滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

日本木質バイオマスエネルギー協会のススメ

2010-11-09 18:24:57 | 再生可能エネルギー
すっかりご無沙汰しています、先週日本からスイスに戻って来ました。
首都ベルンから近郊線で20分ほど離れた我が家からは、歩いて5分くらいでブナの森に着きます。
日本に居る間にブナの紅葉はほとんど終わってしまいましたが、林床に一面に積もった落ち葉のカーペットもなかなか趣があります。森を散歩していると、木のエネルギーはスイスの人がよく言うように「ドアの前にあるエネルギー源」であると感じます。

今回の日本滞在中に4回の講演を行ないました。主催者の皆様には、お招き頂きどうもありがとうございました。主なテーマは、スイスにおける木質バイオマスやバイオガスの利用。一度の講義では夫と共同で「未来のまちづくり」についてお話する機会も頂きました。

シンポジウム「低炭素型都市づくりの取組み」にて

私も参加させて頂いた「低炭素型都市づくりの取組み」に関するシンポジウムでは、日本に疎い私にとっては興味深いことばかりでした。バイオマスに話しを絞ると、農林水産省の方の発表の中では、全国に280以上のバイオマスタウンという先進地区があり、国は「バイオマス活用推進基本計画(案)」により、体系的にバイオマス利用を進めようとしていることを知りました。また、ビジョンとしては「再生可能エネルギーで自立する農村漁村」と書かれてあり、100%再生可能エネルギーになる日本の地方の未来が掲げられていました。

同時に、CO2排出量を減らすために石炭発電でチップを混ぜて燃焼させる施設を増やして行く方針も話されていました。ですが、排熱を使わない石炭発電でチップを燃やしていく場合にも(どれくらいの量なのか?)、他の再生可能エネルギー源と合わせて地方をエネルギー自立させるだけの木のエネルギーが日本にはあるのかしら、と疑問に思ってしまいました。

木質バイオマス発電と固定価格買取制度

また別の先生の発表の中で、日本でも全種類・全量の再生可能電力を買い取るフィードインタリフ制度の準備が急速に進められているというお話も聞きました。その際に、スイスの経験から日本に活かせることとして、木質バイオマス発電の買取条件として総エネルギー利用率の義務付けがあります。スイスのフィードインタリフでの木質バイオマス電力の買取条件は、現在のところ総エネルギー効率が約60%以上(発電効率15%の場合)となっています。

9月にスイスで開催された木質バイオマスエネルギーのシンポジウムでは、それでも低すぎるという意見が度々聞かれました。例えば、効率60%の発電所で10万tの木の資源を使う場合、4万トンもの木資源が無意味に捨てられます。対して一般的な地域暖房は配管損失を入れても効率80%なので、同じ量の木質バイオマスを使っても無駄は2万トンに減り、発電では捨てられていた2万トンをエネルギーとして活用できます。そのためスイス木質エネルギー協会の代表者は、雑誌「再生可能エネルギー」の最新号の中で、フィードインタリフの総エネルギー効率の条件を75~80%に高めることを提案していました。それにより発電設備の規模が小さくなることを予測しています。(もちろん発電型でも総エネルギー効率80%以上の設備はありますが。)

日本は、バイオマスにより将来のエネルギー消費の何%くらいを担っていくことを目指しているのか。CO2-25%に貢献させるには、あるいは地方がエネルギー自立するためには、どんな利用方法が最も有意義なのか。カーボンニュートラルの前提として、森林蓄積量が減らない森林運営はどのように保証されているのか・・等々。私には知りたいことが山ほどありましたが、残念ながら質問する時間がありませんでした。

「薪・ペレットストーブ」のシンポジウムにて

所変わって 建築関係者を対象とした「薪・ペレットストーブ」をテーマとしたシンポジウムでは、木質バイオマス利用を実践する方々の立場から、様々な基準や仕組みを早急に整える必要性が議論されていました。例えば、建物で木質バイオマスを熱源として使う時に日本ではCO2や一次エネルギー消費量、あるいは環境性の評価基準がオフィシャルに定められていないこと。また、様々な種類のストーブの試験基準やペレット品質規格、あるいは煙突の設計基準がない、といった課題・問題について耳にしました。 また、高気密高断熱建築に適した薪やペレットストーブのシステムを分かりやすく表示したり、そういった建築における設計・施工方法を職人や施工業者に教育していく仕組みづくりも急ぐ必用があります。

