期間中変化しなかったが、調査地2では1967には46/km2であった(Ito 1968)。Ito(1968)は調査地2のシカが調査地1のシカに攻撃行動をとったことを観察している。しかし本調査が始まった1970年代には調査地1のシカはしばしば調査地2に入った。これは1970年代の経済復興後訪問客が急増し、牡鹿半島に道路がついたことによる。訪問客はシカに餌付けをし、増加して調査地2の密度は倍増した。本調査はこの増加後に始まった。

方法
主要種の被度と草丈
調査地2において1975.8/7, 1984. 9/13, 1988.10/13, 1992年9/18に南北30m間隔の東西のライン10本をとり、10歩間隔で1 m x 1 mのプロットをとり、ススキ、アズマネザサ、シバの被度を記録した。プロット数は約400点であり、被度は10%刻みの目測を記録した。草丈は各種について100個体をランダムに選び、1cmの精度で測定した。

糞分析
調査地1と調査地2において1985年8月17日、1988年8月28日、1991年8月26日にシカのフン20粒を10の糞塊から採集し(Campbell and Johnson 1983; Homolka 1993; Klein and Bay 1994)、顕微鏡によりポイント枠法(Stewart 1967)で分析した。計数したポイント数は200以上とした。食物は、ササ、ススキ、シバ、他のイネ科、他の単子葉、双子葉、カン、繊維、その他に分けた。これらを1975年の分析結果(Takatsuki 1980)と比較した。これら3つの年代を通じて一度でも占有率が10%を超えた植物を「主要食物」とし、Kruskal-Wallis検定(Steel-Dwass事後検定)した。主要食物はススキ、シバ、アズマネザサ、その他のイネ科、カンであった。「不明」も10%を超えたが、これは異質な内容を含むので主要食物にはしなかった。
 調査地1と調査地2の各年代の糞組成をもとにWhittakerの百分率組成を算出した。

結果
被度
1975年以降のススキ、アザマネザサ、シバの被度の推移を図5に示した。1975にはプロットの64.6%はススキの被度が20%未満であり、被度が60%以上は7.9%に過ぎなかった。被度はその後減少し、1992年には98.6%が被度20%未満になった。
アズマネザサはススキと似た変化を示した。被度は1975年には48.2%のプロットが20%以上であったが、1992年にはわずか2.4%となった。
シバは上記2種とは対照的に1975年にはプロットの63.6%が被度20%未満であったが、そのような被度の小さいプロットは1992年には19.8%に減少し、被度80%以上のプロットは1975年にはわずか5.6%であったが、1992年には48.1%まで増加した。



図5. 調査地2におけるススキ(A)、アズマネザサ(B)、シバ(C)の被度(%)分布の推移

草丈 
ササ、シバ、ススキの草丈の平均値は3種とも減少したが、特にススキの減少が大きかった(図6)。ススキは1974年から1984年にかけては有意差がなかったが、1984年から1988年と、1984年から1992年には有意に低下した。ササは1975年から1985年の減少が大きく有意に低下し、その後は漸減したが、有意差はなかった。シバはもともと低いので、各年代で有意差があったが(最大値(1975, 8.6cm)と最小値(1992, 3.3cm)の差でも5.2cmに過ぎなかった。


図6. 調査地2におけるススキ、アズマネザサ、シバのと草丈(cm)年推移。バーは標準偏差。

糞組成 
1976, 1985, 1991の夏(8月)のフン組成(付表1)のうち主要種の占有率を図7に示した。調査地1ではシバが60-80%を占め、そのほかの食物カテゴリーとしては、1976年のササと1988年のカンだけが10%以上になった。
 ササは1976に11.0%であったが、その後全く出現しなくなった。ススキは常に10%未満であり、1976に5.1%であったが、1985に1.1%有意に減少し、1985から1988は微増し、1988から1991は有意差がなかった。これら2種に対してシバは非常に大きな占有率であった。1976に58.4%であり、1985には75.0%に有意に増加し、1985から1988は有意差はなかったが、1988から1991は有意に減少した。その他のイネ科は常に10%未満であった。1976に8.7%であり、その後有意差がなかった。カンは1976に5.0%であり、1985に微増し、その後は有意差がなかった。このように調査地1では1970年代にシバが58%であり、その後は60%以上で全体にシバが優占していた。


図7. 調査地1, 2におけるシカの糞中の主要食物の占有率の推移

調査地2では1976年から1985年の間に大きな変化があった(図7)。
ササとススキは1976年から1985年にかけて減少した。ササは1976に25.0%を占め、1985には有意に減少した。1985から1988も有意に減少したが、1988から1991は有意差はなかった。ススキは1976に12.0%であったが、1985に4.1%有意に減少し、1985から1988は有意差はなかったが、1988から1991に有意に微増した。これら2種に対してシバは1976年以降増加した。1976に25.8%であったが、1985には59.8%に有意に増加したが、その後は有意差はなかった。その他のイネ科は10%前後を占めた。1976に14.2%であり、その後多少の増減をした。カンは1976に4.9%であり、その後有意差はなかった。このように調査地2では1970年代と1980年代にササとススキが減ってシバが増えるという大きな変化があった。

糞組成の類似度
調査地1と調査地2の糞組成をWhittakerの類似度百分率で比較すると図8のようになった。1976年のPSは66.5%であったが、その後増加して、1988年と1991年には85%前後になった。この内容は調査地2のシカ糞においてシバが増加したことにある。


図8. 各時期の調査地1と調査地2のフン組成のPS

考察
1970年代から2000年にいたる25年間のモニタリングにより、シカ高密度な草原でtussock型からlawn型への植生変化が起き、これに伴いシカの食性もtall grassが減少してシバが優占するようになることが示された。金華山は全体に森林群落であり、シカ密度は森林では低く、草原で高いことが知られている(Takatsuki 1983)。草原の中でも違いがあり、ススキ群落に比べてシバ群落が2倍ほど高密度であった。
 ススキ群落とシバ群落は互換性があり、強い採食影響下ではススキ群落がシバ群落になり、逆も真である。これはシバ群落に柵を作った場合、柵内でススキが伸びてシバを庇蔭し、シバが減少することで示される(Ito and Takatsuki, 2005; Takatsuki and Ito 2009)。これはそれぞれの種生態で説明できる。ススキは大型のtussock grassで、中程度の採食で維持されるが(Takatsuki et al., 2009, 2012)、強い採食圧では減少する(Takatsuki et al 2007)。アズマネザサも同様である(Takatsuki, 1980c)。これに対して、シバは匍匐型のlawn grassである、旺盛に茎とtillerをのばす(Ito et al., 2003; Okubo et al, 1977; Otani et al., 2002))。草丈は低いが、生産性は高い(Ito and Takatsuki, 2005)、これによりシバ群落は高密度のシカを支えられる。
 本調査でgrazingにより調査地2でススキとササが減ることが示された。ここでのシカ密度は1960年代には50頭 /km2であったが、1970以後に100/km2になった(Ito 1968)。これは調査地1でシカが増加して調査地2に入ったからで、その増加は経済復興と牡鹿半島に道路ができたことにより1960年代に観光客が急増したことによる。本調査はその後に始めたことになる。こうしたことから、期間中にススキ群落からシバ 群落への変化は採食によるものであると説明できる。
 調査期間中の調査地2での景観変化を見ると(図2)、1970年代はススキが優占し、シバは見られないが、1980年代半ばにはシバが侵入し、1980年代後半も大きな変化はないが、1990年代にはシバ群落の中にススキが少なくなり、メギやアザミが目立つようになった。主要種の被度はススキとササは減少、シバは増加し、その変化は緩慢であった(図3)。また高さも同様であったが、ササの減少は1970年代から1980年代が大きく、その後は安定的であった。シカの糞組成を見ると、1970年代と1980年代で大きな違いがあり、この間にササの減少、シバの増加が見られた(図6)。このことは植生は徐々に変化したが、シカにとっては食物供給に臨界点があって突然大きな変化が起きたと考えられる。つまりススキの被度で20%未満がほぼ半分以上になり、シバの被度20%以上が半分以上になり、ススキの平均草丈が40cm程度になると、シカの食物ではシバが過半量になるということである。シバの被度とススキの被度・高さがさらに減少しても、シカの食物供給としては違いがなかった。この間、シバは草丈を下げたが、シバは現存量が小さくても生産量は大きいから、次々に葉を展開してシカに供給すると考えられる。
このような高密度においても土地の荒廃が起きなかったことは注目される。大型草食獣の採食影響のうち乾燥地の家畜の放牧の場合、家畜の密度が高くなると、荒廃が起き、砂漠化につながることが知られている(Meyer 2006; Liu et al. 2013; Hilker et al. 2014; Gao et al. 2015)。本調査では劣化も侵食も見られなかった。これは日本列島の高温多湿な気候に支えられていると思われる。
 Rooney et al. (2004)は五大湖地方で50年前のデータと比較して、オジロジカの採食により草本類が減少し、シカが好まないシダとグラミノイドが増えたことを示した。不嗜好植物はシカにとって利用できないので生息地の劣化になるが、グラミノイドは再生力があるので、持続的に利用されるようになる。金華山でのシバの増加と利用はこれに対比できるかもしれない。シバは盛んに生産し、シカはもっぱらシバを食べた。ところがシバは暗い環境では生産力が下がる(Hirayoshi and Matsumura 1957; Otani et al. 2002)。このためシカによるススキとササの除去はシバにとってプラスになる。つまりシバは採食に耐性があるというより、競争相手を除去してもらっている。
調査期間中調査地1、2では高密度のシカがいたが1984年(Takatsuki et al., 1991; 1994)と1997年(高槻, 2006)に大量死が起きた。捕食者がおらず狩猟も行われていないから環境収容力で制限され、晩冬に自然死が起きる。大量死の後には5年以内で回復した。これはシバ群落の高い生産力に裏付けられている。
 そういうシカ-シバ群落関係は各地で知られている(高槻 1980, Takatsuki 1980b, 1982, 1983, 1984, 1985, 1987)。家畜の放牧場でも知られている(Arai and Okubo, 2014; Iwata, 1971)。
 有蹄類は多種が群落を変えることで影響を受けることが知られている(Bell, 1970; Murray and Illius, 2000)。この調査は25年間のモニタリングにより、シカが植生を変え、その結果自分の食性を変えた例を示したという点でこれらの研究とは違う。


文献

2021-06-08 07:16:34 | 研究
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用語解説

2021-06-08 07:05:57 | 研究
用語解説
※1 ギンナン:イチョウの種子をギンナンという.ギンナンは一般にはイチョウの「果実」とされるが,イチョウは裸子植物であるから果実を持たない.種子の外側にある種皮が肥大して「被」となり,カルボン酸を含むので不快な匂いがする.タヌキはギンナンを丸呑みし,種子は消化されずに排泄される.
※2頻度法:糞分析の例では,試料集団のうちある食物を含んでいた糞が何例あったかを表現する方法で,「あり,なし」だけを表現し,糞内での量的な占有率は問わない.
※3ポイント枠法:食物の占有率を表現するには重量,体積,面積などがあるが,ポイント枠法は面積を簡便に表現するため,資料を格子の上に広げ,ある食物が格子を何点覆ったかを計数する方法である.重量や体積のように食物を取り上げる必要がないし,実際の面積を測定しなくて良いので,短時間で評価が可能である(高槻・立脇 2012).
※4占有率–順位曲線:食物の成分は平均値で表現されることが多いが,例えば占有率が同じ50%でも全サンプルが50%前後で平均値が50%である場合と,半数が大きい値,半数が小さい値で平均値が50%になる場合では意味が違う.占有率–順位曲線はこのことを表現するために工夫した表現法で,成分ごとに上位から下位に占有率を並べることにより,その曲線がとる形で集団内での占有率の分布が把握できる(高槻ほか 2018).
※5疥癬:ヒゼンダニ(学名:Sarcoptes scabiei var. hominis)の寄生による皮膚感染症.ヒゼンダニは体長0.3-0.4mmで,メスが皮膚の角質層の下にトンネルを掘る.罹患したタヌキの皮膚は角質化し,脱毛するため,タヌキは痩せ,衰弱する.

明治神宮の杜のタヌキの食性

2021-06-08 06:52:16 | 研究
明治神宮の杜のタヌキの食性
Food habits of raccoon dog in the forest of Meiji-jingu Shrine
高槻成紀・釣谷洋輔
Seiki Takatsuki and Yosuke Trusty

抄録
明治神宮の杜で2017年3月から2019年2月までの間に67個のタヌキの糞を採集し,ポイント枠法で分析した.その結果,果実と種子がもっとも重要であり,全体占有率がそれぞれ31.1%と19.7%であることがわかった.果実・種子は秋にもっとも多くなった.中でもギンナン(イチョウ)とムクノキが重要で,皇居や赤坂御所に比べると果実・種子の種数が少なかった.これに次いで昆虫(18.5%)が重要で,特に夏に多くなった(44.8%).注目されたのは鳥類で,頻度(53.7%),占有率(12.5%)とも他の場所よりも多かった.人工物は1.2%(頻度9.0%)に過ぎなかった.これらの結果は明治神宮の杜が大樹からなる鬱蒼とした森林であり,一部の果実は豊富に供給されるが,明るい場所に生える低木,草本の果実は乏しいことを反映していると考えられた.

A total of 67 droppings oh the raccoon dog (Nyctereutes procyonoides) in the Meiji-jingu Shrine was collected during the period from March,2017 to February,2019,and analyzed by the point-frame method. Among the contents, fruits and seeds were the most important foods,accounting for 31.1% and 19.7%,respectively. They were most abundant in autumn. Among them,Ginkgo biloba andAphananthe aspera were exclusively abundant. Fruit composition was much less diversified than other places including Imperial Palace and Akasaka Imperial Gardens. Insects followed fruits and seeds,accounting for 18.5% in total,and 44.8% in summer. It was noteworthy that birds found frequently (53.7%) and accounted for 12.5%,which were greater than those at other places. Artificial materials including plastic bags and robber bands accounted for only 1.2%,suggesting a small contribution for the raccoon dogs. These results seem to reflect that the forest of the Meiji-jingu Shrine is composed of large trees producing abundant fruits while fruits of sunny shrubs and forbs are poor.

