滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

CO2法改訂、下院で国内削減率20%に、逃げる自動車業界

2010-06-04 00:29:00 | 政策
次の10年の目標設定、CO2法改訂

スイスでは今年末で10年続いた国のエネルギー行動計画「エネルギーシュバイツ」が終了します。そのため現在国会では、ポスト京都の気候政策と次の10年のエネルギー行動計画の基礎となるCO2法の改訂が進められています。

今週、下院(国民議会)では、CO2法の改訂案が審議され、全体としては可決されました。しかし細部については、良い意味でも、悪い意味でも、閣僚案とは違った決定がなされています。

まず目標は、2020年までのCO2排出量を90年度比で20%削減することですが、その全てを国内で削減すると決めました。これは閣僚の法案よりも野心的な目標設定です。90対87というギリギリの可決でした。

この削減値は、閣僚決定により、国際的な発展に応じて40%まで上げることができますが、上乗せ分の4分3は外国からの排出権購入で対応できる、としています。より高い削減目標を求める環境派と、全く何もしたくない保守派の両方を考慮した微妙な妥協案になっています。

ガソリンへのCO2税が下院で大敗、新車の排出量規制も甘いまま

この審議の後、下院ではCO2法案の中でも、スイスでは今後の気候政策の鍵となる自動車分野に関するツールの審議が行なわれました。が、そちらの結果はボロボロでした。長年に渡り議論され、先延ばしされてきた、ガソリンへのCO2税の導入が下院では108対82で大敗したのです。

これまでのCO2法では、閣僚が必要に応じてガソリンにもCO2税を導入できる、としていました。実際には保守派勢力により断固反対され、導入されることはありませんでした。ですが、それでもこのオプションを削除というのは気候政策的な退化です。これにはスイスの環境交通エネルギー通信大臣も、かなりがっくりきていたようです。

さらに、2015年度までに新車の平均CO2排出量をEUと同様に130g/kmに規制するという部分を、下院は150gに変更。その理由が何ともいえない珍奇なもので、スイスの山地住民には地形的な理由からモーターの強い車が必要というのです。今時、四輪駆動でも150g以下のモデルはありますし、馬力ある高級新車には乗っているのは山地住民ではないと思うのですが(苦笑)。 理由はともかく、下院でのガソリン&自動車輸入産業の強力なロビー力を改めて見せつけられました。

灯油へのCO2税は継続、値上げも

その他、既に実施されている灯油へのCO2税については、今後も継続することで可決されました。税額は現在1tあたり36フラン(石油1ℓあたり約7.5円)ですが、必用に応じて、閣僚はこれを60フランまで、下院では120フランまで引き上げることができる、としています。

このCO2税の収入のうち年2億フランは建物の省エネ改修に当てられ、2500万フランは技術基金に入れられ、残りは企業と家庭に1人頭いくらで還元されます。

今回の審議のために準備された閣僚による「2012年以降の気候政策に関するメッセージ」を読みますと、建物、産業、交通分野では、それぞれCO2排出量を-25%程度減らす必用があるとあります。建物、産業については消費量規制やCO2税などのツールやプログラムが割合と揃っていますが、スイスの交通分野(自動車)はまだ改善のための効果的なツールがありません。

スイスの温暖化ガス削減に不可欠なガソリンへのCO2税

スイスでは自動車の燃料消費量の増加により、交通分野のCO2排出量が90年度比で14%も増えています。そして新車の平均CO2排出量は、EU諸国と比較しても最も多いのです。これまでに石油産業が自発的にガソリンに気候料金を上乗せして、それを資金として排出権を購入してきました。国と自動車輸入産業では削減協定を結んできました。しかし、自動車のCO2排出量は減りませんでした。

自動車はスイスで最もCO2排出量の削減を必用とする、ポテンシャルの大きな分野といえます。

このCO2法改訂案は、来週に上院(全州議会)での審議に回されます。そこでガソリンへのCO2税や、自動車の排出量規制に関する改善が行なわれることが期待されます。最終的にスイスのCO2法改訂がどんな形に落ち着くのか、また次週報告しようと思います。

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