goo blog サービス終了のお知らせ 

滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

生協コープが建売ミネルギー・P(パッシブハウス)に進出

2009-09-28 21:49:30 | 建築
スイスの大手小売店である生協コープがミネルギー・Pの建売住宅を販売開始という記事が、今日いくつかの全国紙に掲載されました。建物の価格は、128㎡の4.5室住宅で約30万フラン(2400万円、土地、地下室なし)と、スイスでは破格の低さです。壁のU値は0.1で断熱材は36cm、窓のU値はガラスが0.6、枠が0.8、ちゃんとミネルギー・P認証を受けた家とあります。モデルハウスの写真は以下のサイトから。 http://www.coopzeitung.ch/article45285/einkaufen+profitieren/Gruener-wohnen-Haus-fuer-Energiebewusste

物価と土地の高いスイスでは、低予算の従来的な5.5室住宅でも、土地なしでの価格が50万フラン(4000万円)、ミネルギー・Pだと、それよりも8%高い54万フランほどします(ターゲスアンツァイガー誌)。土地も入れるとすぐに80万~フランくらいになり、住宅購入そのものが小市民には手の届き難いものになっています。そして、そもそも戸建てを購入できる施主層には、伝統的に建売住宅はあまり需要がありませんでした。

しかし経済危機とエネルギー価格の高騰が確実のこの時代。
理想のミネルギー・Pハウスが、従来住宅よりもずっと安く、建てられるとなると話しは別のようで、施主層からの反響は非常に大きいと、コープは発表しています。(もちろん、これまでにも平均よりも建設コストが安いミネルギー・P建築はあったのですが。)

この価格の裏には、コープがオーストリアの建売大手のELK社と組んで、ELK社が躯体を提供することになっていること。そして内装材や家電などはコープ系列会社が納入することになっていることなどがあります。スイスの従来の家にように地下室がなく、住面積も控えめという点も低コストに寄与しています。

スイスの生協コープは、有機農業の食品やオーガニックコットン製品の広範囲な販売で、先駆者的な役割を果たしてきました。そのミネルギー・P住宅事業が成功するかどうか。建材の産地やエコロジー性についての情報に欠けるので、環境性についてはまだ何とも評価できません。

ですが、これを刺激として、スイスの建設会社や建築家には、高級なミネルギー・P住宅ばかりでなく、シンプルで小さな、普通の収入の人のためのミネルギー・Pハウスも考えて欲しいものだと思いました。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エネルギー証明書で中古建築に透明性を

2009-09-15 00:01:04 | 建築

スイスはすっかり涼しくなり、薄手のセーターとジャケットが手放せない季節になりました。

今日は省エネ改修の更なる促進のために、スイスでもこの夏から導入された「州の建物のエネルギー証明書」の話です。Gebäudeenergienachweis der Kantoneと長い名前なので、通称GEAK証明書と呼ばれています。

「州の」と付くのは、スイスでは建物の省エネルギー化対策は州の管轄で、26州のエネルギー担当政治家や役人が集まって、これらの政策を決定・運営しているからです。

さてGEAK証明書は、建物の2つのエネルギー性能をA~Gに分けて表示します。

出展 :Extrablatt für HausbesitzerInnen und Hausbesitzer, Energie Schweiz

図の中の、左側の矢印が建物の暖房負荷を表し、断熱性能を評価します。

右側の矢印が建物の総合エネルギー消費量を一次エネルギーとして計算・評価した結果が示されます。そこには、暖房、給湯、照明、電気機器も含まれます。

新築のミネルギー・Pおよびにパッシブハウス基準がAクラス、新築ミネルギーがBクラス、法規制限値に従った新築はB~Cクラスに相当し、中古の従来的な建物は多くの場合C以下のクラスに相当します。対象は現在のところ、住宅や小規模なオフィスや学校に限られています。

日本の建物の性能証明制度とは異なるのは、GEAK認証の目的が、1990年以前に建てられた中古物件の不動産市場に透明性を与え、それにより建物の省エネ改修をいっそう促進することにある点です。対して、州のエネルギー法規が厳しくなった1990年以降に建てられた建物には、建設許可を得るために建物の暖房給湯負荷の計算の提出は不可欠になったため、このような証明がなくても、躯体の熱性能を知ることができます。

さて、GEAK証書の発行は、エネルギー庁がコーディネートして全国で開催されている講義を受けた認定専門官(大抵は建築家やエネルギーエンジニア)が、現場を訪れ、エネルギー需要量を計算し、それを住人が申告する実際のエネルギー消費量と比較して確かめます。GEAK証書は4ページの書類で、カラフルなラベルのほかに、具体的な省エネ改修のための推薦事項が記載されているそうです。