はじめに
 タヌキは北海道から九州に至る日本全土に広く分布し,しかも山地から海岸まで多様な環境に生息する.それだけでなく,自然林,里山の雑木林,さらには都市にも生息し,人間の生活空間にも入り込んでいる.それには食性が雑食性であること,生息地利用についても融通がきく性質を持っていることが関係している(佐伯2008).
 タヌキは東京郊外の里山的環境にも広く生息し,その食性はよく調べられている(Hirasawa et al. 2006,Takatsuki et al. 2017,高槻ほか 2020).これらによれば,里山的環境のタヌキの食性は次のような明瞭な季節変化を示すことがわかっている.春は果実類が少なく,昆虫も限られているため,タヌキの食物において哺乳類や鳥類などが相対的に多くなる.夏になるとサクラ属やキイチゴ,ヤマグワなどの果実,昆虫が多くなり,秋になると果実が非常に多くなる.とくにギンナン(イチョウの種子※1 こちら),カキノキの果実がよく食べられる.冬になると果実も昆虫の少なくなるが,果実はやはり重要で,他に人工物や哺乳類などが混在するようになる.
 タヌキはその可塑性により,里山や都市郊外だけでなく大都市の市街地にも生息するが,東京も例外ではない.その東京にすむタヌキが何を食べているかはタヌキの可塑性の典型例であり,興味の持たれるところである.これまで東京都のタヌキの食性については皇居(酒向ほか2008,Akihito et al. 2016),赤坂御用地(手塚・赤坂 2005),新宿御苑(Enomoto et al. 2018)などで調べられている.皇居における2006-07年の調査では,昆虫(95%),多足類(56%),鳥類(37%)の出現頻度が高かった(酒向ほか 2008).中でも昆虫が重要であった.タヌキが食べた果実には,サクラ,クワのように一時的に食べられるもの,エノキ,ムクノキなど結実後も継続的に食べられるもの,ドングリ,ギンナンのように他の食物が乏しい春にだけ食べられるものの3タイプがあった.人工物は少なく,皇居の森林の豊富さを反映していた.その後おこなわれた2009〜13年の調査でも明瞭な季節変化があり,1月にムクノキ,2月にイイギリ,5,6月にキイチゴ類とサクラ類,6月にクワ,7,8月にタブノキ,9月にイヌビワ,9〜12月にムクノキ,12月にエノキが食べられていた.3,4月はギンナンやドングリ,動物質が増えた.こうした食性は5年間ほぼ安定的に繰り返された(Akihito et al. 2016).
 一方,赤坂御用地では昆虫の出現頻度がつねに90%以上と高く,果実も夏はやや低くなったものの,80%以上の高頻度であったほか,多足類や冬の鳥類も高頻度であった(手塚・赤坂 2005).ここでも人工物への依存度は低かった.
 この2カ所は都内ではあるが広大な緑地であり,しかも人の出入りは制限された特殊な場所である.これに対して新宿御苑で冬に行われた調査(Enomoto et al. 2018)では果実の出現頻度は96.8%と非常に高かったが,昆虫は41.9%であり,赤坂御用地での90%以上とは大きな違いがあった.一方,鳥類は58.1%とかなり高く,著者らはこれを都市のタヌキに特徴的である可能性があるとしている.なお皇居での種子(果実)と鳥類の出現頻度はそれぞれ90%以上と40%前後であった(酒向ほか2008,Akihito et al. 2016). 
 ところで,これら東京の都心で行われた調査で採用された分析方法は「頻度法」(※2こちら)で,ひとつの糞にその食物があったかなかったかを表現する.したがって糞に大量に含まれていても,微量に含まれていても同じく頻度1と評価される.タヌキの場合,果実が大量に含まれているが,昆虫はごく微量であることがよくあるが,頻度法はこの違いを区別しない.また鳥類や哺乳類は出現する場合は大量であることが多いが,これらの出現頻度は低いことが多い.このように頻度法は量的な評価をしないため,実際の重要度とは違う評価をすることがある.そこで重量,体積,面積などを用いて量的評価をする試みが行われている.本調査の分析ではその一つであるポイント枠法(Stewart 1967)という方法を採用した(※3こちら).この方法は糞中での量を投影面積で表現するもので.この方法を用いれば,頻度もわかるし,重量や体積を評価するよりも時間を大幅に短縮できる利点がある(Sato et al. 2000,高槻ほか 2015, 2018).
 本調査を行なった明治神宮の森は皇居,赤坂御所と同様に市街地にある広大な緑地であり,タヌキの食性もこれらと共通している可能性がある.同時に,この森には一般人,観光客が多数訪れるという違いもある.来訪者は森林には立ち入りを禁じられているものの,タヌキは人の出入りがある中で暮らしていることになる.また明治神宮の杜の南西部は代々木公園と接しており,明治神宮の杜のタヌキは代々木公園と行き来している可能性が非常に大きい.
 本調査ではこのようなことを背景とし,大都市東京にある大きい緑地である明治神宮の杜におけるタヌキの食性をポイント枠法で評価し,その結果を皇居や赤坂御用地,新宿御苑などと比較する.同時に東京郊外の里山的環境のタヌキとの比較も行う. 

方 法
明治神宮は明治天皇と昭憲皇太后を祀る神宮で渋谷区にある.面積は73ヘクタールほどあり,神宮に造成当時植えられた樹木が森林を形成し,現在ではクスノキ・スダジイを主体とする自然度の高い森林となっている(奥富ほか 2013).造成当時植林された12万本の樹木が,1970年には17万本になったが,2019年時点では大幅に減少して約36,000本となり,巨木が育っている(濱野ほか 2013).明治神宮の杜は都心には少ない大面積の緑地であり,これに匹敵するのは,皇居,赤坂御用地,新宿御苑などである(図-1).なお明治神宮は代々木公園と隣接する.


図-1 明治神宮とその他の都心の大緑地.Google earthより作図.

 2016年7月から明治神宮の杜を広く歩いてタヌキのため糞を探したが,当初は発見できなかった.同年11月に神宮の杜の南西部でようやくため糞を発見することができた(図-2).


図-2 明治神宮の杜で発見されたタヌキのため糞.糞の位置を水色の輪で囲った.

その場所は明治神宮の杜の他の場所同様,大きなイチョウの木やクスノキ,ムクノキなどがあり(図-3),低木層にはネズミモチ,ヒサカキ,アオキ,ヤツデなどの常緑樹,シュロなどが多く,草本層は貧弱で,シダ類やヤブランなどが散生していた.


図-3 明治神宮の杜の様子(2016年9月26日)

タヌキの糞は2017年3月から2019年の2月までほぼ毎月1回調査地を訪れ,そのうち13回で67サンプルを確保して分析した(図-4).


図-4 タヌキの糞を採集する様子

 採集にあたっては,糞の大きさ,色,つや,新しさなどから同一個体による1回の排泄と判断されるタヌキの糞数個を1サンプルとし,それを複数採取した.
 糞サンプルは0.5 mm間隔のフルイで水洗し,残った内容物を次の15群に類型してポイント枠法(Stewart 1967)で分析した.昆虫(鞘翅目,直翅目,膜翅目,幼虫など),節足動物(多足類など),無脊椎動物(甲殻類,貝類など),鳥類,哺乳類,脊椎動物の骨,その他の動物質,果実,種子,緑葉(イネ科,スゲ類,単子葉植物,双子葉植物など),枯葉,植物その他(コケ,キノコなど),人工物(輪ゴム,ポリ袋,紙片など),その他,不明.「脊椎動物の骨」の中には一部に鳥類,両生類の骨とわかるものもあるが,多くは不明であり,哺乳類の骨の破砕された小片も含まれる.
ポイント枠法では,食物片を1 mm格子つきの枠つきスライドグラス(株式会社ヤガミ,「方眼目盛り付きスライドグラス」)上に広げ,食物片が覆った格子交点のポイント数を百分率表現して占有率とした.1サンプルのポイント数は合計100以上とした.
季節は,植物が芽生える3〜5月を春,植物の葉が濃く, 硬くなる6〜9月を夏,果実類が結実する10,11月を秋,落葉樹が紅葉・落葉し,多くの草本類が枯れる12〜2月を冬とした. 分析結果は年を通して季節ごとに平均値を出した.つまりある季節のデータは複数年の結果が含まれている.季節変化は占有率の平均値が5%以上になった食物を主要食物とし,その占有率をクラスカル・ウォリス検定(スティール・ドワス事後検定)した(α= 0.05).
 主要食物について占有率を大きい値から順に並べる「占有率-順位曲線(※4こちら)」(高槻ほか 2018)を描いた.
 なお,ため糞がタヌキのものであることは確信があったが,確認するためにセンサーカメラ(Reconix HC550)1台を設置して撮影を試みた.

結 果
タヌキの生息
 センサーカメラの記録によれば,タヌキは3日に1回程度の頻度で撮影された(図-5).同時に2頭撮影されたこともあったし(図-5C),7月には幼獣が撮影されたことから(図-5D),繁殖をしていることも確認された.また少数例ではあるが,ハクビシンも撮影された.


図-5 センサーカメラで撮影された明治神宮の杜のタヌキ

糞組成
 糞組成の季節変化をみると,春は特に多い食物はなく,昆虫,鳥類,果実が20%程度を占めていた(表-1).夏になると昆虫が44.8%と大幅に増加した.秋にはると昆虫は減少し,果実が50.7%と大幅に増え,種子も29.1%を占め,果実と種子が大半を占めるようになった.冬になると果実(33.3%)と種子(22.9%)は減少し,昆虫(11.0%)と鳥類(10.3%)がやや増えた.
 このように明治神宮の杜のタヌキにとっては果実がもっとも重要で,春に鳥類,夏に昆虫が増えるという季節変化を示した.
 全体を見ると,占有率の平均値では果実(31.1%)が最大で,種子(19.7%)と昆虫(18.5%)がこれに次いだ.鳥類が12.5%であったほかは10%未満であった.出現頻度は果実が85.1%と最高で,昆虫(70.1%),種子(68.7%),緑葉(65.7%)が高かった.鳥類も53.7%で高かったが,それ以外は50%未満であった.果実,種子,昆虫は占有率,頻度ともに大きい値をとったが,緑葉と鳥類は占有率は小さく高頻度であり,評価法による違いがあった.その点で言えば,昆虫は果実に匹敵する高頻度であったが,占有率は半分程度であり,やはり表現法の違いを反映していた.なお,人工物は占有率がわずかに1.2%,出現頻度も9.0%に過ぎず,明治神宮の杜のタヌキは人工物への依存度は小さいことがわかった.

表-1 明治神宮の杜のタヌキの糞組成(%)と出現頻度(%).ただし「動物その他」のように異質な生物群を含むものは出現頻度を算出していない.


主要食物
 占有率の全体平均値が5%以上であった主要食物について季節変化を比較した(図-6).昆虫は夏に44.8%と非常に大きい値をとり,秋に7.1%と大きく減少した(有意差あり,クラスカル・ウォーリス検定,χ2= 20.33,P < 0.01, スティール・ドワス検定, t2 = 3.33, P = 0.005).秋から冬への微増も有意差があった(t2 = -2.60, P = 0.046).果実は夏に16.8%と最小で,秋に50.7%と有意に増加し(χ2= 12.72,P = 0.005,),冬でも33.3%を維持した(有意差なし, t2 = 1.64, P = 0.35).種子は季節を通じて10〜30%と比較的安定していた(有意差なし, t2 = 5.92, P = 0.12).鳥類は春に23.0%と比較的大きい値をとったが,夏,秋は5%未満に減少し,冬に10.3%になった(ただし有意差なし, χ2= 5.57,P = 0.13).緑葉は10%未満で,季節変化も不明瞭であった(有意差なし, χ2= 1.62,P = 0.65).


図-6 明治神宮の杜のタヌキの主要食物の占有率の季節変化

占有率−順位曲線
主要食物の占有率−順位曲線を図-7に示した.果実は最大値が大きく,そのまま直線的に右端まで続いた.種子は最大値は果実と同様であったが,初期に大きく減少し,折れ曲がって裾野を引く曲線を描いた.昆虫は10位くらいまではなだらかな勾配であったが.その後17位くらいまで急激に減少し,その後裾を伸ばす曲線をとった.このことは,昆虫を多く採食した一群とごく少数した採食しなかった群の2極化があったことを示唆する.鳥類はその傾向がさらに明瞭で17位くらいまで直線的に減少してから大きく折れ曲り,裾野を引く曲線を描いた.緑葉は最大値が50%台と小さく,上位4位くらいまで急激に減少して大きく折れ曲り,長い裾を引く,L字型になった.
 このように最大値が大きく,高頻度の果実,最大値は大きいが中頻度の種子,昆虫,鳥類,最大値が小さく中頻度の緑葉に分かれた.


図-7 明治神宮の杜のタヌキの糞における主要食物の占有率–順位曲線

果実・種子
 果実の多くは種名まで特定することはむずかしかったが,種子は可能であった.そこで種子の占有率の月変化を図-8に示した.これによると,5,6月にサクラ属(ヤマザクラを含む),6月にヤマモモ,9月以降にムクノキとギンナンが出現し,占有率も比較的大きかった.とくに10月のムクノキ,11,12月のギンナンは単独で20%を超える大きい値をとった.しかもムクノキもギンナンも出現月が長期に渡った.とくにギンナンは3月や5月にも検出され,タヌキは前年に落ちた果実(イチョウの場合は外種皮)を食べるものと考えられる.タヌキによるムクノキとギンナンへの強い依存性は明治神宮の杜のタヌキの食性における大きな特色と言える. 


図-8 明治神宮の杜のタヌキの糞から検出された種子の占有率(%)月変化

考 察
著者の一人釣谷は2011-12年に哺乳類の調査を行ない,10カ所のタヌキのため糞場を確認した(釣谷2013).しかし2016年に本調査を開始すると,発見がむずかしかった.また,前回の調査当時はタヌキの姿を見ることもあったが,本調査期間中はまったく見られなくなった.これらを考えると明治神宮の杜では2010年代の前半で明らかにタヌキの頭数が少なくなったことは確実と考えられる.東京都内では2000年代から2010年くらいにかけて,疥癬(※5こちら)に罹患したタヌキの報告が多くなったので,明治神宮の杜のタヌキも疥癬に罹患して減少した可能性がある. 
 本調査によって初めて明治神宮の杜のタヌキの食性が量的に評価された.これによりいくつかの特徴が明らかになった.まずここのタヌキは果実依存度が非常に高かったことである.とくにギンナンとムクノキへの依存が強いことが特徴であった.イチョウは神宮の杜には大木が多く,秋から冬にかけてはその下には大量のギンナンが落ちており,タヌキにとっては安定的に得ることができるものと考えられる.いくつかの糞はギンナンだけしか入っていないものもあった.そのほか,サクラ属やヤマモモも検出されたが,郊外の里山的環境のタヌキの糞によく出てくるキイチゴ類,クワ属,ヒサカキ,ジャノヒゲなどは検出されなかった.里山のコナラを主体とする雑木林には明るい林に生えるこれら低木類・草本類が豊富であるが,明治神宮の杜は常緑樹を含む巨木が多く,鬱蒼としており,林床にはそのような植物がほとんどない.糞組成はそのことを反映していると考えられる.
 同じように都心にある広大な森林でも,皇居ではギンナンやムクノキ,サクラ属の他にも,イヌビワ,クワ科,キイチゴ類,ミズキ,エノキ,ヤマボウシ,カキノキも高頻度で検出されている(酒向ほか 2008).また赤坂御用地のタヌキの糞からはイチョウ,エノキ,ムクノキ,クスノキ,サクラ属,キブシ,ミズキ,カヤなどが比較的高頻度で検出されている(手塚・遠藤 2005).これらに比較すると,明治神宮の杜では検出種数が少なく,糞サンプル数が少なかったことを差し引いても,果実の多様性に乏しいといえる.この違いは皇居や赤坂御用地に比べて明治神宮の杜の方が巨木が多く,林内が暗い森林が連続的にあることを反映していると考えられる.ただし,夏は探索にも関わらず糞が発見されなかった.センサーカメラには夏にもタヌキが撮影されていたから,糞はしているのだが,糞虫により分解されてしまい,糞サンプルを確保することができなかった.したがって明治神宮のタヌキの夏の食性にはやや不明な部分が残る.
 昆虫は出現頻度も70.1%と高く,平均占有率も18.5%と果実,種子に次いで大きい値をとった.これは想定されたことであり,他の場所とも共通していた.糞中の昆虫は粉砕されており,種群の詳細は不明であるが,森林の変化を考えると,かつては草原的な環境にいた昆虫をたべていたが,現在では森林生の昆虫を食べている可能性が大きい.
 注目されたのは鳥類の平均占有率が12.5%と昆虫に次いで高かったことである.ただし出現頻度は53.7%と昆虫の70.1%よりはかなり低かった.このことは鳥類は出現あたりの占有率はさらに高いということを意味する.タヌキの糞には冬から春の果実と昆虫が乏しい時期に鳥類と哺乳類が増加することは多くの事例で知られており,その傾向は明治神宮の杜でも確認されたが,ここでは哺乳類の平均占有率は2.1%,出現頻度も25.4%にとどまり,いずれも鳥類よりは大幅に小さかった.鳥類の出現率は皇居では21.9%,赤坂御用地では39.4%であり,明治神宮の杜の53.7%はこれらより大幅に高かった.Enomoto et al. (2018)は都市のタヌキは鳥類をよく利用するとしており,これらの例はそれを支持する.しかし,同じ市街地でも小平市の津田塾大学では鳥類の占有率は5〜10%に過ぎず,状況により大きく違うようである(高槻 2017).津田塾大学では哺乳類の方が多く,6〜27%を占めた(ただし秋は鳥類も哺乳類もごく少なかった).本分析では鳥類の種は特定していないが,羽毛は黒色のものが多く,羽軸の太さからしてもカラスの可能性が高い.実際,我々は明治神宮の林内を探索していてカラスの死体を数例発見した.明治神宮の杜にはカラス(主にハシブトガラス, 柳澤・川内 2013, 唐沢ほか 2015)が多く,林内にカラス捕獲用の装置があって捕獲されている.タヌキが生きたカラスを襲うかどうかはわからないが,糞中の羽毛は春に多いことを考えると,死体を食べている可能性が大きい.
 輪ゴム,ポリ袋などの人工物が検出されたが,占有率の全体平均は1.2%に過ぎず,頻度も9%にとどまった.このことはタヌキにとって果実類や昆虫が豊富であり人工物に頼らなくても良いということと,来訪者がゴミを捨てないというマナーの良さを反映していると思われる.ただし,代々木公園との境界部では菓子袋,タヌキの噛み跡と思われる穴の空いたマヨネーズ容器などが散見された.これらは明治神宮の杜の中央や東側ではほとんどなかったから,おそらく代々木公園で食べたものが持ち込まれたものと推察される.
 以上,明治神宮の杜のタヌキは1)果実食であること,2)その果実の種類は限定的でギンナンとムクノキが特に多いこと,3)夏には昆虫が増えること,4)鳥類の重要度が他の場所よりも大きいこと,5)人工物への依存度は低いこと,などが明らかになった.明治神宮の杜は植栽されたものであるが,100年の年月を経て自然林の状態に近づいており(奥富ほか2013),構成樹も細い木は大幅に減って大樹が育っている(濱野ほか 2013).これに伴い鳥類は草原的な環境のものから森林生のものへと推移してきた(柳沢・川内 2013).このような変化を背景にタヌキの食性を考えると,明るい場所に生える低木・草本類の果実は乏しく,大木に育ったイチョウやムクノキなどの果実が大量に供給される森林の状態が反映されていると考えられる.

Summary
It is amazing that the raccoon dog,a wildlife,inhabit Tokyo,the biggest city of Japan. The Meiji-jingu Shrine is a large green comparable to the Imperial Palace or the Akasaka Imperial Gardens,and known as a habitat of the raccoon dogs. However,the food habits is unknown. We analyzed 67 droppings collected from March,2017 to February,2019 and analyzed by the point frame method. It was found that fruits and seeds were most important accounting for 31.1% and 19.7%,respectively. They were most abundant in autumn. Among them,Ginkgo biloba and Aphananthe aspera were exclusively abundant. Fruit composition was much less diversified than other places including Imperial Palace and Akasaka Imperial Gardens. Insects followed them,accounting for 18.5% in total,and 44.8% in summer. It was noteworthy that birds found frequently (53.7%) and accounted for 12.5%,which were greater than other places. Artificial materials including plastic bags and robber bands accounted for only 1.2%,suggesting a small contribution for the raccoon dogs.


謝 辞
調査を許可いただいた明治神宮に篤く御礼申し上げます.この調査を実現するには(株)環境指標生物の新里達也氏にご尽力いただきました.また許認可などについては同社の池田英彦様にお世話になりました.これらの方々に御礼申し上げます.

文 献 こちら

付図-1


付図-1A 検出された植物質の例


付図-1B 検出された動物質の例


付図-1C 検出された人工物の例


文献(乙女高原、ススキ)

2021-06-05 08:41:31 | 論文

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山梨県の乙女高原がススキ群落になった理由 – 植物種による脱葉に対する反応の違いから -

2021-06-05 08:35:48 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
山梨県の乙女高原がススキ群落になった理由 – 植物種による脱葉に対する反応の違いから -
高槻成紀・植原 彰
植生学会誌, 38 : 81- 93. こちら

■摘要

1.山梨県の乙女高原は刈取により維持され,大型双子葉草本が多い草原であったが,2005年頃からススキ群落に変化してきた.この時期はシカ(ニホンジカ)の増加と同調していた.
2.主要11種の茎を地上10 cmで切断し,その後の生存率と植物高を継続測定したところ,双子葉草本9種のうち6種は枯れ,生存種も草丈が低くなった.これに対して,ススキとヤマハギは生存し,植物高も減少しなかった.
3.ススキを,6月,9月,11月,6,・9月に刈取処理をし,5年間継続したところ,ススキの草丈は11月処理は180-200 cmを維持し,6月区はやや低くなったまま維持した.これに対し,9月区は草丈が経年的に減少した.
4.シカの採食は双子葉草本には強い影響があるが,刈取処理よりは弱いから,ススキにとっては影響は弱く,乙女高原でのススキ群落化はシカの影響と考えるのが妥当であると考えた.
5.ススキ群落内に設置した15 m×15 mのシカ防除柵4年後の群落はススキが大幅に減少し,双子葉草本が優占した.群落多様度は柵外はH’ = 0.85だったが,柵内はH’ = 2.64と3倍も大きくなった.
6.上層の優占種が大型双子葉草本からススキに変化することで,ヒメシダのような地表性の陽性植物が増加し,ミツバツチグリの場合,ススキ群落では低い草丈で面的に広がったが,双子葉草本が密生していると被度は減少して葉柄を伸長させた.
7.シカの影響は1)シカの嗜好性(不嗜好植物は食べない)の違い,2)採食に対する植物の反応(成長点のいちの違いによる再生力など)の違い,3)その結果による上層の優占種の変化による下層植物への間接効果,という異なるレベルで起きていることを示した.

Abstract: Historically, the vegetation of Otome Highland, Yamanashi Prefecture, central Japan, was maintained by mowing and dominated by tall forbs. However, forbs have been replaced by Miscanthus sinensis, a tall grass, since around 2005, coinciding with an increase in the sika deer population (Cervus nippon). Eleven representative plant species were cut 10 cm above the ground. Among nine forb species, six species died after cutting, and the surviving three species regrew to a shorter height than that of the control plants. Conversely, M. sinensis and Lespedeza bicolor, a shrub, not only survived but showed no decrease in height over the long term by cutting. M. sinensis was cut in June, September or November, and both June and September. These treatments were continued for 5 years. November cutting did not affect grass height. June cutting reduced grass height, but this height was maintained over 5 years. September cutting and June/September cutting steadily reduced the height over 5 years. Grazing by deer affected the survival and height of forbs, but M. sinensis was slightly or not affected, which explained the replacement of forbs by M. sinensis in Otome Highland. A deer proof fence of 15 ×15 m was set in the M. sinensis community. After 4 years, M. sinensis was reduced, and tall forbs had greatly increased or recovered inside the fence. This resulted in an increase in diversity among the plant community inside the fence (H’ = 2.64), which was three times greater than that outside (H’ = 0.85). Changes in dominant plants in the upper layer of the plant community from tall forbs to M. sinensisaffected low-growing ground plants. Thelypteris palustris, a short fern, was increased among clumps of M. sinensis. Potentilla freyniana, a prostrate forb, also increased with M. sinensis outside the fence but was decreased with an elongated petiole height inside the fence. This study demonstrated that deer grazing affects plant communities by three different mechanisms: 1) deer preference (unpalatable plants are untouched), 2) plant response (e.g., ability of plants to recover after defoliation or physical removal of plant parts), and 3) indirect effects of canopy-forming plants on ground plants. From these results, we concluded that the replacement of tall forbs by the M. sinensis plant community since 2005 was a result of sika deer grazing.

Key words: deer grazing, herbivory, Miscanthus sinensis, Otome Highland, sika deer

■はじめに
 乙女高原は山梨県北部にある草原で,標高は1670 m前後であり,もともと森林であった場所が刈取によって維持されてきた草原だと考えられている.このような草原は中部地方,北関東地方に広くあったが,現在では少なくなっている(湯本・須賀 2011; 須賀ほか 2012).乙女高原は太平洋戦争後,1985年まではスキーゲレンデとして刈取によって草原が維持されてきた.それ以降スキーは下火になったがゲレンデとしての維持は継続され,2000年以降は市民グループである乙女高原ファンクラブが中心になって毎年11月に草刈りがおこなわれている.この草原はアヤメIris sanguinea,キンバイソウTrollius hondoensis,トウギボウシ(オオバギボウシ)Hosta sieboldiana,クガイソウVeronicastrum japonicum var. japonicum,マツムシソウScabiosa japonicaなど美しい野草が豊富なことで知られ,訪問者も多かった.ところが2005年くらいを境に,これらの野草が減少し,ススキMiscanthus sinensisが優占する群落に変化した(図1).


図1. 乙女高原の2カ所(AとB)の景観写真.A1は2003年8月5日,B1は2002年7月23日,A1とB1は2014年8月2日撮影.A1ではタムラソウ,シシウド,クガイソウなどが,B1ではシシウド,キンバイソウなどの大型双子葉草本が目立つが,A2,B2ではススキだけが目立つ.

 その原因は増加したシカ(ニホンジカ)Cervus nipponの採食によるのであろうと推定された.というのは,2005年前後からススキ群落化が目立つようになったのと同調して,シカの糞,足跡,植物に残された食痕などが目立つようになったなったからである.乙女高原の草原群落とシカの関係については東京農工大学によって植物社会学的調査がおこなわれている(大津ほか 2011).この調査は秩父多摩甲斐地域の草原群落全体と対象としたもので,1980年代のデータと2008年のデータを比較している.これによれば,この20数年間で中大型草本が減少し,グラミノイド(イネ科,カヤツリグサ科)など小型草本と木本が増加したとしている.この論文ではススキと大型双子葉草本はまとめられ,ススキも減少したとされている.しかし著者(植原)は2000年頃から年間数十回,乙女高原を訪問して詳細な生物観察をしているが,2005年前後を境に明らかに大型双子葉草本が減少し,ススキが増加するのを観察した.この草原は観光資源でもあったので,関係者は大型双子葉草本の減少を深刻に危惧したほどである.このことから推察されるのは,おそらくシカの影響が弱かった2000年までは草原群落全体が弱い影響を受けてススキを含めて大型草本が減少し,その後シカの影響が強くなって種ごとの反応の違いが顕在化したということである.
 Takahashi et al. (2013a)は2012年に乙女高原においてシカの影響に注目して,設置後2年目のシカ防除柵の内外の植物の草丈を比較し,多くの種が柵外で草丈が低いが,ススキの草丈には違いがないことを示すことで,シカによる採食の影響が種ごとに違うことを示した.
 本論文ではこの大型双子葉草本の減少とススキの増加という群落変化がシカの影響であると仮定した場合,どの程度説明できるかを野外実験によって示すことを目的とした.
 シカなど草食獣の採食によって生じる群落変化は複雑なので,影響の段階を整理しておきたい.これにはおよそ次の3つの段階が考えられる.まず第1段階として,シカ側が植物を食べるか食べないかがある.これには植物が有毒であるとか,不快な味がするなどの防衛適応が関係する(高槻 1989; 橋本・藤木 2014).その例として,アメリカの五大湖地方の針葉樹林ではオジロジカOdocoileus virginianusが増えた結果,森林構成種の更新が阻害され,不嗜好植物であるシダが増加した研究がある(Rooney & Dress 1997).第2段階として,シカに食べられることに対する植物側の反応の違いがある.例えば双子葉植物は成長点が茎頂にあるので,採食されると枯れたり,枯れないまでも再生して小型化することが多い.これに対してイネ科は成長点が節にあるため,植物体上部が採食されても再生力があるので影響が小さい(Langer 1972, Coughenour 1985; Bedunah & Sosebee 1997).前記の五大湖地方の調査例で,オジロジカの採食に対して,双子葉草本は減少したが,イネ科は再生力があるために増加した.第3段階として,植物間の関係に及ぼす間接効果(Rooney & Waller 2003)がある.例えば,シカの採食によって草原の上層植物が減少することで,地表生の小型種が増加することがある(Bullock 1996; Hester et al. 2006).実際の群落においては,これらの関係は複合的に作用するため,シカ影響下の群落変化のメカニズムを理解するためには,これらの3つの段階をできるだけ区別して把握するのが有効であると考えられる.
 本論文ではシカの影響下にある乙女高原での草原構成種の増減のメカニズムを野外実験で説明することを目的とし,その植物種の増減を上記の3つの段階に区別して説明することを試みた.

■調査地の概要
 乙女高原は山梨県の北部(北緯35°48’,東経138°38’)に位置し,標高は1670 m前後である.気象は冷涼で,年平均気温は6.2℃(乙女高原ファンクラブ測定.温度データロガー「サ-モクロンGタイプ」による),年降水量は1470 mm程度(気象庁のアメダスデータ,乙女湖,北緯35度48.4分;東経138度39.3分,標高1465m)である.この草原は江戸時代から茅場として採草により維持してきたと考えられており,太平洋戦争後から2000年にかけてはスキー場として維持され,その後は乙女高原ファンクラブが中心となって市民活動として草刈りがおこなわれている.草刈りは11月下旬におこなわれ,木本類の成長が抑止されて,遷移の進行が抑制されて草原が維持されている.周辺にはミズナラQuercus crispula,ブナFagus crenata,ダケカンバBetula ermaniiなどからなる森林が広がり亜高山帯に属する.本調査は乙女高原のほぼ中央部にあるススキが優占する草本群落でおこなった.この場所はシカがおり,植物を採食する可能性がある.また草原の東部に設置されたシカ防除柵の内外でも調査をおこなった.

■方法

個体切除処理の効果
 2013年6月16日に以下の11種(マルバダケブキLigularia dentata,ヨツバヒヨドリEupatorium chinense subsp. sachalinense,タムラソウSerratula coronata subsp. insularis,ヤマハギLespedeza bicolor,クガイソウ,シシウドAngelica pubescens,ワレモコウSanguisorba officinalis,チダケサシAstilbe microphylla,キンバイソウ,イタドリFallopia japonica var. japonica,ススキ)の茎10本を切除し,反応を追跡した.11種の選定には2005年以降減少した双子葉草本を主体とし,増加した種の代表であるススキ(イネ科)と,乙女高原でもっとも多い低木であるヤマハギも含めた.このうち,マルバダケブキとヨツバヒヨドリはシカが好まず,食べ残すことがわかっている(Takahashi et al. 2013b;橋本・藤木 2014).
これらの植物を乙女高原の中央部の平坦地において,地上10 cmの高さで剪定バサミにより切除した.この高さにしたのは,これ以上高い位置で刈り取ると,枝葉が残り種ごとに再生可能性が不揃いになるためであり,またこれより低いとマーキングがしにくく,マーキングができても継続調査の時に発見しにくくなると判断したからである.残った茎に針金で番号を書いたプラスチックの札をつけてマーキングした.また対照として切除しない茎10本を選び,同様にマーキングした.その後,同年7月14日,8月11日,9月12日に生存状態を調べ,生存個体の植物高を0.5 cm精度で計測した.双子葉草本は9月下旬に枯れたので計測をやめたが,ススキだけは10月3日まで継続測定した.なお調査のたびに追跡個体に対するシカの採食を観察したが,食痕は認められなかった.
 個体切除処理をした個体と処理をしない対照個体の植物高をMann-Whitney検定で比較した.

