壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

かじか

2011年11月01日 20時23分24秒 | Weblog
          山中十景 高瀬漁火
        いさり火にかじかや浪の下むせび     芭 蕉

 漁火(いさりび)、それも「高瀬の漁火」という十景の一題として、鰍(かじか)が鳴くという季題を契機として発想している。『東西夜話』の前書によれば、実景に接しての吟ではなく、桃妖亭での題詠のように思われる。元禄二年、山中温泉滞留中の作。

 「かじか」は鰍。イシブシ・ゴリなどとも呼ばれる魚。ハゼに似て痩せ形で、暗灰色に黒い縞がある。河鹿と混同されて、鳴くものとされ、『本朝食鑑』に「加志加(かじか)魚いまだ正字を見ず。あるいは歌鹿に作りて、魚声歌のごとく、鹿の遠く鳴くがごとし……」とあり、『をだまき綱目』に、季語として「かじか鳴く」が見える。この句も「かじか鳴く」を意識しているふしが感じられる。
 「下むせび」は、心中ひそかにむせび泣く意で、定家の『拾遺愚草』その他の歌に用例が見え、歌語的な語感を持つが、「浪の」との続き方が掛詞的であるところや、「いさり火に」と「むせび」がつきすぎている点など、詩語として純化されきっているとはいえないようである。

 季語は「かじか」で秋。

    「漁火がうつる浪の下でかなしげに鳴いているのは、伝え聞く鰍のむせぶ
     声であろうか」


      きりぎりすまだ鳴いてゐる帰り道     季 己