日本木質バイオマスエネルギー協会のススメ

日本の企業や各種NPOや行政機関では、木質バイオマス利用について、既にかなりの量の知識やノウハウが蓄積されていると推測します。ですが、それが各地や各団体に分散しているような印象を持つのは私だけでしょうか。スイスにはスイス木質バイオマスエネルギー協会という業界団体を総括した組織があります。 日本でも木質バイオマスに関連する業界が一致団結して、中立の「日本木質バイオマスエネルギー協会」を作ってはどうでしょうか。そこでノウハウや情報を集約し、行政のパートナーとなり、必要な基準やツールを揃え、教育や啓蒙活動をコーディネートして行なっていくのです。

関連する分野とは、木のエネルギー業者、森林所有者や林業の連盟、自治体、県、国の各省庁、燃焼設備や暖房装置のメーカ、エネルギー会社、販売業者や施工業者の連盟、NPOや環境団体、大学や研究所、建築家やエンジニア協会などが考えれれます。地域支部‐全国協会の二本立てで、様々な視点から意見を調整した木質バイオマスエネルギーの力強いロビー団体、情報の窓口というわけです。

日本の木質バイオマスエネルギーの持続可能でクリーンな利用を効率よく促進していくために、「日本木質バイオマスエネルギー協会」、いかがでしょうか。


短信

 ● ビオシティ46号発売
環境専門誌のビオシティ46号「民話と生き物の住まう環境づくり」が発売されました。私も「スイス、100年の計としての水系再自然化の促進」という9ページの記事を寄稿しています。この記事では、スイスではどのような仕組みや対策によって、行政と民間の両面から水系の再自然化を息長く進めているのかについて、多くの事例を交えて紹介しています。他の文化人類学的な視点からの記事も面白い号です。どうぞご覧になってみてください。
http://www.biocity.co.jp/


● ドイツの政治家ヘルマン・シェアー氏、逝去
ドイツ社会民主党の著名な政治家で、ドイツの再生可能エネルギーの普及に大きく貢献したヘルマン・シェアーさんが先月急逝した。同氏は再生可能電力の固定価格買取制度と国際再生可能エネルギー機関IRENAの生みの親としても知られる。著書「エネルギー倫理の命令形~どのように再生可能エネルギーへの完全転換を実現させるか」(Der energethische Imperativ. Wie der vollständige Wechsel zu erneuerbaren Energien zu realisieren ist; München 2010, ISBN 3-88897-683-9)は発刊されたばかり。また、今年の春から公開されているドキュメンタリー映画「第4の革命~エネルギー自立」(カール・A・フェヒナー監督)では、主人公を演じている。スイスでも先月よりようやく公開が始まったこの映画は、100%再生可能エネルギーの未来を人類第4の革命として、世界中の事例を紹介している。
www.4-revolution.de

● ドイツ、放射性廃棄物の中間処分地で大規模なデモ
土曜日からスイスのドイツ語国営ラジオのニュースでは毎日、ドイツの放射性廃棄物の中間処分地のあるゴアレーベンでの市民デモの様子が報道されている。土曜日には1万人の市民がフランスのラアーグ再処理工場から戻ってきた高放射性廃棄物の輸送を待ち受けた。その市民を待ち受ける警官の数はなんと1.7万人。。デモ参加者は放射性廃棄物処分場とドイツ政府の原発寿命延長の両方に反対する。ドイツでは政府の原発寿命延長以来、市民の脱原発運動が再び勢いづいている。ちなみに、スイスにもラアーグから処分済み廃棄物が中間処分場に届いているが、処理済み廃棄物は2006年以前のもの。スイスは2006年から10年間、再処理は行なわないモラトリアムを実施している。
www.drs.ch

ジュネーブ州でソーラー温水器の設置義務化
ジュネーブ州では2010年5月8日より新エネルギー法が施行された。その中で新築と屋根改修を行う建物には太陽熱温水器の設置が義務付けられている。太陽熱温水器は最低でも給湯需要の30%以上を担わなくてはならない。例外は他の再生可能エネルギー熱源を採用する場合、あるいは適した屋根面がない場合である。
www.swisssolar.ch
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2010年度スイスソーラー大賞... | トップ | 省エネ・エコ建築尽くしの一週間 »
最新の画像もっと見る

再生可能エネルギー」カテゴリの最新記事