さらに施主にとって嬉しいのは、建物をレベルアップするための、具体的な省エネ改修のアドバイスが得られる点です。認定専門官に証書とは別に、「アドバイスレポート」を注文すると、各建物が必要とする省エネ改修の具体的な対策や手法、得られる補助金、省エネポテンシャルやコストパフォーマンスについて詳細に記載したレポートを作成してもらえます。

GEAK証書の価格は、証明書だけだと一戸建てが400~600フラン、集合住宅が500~800フランです。これに省エネ改修報告書をつけてもらうと料金が+αになります。施主が自分でチェックする目的で、オンラインで無料で計算できるGEAKライトもあります。

さて、このGEAK証明書の全国的な導入にあたって、エネルギー庁は年度内に1.5万枚の発行を目指して、8月3日より特別割引キャンペーンを開始。GEAK証明とアドバイスレポートを通常価格1200フランのところ、1000フラン割引で200フランで提供しました。省エネ改修を迷う施主層からの反響は絶大で、このキャンペーンは3週間で終了しました。キャンペーン費用は先日報告した景気対策費から出されています。このようにエンジニアや建築家にとってGEAK証明書は商売にもなるため、認定専門官の講座は大変盛況ということです。私の住むベルン州では電力会社が、顧客にGEAK証明書の発行サービスを提供し始めています。

話しを戻しますと、今回の割引キャンペーンの対象となったのは、1990年以前に建てられた建物で、過去5年間に総合改修を行っていない建物であること。そこからも1990年前の建物の省エネ改修がGEAKの狙いであることが分かります。また、住人側には過去3年分の電気と灯油の消費量をまとめ、設計図を提供し、建物検査を許可し、後日アンケート調査に協力することなどが求められます。

スイスではまだ任意ですが、EUでは2003年には導入が決定されています。ドイツの環境ジャーナリストである村上敦さんによると、ドイツでは今年より住宅と商用建築の両方に、求めに応じて表示することが義務付けられ、実施されているそうです。
対して、スイスでの義務化は2010年以降になりそうです。

しかし、村上さんもご指摘されるように、ドイツやスイスで省エネ改修がブームになったのは、やはり手厚い補助キャンペーンがあるからです。
GEAK証明自体に省エネ改修をどれほど促進する効果があるのかまだ分かりませんが、中古住宅の購入を考えている市民や企業にとっては、とても便利で重要な判断基準ができたということは確かです。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

11月6~8日は「国際パッシブハウスの日」

2009-08-05 15:35:23 | 建築

今日も引き続き、パッシブハウス基準関連のお知らせです。

1168日は「国際パッシブハウスの日」です。
ドイツやスイスでは、全国各地でパッシブハウス基準の建物のオープンドアデイが一斉開催されます。

各国のパッシブハウス振興会(IG Passivhaus)がオーガナイズしているイベントで、この会はパッシブハウスに携わる設計者や設備、建材や建設関係の企業がメンバーとなっている民間組織で、各地域ごとの部会から成ります。

スイスでは半官半民の省エネ認証制度ミネルギー連盟とパッシブハウス振興会が共同で、スイスのパッシブハウス基準である「ミネルギー・P・ハウス」のオープンドアデイを 1178日に開催します。75戸の実際に住んでいる住宅が解放される予定です。

目的は、広範囲な人々に地域の最寄のミネルギーPハウスを気軽に体験してもらって、お施主さんの体験や感想を聞き、その造りや機能、快適性を確かめてもらうこと。最寄の見学できる家はこんな風にインターネットの地図からも探せるようになっています。
http://www.toft.ch/

私も昨年のオープンドアデイで、私の住む村の医者K氏が建てたパッシブハウスを見学させてもらいました。パッシブハウス基準の躯体を光発電パネルとソーラー温水器、地熱ヒートポンプの組み合わせにより、通年するとエネルギー自給型の住宅でした。(素人の私には高価な地熱ヒートポンプは設備過剰に見えましたが。)お施主さんが、設計者がパッシブハウス研究会のアドバイスを受けながら設計を進めていった様子などを話してくれました。
その時に、私の住む農家の大家のおばあちゃんも一緒に行ったのですが、見学後、保守的な彼女が「新築するならこういう建て方が当たり前にならなくっちゃね」と言ったのには驚きました。

(写真:木造のK邸の外観と三層断熱ガラスによる大きな窓面のある明るい居間)

   

近い将来、日本が国際パッシブハウスデイに参加する日を楽しみにしています!

 

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする