壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

伊勢の墓原

2010年10月20日 17時04分12秒 | Weblog
          伊勢の国 中村といふ所にて
        秋の風伊勢の墓原猶すごし     芭 蕉

 「伊勢」という地名に、特別の意味を感じとるかどうかで、句意が変わる。ここはやはり重く見て、解すべきであろう。
 『山家集』の、
        吹きわたす 風にあはれを ひとしめて
          いづくもすごき 秋の夕暮れ
    (「ひとしめて」は、等しくさせての意。「すごき」は、荒涼として 
     身もすくむような感じであるの意。)
 を心の隅に置いての発想かとも思う。
 『去来抄』には、
        不易の句は俳諧の体にして、いまだ一つも物数寄(ものずき)
        なき句なり。一時の物ずきなきゆゑに、古今に叶へり。
 として、
        月に柄をさしたらばよき団扇かな   宗 鑑
        是は是はとばかり花の吉野山     貞 室
 とともに、この句を不易の句の実例として掲出している。

 伝本により、上五が「秋の風」・「秋風や」・「秋風の」「初風や」「秋も末」などのかたちがあるが、「秋の風」のかたちが、もっとも句の構成を緊密・重量のあるものにするように思う。

 「中村」は、伊勢市宇治の東北、伊勢市中村町。菩提山神宮寺のあるところ。
 「秋の風」が季語。本来の季感を生かして使われている。

    「秋風が吹く中に墓原が広がっている。伊勢は神国と言われ、死の不浄を
     忌むこと甚だしいと聞いているが、その国に見る墓であり、しかも広々と
     した墓原なので、いっそう凄涼たる感じを強くすることだ」


      秋の風ガイド終へたる手をはなれ     季 己