壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

見ゆとふものを

2011年11月26日 22時20分44秒 | Weblog
                 笠 女 郎
        陸奥の 真野の草原 遠けども
          面影にして 見ゆとふものを (『万葉集』巻三)

 笠女郎(かさのいらつめ)が、大伴家持(おおとものやかもち)に贈った三首の一つである。
 「真野」は、磐城相馬郡真野村あたりの原野であろう、といわれている。
 一首の意は、
        「陸奥の真野の草原(かやはら)はあんなに遠くとも、面影に
         見えてくるというではありませぬか、それにあなたはちっと
         もお見えになりませぬ」
というのだが、一説には、「陸奥の真野の草原」までは「遠く」に続く序詞で、
        「こうしてあなたに遠く離れておりましても、あなたが眼前に
         浮かんでまいります。私の心持ちがお分かりになるでしょう」
と強めたのだという。
 「見ゆとふものを」は、「見えるというものを」で、人が一般に言うような言い方をして確かめている。
 女郎(いらつめ)がまだ若い家持にうったえる気持で甘えているところがある。万葉末期の細みを帯びた調子だが、そういう中にあっての佳作であろうか。


      甲斐駒を望み大根の天日干し     季 己