活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

リッツ・カールトン20の秘密(ミスティーク)

2009-06-17 00:12:48 | 活字の海(読了編)
著者:井上 富紀子 , リコ・ドゥブランク
出版社:オータパブリケイションズ 定価:1500円(税別)
初版:2007年4月15日刊行
入手刊:2007年5月25日 第三刷
サブタイトル:一枚のカード(クレド)に籠められた成功法則
帯コピー:世界最高といわれるサービス



今ここで働くことが、大好きで仕方がない。
そう自信を持って言い切れる人が、どれほど世の中にいるのだろう?

自慢ではないが、僕だってそんなことは、夢言えない。

勿論、そういうテンションの時だって有る。
やっていること全ての歯車が、順方向に回っていると感じる。
途方もないトラブルを抱えていても、俺がこれをやらねば、と思う。

そういう時が、短期で数日。
コンドラチェフとまではいかないが、長期となると数年。

そういったうねりは、しかし。
様々なトリガーを持って、ある時は徐々に。
またある時は、急激にその波形をマイナス方向へと転じていく。


結局それは、僕が本当に仕事というものを好きでやっているのではなく、
たまさか自分に合った仕事に巡り合った時に、その恵を享受出来て
いるに過ぎない。

そのことが、本書を読んでよく実感出来た。


仕事を愛するということ。
本書の中では、「Pride & Joy」という言葉で語られる
そのことが、どれほど真摯な対峙を要求するのか。

自身の行ってきた、あるいは行う仕事に対する誇り。
そして働くことへの喜び。

その両者を、どこまで寄り添った形で極大化出来るのか。

それこそが、働くものにとって最大の労力の提供が出来るという
ことであり、その精神が本書で取り上げられたリッツ・カールトンの
全ての従業員に徹底して叩き込まれているからこそ、ホテルを訪れた
人たちは、その渾身の力を籠めたサービスに圧倒される。
(勿論それは、力押しの、という意味ではない)

彼らは、決してお仕着せでサービスを行っているのではない。
そんなものでは、決して人の心を動かすサービスなど提供出来はしない。

自ら、何か今の自分に出来るサービスは無いかと、常に最大限の
気配りをしながら勤務時間を過ごしているからこそ、実現出来るもの。

従業員にそう思わせるチカラを持っているホテルであるからこそ、
到達出来るサービスの境地なのだと思う。


そのことを端的にあらわすエピソードとして。
著者は、よくチェーン店の居酒屋等で、客が来店したときに、
そこここの従業員が一斉に「いらっしゃいませ~」と声を上げる。
その情景を紹介する。

一見、お客様へのサービス精神に満ちた行為に見えるその情景は、
実に機械的な唱和の中に籠められた条件反射的な反応を際立たせる
のみであり、そこに本当の意味でのお客様に対する敬愛の精神が
籠められる可能性は、残念ながら非常に低い。

一方。
リッツのただ一人のドアマンが、来客を見て深々と頭を下げながら
ドアを支え、いらっしゃいませと言葉を紡ぐ時。
そこには、自分がリッツのホテルマンだという自負と自覚と誇りに満ちた
姿を見ることができる。
そして、そのただ一人の挨拶は、数十人の無機質な条件反射による
挨拶よりも、遥かに心を打つチカラを内包しているのだ。


勿論。
何の努力もせずに、リッツにそうした質の高い従業員が集まって
くる筈も無い。

では、リッツはどのようにして人を集め、教育し、ホテルマンへと
成長させるのか。

このことを表した数式が、(T+F)XI=Gである。

 T:talent(才能、能力)
 F:fit(適所配置)
 I:Investment(投資)
 G:Goal(目標の達成)

ホテルという場に適した能力を持つ人材を見出し、その人の能力に
もっとも適した職場をアテンドする。
更に、そこでその人に対して惜しみなく投資を行うことで、その人の
能力の極大化を図る。

それは単に従業員をベルトコンベヤーに乗せて、機械的に育成して
いけば達成できるようなものではない。

その根底に流れているのは、従業員を大切にしていこうとするホテルの
ポリシーである。

本書のエピローグで紹介されていた話だが、リッツの従業員通用口には
 
  "Through these doors pass our most important guests"
  (このドアを通る人が、私達のもっとも重要なお客様です)

と書かれてあるのだそうだ。

これが、単なるその場しのぎのおためごかしかどうか。
従業員には、すぐに判るだろう。
何せ、ホテルが自分達にどのように普段接しているのかを見ていれば、
ホテルがどこまで真摯に自分達に向き合っているのかは、容易に知れ
ようというものだ。

そして。
ホテルが、そこまで従業員に対して向き合ってくれるのならば。
その意に応えようとすることは、人として当然の想いではないか。


僕自身。
そうした心からのモチベーションを持って、仕事に臨んでいただろうか?
そうした心からの敬愛を持って、自分の部下に接していただろうか?


本書に登場するリッツの従業員は、皆、本当にいい笑顔をしている。

本当にホテルマン&ウーマンという仕事が好きなんだ、と。
更に言えば、リッツというホテルだから好きなんだ、と。
だから、そのホテルに来ていただいたお客様にも、心からサービスを
提供することができるのだ、と。


そんな思いが、自ずから滲み出てくるような。
そんな仕事に就きたいと、心底から思う。


(この稿、了)

(付記)
これまで、ホテルに泊まるといえば、殆どがビジネスホテル。
精精がシティホテルレベルまでだった。

だけど。
少なくとも、リッツには数万という宿泊費をつぎ込んだ以上の、
何かを得ることができる。
そんな思いに駆られてしまった。
今度の出張の時。思い切って泊まってみるかな?
(相当に、勇気が必要だけれども(笑))



リッツ・カールトン20の秘密―一枚のカード(クレド)に込められた成功法則
井上 富紀子,リコ ドゥブランク
オータパブリケイションズ

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こちらは、従業員の立場から見たリッツで働く、ということ。
リッツ・カールトンで学んだ仕事でいちばん大事なこと
林田 正光
あさ出版

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より、リッツのサービスを感じたい方は。
もっとも、百聞は一見に如かず。
自分で泊まりに行くのが、もっとも早い道だとは判っているのだけれど(笑)
リッツ・カールトン物語―超高級ホテルチェーンのすべて (旅名人ブックス)
井上 理江,藤塚 晴夫
日経BP企画

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これまでも、バンチに連載中のこの漫画は読んでいたが、この本を
読んで、ここに書かれているようなホテルマンが実際にいるのだ
ということを実感させられた。
これからは、新たな目でこのマンガを読むことが出来ることは間違いない。
コンシェルジュ (1) BUNCH COMICS
藤栄 道彦
新潮社

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