滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

脱原発計画を進める首都ベルン市

2009-12-23 02:36:21 | 政策
先週の金曜日に、保守系のベルン新聞(BernerZeitung)で、ベルン市の脱原発計画が大きく報道されました。スイスの首都で、世界遺産の旧市街をもつベルン市の市議会は、今年の春に2039年までに脱原発を決定。スイスではバーゼル、ジュネーブ、チューリッヒに続く脱原発宣言の町となっています。

そんなわけで、ベルン市にエネルギーを供給する市営水道エネルギー会社EWBが、具体的戦略を発表したのです。現在、EWB社に電力を供給するのは、1つは供給契約を結んでいるフランスの原発で契約が2013年に切れます。二つ目は資金参加しているスイスのゲスゲン原発で、2039年に廃炉になります。EWBはこれを機会として、段階的な原発により必要になる電力供給量330GWh分を、再生可能エネルギーを中心とした別電源で代替していきます。

ベルン新聞によると、まず2012年までに、ゴミ焼却・木質バイオマスの共同発電・地域暖房の新しい設備がオープンします。同時に、アルプスのグリムゼル峠にあるオーバーハズリ・ダムの発電容量を増加。さらにコージェネ型の地域暖房に転換してゆきます。そして同時に、イタリアのソーラー発電所とドイツの風力発電所に資金参加し、その電気を輸入するという計画。2030年までに240GWhを代替するために4.7億フラン(約450億円)を(原発ではなく)再生可能エネルギーに投資すると報道されています。

多くの人は、なんでイタリアとドイツからの輸入なの?という印象を受けるでしょう。私もベルン市の面積が限られているとはいえ、もっと地元に再生可能電力のポテンシャルはあると思います。でも、やはりそれは太陽光と風力への投資環境、つまり発電コストに関わる政治的、そして地理的条件が、今のところスイス国内よりもイタリアやドイツの方が優れているためでしょう。チューリッヒ市の脱原発計画にも、ドイツの風力発電所への資金参加が入っています。

ヨーロッパでは、光発電の発電コストは、スペインやイタリアのような日射の豊富な地域では2012~13年には従来電力価格に安くなる(グリッド・パリティを達成する)と言われています。風力については、スイスよりもドイツ北部の方が風が豊富である上、ドイツの再生可能電力の固定価格買取制度の方が優れているため、スイスよりも盛んな投資が行われ、大量に成長、価格低下しているからです。スイスでも現在の買取条件が改善されれば、そしてグリッド・パリティが達成できれば、EWBはもっと地元への投資割合を増やすのではないか、と思われます。

そう遠くない将来、ヨーロッパでは従来電力と競争価格の再生可能電力が大量に取引される日が訪れる。再生可能な電力が優先的に送電されるルールとなっているから、その時に、高くて調整の利かない新しい原発に投資する電力会社の経営状況は悪化する。その設備投資への決断を行うのは今、そんなベルン市の気迫が感じられました。



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする