活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

「第36回JAXAタウンミーティング」in大阪(後篇1) はやぶさよ、HAYABUSAよ

2009-07-28 00:00:43 | 自然の海
名称:語ろう!宇宙と地球の未来
   「第36回JAXAタウンミーティング」in 大阪
主催:財団法人 大阪科学技術センター
   宇宙航空研究開発機構(JAXA)
日時:平成21年7月25日(土)14:00~16:30
会場:大阪科学技術センタービル8階 大ホール


時刻は3時半。
ここからは第二部。
テーマは、「はやぶさ-地球への帰還をめざして.目下奮闘中」である。
マイクを握ったのは、「はやぶさ」プロジェクトマネージャである川口氏。

2003年5月に打ち上げて以来、虚空に一人奮闘を続ける小惑星
探査機「はやぶさ」。
彼の、今までの軌跡と、そこで生まれた数々の奇跡が紹介され、
改めて彼の6年に渡る旅の困難さと、その旅を支える人々の創意
工夫、そして熱意を実感した。

何しろ、当のプロジェクトマネージャ(PM)自らが語ってくれるのだ。

勿論、その苦労をひけらかすような語りではないが、それでも
トークの裏に滲み出てくる様な熱い思いの一端を共有することが
出来た(と思いたい)。

先日レビューしたフルCG映画「HAYABUSA~back to
the earth」を観ていたこともあり、一通り彼のこれまでの
苦労については理解していた積もりだが、改めてPMより話を聞くと、
感慨も一入(ひとしお)である。

その中で印象深かったものを何点か挙げよう。

一つは、「はやぶさ」の功績の偉大さ。
様々な革新的なミッションを組み込み、その多くを成功させてきた
彼だが、やはり世界初の小惑星からのサンプルリターンという試みに
挑んだこと、そして、イトカワへの着陸~離陸という一連の営みが、
自律制御により行われたことは本当に凄いと思う。

そして、その過程で集められたデータにより、イトカワがスポンジ
とまではいかないまでも、スカスカな惑星であることも判明した。

#川口氏は、これをRubble Pile Object
 (瓦礫の山の物体)として説明していた。


次に、イトカワへのサンプルリターンアタック後の悲劇である。
着陸ミッションの最中より、様々なトラブルに見舞われた彼だったが、
2度に渡るアタックの後、ヒドラジン(化学燃料)が漏れ出した
ことをきっかけに、制御不能へと陥ってしまう。

そして…。3ヶ月にも及ぶ、地球との通信の途絶。

その間、JAXAの管制室では懸命な通信復旧作業が行われていた。

しかし。
長引く無通信期間。
それはいつ回復するという保証も無く、人々が注ぎ込む努力を哄笑する
かのように飲み込み、何のOUTPUTも決して吐き出そうとはしない。
恐らく、プロジェクトに関与する誰の胸にも、もう駄目なのでは?
という思いが去来していただろう。

そして。
澱のように溜まってくる徒労感と絶望に背中を押されるように。
一人、またひとりとプロジェクトから消えていく人々。
官民合同で運営するこのプロジェクトである。
民間企業としては、これ以上の収穫が見込めないとなれば、何時までも
人と資本を投資する訳にもいかない。それは、よく判る。

まして、全く通信が回復しない状況では。
姿勢制御、イオンエンジン、観測機器、その他、様々なミッション単位に
設けられているセクションメンバーとしても、やることが無いのもまた、
事実である。

そして、通信班のみが、管制室には残ることとなった。

閑散とした管制室。
しかし、そこには。
なんとしても、彼を地球に還すという一念に燃え立つ人々が、いた。

俺たちは、諦めない。

その、彼らの思いを代弁するものとして。
毎日、管制室の隅に置かれていたポットのお湯は入れ替えられていた、
と言う。
まるで、俺達はまだここで闘っているぞ!と静かに、だがきっぱりと
宣言するかの如く。