継続刈取に対するススキの草丈の変化
 乙女高原中央の平坦地のススキ群落に10 m × 10 mの方形区を5個とり,異なる刈取処理を5年間継続しておこない,その効果を評価した.刈取処理は10 m × 10 mの方形区をエンジン付き草刈り機でススキを含むすべての植物を地上約10 cmで刈り取った.刈取時期を6月,9月,6月と9月の2回,11月とし,11月は乙女高原の草原維持のためにおこなわれている「草刈り行事」としておこなった.これらの処理区を例えば6月に刈り取ったものを「6月区」のように名付けた.これとは別に刈り取りをしない「対照区」をとった.ススキの植物高は9月に方形区内でランダムに20本を選んで測定した.6月区の効果はその年の9月に評価し,9月区と6, 9月区,11月刈りの効果は翌年の9月に評価した.なお最初の刈取をした2013年6月には,各処理区の開始時の草丈を測定した.これらの処理区はシカの影響がまったくないとは言えないが,観察した限りではシカの食痕はなかった.草丈はKruskal-Wallis検定(Steel-Dwass事後検定)で比較した.

継続刈取に対するススキ群落の変化
 刈取4年目の2017年9月23日に各刈取区の中央部に1 m × 1 mの方形区をとって出現種の出現種の被度(%)と高さ(cm)を測定し,被度と高さの積をバイオマス指数(高槻 2009)とし,植物を以下の7つのタイプ(大型双子葉草本:成長した個体の高さがほぼ50 cm以上になるもの,小型双子葉草本:成長した個体の高さが50 cm未満のもの,グラミノイド:イネ科,カヤツリグサ科,単子葉草本(イネ科を除く),シダ,低木,高木)に分けて,各タイプのバイオマス指数を算出した.

防除柵内外の群落の種組成とその量の比較
 2010年5月9日に乙女高原の東部に設置された一辺15 mのシカ防除柵の内部と外部に1m四方の方形区を5個とり,出現種の被度(%)と高さ(cm)を測定し,バイオマス指数を算出した.この防除柵内部の植物は11月の草刈りの時に刈り取られるので管理法としては柵外と同じである.この調査は柵設置4年後の2014年9月13日におこなった.各植物タイプのバイオマス指数の合計値をKruskal-Wallis検定(Steel-Dwass事後検定)で比較した.
群落のShannon-Wienerの多様度指数H’を算出し,柵内外の値をMann-Whitney検定で比較した.

間接効果
 シカの採食によって草本群落の上層を構成する大型草本の量が変化することが観察されたので,その間接的影響が下層の植物に及ぶ可能性があると考え,柵内外の下層を構成する小型双子葉草本とシダのバイオマス指数の合計値をMann-Whitney検定で比較した.
 著者らは群落調査をする過程で,柵内外の下層植物のうち,生育型が匍匐型であるミツバツチグリPotentilla freynianaの生育状態が違うことを観察したので,間接効果の指標植物として,ミツバツチグリを取り上げた.2013年9月13日にシカ防除柵の内外でランダムに20枚の葉を採集し,高さを測定して,柵内外でMann-Whitney検定で比較した.

 植物名は原則として米倉・梶田 (2003-)「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList),http://ylist.info, 2021.3 参照)によった.

■結果
個体切除処理に対する生存率
 2014年6月に切除した各植物の9月時点での生存率を表1に示した.


 クガイソウ,ススキ,ヤマハギの3種はすべての個体が生存していた.ヨツバヒヨドリとイタドリは一部の個体が生き残っていたが,その他の6種はすべての個体が枯れた.生存個体は不定芽を伸ばして再生したが(図2),全く開花しなかった.


図2. 切除処理後,不定芽から枝を再生したクガイソウの例.2013年9月12日撮影.

 表1にはシカが好まない不嗜好植物であれば「不嗜好」であること,双子葉草本でない種にはそのことを記した.これを見ると,生存率が高かったものに,これらの特性を持つものがあった.すなわち,クガイソウとヨツバヒヨドリは不嗜好植物,ススキは再生力のあるイネ科,ヤマハギは再生力のある低木であった.ただしマルバダケブキとキンバイソウは不嗜好植物であるが,生存率は0%であった.なお刈り取りをしなかった個体は全種とも生存率100%であった.


切除処理に対する植物高の推移

 6月の切除した時点では切除個体と対照個体の高さはほとんどの種で違いがなかったが,ヤマハギだけは切除個体のほうが有意に高かった(Mann-Whitney検定,U = 4, P = 0.001,付表1).切除処理以降は多くの植物は草丈が低くなり,6種は8月時点で枯れた(図3).対照個体はキンバイソウ,ワレモコウ,ススキ,ヤマハギなどのように徐々に高くなったものもあれば,チダケサシ,シシウド,イタドリ,クガイソウ,ヨツバヒヨドリなどのように7月までに急に丈を伸ばして,その後,安定したものもあった.各月で切除個体と対照個体を比較したが,双子葉草本は全種で7月以降,切除個体の方が有意に低くなった(付表1).しかしススキはどの月も有意差がなかった(図3,付表1).またヤマハギは6月には切除個体(刈取前)の方が高く,7月には切除個体が低くなったが(U = 7.5, P = 0.002),9月以降は有意に高くなった(図3,付表1).


図3. 刈取後の植物高の推移.黒丸実線:対照個体,白丸破線:刈取個体.詳
刈取に対するススキの草丈と群落の経年変化

 2013年6月13日時点での6月区,9月区,6, 9月区,対照区のススキの高さは60 cm程度であり,有意差はなかった(Kruskal-Wallis検定,χ2= 4.7, df = 3, P = 0.194).
 その後2014年以降は図4のような経年変化を示した.刈取をしなかった対照区は200 cm前後で安定していた.6月区は120-140 cmで推移した.9月区は2014年には平均142.3 cmであったが,年々減少していき,2017年には平均85.7 cmになった.6, 9月区は減少の程度がもっとも著しく,2014年には平均108.3 cmあったが,2016年には平均10.7 cmとなり,2017年には少し回復して35.1 cmとなった.2017年には4つの処理区すべてで平均高に有意差があった(Kruskal-Wallis検定,χ2= 73.6, df = 3, P = 0.000, 付表2).

図4. 異なる刈取処理に対するススキ草丈の経年変化. 誤差バーは標準偏差.

 各刈取処理を4年継続した結果,バイオマス指数は図5のようになった.目立つのは6, 9月区と9月区では合計値が少なく,内訳においてもグラミノイド(大半はススキ)が大半を占め,双子葉草本は少なかったことである.これに比べると6月区と対照区ではバイオマス指数合計が10000前後となり,双子葉草本が1400ほどあった.いずれかの処理区でバイオマス指数が200以上であった双子葉草本はヤマオダマキAquilegia buergeriana var. buergeriana,ヨツバヒヨドリ,イタドリ,ヨモギArtemisia indica var. maximowiczii,コウリンカTephroseris flammea subsp. glabrifolia,アキノキリンソウSolidago virgaurea subsp. asiaticaであった(付表3).


図5. 異なる刈取処理を5年継続した時点でのバイオマス指数.種ごとの値は付表3参照

シカ防除柵内外の群落比較
シカ防除柵の内外で優占種の違いが認められ(図6),そのことは植物タイプ別のバイオマス指数に明確に示された(図7,表2).柵内では大型双子葉草本が61.3%ともっとも多く,グラミノイドは35.1%であった.これに対して柵外ではグラミノイドが優占し,87.8%を占めた.種としては柵内では突出した種はなく,多かったのはススキ(19.7%),ヨモギ(14.3%),アキノキリンソウ(10.2%),タムラソウ(8.7%),シラヤマギクAster scaber(7.5%),アブラススキEccoilopus cotulifer(7.5%)などであった(表2).柵外のグラミノイドの主体はススキ(85.8%)であった.つまり,柵内では多様な種が生育していたのに対して,柵外ではススキが優占していた.
図6. シカ防除柵内外のようす.柵内には双子葉草本が多いが,柵外はススキが優占する. 2013年9月7日撮影

表2. シカ防除柵設置後4年目(2014年9月)内外の出現種のバイオマス指数.プロット数は柵内外とも5. NS: 有意差なし.


 そこでShannon-Wienerの多様性指数H’を算出すると,柵内では2.64,柵外では0.85であり,前者が有意に大きかった(Mann-Whitney検定,U = 0, P = 0.009).
草本群落の上層を形成する大型草本類はシカの大きな影響を受けていたが,それが地表植物に間接的な影響を与えている可能性を検討するために,小型双子葉草本とシダのバイオマス指数を比較した.これらの合計値は柵内で247,柵外で1378と5.6倍の違いがあり,柵外が有意に多かった(Mann-Whitney検定,U = 2, P = 0.028).
ヒメシダThelypteris palustrisもバイオマス指数が柵内では172であったが柵外では1020あり,後者が有意に多かった(Mann-Whitney検定,U = 2.5, P = 0.036).



図7. シカ防除柵設置4年後(2014年9月)の内外の植物タイプごとのバイオマス指数.

 地表に生えるミツバツチグリは,バイオマス指数は柵内が16.0,柵外が36.0であり両者に有意差はなかったが(Mann-Whitney検定,U = 12, P = 0.918),被度は柵内では0.6%に過ぎなかったのに対して,柵外では7.0%であり,後者が有意に大きかった(Mann-Whitney検定,U = 0, P = 0.008).一方,葉の高さは柵内では20.0 cmあったが,柵外では4.4 cmに過ぎず,前者が有意に高かった(Mann-Whitney検定,U = 0.5, P = 0.000,図8).

図8. シカ防除柵設置4年後の柵内外のミツバツチグリPotentilla freiniana.腊葉標本のスキャン
 
■考察
乙女高原の代表的な植物11種について切除処理をしたところ,多くの双子葉草本が枯れたが,クガイソウのように一部には再生力があるものもあった.ただし,生き残った個体も不定芽による再生であり,草丈は低かった.これに対してススキは再生力があり,切除が植物高にマイナスの影響を与えないことがわかった.このことはイネ科の形態学的特徴に関係しており,双子葉草本の成長点が茎頂にあるのに対して,イネ科では節にあるため,切除されても残った節から成長するとともに,地下茎でつながる隣接する芽から分げつ(tillering)することができるためである(Langer 1972; Dahl 1995; Bedunah & Sosebee 1997).またヤマハギも再生力があり,植物高は切除処理によっても変化しなかった(図2).しかし柵内外の比較調査ではヤマハギのバイオマス指数は柵外が小さかった(表2).これは柵が1辺15 mの小さなものであったため,1 m四方の方形区が5個しか取れず,草本類に比較すると散生する傾向があるヤマハギではばらつきが生じがちであり,柵内で大きめのヤマハギ個体が評価されたためと推察される.
 異なる時期の刈取処理効果として,11月に刈取をした対照区のススキの草丈はその後も160-200 cmであった(図4).栃木県那須郡でおこなわれたススキ刈取実験でも,11月に刈り取った場合,12年間,草原の最優占種はつねにススキであり続けたという(山本ほか 1997).これは成長が終わり,生産物を地下部に移動した後の11月の刈取はススキにはマイナスの影響がないことを示している.また,本実験でも6月刈りを繰り返すだけならススキは120-140cmとやや低くなって安定的に維持されたから,影響は軽度であると言える.この段階のススキは前年の貯蔵物質を利用し(吉田 1976),また光合成によって成長するから,草丈は低くなるものの,経年的に減少してゆくことはなかった.しかし,9月区では150 cm程度から徐々に減少し,4年後には100 cmを下回った(図4).もっとも減少したのは6月と9月の2回の刈取を繰り返した場合(6, 9月区)で,3年目からは30 cm以下になった.9月はススキが生産物を地下部に移動して貯蔵する時期であるから(吉田 1976),このタイミングで刈り取られると翌年の生産が阻害されるためと考えられる.Rooney & Dress (1997)はアメリカの五大湖地方の針葉樹林の1950年代の群落調査の結果と現状を比較して,オジロジカが増加してからイネ科とシダが増加したことを明らかにした.そしてシダはシカが食べないからであり,イネ科は成長点が低いために再生力があるからである(Coughenour 1985)と,本研究と同じ解釈をしている.
 図4に見るように,刈取はススキの草丈に明らかな効果があったが,このような刈取処理は,すべてのススキを地上10 cmで刈り取るという強い処理である.これに比べれば,シカの採食はススキの葉の先端部をつまみ食いする程度であることが多く,しかもシカに採食されるのは若い葉の段階が多い(ただしシカ密度が高く,食糧不足である宮城県金華山のような場所では葉の基部まで食べることがあるし,双子葉植物であれば葉身全体を食べることが多い).ススキの葉は8月くらいになると硬くなるだけでなく,葉縁にある棘が鋭いため,この段階になるとシカはススキをあまり食べなくなる.乙女高原でシカの糞分析をしたTakahashi et al. (2013a)によると,シカの糞組成は冬にはミヤコザサが重要になるが,初夏にはイネ科の稈が多くなり,葉はイネ科を主体としたグラミノイドが20%前後,7月には10%程度であった.このグラミノイドすべてがススキであったとしても,シカの食物に占める割合は小さい.したがってススキに対するシカの脱葉(defoliation)効果は本実験の6月区よりもはるかに弱いものであり,草丈でいえばほとんど影響がないと考えられる.したがって,シカの採食は双子葉草本に強いマイナスの影響を与えたが,ススキには影響はほとんどないため,両者の優劣関係に大きな影響を与えたと考えられる.
 個体の切除実験によれば双子葉草本の多くは致命的なダメージを受けるのに対して,ススキは再生力があることが示されたが(図3),ススキ群落の刈り取りでは6月区,9月区で大型双子葉草本がある程度生育しており(図4),一見矛盾する.大型双子葉草本のバイオマス指数は6月区で18.6%,9月区で11.9%であった.量的に多かった種としては6月区でヨツバヒヨドリ(不嗜好植物),イタドリ,アキノキリンソウなどで,9月区には多い種はなかった.ヨツバヒヨドリは個体切除実験の生存率は50%,イタドリは20%であり(表1),アキノキリンソウは対象としなかったので生存力は不明である.個体切除実験と群落刈り取り実験の一見矛盾する結果の理由は次のように考えられる.第1は個体切除では1本ずつを丁寧に切断し追跡したが,群落刈り取りでは草刈機で10 m × 10 mの方形区を刈り取ったため,切除高が多少高くなったことはありうる.このために回復がよくなった個体があった可能性は否定できない.また個体切除は11種を選んでおこなったが,実際の群落にはそれ以外の種も多く生育しており,再生力のある種もあるかもしれない.上記の3種でいえば,ヨツバヒヨドリとイタドリは切除されたあと新しい茎を再生して回復した可能性もある.このように2つの実験の結果は一見矛盾するように見えるが,乙女高原で大型双子葉草本が減少し,ススキが増加したことを十分説明できるものと考えられる.
 シカ防除柵では設置4年後に内外で大きな違いが生じていた(図6).最大の違いは柵外ではススキがバイオマス指数で85.8%もの高率で優占していたのに対して,柵内では双子葉草本が61.5%を占め,ススキを主体とするイネ科は35.1%であったことである(図7).つまり柵内では,この4年間でススキの減少と双子葉草本の増加という変化が起きたことになる.これはその前の状況を考えれば「乙女草原の豊富な花が戻ってきた」ということになる.本論文の序で「美しい野草」と主観的な表現を用いたが,それはこの草原を訪問する人々の実感であり,あえてそう表現したが,生物学的に言えば「美しい野草」とは虫媒花である.柵内には21種の双子葉草本が出現したが,そのうちヨモギ(風媒花)を除く20種は虫媒花であった.双子葉草本のバイオマス指数は柵内で5916だったのに対して柵外は703(12%)にすぎなかった(表2).この理由がすべてシカによるものとはいえないし,2005年以前にシカの影響がまったくなかったとも言い切れない.しかし,柵設置後の4年間に柵内で双子葉草本が大幅に増加・回復したことは事実である.シカ以外の要因は変わったとは考えにくいから,その理由はシカの影響であるというのがもっとも自然な解釈であろう.実際,大津ほか(2011)も1980年代と2008年の群落比較をして,この間にシカの影響によって大型草本が減少したとしている.
 シカの採食が植物の変化を介して,他の生物の影響を与える間接効果(Rooney & Waller 2003)は知られており,シカの採食により樹木が枯れて草原的な環境に住む鳥類が増えた大台ヶ原での事例(日野ほか 2003),シカの採食により森林の下層植生が乏しくなってヨナキドリLuscinia megarhynchosが営巣しなくなったなどの英国での事例(Fuller 2001),同様な影響でアカネズミApodemus speciosusが減少した対馬での事例(Suda & Maruyama 2003),地表の温度や湿度が変化して地上徘徊性の昆虫が減少した東京都奥多摩での事例(Yamada & Takatsuki 2014)などが明らかにされている.群落の変化の記述は多いが,草本層の上層植物の増減が地表生の草本類に与える影響について,考え方としてはBullock (1996)やHester et al. (2006)が指摘しているものの実例は紹介していない.ただし島根県の三瓶山のススキ群落では刈取や火入れをすることでススキを抑制すると,地表生のオキナグサPulsatilla cernuaが増加するという報告がある(内藤・高橋 1998).本調査ではその一例としてススキの下に生えるミツバツチグリを調べた.ミツバツチグリは地表に生え,匍匐性であるため,その生育は上層の植物の影響を強く受ける.刈取や草食獣の採食によって上層の植物が少なくなって明るくなると地上茎を伸ばして被度を広げるが,これらが密生して上層が鬱閉すると光を求めるように葉柄を伸ばして縦方向に伸びる.したがってミツバツチグリの葉の高さは刈取やシカの採食影響を反映する指標と見ることができる.本調査の場合,シカ防除柵の外ではススキが多いものの,株と株の間は隙間があり,そこにミツバツチグリやキジムシロPotentilla fragarioides var. major,オオヤマフスマMoehringia laterifloraなどのロゼット型,匍匐型の草本類が多くなるのが観察された.そしてミツバツチグリは柵外の方が被度が大きく,地上茎を伸ばし,葉の平均高は4.4 cmに過ぎなかった.これに対して柵内は大型草本類とススキが繁茂して地表は暗く,ミツバツチグリの被度は小さくなり,縦方向に伸びて葉の高さが平均20.0 cmもあった(図8).このような状態はミツバツチグリの本来の生育地よりは暗く,このままの状態が続けばさらに減少して,消滅する可能性がある.この例はシカがミツバツチグリを直接採食するのではなく,草本群落の上層の大型草本を採食することが,間接効果として地表植物の生育に影響することを示している.
 群落上層の優占種の変化の間接効果として柵外でのヒメシダの増加も挙げられる.ヒメシダはシカの不嗜好植物であり(橋本・藤木 2014),高さ20 cm程度の小型植物であるから,シカと植物の関係でいえば第1段階の不嗜好植物であるということと,第3段階の大型の双子葉草本がシカの採食で減少して地表が明るくなった間接効果の双方の影響によって増加したものと考えられる.
 以上の結果を総合的にとらえると,乙女高原では以下のようなことが起きていたと考えられる.戦後から2000年くらいまでのスキー場としての採草管理と,それに続く市民活動としておこなわれている11月の草刈りは木本類の生育を阻止し,乙女高原を草原状態に維持してきた.1980年代と2008年に秩父多摩甲斐地域の草原を比較した調査によると,この30年近くのあいだにススキを含む大型草本が減少したという(大津ほか 2011).乙女高原ではシカの影響が強くなり,2005年くらいからマルバダケブキ,ヨツバヒヨドリ,ヒメシダ,ヤマドリゼンマイOsmunda cinnamomea subsp. asiaticaなどの不嗜好植物を除けば,多くの双子葉草本はシカの採食影響を受けて減少した(植原の観察).とくにアマドコロPolygonatum odoratum var. pluriflorum,アヤメ,トウギボウシ,オミナエシPatrinia scabiosifolia,ハバヤマボクチSynurus excelsusなどは2010年頃にはほとんど見られないほど減少した.シカの採食は旺盛な分げつが可能なススキにとってはマイナスの影響は弱いため,相対的に増加した.したがって本調査で課題とした,乙女高原がススキ群落になったことの最大の理由はシカの採食に対する植物の反応が双子葉草本にとっては大きなマイナスになったが,ススキにとってはマイナスにならなかったことにある.このことを図9に模式的に示した.

