活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

「第36回JAXAタウンミーティング」in大阪(中篇) 衛星たちの墓場

2009-07-27 00:00:55 | 自然の海
名称:語ろう!宇宙と地球の未来
   「第36回JAXAタウンミーティング」in 大阪
主催:財団法人 大阪科学技術センター
   宇宙航空研究開発機構(JAXA)
日時:平成21年7月25日(土)14:00~16:30
会場:大阪科学技術センタービル8階 大ホール


ここより、マイクは本間理事に渡り、第一部として「地球を見る、
世界をつなぐ-人工衛星のはたらき-」の議題へと移行する。

本タウンミーティングのレジュメを見れば判るのだが、通常なら
 第一部 講演者とか標記されるところが、”話題提供者”となって
 いる。
 あくまで登壇者は素材としての情報を提供するものであり、この
 ミーティングの中で議論を深堀していこうとするJAXAの姿勢が
 よく現れている表現である。


さて、その話題提供内容として、JAXAが打ち上げた種々の衛星の
紹介がまずは為されたのだが、そこで一番僕が興味を引いたのが
陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)である。

この「だいち」による地上観測の結果は、日本での利用のみに留まらず
アジア全域で活用され、災害防止等に役立てられている。

これは、「センチネル・アジア」(Sentinel Asia:アジアの監視員)計画に
基づくもので、加盟国は18カ国にも及ぶ。

計画発足当初は日本からの提供データのみであったが、データ共有の
有益性が立証され、かつ周辺諸国の衛星も打ち上げられたことにより、
今では韓国、タイ等の衛星のデータも活用され、より精度と密度を
増した運用が可能となっている。

こうした営みは、もっと評価されていいし、JAXA自身も積極的に
広報すべきだと思うのだが…。

アジア太平洋地域の災害管理に貢献する-センチネルアジアSTEP-2-



ちなみに、このセンチネル・アジア計画について、ジャーナリストの
櫻井よしこ氏が最近のブログにて言及していた


麻生総理のCO2削減計画に釘を刺したもので、目に見える出口
ばかりに気を取られるのではなく、CO2排出増加の大きな要因である
人為的な森林火災の増加等の監視にセンチネル・アジアを活用すべし。
そのために必要な予算は、力技でCO2抑止をしようとする場合に
比して、相当に安価に出来るはずなのだから、という趣旨のものである。

詳細な根拠数値等は、氏のブログで確認していただければと思うが、
その代表的なもののみ紹介しよう。

麻生総理が提言する、日本におけるCO2排出量の15%削減に必要と
される経費は約62兆円。
これに対して、現在日本がセンチネル・アジアに投じている資金は
僅か年間10億円。
衛星1基を打ち上げるのに掛かる経費は、勿論ピンきりだが2百億円も
あれば十分だ。

地球全体に、センチネルの網をかけた監視網を構築し、それにより
災害管理支援システムをワールドワイドに広げることが、森林火災の
抑止等に繋がる結果、年間で15億トンものCO2削減に寄与する
との試算結果も紹介されている。

これに対して、排出量15%減による日本の削減目標は、2億トン
にも満たない。

かたや64兆円をかけて2億トンの削減と、センチネル・ワールド
構想の拡充による15億トンの削減と。

勿論、試算内容の十分な検証等は必要だが、それでももぐら叩き的に
家庭や工場、自動車といった日本国内における一次的なCO2排出元
に対するアプローチにシャカリキになるよりは、余程効率的、かつ
スマートな対処といえるのではないだろうか。

そして、それが日本の持つ優位技術によって為されるとすれば。

それこそが、日本が世界に示し得る国際貢献のスタイルではないだ
ろうか。


「だいち」の他にも、
「いぶき」「きずな」「きく8号」といった衛星の運用状況と、
そのデータの活用状況の紹介が為された後は、タウンミーティングの
趣旨に則った登壇者と参加者による意見交換会。

時間のバランスとしては、登壇者による説明が約1時間。
ディスカッションに約30分といったところだっただろうか。

残念だったのは、こうしたタウンミーティングの趣旨が、事前に
しっかりと喧伝されていないこと。

判っていれば、僕ももう少し突っ込んだ議論を出来るように、
事前に勉強していったんだけど…(と、浅学の言い訳をする)。

まあ事情は他の人も同様なのか、質問をしても、それが単発で
終わってしまい、当初に趣旨説明を行ったように、そこから
議論が発展し、盛り上がるようなことは残念ながら今回は無かった。


あまりそうしたことを言うと、確かに参加に対する心理的なハードルが
高くなってしまうとは思うが、せっかく一般人がJAXAの理事や、
ハヤブサ計画のプロジェクトリーダーと直接会話を出来る稀有な機会
なのだから、そしてそうした対話をこそ望んでいるとJAXAも語る
のであれば。

興味本位での参加者への門戸も開きつつも、議論の場としてのタウン
ミーティングとすることについても、もう一工夫があっても良いのでは?

勿論、参加者各自がそうした自覚を持って参加すればよいだけとも
言えるのであるが。

そんな中、印象に残った質問が一つ有ったので紹介しよう。

寿命を迎えた衛星の処理について、である。
デブリ(宇宙のゴミ)の増加防止等の観点から、運用停止した衛星は
当然取り除かれるべきだと思うが、どのような処理方法があるのか?
というものだ。

大気圏に突入させて燃やしてしまうというイメージしか僕は持って
いなかったのだが、衛星の軌道によってそれは異なる、と今井理事は
回答してくれた。

「だいち」のような低高度衛星の場合には、そうした処理も有る。
一方、静止衛星の場合には高高度となるため、運用停止後は更に
高度を上げさせて、”衛星の墓場”とも言われるような軌道に
誘導する、とのこと。

どちらの場合にせよ。
運用停止となった衛星に対する後処理については、その衛星個々の
運用マニュアルにてきちんと定められている。

長らくの間、様々なトラブルに見舞われながらも、何とか運用する
人間の英知と、衛星自身の持つ運とによって、機能し続けてきた
諸機関。

それらから、順次火が落とされていく。

そして、万一の事故に備えて、最後の運用の分のみ残して、化学燃料が
排出される。

燃料の排出は、正にその衛星にとって、生命維持装置を止める所作にも
等しい。

それまで、その衛星の運用に携わっていた人々は、どのような思いで
そのコマンドを打ち込むのだろうか?

そして、それを受け取る衛星の思いは?

元より、無機質である衛星にとって、そのコマンドを受領し、実行に
移すことに特別な意味など感じる筈も無い。

それでも。
徐々に冷えていく自らの体を感じ、最後のそうした観測データを
送りながら、もし衛星に心があれば、何を感じるのだろう?とは、
思わずにはいられなかった…。


(この稿、続く)


(付記)
質問の最後JAXA技術の軍事転用について質問(というよりも
懸念)を投げかけた方がいた。
そういう思いをぶつける場でもある訳だから、それ自体は構わない。

ただ。
そうした懸念を持っている人が、数分の議論で納得するとは思えない。
真剣にディスカッションしたいのであれば、もっと場を考えなければ
あたら貴重な時間が無為に流れてしまうことにもなりかねない。

第一、質問した本人にも消化不良感が残るだろう。

もっとも。
そんなことは承知で、参加者全員に対してそうした懸念を持った
人もいるんだぞ!という楔打ちをしたかったということであれば、
まだ理解も出来るのだが…。





JAXAは、今後どのようなビジョンを持って、日本の宇宙開発を
導いていこうとしているのか?
本書は未読だが、是非読んでみたい一冊である。
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