二 見
硯かと拾ふやくぼき石の露 芭 蕉
二見浦に庵を結んだ西行を慕う心が基底になっている。『西行談抄』に、
西行上人二見浦に草庵むすびて、浜荻を折りしきたるさま
にて……硯は石のわざとにはあらで、もとより水入るる所
などくぼみて硯のやうなる、筆置く所などもあるを置かれ
たり。……
とあり、西行が、くぼんだ石を硯とした故事をもって、発想の契機としたものである。
この句は真蹟書簡にある句で、この書簡は、杉風に宛てたものと推定される。(元禄二年)九月二十二日付。
「くぼき」は形容詞「くぼし(窪し)」の連体形。一部がへこんでいる意。
季語は「露」で秋。露自体の感触を生かすと共に、西行を懐かしむ心の通い路として働いている。
「西行上人の隠れ棲んだ二見に来て、そのおもかげも懐かしく、窪んだ
石にわずかに露の溜まっているのを見ても、上人の硯の類ではなかろ
うかと手に拾ってみたことだ」
――なんと心地よく不思議な空間なのだろう、『秋山俊也展』(銀座「画廊宮坂」)の会場は。
二十数点ある作品は、どれもこれも触りたくなる、いや抱きしめたくなるほど魅力がある。
俊也君は美しいもの、特に美しい女性が大好きとのこと。世の男どもは、美しい女性を目の前にすれば、触りたい、抱きしめたいという衝動に駆られるであろう。ということは、俊也君の作品は、みな美女ばかりということだ。
それもそのはず。日光アール・プリュコット2009年に、観る者に衝撃を与えた「ドローイング10000点展」から厳選された作品と、新作の展覧なのだから。
いくら全員が心やさしい美女であっても、結婚できるのは一人。ということで、もっとも手元に置きたいと思った作品は「無題2006」。この作品の良さをことばで表すことは難しい。そこで変人の感じたことを記すと次のようになる。
「天真爛漫」、「無垢であり力強い」、「懐の深さ・重厚感」、「エネルギーにあふれ、希望がわいてくる」、「心地よく、安心感が生まれる」などなど。
値段が表示されていないので非売品かと想ったが、念のため尋ねてみた。宮坂さんは、「身辺整理」とか「百万円」とか言って、まったく売る気がない。おそらく宮坂さん自身が手元に置きたい作品なのであろう。それならそれで、仕方がない。
ほんものの作品は、人を選ぶという。作品は収まるべきところに収まるともいわれる。
そうだ、知人のBさんが来月、初の個展(竹芸展)を日本橋・三越で開くので、そちらに電信柱を立てるとしよう。
秋山の伸びや真の花つかむ 季 己
硯かと拾ふやくぼき石の露 芭 蕉
二見浦に庵を結んだ西行を慕う心が基底になっている。『西行談抄』に、
西行上人二見浦に草庵むすびて、浜荻を折りしきたるさま
にて……硯は石のわざとにはあらで、もとより水入るる所
などくぼみて硯のやうなる、筆置く所などもあるを置かれ
たり。……
とあり、西行が、くぼんだ石を硯とした故事をもって、発想の契機としたものである。
この句は真蹟書簡にある句で、この書簡は、杉風に宛てたものと推定される。(元禄二年)九月二十二日付。
「くぼき」は形容詞「くぼし(窪し)」の連体形。一部がへこんでいる意。
季語は「露」で秋。露自体の感触を生かすと共に、西行を懐かしむ心の通い路として働いている。
「西行上人の隠れ棲んだ二見に来て、そのおもかげも懐かしく、窪んだ
石にわずかに露の溜まっているのを見ても、上人の硯の類ではなかろ
うかと手に拾ってみたことだ」
――なんと心地よく不思議な空間なのだろう、『秋山俊也展』(銀座「画廊宮坂」)の会場は。
二十数点ある作品は、どれもこれも触りたくなる、いや抱きしめたくなるほど魅力がある。
俊也君は美しいもの、特に美しい女性が大好きとのこと。世の男どもは、美しい女性を目の前にすれば、触りたい、抱きしめたいという衝動に駆られるであろう。ということは、俊也君の作品は、みな美女ばかりということだ。
それもそのはず。日光アール・プリュコット2009年に、観る者に衝撃を与えた「ドローイング10000点展」から厳選された作品と、新作の展覧なのだから。
いくら全員が心やさしい美女であっても、結婚できるのは一人。ということで、もっとも手元に置きたいと思った作品は「無題2006」。この作品の良さをことばで表すことは難しい。そこで変人の感じたことを記すと次のようになる。
「天真爛漫」、「無垢であり力強い」、「懐の深さ・重厚感」、「エネルギーにあふれ、希望がわいてくる」、「心地よく、安心感が生まれる」などなど。
値段が表示されていないので非売品かと想ったが、念のため尋ねてみた。宮坂さんは、「身辺整理」とか「百万円」とか言って、まったく売る気がない。おそらく宮坂さん自身が手元に置きたい作品なのであろう。それならそれで、仕方がない。
ほんものの作品は、人を選ぶという。作品は収まるべきところに収まるともいわれる。
そうだ、知人のBさんが来月、初の個展(竹芸展)を日本橋・三越で開くので、そちらに電信柱を立てるとしよう。
秋山の伸びや真の花つかむ 季 己