図9. 乙女高原での群落変化を示す概念図.A: 双子葉草本が多かった状態,B: シカが採食した状態,C: 採食に対する反応の違いによって双子葉草本が少なく,ススキが多くなった状態

 ただし,双子葉草本でも上記の不嗜好植物は,シカの増加によって相対的に増加したものと考えられる.またシカの採食影響下のススキ群落は株同士が間隔を空ける状態であるため,ミツバツチグリ,キジムシロ,オオヤマフスマ,アリノトウグサHaloragis micrantha,ヒメシダなどの小型植物も相対的増加をしたと考えられる.ただし,これらの増加はあったとしても,ススキの優占度は非常に大きくなり,群落多様度は低くなった.
 以下にはシカが増加した2005年前後以降に乙女高原で起きた植物の変化を現象のレベルを考えながら考察する.第1段階のシカの嗜好性と植物との関係によって起きる現象については,シカが植物種ごとに採食するかしないかを直接的に調べてはいないが,群落が変化した後,ススキ群落の中で目立ち,食痕がほとんどないものに,ハンゴンソウSenecio cannabifolius,ヨツバヒヨドリ,マルバダケブキ,ヤマドリゼンマイなどあった.これらはシカの不嗜好植物であることが確認されている(橋本・藤木 2014).
第2段階の脱葉(物理的植物体の除去)に対する植物ごとの反応の違いによって起きる現象は,切除実験により,多くの草本類は枯れ,生き残ったものも小型化したが,ススキとヤマハギは生存し,しかも植物高が変化しないことが示された.しかしススキは地上10 cmですべてを刈り取るという強い継続的な刈り取りをおこなうと,6, 9月区では草丈を大幅に減少させた.実際のシカの採食は葉の一部を食べる程度であるから,ススキの減少にはならなかった.乙女高原におけるススキの増加は,脱葉に対する回復力によるところが大きいが,ススキは不嗜好植物とは言えないもののシカの採食は弱く,第1段階の採食でも多くの大型双子葉草本よりは有利である可能性がある.
第3段階の現象は第2段階の草本群落の上層の変化が群落の下層植物に及ぼす間接効果で,大型双子葉草本の減少とススキの再生力によりススキを優占させたが,ススキの株の間は広く,地表が明るくなった結果,下層の植物(小型双子葉草本とシダ)のバイオマス指数が増加した.柵外ではススキの株の間はヒメシダが多く生育していた.また,ミツバツチグリは柵外で草丈が低く,被度が大きかった.
シカ防除柵設置4年目の柵内外の群落比較により,柵外ではススキが優占する多様性の低い群落になり,柵内では双子葉草本が回復して多様性の高い群落になったことが示された.これはシカの採食の群落レベルでの影響である.
以上の結論として,乙女高原において主に虫媒花で構成される大型草本類群落が2005年前後にススキ群落に入れ替わったのはシカの採食影響によると考えることに矛盾はないとした.また群落の変化を異なる段階の現象として捉えることが有効であることも示された.

■謝辞

調査では麻布大学学生(当時,敬称略)の加古菜甫子,大竹翔子,鷲田茜,須藤哲平,髙田隼人,野々村遥,富永晋也,矢野莉沙子,山本楓,鈴木沙喜,宮岡利佐子と乙女高原ファンクラブの宮原孝男様,三枝かめよ様,井上敬子様,岡崎文子様はじめ延べ30名の方々に協力いただきました.また山梨県峡東林務環境事務所県有林課は本調査の意義を理解され,調査許可をいただきました.これらの方々にお礼申し上げます.


■引用文献 こちら






八ヶ岳におけるヤマネの巣箱利用と巣材

2021-05-04 08:37:29 | 論文
八ヶ岳におけるヤマネの巣箱利用と巣材

高槻成紀・大貫彩絵・加古菜甫子・鈴木詩織・南 正人
哺乳類科学 62(1):61-67
こちら

摘 要
 八ヶ岳の亜高山帯のカラマツ林で高さ0.5 mと1.8 mに43対の巣箱を設置したところ,ほとんど(91.7%)はヤマネが利用した.高さは高いほうが有意に多く利用された.利用率は通算で32.2%と高く,特に繁殖期後の9月には約50%と非常に高かった.巣材がコケ,サルオガセ,樹皮であったものをヤマネ,枯葉出会ったものをヒメネズミと判断した.巣材は特定の材料が重量のほとんどを占めていた.
キーワード:コケ,巣材,巣箱,地衣,ヤマネ

はじめに
 ヤマネ(ニホンヤマネGlirulus japonicus)は日本に固有な小型齧歯類で,樹上生活をし,冬眠をする.そして,樹上の樹洞やくぼみなどを巣として利用し,巣内にコケなどを敷いてベッドとして利用し(湊 2018),人口巣を設置しても利用することが知られている(芝田 2000).
 樹上性のヤマネにとって地上は捕食などのリスクがあるかもしれない.一方,樹上の高い場所は移動にコストがかかるであろう.ヤマネの自然巣について調査した例では,巣の高さは平均1.8 mだったとされるが(饗庭ほか 2016),自然巣の発見は困難であり,見落としは避けがたい.この点,巣箱を利用すれば,利用率とともに高さの選択性も明らかにできる.小林(2011)は巣箱を用いて,このことを調べたが,ヤマネの利用はわずか3例であり選択性は不明であった.そこで,本調査では巣箱を異なる高さに設置し,利用率を比較することで,ヤマネが巣の高さの選択性を明らかにすることにした.また利用された巣材についても調べた.

調査地
 長野県の八ヶ岳の赤岳(標高2899 m)南東斜面の中腹(北緯35°59’,東経138°25’),標高約の板橋川(板橋大橋)近くのカラマツLarix kaempferi林(1680〜1760 m)を調査地とした(図1).

図1. 調査地の位置図.八ヶ岳の赤岳の東方,JR野辺山駅の北西に位置する.

 この辺りは亜高山性のコメツガTsuga diversifoliaなどを主体とする森林だが,調査対象とした場所は緩やかな尾根であり,カラマツが優占し,林床にはミヤコザサSasa nipponicaが密生していた(図2).

図2. ヤマネの巣箱をかけた八ヶ岳の調査地の景観.カラマツ林の林床に
ミヤコザサが密生する.

方 法
 調査地に木製の巣箱をかけた.巣箱は縦15 cm,横15 cm,厚さ4 cmの箱状で,背後に縦20 cm,横15 cmの板をとりつけ,これを麻紐で樹木に縛り付けて固定した(図3a).

図3a.ヤマネの巣箱を木にかけたようす.内部が見えるように蓋を開けてある.

通常の巣箱はカラ類が利用することがあるため(湊 2018),高さ3 cmの入り口から入ってから一度上に登らなければ中に入れないようすることで,鳥類による進入を排除した(図3b).


図3b. ヤマネの巣箱の構造を示す図.利用する動物は左下の入り口から曲線のように移動しなければ侵入できないので,鳥類は利用しない.この上面にアクリル板を張って内側が確認できるようにし,その上に蓋をつけた.

蓋として縦15 cm,横15 cmの板を開閉できるようつけた.蓋の内側にはアクリル板をおいて,扉をあければ内部が観察できるようにした.
 巣箱を木に設置する高さは,地面から約0.5 mの「低位」と約1.5 mの「高位」とした.巣箱は2013年5月に43本の樹木に合計86個設置し同年9月に点検し1本分を追加した.その後,同年11月,2014年5月,9月の3回,通算4回点検した.前回利用したが,その後新しい巣材が運び込まれていない場合は「利用なし」とした.回収時になんらかの理由で巣箱が落下していることがあり,その場合,データは使用せず,新しい巣箱を更新した.
 この巣箱を利用したのはおもにヤマネであったが,一部ヒメネズミApodemus argenteusの可能性があった.ヤマネは巣材として蘚苔類と樹皮を用いることが知られている(Minato and Doei 1995; 饗庭ほか 2016; 中島2001).一方,ヒメネズミは枯葉,ササなどを利用し,しばしばドングリを持ち込むことが知られている(佐藤 1997; 中島 2001; 安藤 2005; 小林 2011; 湊 2018).そこで,巣材を観察して,利用者を推定した.巣箱の利用率を低位(地上0.5 m)と上(地上1.5 m)で比較するためχ2検定した.また巣材は最後の点検時に回収して持ち帰り,内容を大別してそれぞれの乾燥重量(40℃,48時間)を求めた.巣材が少なく,乾燥重量で1 g未満のものは対象から除外し,それ以上であったものの百分率組成を求めた.
 
結 果
1. 利用率と利用動物
 4回の点検により,少数例のヒメネズミと推定される動物の利用例があったが,大半(91.7%)はヤマネが利用していることがわかった(表1).通算のヤマネとヒメネズミの利用率は34.1%,ヤマネだけの利用率は32.2%であった.

表1. 巣箱の利用動物と未利用巣箱数,落下した巣箱数

 回収時期別のヤマネの利用率は9月に高く,秋(11月)と春(5月)には低かった(図4).

図4. ヤマネの巣箱利用率.「利用率」は調査時点での利用していた巣箱の割合,「利用率/月」は1ヶ月あたりに換算した利用率.

 2013年9月の利用巣と未利用巣の数を他の時期と比較すると11月と5月とは有意差があったが,2014年9月とは有意差がなかった.この利用率は点検の間隔が違うので,1カ月あたりに換算した利用率を見ても同じ傾向があった(図4).

2. 高さの選択性
 利用された巣数を高位(地上1.8 m)と低位(地上0.5 m)に分けて比較したのが表2である.通算では高位が70個,低位が27個であり,高位が有意に多かった.各時期についてみると,2013年9月,2014年9月は高位が有意に多く,2014年5月は有意差がなかった.2013年11月は試料数が少なく検定ができなかった.

表2. ヤマネによる高位(地上1.8 m)と低位(地上0.5 m)の巣箱の利用数・未利用数

3. 巣材
 巣材であったコケや地衣類は種名の特定ができなかった.巣箱に残された巣材を取り出して乾燥重量を測定した結果,最多の巣材から4タイプが認められた(図5).すなわち,コケ型(15例),サルオガセ型(5例),樹皮型(4例),枯葉型(2例)である.コケ型とサルオガセ型の写真は図6に示した.


図5. 巣材の重量組成(%)


図6. コケ型(A)とサルオガセ型(B)の巣箱の状態

 このうち,枯葉型はヒメネズミによるものと推定した.特徴的だったのは,最多の巣材が独占的で,これに次ぐ第2位が大幅に少なくなった点である.

