壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

我が妻も画に

2011年11月17日 22時44分22秒 | Weblog
                      防 人
        我が妻も 画にかきとらむ いつまもが
          旅行く我(あれ)は 見つつしぬばむ 
(『万葉集』巻二十)

 天平勝宝七年二月、坂東(ばんどう)諸国の防人(さきもり)を筑紫に派遣して、先に行っていた防人と交代させた。その時、防人たちが歌を作ったのが一群となって、巻二十に集録されている。
 この歌は長下郡、物部古麿という者の作ったものである。一首は、
      「自分の妻の姿をも、画に描いて持ってゆく、その描く暇(いとま)が
       欲しいものだ。はるばると辺土の防備に行く自分は、その画を見て、
       妻のことを思い出し、しのぼう」
というので、歌は平凡であるが、「我が妻も画にかきとらむ」という意向が珍しくもあり、人間自然の意向でもある。

 いま、東京銀座の「画廊宮坂」で、【鈴木正二 展】が行なわれている。今日じっくりと観せていただき、ちょうど会場にいらした鈴木先生の奥様ともお話をした。
 その時ふっと、この歌を思い出したので、ここに書き留めておく次第……。


      ゆりかもめ真昼の川の睡りをる     季 己