滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

地域の価値創出を高めるようなエネルギー自立戦略を

2012-04-06 16:56:14 | 再生可能エネルギー



(写真)住民が中心となり再生可能エネルギーによる電力輸出地帯となった南ドイツのフライアムト村。電気や熱の供給が農業経営の一つの柱をなす。


お久しぶりです。私の住むベルン市近郊のブナ林では可憐な野草が咲き競い、鳥のさえずりが賑やかです。最近は東京よりも暖かいくらいの日が続いていました。3月は日本への帰国とその準備・片付け、春の庭の仕事であっという間に過ぎてしまい、ブログでお伝えしたいことが山積している状況です。

日本では1年半ぶりに家族や知人に会える嬉しさの傍ら、とにかく実家の室内の殺人的な寒さが身に応えました。3月中旬の室内気温は朝晩は10度以下、エアコンをかけても乾燥するだけで温まらない。とてもじっとしていられない寒さです。スイスの自宅に戻って、断熱された屋根+窓+全館温水暖房のおかげで、リラックスして仕事・就寝できる環境が、賃貸人にも与えられていることをしみじみと有り難く感じました。

日本でも、国民の財産と健康の保護と温暖化防止政策の要としても、一日も早く高いレベルでの建物の断熱義務化と再生可能な熱利用の義務化を実施して欲しい、と毎回のことながら感じます。

 

●共著単行本「100%再生可能へ!欧州のエネルギー自立地域」が販売されました

1年3か月に渡り取り組んできた共著単行本「100%再生可能へ!欧州のエネルギー自立地域」が3月10日に学芸出版社より発売されました。共著者の皆様、編集者やデザイナーさん、推薦文を書いて下さった坂本龍一さん、その他のご協力頂いた沢山の方々、どうもありがとうございました。

とはいえ、ヨーロッパでの再生可能エネルギーと省エネルギーというテーマは生モノで、どんどん発展しています。例えば本の校了後に、オーストリアで国がエネルギー自立を目指す地域をサポートするプログラム「気候エネルギーモデル地域」に参加する地域数は、85(+19)地域、計884自治体に増え、人口では200万人地域になりました。また、ドイツの同様なプログラム「100%EE地域」に参加する地域数は、129地域に増え、人口では1890万人地域となっています。

※この本は下記リンクより、アマゾンで注文することができます。

http://www.amazon.co.jp/%EF%BC%91%EF%BC%90%EF%BC%90%EF%BC%85%E5%86%8D%E7%94%9F%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%B8%EF%BC%81-%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E3%81%AE%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E8%87%AA%E7%AB%8B%E5%9C%B0%E5%9F%9F-%E6%BB%9D%E5%B7%9D-%E8%96%AB/dp/4761525304/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1329519975&sr=8-1


●地域の価値創出を高めるようなエネルギー自立戦略を!

刊行をきっかけとして、大阪大学で「エネルギー自立のまちづくり」と題したセミナーを行わせて頂きました。今回は、欧州地域たちの再生可能エネ・省エネによるエネルギーの自立運動とそのメリットについて、事例を交えながら紹介しました。そして、自治体や地域が熱や電気のエネルギー自立を実施していく上で特に大切な、下記の7つの視点をまとめました。

・自治体としての自立決議とその担当機関

・エネルギーコンセプトと実施管理

・省エネルギー

・住民とステークスホルダーの参加(情報提供、啓蒙、参加、実施主体は地域の住民と企業・・等)

・地域の価値創出を高める工夫(地域のお金と主体で実施する様々なモデル・・等)

・国・州レベルでの規制・助成・税制(FIT、建物の省エネ規制、再生可能な熱利用義務、環境税、エネルギー自立促進プログラム・・等)

・人材育成戦略(州・大学・専門学校・職業連盟などによる職人、プランナー、コンサルタント育成・・等)


これらの中でも地域の価値創出は、地域にとってエネルギー自立を行う一番のモチベーションです。エネルギー自立により地域経済や地域社会の活性化を実現するためには、自治体と住民が一体となって、戦略的に地域のお金と主体でエネルギー自立を実現していくこと、あるいは地域外部の企業が事業を実施する場合でも、地域の価値創出に最大限に配慮したプロジェクトづくりを行わせることが欠かせません。これが欧州中部では、再生可能エネルギー事業への幅広い住民の賛同を得るためにも、ますます重要な要素となってきています。

セミナーでご一緒した京都大学経済学の諸富徹教授も、プレゼンテーションの中で日本のFIT導入に際する課題として、次のような問題提起をされていました。
「ただ、それだけでは大規模事業者が発電事業を圧巻し、地域は発電事業に資源を提供するだけに終わる恐れ。地域住民が中心になって発電事業を立ち上げ、生み出された売電収入をその地域に再投資することで、地域が持続可能な発展を可能にすることが重要」(諸富教授)

ちなみにドイツの再生可能エネルギーエージェンシー(AEE)によると、2011年に再生可能エネルギーンによる発電設備の51%が市民の所有であり、全国で110もの再生可能エネルギー組合が設立されるなど、エネルギー生産の民主化が進んできている様子が分かります。日本でも大きく報道されたドイツの太陽光発電の買い取り価格大幅引き下げの背景には、こういった状況において大手電力が市場を死守するために政治に圧力をかけている状況があります。

現在、北海ではガスの流出事故が未解決のまま、強烈な温暖化ガスを噴き出し続けています。一昨年のメキシコ湾石油流出事故、昨年の福島第一原発事故に続き、非再生可能エネルギーの末期症状のような事故が毎年起こります。そのような中、日本でも地域社会が豊になるためのエネルギー自立コンセプトを、地域社会が一体となって作成し、取り組んでいくような、前向きな運動が広がっていって欲しいものです。