考 察
 本調査により改良型の巣箱によりほとんどがヤマネが利用するという結果を得た.そしてその利用率は全体平均で32.2%,夏には50%前後という高い率であった.これはこれまでの調査でヤマネの巣箱利用率はほとんどの場合10%未満である(中島 1993; 佐藤 1997; 湊ほか 1998; 山口 1999; 中西 2000; 安藤 2005; 玉木ほか 2012)と結果と違った。これ以上だったのはわずかに芝田ほか(2020)による和歌山での12%と中島(2001)による浅間山の23.2%、富士山の13-14%に過ぎない。本調査の結果はこれらより大幅に高かった.その理由は不明であるが,本調査地はヤマネの生息密度が高いことと生息地に営巣適地が乏しいためであるかもしれない,調査地はカラマツが優占しており,森林構成樹種が単純であった。カラマツは樹形が直線的で幹に起伏や樹洞が乏しい。そのため,営巣適地が乏しく、そこに巣箱を設置したために集中的に利用された可能性がある.また入り口の構造を改良して鳥類の利用を排除したため,ヤマネにとって好適であった可能性もある.
 利用率は9月に高く,その他の季節は低かった.これは富士山や浅間山での調査結果と符合する(中島2001)。このことはヤマネの生活史の季節変化と関係があるようだった.芝田(2000)による詳細な巣箱利用調査によると,浅間山のヤマネは4月頃から巣箱を利用し始め,5月から9月まで繁殖のために巣箱を利用し,10月下旬には巣箱を利用しなくなるという.そして冬は地上の枯れ葉の中などで冬眠する(中島 2001; 湊2018).9月の利用率が高かったのは、出産し,子育てをしたメスが利用した可能性が大きい.その後11月までで利用率が下がったが,子育てを終えたメスや幼獣が巣箱を放棄するのであろう.冬は巣箱を利用しないから(芝田 2000),5月の利用は4月以降のメスの利用である可能性が高い.実際,我々は2014年5月の巣箱点検の際,巣の中にいるヤマネを観察した(図7).

図7. 巣箱の中にいたヤマネ(2014年5月31日).


 巣箱の高さについては地上0.5 mと1.8 mでは高位のほうが利用率が高く、中島(2001)の巣の高さには傾向がないという見解とは違っていた.一方,饗庭ほか(2016)はヤマネの自然巣の高さは平均1.8 mであったとしており,本調査の結果はこれを支持する結果であった.
 巣材は巣ごとに利用巣材が明瞭に違い,ほとんどの場合,単一の巣材が大半を占めていた.これはヤマネが巣材を運ぶとき,特定の巣材を選ぶとそれだけを集中的に持ち込むことを示唆する.湊(2018)が,ヤマネが巣作りをする場合,一晩で完成すると記述しているのはこのことと符合する.巣材としてはコケが最もよく利用されていたが,調査地ではコメツガやカラマツの幹にコケが多く見られたので,ヤマネにとって利用しやすかったものと考えられる.またサルオガセもよく利用されていたが,調査地のカラマツの高さ2 m以上にはサルオガセがよく見られたから,これもヤマネにとって確保しやすい巣材であると考えられる.このことから見ても湊(2018)が指摘するように,ヤマネが典型的な樹上生活者であるといえる.高い巣箱を選んだことも巣材の確保と関連していると考えて矛盾しない.
 なおヒメネズミが利用した巣の場合,持ち込まれた巣材の上4分の3ほどに枯葉があったが,その下にコケがあり,そのコケは枯葉よりは古いものと見られたことから,最初にヤマネがコケを持ち込み,その後でヒメネズミが枯れ葉を運び込んだ可能性がある.一つの巣箱を別種あるいは同種の別個体が利用することは芝田(2000)が記録している.

引用文献
饗場葉留果・湊秋作・岩渕真奈美・湊ちせ・小山泰弘・若林千賀子・森田哲夫. 2016. ニホンヤマネにおける繁殖巣の巣材・構造および繁殖事例の報告. 環動昆 27: 1–7.
安藤元一. 2005. 樹上性齧歯類を対象とした巣箱調査法の検討. 哺乳類科学 45: 165–176.
小林朋道. 2011. 鳥取県智頭町芦津森林で見られた樹上性齧歯類や鳥類の巣箱の使い分け. 鳥取県立博物館研究報告 48: 95–101.
湊秋作. 2018. ニホンヤマネ – 野生動物の保全と環境教育. 東京大学出版会. 
Minato, S. and Doei, J. 1995. Arboreal activity of Glirulus japonicus (Rodentia: Myoxidae) confirmed by use of bryophytes as nest materials. Acta Theriologica 40: 309– 313.
湊秋作・松尾公則・田中龍子・相川千里・志田富美子・安東茂・中西こずえ. 1998. 長崎県多良岳のヤマネ. 哺乳類科学 37: 115‒118.
中島福男. 1993. 信州の自然史「森の珍獣ヤマネ」. 信濃毎日新聞社,長野,191 pp.
中島福夫. 2001.日本のヤマネ[改訂版].信濃毎日新聞社, 長野, 179 pp.
中西安男・渡部孝・清家晴男・門田智恵美・吉沢未来・山崎博継・吉川貴臣・大地博史・野田こずえ. 2000. 高知県でのヤマネGlirulus japonicusの生息調査. 香川生,29: 33‒38.
佐藤洋司. 1997. 栗山地域における小鳥用巣箱を利用した哺乳類の分布調査. 栃木県立博物館研究紀,14: 21‒31.
芝田仁史. 2000.ヤマネ.冬眠する哺乳類(川道武男・近藤宣昭・森田哲夫編), pp.162‒186. 東京大学出版会, 東京
芝田史仁・細田徹治・揚妻直樹・鈴木慶太・清水善吉. 2020. 和歌山県内におけるヤマネGlirulus japonicusの生息状況. 南紀生物 62: 98‒102,
玉木恵理香・杉山昌典・門脇正史. 2012. ヤマネGlirulus japonicus用新型巣箱の考案. 哺乳類科学 52 15-22.
山口喜盛. 1999. コウモリ用巣箱を利用したニホンヤマネ. リスとムササ,6: 12‒13.



我が家(東京都小平市)の周りでの鳥類種子散布

2021-04-15 16:47:29 | 研究
 小平市の我が家の周りで、樹木に来る鳥による種子散布の実態を調べてみることにしました。庭などでいつの間にか知らない植物が生えてくるのはよくあることです。一方、公園などの木にヒヨドリが集まって賑やかに鳴きながら木の実を食べているのもよく目にします。都市の緑地は市街地に囲まれた、いわば「島」のような存在ですが、その島を鳥がつなぐように種子を運んでいるのは確かなようです。では実際にはどうなっているのか。調べてみると、いくつか論文がありました。古く1978年に唐沢氏が東京都内で丁寧な調査をしています。多い鳥としてはヒヨドリ、ムクドリ、ツグミ、鳥の糞に多くみられた種子はトウネズミモチ、ネズミモチ、モチノキ、イヌツゲ、アオキ、ヘクソカズラなどだったとのことです。しかしその後の調査は断片的なものしかありません。こういう現象は場所によって違うので、個別の事例を蓄積する必要があります。そこで、小平市の自宅近くで調べてみることにしました。

 調査対象としたのは以下の4種の樹木です。
1)小平霊園のセンダン
2)小平霊園のトウネズミモチ
3)大沼地域センターのクロガネモチ
4)北東部のハゼノキ

図1 種子を回収した4カ所

図2  対象とした4樹種の果実

 この4つの木の下に12月から2月下旬までの毎週1回、回収に行きました。ホウキとチリとりを持って行って、種子を掃き取りました。霊園の場合、「ごくろうさま」と、掃除のボランティアと間違えて声をかける人がいました。

 こうして、13,767個の種子を数えました。私はこのあたりで植物を観察しており、果実を見つけると採集して標本を作っているので、大半はおなじみの種子でした(図3, 4)。わかっただけで33種の種子が回収されました。不明が10種ほどありましたが、その数は少なく、大半は判明しました。ただ、「ジャノヒゲ」としたものはジャノヒゲかヤブランか区別がつきませんでした。


図3 対象とした4種の果実と種子。格子間隔は5 mm


図4 検出された種子。格子間隔は5 mm

 果実と種子の数を数えると、ピークが見えてきました(図5)。数そのものは大きく違うので、最大値を100%にして示しました。果実の落下はトウネズミモチ、クロガネモチ、センダン、ハゼノキの順でした。おもしろいことに、種子はそれとは大きく違い、トウネズミモチは果実と種子の落下時期は同調しており、ハゼノキも遅いながら同調していましたが、種子の落下はセンダンは2週間、クロガネモチは1ヶ月も遅れました。

図5 果実と種子の落下時期

 果実が落ちるということは熟したということです。その時にすぐに鳥が食べるということは鳥が待っていて食べどきがきたと食べに来るということです。トウネズミモチとハゼノキはそういう果実のようです。逆にクロガネモチは10月くらいから赤い実を実らせていますが、食べられたのは2月になってからでした。クロガネモチは鳥にとってあまり美味しい果実ではないらしく、他の餌がなくなった時に食べるようです。センダンはその中間的な利用のされ方でした。

 落下した種子数を1平方メートルあたりに換算したのが図6です。センダンだけが例外的に少ないこと、どの木でもほとんどは母樹と同じ種子だということがわかります。その木そのものの種子が多いと思われますが、同じ種類の別の木で食べたものが運ばれたのかもしれません。

図6 落下種子数

 母樹と同じ種子が多いので、それを除いた種子の内訳がどうなっているかを見ると、センダンだけが他の植物の割合が多く、しかも低木が比較的多いことがわかりました(図7)。


図7 落下種子の母樹と同種以外の種子

 この意味はよくわからないのですが、グラフは左から右に果実と種子が小さく並べており、果実も種子も大きいセンダンに相対的に多くの外部由来の種子が運び込まれているということです。おそらく鳥類の滞在時間が長くて、その木に来る前に食べていたものを、センダンの実を食べながら吐き出したり、排泄したりするものと思われます。果実が一番小さく、小さな鳥も来るクロガネモチ は2月になって突然なくなり驚きました(図8)。

図8 クロガネモチの結実状態 A. 2021年1月にはたわわに実っていた。この状態は2月3日にも確認されたが、2月5日は突然なくなった。

 センダンにはヒヨドリ・クラスの大きめの鳥類が来ますが、クロガネモチ にはメジロなどの小さい鳥も来ます。クロガネモチの樹下ではほとんどがクロガネモチの種子で外部由来はほとんどありませんでした。ということは滞在時間が短いために外部由来の種子が少なかったということではないかと思います。

 次に調べたのは果実と種子の大きさです(図9)。横軸は果実の短径、縦軸は種子の短径です。果実の中に1個の種子があるわけではないので、単純な右上がりにはなりません。グラフにはメジロ(Z)、シジュウカラ(P)、ツグミ(T)、ムウドリ(S)、ヒヨドリ(H)の嘴の幅も示しています。多くの果実は10 mm以下、種子は6 mm以下で、たいていの鳥は問題なく飲み込めそうです。ただいくつか例外がありました。1はカラスウリ、2はスズメウリで果実がとりわけ大きいことがわかります。これらのウリの種子はさほど大きくないので、飲み込まれていましたが、これは鳥がこれら大きな果実をついばんで食べるからです。3はブドウです。
 種子の大きさをみると、大きく外れたものに9と8があり、9がセンダンで8はアオキです。これらは特別に大きい種子で、シジュウカラくらいでは飲み込めません。ツグミ、ムクドリならなんとか大丈夫、ヒヨドリは問題ないという感じです。

図9 果実と種子の大きさと主な鳥の嘴の幅
1. ブドウ,2. スズメウリ,3. カラスウリ,4. エゴノキ,5. ジャノヒゲ,6. ムクノキ,7. シュロ,8. アオキ,9. センダン,
Z: メジロ,P: シジュウカラ,T: ツグミ, S: ムクドリ,H: ヒヨドリの口径

 ハゼノキは他の果実が多肉質であるのに対して乾燥した果実です。あまりおいしそうには見えませんが、「漆」がとれるくらいなので脂質が含まれており、カラスやヒヨドリなどが好んで食べます(上田 1999)。だとすればすぐになくなってしまいそうですが、調査地にはこの木が多く、また一本の木に果実がびっしりついており、一つの房にたくさんの果実がなるので(図2)、鳥が来て食べてもすぐには減らず、長い間利用されました(図5)。これに対して一本しかないクロガネモチはある日突然一気になくなりました(図5, 8)。

* * *
 都市の緑地の樹木は基本的に人が植えます。しかし緑地と緑地をつなぐように鳥が移動し、その時に種子を散布します。多くの種子はそのまま死んでしまうかもしれませんが、なんと言っても延べ数は膨大なものです。この調査でもトウネズミモチ、エノキ、ムクノキ、マンリョウ、ナンテン、イヌツゲなどは鳥類によって種子散布をしてもらっている可能性が大きいことがわかりました。マンリョウ、ナンテンなどは人の目にも目立つ赤色ですが、トウネズミモチ、ムクノキ、イヌツゲなどは黒っぽい色であまり目立たないように思いますが、ヒトと鳥では見える波長が違い、黒系の色も目立つのだそうです。そのため鳥類が食べる果実には赤系と黒系が多いことが知られています(Wheelewright and Janson 1985)。
 鳥がいることで都市緑地の植物の種子散布に貢献しており、そのことは生物多様性に貢献しているということです。同じようなことを考えてスペインで調査した人もいます(Cruz et al. 2013こちら)。
 ささやかな調査ではありますが、大切なことに気づくことができました。

図10  都市で鳥類によって種子散布され、繁殖している可能性のある果実類

+++++++++++ 文献 +++++++++++
Cruz, J. C., Ramos, J. A., da Silva, L. P., Tenreiro, P. Q. & Heleno, R. H. 2013. Seed dispersal networks in an urban novel ecosystem. European Journal of Forest Research, 132: 887-897. こちら
唐沢孝一 1978. 都市における果実食鳥の食性と種子散布に関する研究. 鳥, 27: 1-20. こちら
上田恵介 1999. 意外な鳥の意外な好み. 「助けあいの進化論1 種子散布,鳥が運ぶ種子」(上田恵介編著), 64-75. 築地書館, 東京.
Wheelwright, N. T. & Janson, C. H. 1985. Colors of fruit displays of bird dispersed plants in two tropical forests. American Naturalist, 126: 777-799. こちら

山梨県早川町のシカの食性 - 過疎化した山村での事例

2021-01-28 08:37:37 | 論文

山梨県早川のシカの食性 – 過疎化した山村での事例

高槻成紀・大西信正

保全生態学研究, 2021

 こちら

要 約:過疎化が著しく、シカが高密度になって植生が乏しい状態にある山梨県早川のシカの食性を糞分析により明らかにした。いずれの季節でも繊維・稈などの支持組織が多く、緑葉は少なかった。春には繊維が45.0%、稈・鞘が17.7%と多く、緑葉は10.2%に過ぎなかった。夏も繊維(54.6%)と稈・鞘(14.2%)が多かったが、双子葉植物が13.5%に増えた。秋は変化があり、緑葉が35.5%と年間で最も多くなった。これはシカが新しい落葉を食べたものと推定した。冬の食性は最も劣悪で、繊維が82.5%と大半を占め、緑葉は微量しか検出されなかった。早川のシカの食性は他の場所と比較しても劣悪であった。シカの食性とシカの管理、特に過疎化との関連に言及した。

キーワード:過疎、過密度、シカ管理、貧栄養、糞分析、

はじめに

 過去40年ほどで日本各地でシカが増加し、初期は農林業被害として問題視されたが、1990年頃からは自然植生への影響も問題となってきた(Takatsuki 2009)。植生へのシカの影響はシカ侵入の初期には目立たないが、シカが好む常緑樹やササなどに冬に食痕が目立つようになり、採食圧が強くなるとシカに食べられた植物が盆栽状に変形し、一部の植物が減少し、不嗜好植物が目立つようになるといった変化が見られる(大橋ほか 2007; Takatsuki 2009, 大津ほか 2011)。