そのささやかな旗の下。
考えられる限りの周波数帯と通信速度を組み合わせて、はやぶさとの
通信を試み続ける彼ら。

何せ、はやぶさの状態が、皆目検討がつかないのだ。
そもそも、通信を受けられるかどうかすら、判らないのだ。
いくら信号を送っても、既にはやぶさは死んでしまっており、
虚しく信号は彼の骸を通り過ぎて、遥か外宇宙へと飲み込まれる
だけなのかもしれない。

それでも。
今、出来ることを。
倦まず、諦めず、愚直に。ひたすら繰り返す。

そんな技術者の信念、いや、執念が、3ヵ月後のはやぶさとの
奇跡的な通信回復をもたらした。

それは、僅か8bpsにも足りない低速度通信。
それでも、微かにその身に残された電気をかき集めて。
確かに、彼は応えたのだ。


奇跡は、起こった。
いや、彼と、彼を支え続ける人々により、起こされたのだ。

その後、彼との通信を通じて。
明らかになってくる、彼を襲ったトラブルの実相。
そして、目を覆わんばかりの、彼の現状。


それでも。
クモの糸のような通信チャネルを通じて、姿勢制御、バッテリー
への再充電といった一連の回復プロセスが進められていく。

そして。
何とか、地球に向けて、その歩みを始めた彼。
その営みは、氏曰く「片方しか無い松葉杖を突きながら、帆を
上げてバランスを取って歩いているようなもの」らしい。

それでも。
再び、イオンエンジンの点火にも成功した彼は。
今は、火星軌道よりも更に外周の位置にいる。

そして。
来年6月の地球帰着を目指して、今この瞬間も暗黒の宇宙をひた走って
いるのだ。


(この稿、続く)


(付記)
通信が途絶している間。
不断の努力を続けながら、彼らプロジェクトメンバーが行った
もう一つのこと。
それは、神頼み。

飛不動、隼神社、飛行神社、電波神社…。
勿論、そのために出張した訳でもないが、チャンスがあれば、
少しでもご利益がありそうな神社を回っては神頼みをしたそうな。

苦笑し、ばかばかしいと言うのは容易い。
技術者ならば、自らの技術にのみ賭けるべきだ。
神頼みなぞ、自信の無さの裏返し以外の何者でもないでは無いか。

だが。川口氏はこう語る。
どれほど科学技術が進んだとしても、最後にことを為すのは、
人の為せる業だ、と。

人こそが、全てにおいて最も重要なピースだとすれば、
神ならざる、完璧であることあたわざる身、故に。
神頼みもまた、あって由。
勿論、それに依存するのではなく。
そっと、影ながら支えてくれる手があることを祈って。




宇宙を駆けるはやぶさのイメージが重なったのが、こちら。
もう随分古い本だし、色々と曰くもあったので、手に入れることは
困難かも。
これほどの名著なのに…。
もし見つけた方は、絶対入手してください。
損はさせません。はい。

表題作の「太陽風交点」がはやぶさのイメージなら、
「イカロスの翼」は、決して諦めず挑戦し続けた技術者のイメージ
かな?

太陽風交点 (1981年) (徳間文庫)
堀 晃
徳間書店

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4 コメント

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Unknown (シャドー81)
2009-07-28 22:29:19
すごいなぁ、読み応えのあるレポートですね。
前編、中編ときたので、後編で終わりかと思ったが、後編1ときたか!

冴えわたるレポートを後編2以降でもよろしくです。
返信する
ありがとうございます (MOLTA)
2009-07-28 23:05:13
本当は後編で終わるつもりだったのですが、あれも書きたい、これも紹介したいと盛り込んでいるうちに、オーバーフローしちゃいました(笑)。

次の、後編2で最終回です。

お楽しみに(して戴ければ、とても嬉しいです)。
返信する
こんばんは (OSTEC 大阪科学技術センター)
2009-09-21 18:34:56
素敵なものを読ませて頂いてありがとうございます。
返信する
ありがとうございます (MOLTA)
2009-09-21 22:16:41
そう言って頂けますと、本当に嬉しいです。

これからも素敵なイベントの企画を、楽しみにしています。
返信する

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