滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

原発新設を巡り混迷するベルン州

2010-06-17 01:18:20 | 政策

ミューレベルグ原発更新を巡り対立するベルン州の政府と議会

スイスでも私の住んでいるベルン州の議会では、ベルン州にあるミューレベルグ原発を更新(新設)するかしないかで、激しい、しかし接点のない論争が続いています。 社会党と緑の党が多数派の州政府は、原発新設には反対の立場です。

ですが州議会は原発大好きのスイス国民党、急進民主党、キリスト教民主党が過半数を占めています。そのため先週、ベルン州議会は90対60票で原発新設に賛成を表明しました。 州議会の中の原発への賛成派と反対派の溝は30年来変わらず、深いものです。反対派に有利な様々な論点やドイツの事例に、賛成派が影響されることはありません。賛成派の最大の論点は「電力供給不足の恐れ」です。

さて、この結果を受けて州議会は、州政府に原発推進に意見を改めるように迫っています。結局ベルン州では、来年2月に拘束力のない住民投票が行なわれ、それにより方向性が決められます。州の住民投票で否決されれば、ベルン州での新設は事実上不可能と考えられています。

節電するほど得する電力料金の導入を州議会が州政府に禁止

ミューレベルグ原発を運転するのはベルン州電力。この会社は何が何でも原発を新設したいと公言しています。同社の経営代表者会には(州が株主なので)、州政府からも代表者が入っています。この代表者は持続可能な電力供給を推進するために、今後、電力の基礎料金を廃止する方向を提案する予定でいました。

というのも現在の料金制度では、消費量に関わらず一定の基礎料金と電力使用料金(kWh毎)が別々に計算されています。そのため消費量の少ない消費者の方が、消費量の多い消費者よりも損をする料金体系になっています。しかし、基礎料金と電力使用料金を統合したkWhあたりの電力料金体系に変更することにより、節電する人ほど得をするようになります。

現に既にチューリッヒ市電力などではこの料金設定が導入されています(チューリッヒ市は脱原発を決めているので)。しかし、電力消費量が減っては(供給不足が生じないので)困ると考えるベルン州議会は、州政府の代表者がこの料金制度をベルン州電力に提案することすらも禁止しました。

ベルン州は、都市部とアルプス農村部で政治的な風潮が全く異なります。都市部ほど脱原発の風潮が強く、山地ほど宗教的に原発に賛同する政治勢力が強くなっています。ちなみにミューレベルグ原発は首都ベルンから20kmほどの平地にあり、アルプス地方からは離れています。

州都は脱原発、省エネと再生可能エネルギー増産の方が安い

意見の相違が極端に現れているのが、州都で首都のベルン市の政府が、脱原発することを決めていること。そのためベルン市のエネルギー水道会社はその政策に従ってエネルギー供給対策を立てています。

先週には、ベルン市のエネルギー水道会社が出資し、ジュネーブ州、バーゼルシュタット州およびにWWFなどの環境団体が共同でコンサルタント会社INFRASに依頼した調査書「電力の利用効率向上と再生可能エネルギー~大型発電所に代わる経済的な選択肢」が発表されました。

この調査では電力会社の予測する需要の伸びを前提としても、それを満たすためには原発を新設するよりも、電力の効率的利用と再生可能エネルギーの増産の方が経済にとっては安くつくということを結論づけています。ちなみにジュネーブ州、バーゼルシュタット州も脱原発を決めています。

国会は方向転換への政治的意思に欠く

ただし、上記の脱原発派のシナリオを実現するために必要なツール(電力への環境料金や大幅な再生可能電力の促進、節電器具のみの販売等)を得るには、国会での政治的な合意が必要であり、それは論理的には可能であっても、今のスイスの議会の党派構成では非現実的に思われるのが悲しいところです。

現在のメキシコ湾の石油事故の惨状を見ると、BP社やボーリング会社が最悪のケースへの対応を考えていなかった無責任さに驚愕します。結局は一社では対応しきれず、国や市民が後始末を行い、長年に渡り被害をこうむることになる、というのは原発の事故にも言えることです。

スイスの原発では昨年だけでも27回もの故障がありました。しかし、事故が起こる前に、段階的に再生可能な技術に移行するプランを、国と国民の未来のために強い意志で実行していけるような議会がスイスには欠けています。

方向転換のチャンスは今のところ唯一、2013~14年頃に行なわれる予定の国民投票の結果と言えるでしょう。

★国会の原発派VSガス派、思惑の交錯★
この原発新設の議論は、国レベルでは大型ガス発電所の新設に関する規制に影響を与えています。原発が廃炉になるのと再生可能エネルギー源が十分な供給量をまかなえるようになるまでの時間差がある場合、それを大型あるいは分散型ガス発電所でまかなおうという意見があります。利点は原発と比べると建設コストが低く、建設期間が短く、出力の調整が利くこと。

しかし、大型ガス発電所の新設には様々な規制がかけられて、事実上不可能になっています。 スイスでは基本的に大型ガス発電所の新設では、CO2排出量を100%オフセットすることが条件です。問題は、その何%に国内削減を義務づけるのかで、現在進行中のCO2法改訂の一つの焦点となっています。上院では100%国内削減、下院では70%、閣僚は50%までとしており、まだ決まっていません。

100%の国内削減を求める議員は、ガス発電を阻止して原発を建てたい議員か、ガス発電も原発も反対の環境派議員かのどちらか。国内削減量を減らすのに賛成する議員には、ガス発電には賛成でなくても原発新設を阻止したい議員もおり、様々な思惑が交錯しています。 いづれにしても保守派議員は原発産業の手中にあるため、ガスより原発を優先したいと考えています。

ベルン州電力も原発最優先で、もしも国民投票で否決されたら、すかさずガス発電プロジェクトを出すという手順で準備しています。市場を独占し続けるのに有利な技術という視点から、そのような優先順位を採っているのだと考えられます。

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