 シカ増加に伴う農林業や自然植生への影響の問題は日本の農山村の過疎化・高齢化と不可分な関係にある。過去半世紀に急速に起きた農山村で進んだ過疎化・高齢化は野生動物に対する抑止力を弱め、その増加・拡大が進んだ(中島 2007)。その結果、植生への影響が強くなり、全国的な調査により、太平洋側では土砂崩れを伴うほどの強い影響がある場所も少なくないことがわかった(植生学会企画委員会 2011)。

 植生がシカによって強い影響を受けた例として、神奈川県丹沢の場合はシカの影響が1970年代から報告されてきたが、2000年以降は影響が非常に強くなった(田村 2007, 2013)。落葉樹林の林床が貧弱になり、シカの食物は夏でも緑葉をあまり含まないことがわかった(高槻・梶谷 2019)。

 一方、農山村の過疎化とも関連するが、シカとは独立の森林の変化が重要な意味を持つ場合もある。鳥取県東部の場合は、スギ人工林が卓越するためにシカの食物が乏しい。そのためシカが侵入した場合、植物への影響が強くなり、林床が非常に貧弱になっている(川嶋・永松 2016)。ここでも夏であるにも関わらず、シカの食性に占める緑葉が少なかった(Takatsuki and Nagamatsu, unpubl.)。

 このように、シカが生息する場所で起きている現象は植生変化を把握すると同時に、シカの食性を把握することでより正確に把握できる。しかし、これまでのところ、島でシカが高密度である場所を除けば、シカの影響の強い場所での食性分析例はこの2つしか知られていない。しかし、シカの影響により植生が貧弱になった場所は拡大しており(植生学会企画委員会 2011)、そのような場所での分析事例がさらに必要となっている。

 南アルプス一帯は過去20年ほどでシカが増加し、その生息域は高山帯に達して植生への影響も強くなっている(中部森林管理局 2006, 2008, 渡邉ほか 2012)。当然山地帯でのシカの影響も強く、山梨県南西部もその範囲にある(長池ほか 2016)。早川町はその南西部にあり、農山村の過疎化という点では代表的な町である。1960年代には1万人を超えた人口はその後減少し、1980年代には3000人、現在は1000人と最大時の10分の1になった(早川町ホームページ)。そして2000年以降シカが増加し、2010年からは森林植生の貧弱化が著しい。そこで本調査では早川町でシカの食性を糞分析によって分析することを目的とした。

 

調 査 地 と 方 法

 シカの糞を採集したのは山梨県南西部の早川町南部にある「シッコ山」(35°28’, 138°22’、標高700-800m)である。早川町は北部・西部を南アルプス(赤石山脈)、東部を櫛形山系、南部を身延山地に囲まれた山間地域で、全体に地形が急峻で町の面積の約96%は山林である。

図1 早川のシカ糞採集地シッコ山の地図

 

 筆者らはシッコ山を含む早川町の森林において2010年前後から急速にシカの影響を受けて貧弱になるのを観察した。本調査でシカの糞を採集したシッコ山の林でははっきりした「ディア・ライン」がみられ、シカの影響が強いことを示している(図2)。

図2 糞採集地の景観。林床にはほとんど植物がなく、ディア・ラインがはっきりわかる。2019年8月

 

2)糞分析

 シカの糞の採取に際しては1回分の排泄と判断される糞塊から10粒を採集して1サンプルとし、10サンプルを集めた。糞は2019年の5月、8月、11月、2020年2月に採集した。糞は0.5mm間隔のフルイ上で水洗し、残った植物片を光学顕微鏡でポイント枠法(Chamrad and Box 1964, Stewart 1967)で分析した。格子間隔が1mmのスライドグラスに植物片を広げ、ポイント数は200以上とし、百分率組成を求めた。

 糞中の成分は次の14群とした。

 ササの葉、イネ科の葉、スゲの葉、単子葉植物の葉、双子葉植物の葉、常緑広葉樹の葉、枯葉、その他の葉、果実・種子、その他、繊維、稈、不明

 枯葉は黒褐色の不透明な葉脈となった落葉樹の葉であり、緑葉は葉肉部もあり、葉脈は半透明であるから区別ができた。中間的なものもあったが、違いが不明瞭なものは緑葉にした。占有率が1回でも5%以上になった食物群を「主要食物」とし、隣り合う季節間の占有率を比較した。考察において本調査地の糞組成を比較した。既往論文のデータから、緑葉(グラミノイド、双子葉植物、シダ)の合計値を算出して比較した。

 

結 果

春(5月)

 糞の組成では木質繊維が45.0%とほぼ半量を占めていた(図3)。また稈(イネ科の茎)が17.7%と多かった。これに対して緑葉はイネ科、単子葉植物、双子葉植物がいずれも3%あまりと微量であり、ササは全く検出されなかった。

図3 早川のシカ糞組成

 

夏(8月)

 夏になっても糞中の繊維が春よりもさらに増えて55.4%と過半量となったが、有意差はなかった。葉はさほど増えなかったが、双子葉植物は14.1%と大きく増加した。

秋(11月)

 秋になると糞組成がかなり変化した。春と夏に半量ほどを占めていた繊維が15.8%に減少した。その代わりに稈が夏には10%台であったが、33.6%にほぼ倍増した。つまり支持器官が減少した。そして増えたのは双子葉(夏の13.5%から18.8%、ただし有意差なし)で、イネ科や、常緑広葉樹のはもやや増えたが、主要食物には該当しなかった。

冬(2月)

 冬になると大きな変化があった。最大の違いは繊維が秋の15.2%から実に82.7%と大きく増加したことである。その分減ったのは葉で、秋には双子葉、単子葉などを合わせて36.0%あったが、冬にはいずれも減少し、合計しても2.5%と、ほとんど葉がない状況であった。稈も36.6%から3.1%に減少した。


考 察

 調査地の植生調査はしていないが、図2に見るように林床植生は極めて貧弱であり、真夏でも植物がほとんどなく、ごく一部の森林ギャップにイワヒメワラビ、オオバノイノモトソウ などシカの不嗜好植物がみられる程度であった。上層はミズナラ、オニグルミ.、ヤマハンノキなどの落葉広葉樹の森林であり、2010年以前には林床植物が明らかに多かったから、現状の貧弱さはシカの影響によるものと考えられる。早川町の東にある櫛形山などを含む秩父多摩甲斐地域の植生を1980年代と2008年で比較した研究ではこの地域では、全体に大型・中型草本が減少し、群落高も低くなったことが示されている(大津ほか 2011)。その中でも山梨県南西部はシカの影響が強いとされている。
 早川町のシカの食性を糞組成から次の3カ所と比較する。岩手県の五葉山は落葉広葉樹林にミヤコザサが豊富にあり、シカはこのササをよく食べていた(Takatsuki 1986)。乙女高原は早川町と同じ山梨県で、ここも落葉樹林にミヤコザサがある。草原の植物はシカの採食影響を受けており(Takahashi et al. 2013b)、シカの食物としてはミヤコザサが重要である(Takahashi et al. 2013a)。一方、神奈川県の丹沢は古くからシカの影響が強いために林床植物は乏しく(田村 2007, 2013)、シカの食性においては緑葉が少なく、繊維が多い低質なものであった(高槻・梶谷 2019)。これらの場所でのシカの糞分析からシカの食性の質を比較するために、葉の占有率を合計した「緑葉」と、繊維の占有率を比較する。緑葉はタンパク質含有率が高いが、繊維はこれが低いので、草食獣の食物の栄養価を比較するのに適している(Van Soest 1982; Robbins 1983)。
 シカの糞中に占める成分のうち、緑葉は岩手県五葉山がとび離れて多く、一年を通じてミヤコザサを食べていた(図4a)。乙女高原では緑葉の占有率が50%前後で、冬に緑葉が多くなったが、これはミヤコザサを食べたためである(Takahashi et al. 2013a)。丹沢では5カ所で分析したが(高槻・梶谷 2019)、比較対象として丹沢山塊の中央部、中標高の場所を選んだ。そこでは夏に緑葉が20%未満と少ないのが特徴的であったが、冬は50%台で意外と多かった。ただし丹沢でも他の場所(中部の高標高)では冬は10%台と少なかった。これらと比較して早川町での緑葉は40%未満と少なく、夏に最低値をとった丹沢に次いで少なく、その他の季節は4カ所中最低であった。

図4a シカ生息地5カ所でのシカの糞に占める緑葉の割合の季節変化

 次に栄養価の低い繊維を見ると,五葉山と乙女高原が目立って少なく、丹沢と早川町では乱高下することがわかった(図4b)。この2カ所では繊維は夏に多く、秋に少くなり、これらの季節には丹沢のほうがやや多かったが、春と冬には早川町が4カ所中最多となった。

図3b シカ生息地5カ所でのシカの糞に占める繊維の割合の季節変化

 以上を通してみると、早川町のシカの食性は非常に劣悪であるといえる。糞組成は四季を通じて繊維が多く、ことに夏でさえ繊維が54.6%も含まれていた。意外なことに緑葉が夏よりも秋の方で多かった。筆者らは宮城県金華山でシカの行動観察を行っているが、夏の台風直後や秋のまだ樹上に緑葉のある時期に強風で落葉すると、シカが盛んに採食するのを観察している。このことから推定してシッコ山のシカの食性で秋に緑葉が増加した理由は、樹上からもたらされる落ち葉をシカが食べた可能性が大きい。これは丹沢でも同様であり、林床植物の乏しい落葉広葉樹林のシカに共通なことであるかもしれない。冬には緑葉が少なくなると予想したが、分析結果はそれを裏付け、しかも4カ所中の最低値であった。実際、シッコ山の林では落葉樹林の林床であるにもかかわらずシカの影響により、ほとんど植物がないまでに非常に貧弱になっている(図2)。ここでは2010年くらいまではさまざまな低木や草本が生育していたが、急速に減少したことが観察されている。ことにスズタケSasa borealis (Hack.) Makino et Shibataは林内の各所にまとまって生えていたが、常緑であるために冬にシカに採食にされ、回復力がないために(汰木ほか 1977)、現在はほとんど残っていない。実際、シッコ山のシカの糞からは秋にササが0.5%しか検出されただけで、そのほかの季節にはまったく検出されなかった。
 山梨県でのシカの増加は著しく、農林業被害や自然植生への影響も深刻となっている(山梨県)。シカの捕獲数は2006年からの10年ほどで5倍となっている(図4)。中でも早川町の西側にある南アルプスでのシカの増加は著しく、1980年代以前にはシカがいなかった高山帯へもシカが侵入し、高山植物が大きな被害を受けるようになった(中部森林管理局 2006, 2008;増沢2015)。また早川町の東に位置する富士川町の櫛形山(標高2052m)には,アヤメの群生地があり「アヤメ祭り」が開催されていたが、そのアヤメがシカに食べられて減少したために、2007年には中止することになった。櫛形山でシカ防除策を設置したところ、柵外ではアヤメがまったくなかったが、柵内では被度30%程度まで回復したという(長池ほか 2016)。このように、山梨県南西部は全体にシカが増加し、森林への影響が非常に強くなっている。
 早川町はこの地域の中でも過疎化が著しく、1960年代までは6000−7000人いた人口が、1980年代に3000人、2000年代には2000年を下回り、2020年には1000人となった(図5、早川町ホームページ)。人口密度は2.6人/km2に過ぎず、これは全国平均の130分の1、山梨県の平均値と比べても70分の1に過ぎない。しかも高齢化が著しく、平均年齢は58.2歳、高齢化率が50%近くになっており、産業人口もかつての農林業従事者は減少して観光や建設業従事者が多くなっている(早川町 2015)。人口減少に伴い、ハンター数も減少し、1975年に比べると20%まで減少しており(図5)、しかもハンターの高齢化が著しい。そのためシカをはじめとする野生動物による農林業被害の抑制力も弱くなったと考えられる。

図5 早川町での人口とハンター数(最大値を100とした相対値)の推移

 山間地の多い山梨県および長野県、静岡県の隣接県では多くの場所で過疎化、高齢化が進み、シカをはじめとする野生動物が増加している。そのような状況ではシカの管理が重要な課題となるが、適切な管理のためにはシカによる植生への影響とともに、シカの置かれている状態を的確に捉えることが重要となる。そのためには植生情報、可能であればシカ防除柵による採食影響の評価(前迫 2018)、シカの栄養状態、妊娠率などを把握することが重要であるが(羽山ほか 2016)、それとともに本調査で示されたように、シカの食性も有力な情報となる。また、これまでもシカの影響の強さと環境要因に関するアプローチが行われているが(Ohashi and Hoshino 2014)、そのためにも食性情報は重要な情報をもたらすことが期待される。
 シカの食性情報はこれまで人為的影響が弱い場所で行われてきたが、今後は人工林や農業地帯でも行う必要が生じるであろう。その場合、全国的に各植生帯で複数カ所、できれば10以上の分析が行われるのが望ましい。

引用文献 こちら


論文 (2016-2019)

2020-12-31 06:30:25 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
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2019.11.20
モンゴル北部の森林ステップ帯におけるウマ、ウシ、ヤギ・ヒツジの食性:ブルガン県モゴドソムの事例
Journal of Arid Environment, こちら

モンゴルでは1990年代の社会体制の変化により家畜の数が増え、草原植生も大きな変化をしつつある。にも関わらず、意外なことに家畜の食性を定量的に解明した研究はない。そこで、モンゴル北部の森林スッテプ帯のブルガン県モゴド・ソムの。谷にある調査地1と川辺にある調査地2でウマ(大型非反芻獣)、ウシ(大型反芻獣)、ヤギ・ヒツジ(小型反芻獣)の食性を糞分析法で調べたところ、場所よりも家畜の違いをより強く受けていることがわかった。ウマは自由に動けるから自分たちの好きな水辺のスゲが生えているところに行ってスゲをよく食べるが、ウシはゲルの近くで採食して夕方はゲルに戻るという行動パターンをとるので、ゲルの周りのStipaが多い植生を反映した食べ物になっていた。ヤギ・ヒツジはウシと同じ反芻獣だから食性もウシに似ていたが、牧民に動きを規制され、場所によって違いがあった。


2019.8.27
丹沢山地のシカの食性 − 長期的に強い採食圧を受けた生息地の事例 −
保全生態学研究、こちら
丹沢山地は1970年代からシカが増加し、その後シカの強い採食圧によって植生が強い影響を受けて貧弱化し、表土流失も見られる。このような状況にあるシカの食性を調べたところ、ほかのシカ生息地と比較して、シカの食物中に葉が少なく、繊維が多く、当地のシカが劣悪な食糧事情にあることがわかった。



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2018.7.13
第 4 回企画展示「フクロウが運んできたもの」展の記録 ─ 構想から展示まで
高槻成紀
麻布大学雑誌, 30 : 29 − 41 こちら


2018.6.30
動物の食物組成を読み取るための占有率−順位曲線の提案 −集団の平均化による情報の消失を避ける工夫−
高槻成紀,高橋和弘,髙田隼人,遠藤嘉甫,安本 唯,野々村遥,菅谷圭太,宮岡利佐子,箕輪篤志
哺乳類科学, 58:49-62. こちら

 動物の食物組成は平均値によって表現されることが多いが,同じ平均値でも内容に違いがあることがある.ニホンジカ(以下シカ),ニホンカモシカ(以下カモシカ),イノシシ,タヌキ,アカギツネ (以下キツネ),ニホンテン(以下テン)の糞組成の食物カテゴリーごとの占有率を高いものから低いものへと曲線で表現する「占有率−順位曲線」で比較したところ,さまざまなパターンが認められ、供給量,動物種の食物要求や消化生理などが関係していると考えられた.

2018.2.4 
仙台の海岸に生息するタヌキの食性
高槻成紀・岩田 翠・平吹喜彦・平泉秀樹
保全生態学研究, 23: 155-165. こちら

これまで知られていなかった東北地方海岸のタヌキの食性を初めて明らかにした。このタヌキは2011年3月の東北地方太平洋沖地震・津波後に回復した個体群である。テリハノイバラ、ドクウツギなど海岸に多く、津波後も生き延びた低木類の果実や、被災後3年ほどの期間に侵入したヨウシュヤマゴボウなどの果実をよく利用した。本研究は津波後の保全、復旧事業において、動物を軸に健全な食物網や海岸エコトーンを再生させる配慮が必要であることを示唆した。


タヌキの糞から検出された種子。1)ドクウツギ、2)テリハノイバラ、3)サクラ属、4)ノブドウ、5)クワ属、6)ヨウシュヤマゴボウ、7)イヌホオズキ、8)ツタウルシ、9)ヘクソカズラ、10)ギンナン(イチョウの種子)、11)コメ(イネの種子)、12)ウメ。格子間隔は5mm

2018.5.8
タヌキが利用する果実の特徴 - 総説
高槻成紀
哺乳類科学, 58: 1-10. こちら

 ホンドタヌキ(以下タヌキ)が利用する果実の特徴を理解するために,15編の論文を通覧したところ,タヌキの糞から103種の種子が検出されていた.これら種子を含む「果実」のうち,針葉樹2種の種子を含む68種は広義の多肉果であった.乾果は30種あり,蒴果6種,堅果4種,穎果4種,痩果4種などであった.生育地ではとくに特徴はなかったが,栽培種が21種も含まれていたことはタヌキに特徴的であった.タヌキが利用する果実には鳥類散布の多肉果とともに,イチョウ,カキノキなど大型の「多肉果」も多いことがわかった.

2018.5.3 モンゴルの放牧圧の論文
モンゴル北部の森林ステップの草地群落への放牧の影響:放牧と非放牧の比較
高槻成紀・佐藤雅俊・森永由紀
Grassland Science, 64: 157-214. こちら

モンゴルでは牧畜のあり方が移牧から定着に変化したため、草原が過放牧になり、群落に変化をもたらしている。モンゴル北部で長い時間家畜を排除した飛行場で群落調査をした。植物量は柵外の7分の1にすぎず、出現種数も半分ほどだった。柵内では直立型、分枝型、大型叢生型が多いが、柵外では小型叢生型と匍匐型が優占的だった。放牧影響はもともとある微地形の影響を「マスク」すると言える。


A: 柵内外の比較、B:柵内の様子、C:柵外の様子、D: Potentilla acaulis

2018.1.15 
東京西部にある津田塾大学小平キャンパスにすむタヌキの食性
高槻成紀
人と自然 Humans and Nature, 28: 1−10 (2017) こちら

 この論文は2016年の春から始めた玉川上水の自然観察から生まれたものです。大学を定年退職しても研究意欲は失っていないことが形になったという意味でもうれしいものでした。
調査地の林は植林後90年経過したシラカシ林で,林内は暗いため,都市郊外の雑木林のタヌキの食物になる低木や草本は少ない。糞組成は晩冬には果実や葉など多様であったが,春には昆虫と哺乳類が増加,夏には昆虫と葉が多く,秋には果実と種子が優占し,初冬には再び多様になった.果実としては高木のムクノキ,カキノキの果実が重要であり,低木や草本の果実は乏しかった.

津田塾大学のタヌキの糞の組成の季節変化

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2017年の論文 こちら

草食獣と食肉目の糞組成の多様性 – 集団多様性と個別多様性の比較
高槻成紀・高橋和弘・髙田隼人・遠藤嘉甫・安本 唯・菅谷圭太・箕輪篤志・宮岡利佐子
「哺乳類科学」, 57: 287-321.

テンが利用する果実の特徴 – 総説
高槻成紀
「哺乳類科学」57: 337-347.


A comparison of food habits between the Japanese marten and the raccoon dog in western Tokyo with reference to fruit use 東京西部のテンとタヌキの食性比較−果実利用に注目して
Seiki Takatsuki, Risako Miyaoka and Keita Sugaya 高槻成紀・菅谷圭太・宮岡利佐子
Zoological Science, 35: 68-74


Comparison of the food habits of the sika deer (Cervus nippon), Japanese serow (Capricornis crispus), and wild boar (Sus scrofa), sympatric herbivorous mammals from Mt. Asama, central Japan
浅間山のシカ、カモシカ、イノシシの食性比較
Yoshitomo Endo, Hayato Takada, and Seiki Takatsuki 遠藤嘉甫、髙田隼人、高槻成紀
Mammal Study, 42: 131-140 (2017)


「Mammal Study」が産声をあげた頃
高槻成紀
「哺乳類科学」57: 135-138


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2016年の論文 こちら
2016.12.10
Effects of grazing forms on seasonal body weight changes of sheep and goats in north-central Mongolia: a comparison of nomadic and sedentary grazing
[放牧のしかたがモンゴル北部のヒツジとヤギの体重季節変化におよぼす影響:遊牧群と固定群の比較]
Nature and Peoples, 27: 27-31.


 この論文はモンゴルのヒツジとヤギの体重を調べたものです。モンゴルですごしていると遊牧生活のすばらしさを、自分の生活と対比として、しみじみと感じます。そのことを文章で表現するという方法もあるでしょうが、私たちはそれを自然科学的表現をしたいと思いました。どういうことかというと、モンゴルは広いことで知られた国です。人口密度は2人/km2ほどで、日本の340人/km2とは200倍も違います。それは「無駄が多い」ことでもあり、それだけしか住めないということは「土地生産性が低い」ともいえます。農耕民である中国人はそのことを「劣っている」とみなしました。モンゴルを「蒙古」といいますが、蒙はバカということ、古は古いです。ひどいものです。今でも一部のヨーロッパ研究者にはモンゴルに対して土地生産性をあげるための「提言」をする人がいます。でも乾燥地で土地を耕すことは長い目でみれば土地を荒廃させることが明らかになっています。私たちはモンゴル人と交流するなかで、頑固だなと感じることもありますが、この頑固さがこの土地と生活を守ってきたと賞賛したくなることがあります。
 そうしたことの一つが遊牧です。農耕民の生活とこれほど違うことはありません。広い土地を季節ごとに移動する - 農耕民からすれば落ち着かない貧しい無駄の多い生活です。でもそれには根拠があるのではないかと私たちは考えました。そこで通常の遊牧をする群れと、牧民にお願いして群れを一箇所で動かさないように頼み、その体重を1年追跡してもらいました。牧民は家畜を名前をつけて一頭づつ知っています。その体重を毎月測定してもらったのです。
 ヒツジの群れはスタート時は遊牧群と固定群で体重に違いはなかったのですが、冬の終わりになると固定群のほうがどんどんやせていき、違いが出ました。翌年の回復期にはつねに固定群が軽くなりました。

ヒツジの体重変化 nomadic 遊牧、 sedentary 固定


 ヤギのほうは最初(6月)、遊牧群のほうが少し軽かったのですが、8月には追いつき、その後は違いがなくなり、2年目は逆転しました。
 これらの結果は、表面的に「土地を有効に利用して高密度に家畜を飼うべきだ」という発想がモンゴルのような乾燥地では合理性がないことを示しています。放牧の体制はさらに複雑なシステムですが、体重ひとつとっても伝統的な遊牧に合理性があることを示せたことはよかったと思います。

ヤギの体重変化 nomadic 遊牧、 sedentary 固定


 調べたのは2006年ですから10年も前のことで、ようやく論文になり、ほっとしました。


2016.10.27
「山梨県東部のテンの食性の季節変化と占有率−順位曲線による表現の試み」
箕輪篤志,下岡ゆき子,高槻成紀
「哺乳類科学」57: 1-8.


2015年に退職しましたが、ちょうどその年に帝京科学大学の下岡さんが産休なので講義をしてほしいといわれ、引き受けました。それだけでなく、卒論指導も頼みたいということで4人の学生さんを指導しました。そのうちの一人、箕輪君は大学の近くでテンの糞を拾って分析しました。その内容を論文にしたのがこの論文です。その要旨の一部は次のようにまとめています。
 春には哺乳類33.0%,昆虫類29.1%で,動物質が全体の60%以上を占めた.夏には昆虫類が占める割合に大きな変化はなかったが,哺乳類は4.7%に減少した.一方,植物質は増加し,ヤマグワ,コウゾ,サクラ類などの果実・種子が全体の58.8%を占めた.秋にはこの傾向がさらに強まり,ミズキ,クマノミズキ,ムクノキ,エノキ,アケビ属などの果実(46.4%),種子(34.1%)が全体の80.5%を占めた.冬も果実・種子は重要であった(合計67.6%).これらのことから,上野原市のテンの食性は,果実を中心とし,春には哺乳類,夏には昆虫類も食べるという一般的なテンの食性の季節変化を示すことが確認された.
 タイトルの副題にある「占有率−順位曲線」というのは下の図のように、食べ物の占有率を高いものから低いものへ並べたもので、平均値が同じでも、なだらに減少するもの、急に減少してL字型になるものなどさまざまです。この表現法によって同じ食べ物でもその意味の解釈が深まることを指摘しました。



2016.9.4
論文ではありませんが、「須田修氏遺品寄贈の記録」を書きました。これは麻布大学の明治時代の卒業生である須田修氏の遺品をお孫さんの金子倫子様が寄贈されたことを機に、寄贈品について私とやりとりをしたことを含め紹介したものです。麻布大学は昭和20年に米軍の空襲により学舎を消失したので、戦前の資料は貴重です。それを博物館ではありがたくお受けしたのですが、それに添えるように2つの興味ふかいものがありました。ひとつは「赤城産馬會社設立願」で、須田氏のご尊父が群馬県の農民の貧困さを憂え、牧場を作ることを群馬県に提出したものです。その文章がすばらしく、文末に当時の群馬県令揖取(かとり)素彦の直筆サインがありました。また「夢馬記」という読み物があり、これは須田氏が誰かから借りて書き写したもののようです。内容を読むと、ある日、馬の専門家がうたた寝をしていたら、夢に馬が現れて「最近、日本馬は品質が悪くてよろしくないから品種改良をせよという声が大きいが、そういうことをいうものは馬のことを知らず、その扱いも知らないでいて、この馬はダメだといってひどい扱いをする。改良すべきは馬ではなく騎手のほうだ」といって立ち去った。目が覚めたら月が出ていた、というたいへん面白いものでした。こうした遺品についてのやりとりをしたので、金子様にも共著者になっていただいて、「麻布大学雑誌」に投稿しました。






牧場設立願いに書かれた揖取(かとり)群馬県令のサイン


2016.7.25
Seasonal variation in the food habits of the Eurasia harvest mouse (Micromys minutus) from western Tokyo, Japan(東京西部のカヤネズミの食性の季節変化)
Yamao, Kanako, Reiko Ishiwaka, Masaru Murakami and Seiki Takatsuki
Zoological Science, 33: 611-615.


この論文の内容にはいくつかポイントがあります。カヤネズミの食性の定量的評価は不思議なことに世界的にもなかったのですが、それを奥津くんが解明し、論文にしました(Okutsu and Takatsuki, 2012)。この論文で、小型のカヤネズミはエネルギー代謝的に高栄養な食物を食べているはずだという仮説を検証しました。ただ、このときは繁殖用の地上巣を撹乱しないよう、営巣が終わった初冬に糞を回収したので、カヤネズミの食物が昆虫と種子が主体であることはわかり、仮説は支持されましたが、季節変化はわかりませんでした。今回の研究はその次の段階のもので、ペットボトルを改良して、カヤネズミの専門家である石若さんのアドバイスでカヤネズミしか入れないトラップを作り、その中に排泄された糞を分析することで季節変化を出すことに成功しました。もうひとつは、私にとって画期的なのですが、その糞を遺伝学の村上賢先生にDNA分析してもらったところ、シデムシとダンゴムシが検出されました。これまで「カヤネズミは空中巣を作るくらいだから、草のあいだを移動するのが得意で、地上には降りないはずだ」という思い込みがあったのですが、石若さんは、これは疑ったほうがよいと主張してきました。シデムシもダンゴムシも地上徘徊性で、草の上には登りませんから、カヤネズミがこういうムシを食べていたということは、地上にも頻繁に降りるということで、それがDNA解析で実証されたことになります。DNA解析の面目躍如というところで、たいへんありがたかったです。そういうわけで、目的がはっきりしており、結果も明白だったので、書きやすい論文でした。この論文は生態学と遺伝学がうまくコラボできた好例だと思います。



改良型トラップ


2016.7.14
福岡県朝倉市北部のテンの食性−シカの増加に着目した長期分析− 
足立高行・桑原佳子・高槻成紀


福岡県で11年もの長期にわたってテンの糞を採取し、分析した論文が「保全生態学雑誌」に受理されました。この論文の最大のポイントはこの調査期間にシカが増加して群落が変化し、テンの食性が変化したことを指摘した点にあります。シカ死体が供給されてシカの毛の出現頻度は高くなりましたが、キイチゴ類などはシカに食べられて減り、植物に依存的な昆虫や、ウサギも減りました。シカが増えることがさまざまな生き物に影響をおよぼしていることが示されました。このほか種子散布者としてのテンの特性や、テンに利用される果実の特性も議論しました。サンプル数は7000を超えた力作で、その解析と執筆は非常にたいへんでしたが、機会を与えられたのは幸いでした。



テンの糞から検出された食物出現頻度の経年変化。シカだけが増えている。このところ、論文のグラフに手描きのイラストを入れて楽しんでいます。


2016.6.2
Food habits of Asian elephants Elephas maximus in a rainforest of northernPeninsular Malaysia, Shiori Yamamoto-Ebina, Salman Saaban(マレーシア半島北部の熱帯雨林のアジアゾウの食性)
Ahimsa Campos-Arcez, and Seiki Takatsuki )
Mammal Study, 41(3): 155-161.


これは麻布大学の山本詩織さんが修士研究としておこなったもので、一人でマレーシアにいってがんばりました。滞在中に私も現地を訪問してアドバイスしました。



ゾウの糞を拾った詩織さん


アイムサさんはスペインから私が東大時代に留学し、スリランカでゾウの研究をして、現在はマレーシアのノッチンガム大学の先生になりました。アジアゾウの研究では第一人者になりました。この論文では自然林のゾウと伐採された場所やハイウェイ沿などで食性がどう違うかを狙って分析したもので、見事に違うことが示されました。ゾウはそれだけ柔軟な食性を持っているということが初めてわかったのです。



このグラフは上から自然林、伐採林、道路沿いでの結果で、左から右に食べ物の中身が示されています。grass leavesはイネ科の葉で道路沿いでは一番多いです。monocot leavesは単子葉植物の葉で逆に森林で多いです。banana stemはバナナの茎でこれは道路沿いが多いです。あとはwoody materialとfiberで木本の材と繊維ですが、これが森林で多く道路沿いで少ないという結果が得られました。つまり森林伐採をしてもさほど違わないが、道路をつけると伐採をするだけでなく、草原的な環境がそのまま維持されるので、ゾウは森林の木はあまり食べなくなって道路沿いに増えるイネ科をよく食べるようになるということです。このことはゾウの行動圏にも影響を与えるので、アイムサさんはたくさんのゾウに電波発信機をつけて精力的に調べています。



全く同じアングルで撮影した調査地。スズタケがシカにより消滅した。