滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

スイスとドイツの固定価格買取制度の違い

2009-12-11 19:09:52 | お知らせ
日本で講演後の質問タイムで、一番多かった質問の1つが、スイスとドイツでの再生可能電力の固定価格買取制度に関するものでした。講演の中ではこのテーマには僅かに触れただけですが、ドイツの制度の方がスイスの制度よりも優れていると口をすべらせたのが悪かったようです(笑)。調度、日本で光発電に対する固定価格買取制度がスタートした時期に重なったため、皆さん関心が高かったのでしょう。

ドイツでも、スイスでも、全種類の再生可能エネルギーの発電全量に対して、10~15年程度で投資が回収できる価格を20年保証して、買い取りが行われています。この固定価格買取制度は、ドイツはドイツの、スイスはスイスのエネルギー政策上の目標に従って、微妙に違った設計になっています。

持続可能なエネルギー政策の目標として、ドイツはスイスよりもずっと徹底した、かつ具体的な目標を掲げています。ドイツは、脱原発と平行して、CO2排出量を2020年までに1990年比で-40%、2050年までに-80%するというものです。そのために、2020年までに総エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合を18%(現在9%、下記の村上敦さんの本参照)、電力の分野では30%(現在15%)に伸ばし、また2050年には、一次エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合を50%にすることを目指します。

電力分野での目標を達成するための主力ツールが、ドイツでは2000年から実施されている再生可能電力の固定価格買取制度です。同制度により、電力消費量に占める再生可能電力の割合が1998年には4.8%であったのが、2008年には15.1%と、10%も伸びており、2020年の目標は軽くクリアできるとされています。

対して、スイスの目標は2020年までにCO2排出量を-20%し、再生可能エネルギーの割合を現在の18%から24%に増やすことです。スイスの再生可能エネルギーの割合がドイツよりも多いのは、山国ならではの豊富な大型水力による恩恵です。電力に関しては、2030年までに再生可能エネルギーの占める割合を10%増やすことが目標です。

2008年度のスイスの電力生産の内訳は、エネルギー庁の統計によると、水力が56%、原子力が39%、新しい再生可能エネルギーが2%です。 新しい再生可能エネルギーからの電力が2%と少ないのは、スイスでは再生可能電力を促進するための最も効果的なツールとされている、ドイツ型に近い固定価格買取制度が、2008年になってようやく導入されたからです。それまでは、補助金や余壌電力の15ラッペン(15円)以上での固定価格買取義務、グリーン電力証書の取引などで促進されてきましたが、成果は微々たるものだったということが分かります。

ちなみにスイスが水力に恵まれているからといって、ドイツよりも再生可能電力を促進しない理由はありません。老朽化した原子力発電所が2020年からフェードアウトしていくので、その分の発電量を、省エネと新な発電設備で補っていかねばならないのです。

さて、ドイツの制度は、再生可能電力の増産が脱原発と気候政策に欠かせないこともあって、僅か10年で再生可能電力の割合を10%増やした実績を持ち、さらに20年で30%増やす計画になっています。ですが、スイスの制度の目標は20年で10%を増やすこと、ドイツの2~3分1の速度です。

速度の違いを生む差は、買取予算額の差にあります。スイスの場合、再生可能電力を買い取るために、一般電力に上乗せされる額が1kWhあたり最大0.6ラッペン(約0.4ユーロセント)と決められている上、現在0.45ラッペン(0.3ユーロセント)しか徴収されていません。

さらに、各分野ごとに買取予算の%が割り当てられている上、太陽光発電に関してはコストが一定以下になるまで5%しか割り当てられません。そのため、制度のスタート数日後には、光発電パネルの予算は使い尽くされました。また、他の再生可能電源についても、買取予算の上限に達したため、新しい設備からの買取はストップしているのが現状です。

結果、スイスの再生可能エネルギー市場は2008年の爆発的成長のあと、またしてもストップ&ゴーに悩まされています。買取予算額の上限を除去することが検討されているそうですが、解決されるのは数年先という話。そのため、今は州レベルでのの補助金や固定価格買取制度で、事業主をできる限り吸収する努力が続いています。

対してドイツの買取予算はこのような上限が設けられておらず、ドイツのジャーナリスト村上敦さんの本(下記)によると、買取予算のために一般電力に上乗せされる価格は、2007年でkWhあたり1.0ユーロセント、2010年で1.5ユーロセントと、スイスの3倍以上の設定になっています。 しかも、この上乗せ価格は2015年を境に減っていくことが予測されている点は興味深いです。詳しくは、ドイツ在住のジャーナリスト村上敦さんの本、
「日本版グリーンニューディールへの提言~フィードインタリフ思想が経済を活性化する」(Eolways5、VaubanBookSeries)に紹介されています。
大変お勧めの一冊です。
http://www.eolways.jp/book/japanese_gnd/index.html




このようにスイスの再生可能電力の増産目標と固定価格買取制度が、ドイツと比べると消極的な理由は2つあると思います。
1つは、ドイツの場合、スイスと比べると発電分野でのCO2排出量が大きく、気候対策として、発電分野での再生可能エネルギーの促進が非常に有効かつ重要という点。
そして2つ目は、ドイツが脱原発の道を選んだのに対し、スイスが脱原発の道を選んでいないこと。ドイツはフェードアウトしていく原発の発電量を再生可能電力の増産によって補っていく政策を歩んでいます。対して、スイスでは大手電力会社と多くの政治家が、将来的な原発新設を望んでいるため、その稼動効率と経済性を低くするような再生可能電力の躍進を実現させるドイツ型の制度には本心は断固として反対しているのです。

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遅ればせながら、先日の投票結果

2009-12-11 03:01:31 | 政策
前回ブログを書いた週末から早くも10日もが経ってしまいました。。。
その週末、スイスでは国民投票があったのですが、国民イニシアチブ案でイスラム寺院の塔の建設を憲法で禁止する「ミナレット建設に反対案」が、57.5%もの可決票を得て、可決されてしまいました。この法案には4大政党のうち、このイニシアチブを生み出したスイス国民党以外の3大政党が反対していましたから、予測しなかった結果に多くの人はショックを受けていました。

法案の裏には、スイスの法や文化を受け入れない、イスラム原理主義者がスイスで増加することを防止したいという意図がありますが、ミナレットの建設を禁止したところで、その意図を達成することはできません。むしろ逆効果であり、実施不可能な法案だと言われています。それでも恐怖感を煽り、感情に訴える可決キャンペーンに、多くの有権者は深く考えずに動かされたようです。直接民主制は、有権者が良質な情報を得られて、そこから自身で理性的な判断を行えなければ、機能しません。

州レベルでも投票が行われました。ニューシャテル州では、エネルギー性能証明で一番レベルが低い建物に対する省エネ改修の義務づけを取り入れた新しいエネルギー法が、リベラル経済派のレファレンダムに合い、住民投票では否決されてしまいました。初夏に実施されたばかりで、スイスでも最も進歩的な法律だったので残念です。今後、改善が行われ、再チャレンジとなるでしょう。
大きな変化に時間がかかり、効率が悪いのも、直接民主制の特徴です。

対して、スイスの中でも保守的なシュビーツ州では、新築の暖房負荷の規制値をこれまでの半分にしたエネルギー法が、問題なく住民に可決されました。他の州では当たり前のことでも、シュビーツの人がイェスと答えたことからは、保守的な地域でもエネルギー意識は、着実に進化はしていると考えて良さそうです。

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