活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

下流社会 新たな階層集団の出現

2009-06-05 00:02:41 | 活字の海(読了編)
著者:三浦展 光文社新書刊(No.221) 価格:819円
2005年9月20日初版刊行
(入手版は、2005年10月20日 4版)


しばらく前に、古書店で入手した書。

昨年末辺りから、新聞テレビ等で話題になった派遣切り。
僕の職場にも派遣社員の方はいる。
ただし女性なので、世間で騒がれているような、悲壮感は
正直無い。

正社員として縛られるよりも、もっと自由に。もっと気ままに。
行きたいとき、行きたい職場、行きたい職種へ。
そうしたイメージが、彼女達には付きまとっていた。

実際、そうした派遣の子達は、よく頑張ってくれる子。
わずか2週間足らずで突然こなくなってしまった子。
その他、様々な人がいたことも事実である。

勿論、自分の見聞きしたそれが、全てではないのだろうけれど。

では今、マスメディアを賑わしている派遣とは、一体何なのだろう?

現代の日本にあって、あの「蟹工船」にも比類されるような
生活のレベルを強いられ、首になって寮を出されるや、たちまちに
泊まるところの手当てすらままならないほどの低貯蓄に追い詰め
られていく彼ら。

その一方で新聞を開ければ、今日も様々な求人広告が溢れている。

そのギャップは、一体何なのだろう?

そう思っていた矢先に店頭で発見し、GETしたのが本書である。

著者は奥付けにあるとおり、マーケット分析を専門とする、所謂
マーケッターである。
そのためか、ラベリングや事象の解釈に独自の目線や感性が
あることは、本書でも読み取れる。

その反面。
AMAZONの書評でも言われているように、データ分析という
観点からは、牽強付会さがやや目立つように思われる。

従って、本書については緻密な積み重ねによる分析を重視する
人からは排斥され、感性と時代感覚のマッチングを重視する
人からは受け入れられるという、そんな特質を持つことになる。

僕は、といえば、まあ後者かな。
どんな本であれ、その内容を咀嚼も反芻もせずに鵜呑みにする
ことは、知的怠慢に他ならない。

で、あれば。
著者により提示された知的創造物である書籍を、どう捉えるか
についても、須(すべから)く読者にかかっている訳で。

著者の視点や論旨の展開を責めることが必要なときもあるが、
それだけでは少し寂しい。

自分なりに納得できるところ、興味を持てるところを探して、
楽しまないとね。

そういって意味では、第1章で著者が提示した、一億総中流
モデルを表わす最たるキャッチコピーの一つであった、
『いつかは、クラウン』が時代と合わなくなったとする主張は
的を得ていると思う。

その昔、秋本治氏が「こちら亀有公園前派出所」でいみじくも
喝破したように、今時の若者達(おお、なんておっさん臭い
言い回し!)は、『いきなり、クラウン』となってしまった。
これは、若年層の所得レベルの底上げを示すというよりは、
クラウンの劣化を意味する。

そして、それが判っているからこそ、トヨタはレクサスという
新しいブランド戦略に踏み切った。

その戦略の中に、「いつかは、レクサス」という目線は無い。
なぜなら、レクサスを嗜好する人は、最初からそうした社会層
であり続ける人=上流層だからである。

まあこれについても、秋本治氏の方が随分と前から言及して
いる訳だし、あの派出所にはセレブ中のセレブとして、
中川や麗子の存在が描かれているのだから、とっくに上流VS
下流に分離した社会構造の凝縮化が、公園前ビオトープとして
提示されているという意味で先見性があったとも言えるのだ
けれどね。

ただ、今の時代からそういう講釈を言うことも、ある意味卑怯
だろうし、実際に発売後僅か一月で4刷もかかっていること
から、本書が相当にヒットしたことは間違いない。

ということで、こち亀など読まない人にも、そうした世界が
生まれているんだということを認知させたということで、
本書の功績としよう。

(この稿、了)


下流社会 新たな階層集団の出現 (光文社新書)
三浦 展
光文社

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続編も有ったのね。しかも男と女?
下流社会 第2章 なぜ男は女に“負けた
三浦 展
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本書の中で、皮肉たっぷりに年収3千万を越えているものが、
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新版 年収300万円時代を生き抜く経済学 (知恵の森文庫)
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