最近のフクシマ効果

★ 3月11日の脱原発のデモ行進
3月11日には東京で開催されたデモ行進に参加し、1.4万人の参加者と共に、霞が関界隈を歩きました。東京の交通の中でのデモという事情もあるのでしょうが、デモグループは5つに分断されており、前のグループはずっと遠くで見えず、一つの群集としてアピールできなかったことは残念です。若い女性が沢山参加していたことには驚きました。

 
同日にスイスのミューレベルグ原発では8000人の人がデモ行進しました。スイス在住の日本人の方々も多く参加され、在住日本人の方のスピーチもあったそうです。

 
★ ミューレベルグ原発とベルン州電力
その間、不名誉なことにもスイスのベッツナウ原発1号機(1969)が、世界で一番高齢の原発になりました。3月23日にはベッツナウ原発2号機(1972)の冷却ポンプに異常が発見され、手動で緊急停止が行われました。
また私の住む地域にあるミューレベルグ原発(1972)は、原子炉の経年劣化が激しいうえ、ダム決壊の危険が高い危険原発であるにも関わらず、2009年に連邦環境・交通・エネルギー・通信省から無期限の運転許可を得ていました。3月1日に連邦行政裁判所が、これを不当としていた住民グループの訴えを認める判決を下し、ベルン州電力が適切な安全整備を行わなければ、同原発の運転許可が2013年6月に切れることになりました。これを不当とする連邦環境・交通・エネルギー・通信省は最高裁に上告すると発表しています。
40歳の同原発の寿命は長く見てもあと10年と言われていますが、大金を注ぎ込んで整備・修繕する経済的価値があるのか疑問です。が、ミューレベルグ原発を運転するベルン州電力はその方向で動いています。実際に3月末には「ベルン州電力2030」という戦略を提示してきました。その中には、ミューレベルグをあと10年運転し、その間に出た収益は再生可能エネルギー設備の建設に投じる。そしてミューレベルグ廃炉後には、ベルン州電力は再生可能エネルギーによる電力供給を行っていく。そのために同社では、主に国内の水力と国外の大型風力パークに投資する。太陽光発電については民間が投資すべきで、同社としてはそのための送電網整備に投資する。過渡期にはガス発電も行うことも考えられる、という計画が描かれています。
この戦略は、ベルン州電力が何が何でもあと10年この原発を動かし続けるために、政治的な同意を取り付けるためのディールのようです。

 
ニュース

●ビオシティ発売
3月末に雑誌ビオシティ50号「未来へつなぐレジリエンス・デザイン」が発売されました。日本大学の糸長浩司教授の監修で、社会や文化、景観や環境といった様々な分野でのよりよい回復・復興を考える企画になっています。私も「欧州地域のエネルギー自立運動」について報告していますので、どうぞご覧になってみて下さい!


●フクシマニュース3月号
スイスエネルギー財団のホームページに連載しているドイツ語のフクシマニュース3月号を下記からご覧になれます。
http://www.energiestiftung.ch/aktuell/fukushima/


●池田憲昭さんがFM横浜「E-ne! – Good for you」に出演
3月15日に共著者の池田憲昭さんがFM横浜ラジオに出演し、エネルギー自立運動についてお話しされました。下記からラジオ番組を聞くことができます。
http://eco.fmyokohama.co.jp/on-air/17487


●ドイツ:2011年は再生可能エネルギー分野で38.2万人の職場
ドイツの環境省によると、2011年に再生可能エネルギー分野では38.2人が雇用されていることが調査からわかった。これは2004年比で137%の成長である。2010年度比では4%増えた。これらの職場の4分3は、再生可能エネルギー法の効果によるものであり、この制度はドイツのジョブモーターとなっている。雇用数が一番大きいのはソーラーエネルギー産業で12.5万人、うち11万人は太陽光発電の分野で、前年度比で3,000人増えた。これに次ぎバイオマスエネルギー産業が12.4万人。風力産業は10.1万人で、前年度比で5000人増えた。
出典:BMUプレスリリース


●ドイツ:太陽光発電増加のための送電網強化はコスト的にも可能
ドイツのソーラー産業連盟BSWによると、ドイツでは55GWの太陽光電力を受け入れるための低圧系統の更新のために、2020年までに11億ユーロの投資が必要である。これは、ドイツの低圧系統を含む系統の更新に毎年生じるコストと同レベルである。
中圧および高圧系統に流れる太陽光電力を合わせると、ドイツでは上記の更新により70GWの太陽光電力を流通することができる。これはドイツの電力需要の12%をカバーする出力だ。そのことがコンサルタント会社Ecofysの調査により分かった。
「この更新は技術的に問題なく、継続的に生じる更新プロセスの中に組み込める」、とBSW経営者のイェルク・マイヤー氏は語る。太陽光発電を受け入れるために必要な系統強化策は、毎年生じる系統メンテコストの10分1にすぎないという。平均的な家庭への電気代増加は月わずか11ユーロセントである。
太陽光発電は分散型で消費者に近い場所で生産されるため、発電出力の80%が自治体の低圧系統に接続されている。大きな太陽光発電設備はほとんど中圧系統に接続されている。ドイツの低圧送電網の総距離は110万キロメーターである。
上記の低圧系統更新では二つの点の改修が必要がある。一つは追加の低圧送電網を埋設する必要があること。そして、部分的に新しい需給調整できる地域送電網変圧器を導入すること。これにより低圧送電網の増築コストを大幅に減らすことができる。
出典:ドイツソーラー産業連盟 BSW

 

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