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滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

ベルン州で100棟目のミネルギー・P建築

2010-12-06 14:36:50 | 建築


Quelle: Minergie®  クリステン邸

● ミネルギー・P建築、全国830棟

スイスには12年前に導入された「ミネルギー」という省エネ建築の認証基準があります。
誰でも知っていると言っていいくらい知名度が高い基準で、そこから人々が思い浮かべるイメージは、分厚い断熱材やコンフォート換気(熱回収型の機械換気設備)のある快適住宅といったとこでしょうか。住宅だけでなく、学校やオフィス、店舗など、様々な建物があります。

ミネルギーの中には数種類の認証基準があります。
省エネルギー性能に関しては、普及型の「ミネルギー基準」。こちらは新築市場の20%を占め、合計1.8万棟が既に建てられています。「ミネルギー基準」は今や珍しい存在ではありません。
対して、次世代型の基準が「ミネルギー・P」。こちらは新築市場でのシェアはまだ僅かで、現在830棟の建物が認証を受けています。
また、省エネ性能に加えて、建物の健康性と環境性を配慮する建物のための「ミネルギー・エコ」、「ミネルギー・P・エコ」基準というのもあります。

「ミネルギー・P」はドイツの「パッシブハウス基準」に相当するスイスの基準です。普及版のミネルギー基準には法規の規制基準が追いつきつつあるため、数年以内に、ミネルギーはミネルギー・Pに格上げされると言われています。というわけで、スイスの新築で目指すべき省エネレベルはミネルギー・Pなのです。

● ベルン州で100棟目、クリステン邸

さて、昨11月に人口100万人のベルン州で100棟目のミネルギー・P建築が認証を受けて、話題を呼びました。認証を受けたのは、エヴィラルド村にある4人家族クリステン家の木造一戸建て住宅です。11月中旬の時点で、入居2ヶ月目。ご主人のグレゴール・クリステンさんは、建物の快適性についてこう述べます。*

「私たちの住いの質は本当に期待通りのもので、部分的には上回っています。たとえば室内気候は思っていた以上に良好です。」*と、ミネルギー・Pの温熱環境と機械換気による新鮮な空気に、非常に満足されているご様子。また11月中旬まで、3日間を除いては暖房要らずで、外気が零度近くになっても、南側の大窓からの日射獲得と室内からの排熱で十分に建物を温かく保つことができたそうです。

クリステンさんは、高気密・高断熱な躯体のおかげで、11月に「夜の間も0.5度くらいしか気温が下がらない」*と語っています。夏の過熱防止対策として、窓面はしっかりと日除けできるようになっています。また、夏には建物の上部に排気口を用いて夜間通気し、室内を自然に冷却することができます。

● ペレットストーブ一台で全館暖かく

クリステン家では、暖房が必要な季節には159㎡の住いを、居間に据えられた一台の小さなペレットストーブだけで快適な温度に暖房できます。これはスイスの気候下では驚くべきこと、というか高度な省エネ建築ミネルギー・Pならではのことです。暖房熱は100%ペレットストーブ、給湯は通年すると80%を太陽熱温水器で、20%をペレットストーブからの熱でまかないます。

スイスでは全館温水暖房が一般的ですが、高度な省エネ建築のミネルギー・Pの一戸建てでは、居間の薪ストーブやペレットストーブで全館を暖める建物が少なくありません。そのような場合、給湯はソーラー温水器で行なう例が多いようです。グレゴール・クリステンさんも、自宅計画時にそのような事例を多数調査し、ソーラー温水器とペレットストーブの組み合わせで行ける、と納得したそうです。

ミネルギー・P化への追加コストは+3%

気になるコストは、クリステンさんよると、「ミネルギー・P基準を達成するための追加コストは総コストで約3%」*だそうです。これはクリステン邸を規制基準で建てた場合と、ミネルギー・P基準で建てた場合の比較です。この追加コストは比較的少ないケースと思われます。お施主さんも、このコスト追加分は中期的に暖房費がかからないことで回収できる、と述べます。さらに、クリステン家はベルン州のエネルギー・建設・交通局から、この家の建設に際して2.5万フラン(約210万円)もの助成金を得ています。

●  人気スポーツ選手のミネルギー&プラスエネルギー住宅

スイス人の女性シモーネ・ニッグリ・ルーダーさんは、オリエンテーリング競技で17回の世界優勝記録を持つ、国民的人気を誇るスポーツ選手です。彼女は生物学者ということもあって、環境活動に熱心で、有機栽培の食品メーカの広告なんかに出ていたりします。

その彼女の一家の自宅が、昨10月、ベルン州のミュンジンゲン町に竣工しました。こちらはミネルギー&プラスエネルギー住宅です。木造プレファブ工法のおしゃれなデザインの躯体には、環境や健康に負担の少ない建材が用いられ、ミネルギー認証を受けています。それに屋根材一体型の太陽光発電8.85kWを設置して、暖房・給湯・換気・家電に消費するエネルギー量の110~130%を生産するコンセプトになっています。


Quelle: Minergie® ニッグリ・ルーダー邸

 ニッグリ夫妻と子供の住まう建物は、住職一体型、広さは240㎡、トレーニングルームなんてのもあります。外から見ると箱ですが、南側の大窓と、室内の遊び心のある空間デザインが魅力的です。 間取りや室内の写真は下記のサイトで見られます。 http://www.minergie.ch/tl_files/download/Plusenergiehaus_luchliweg_objektdoku.pdf

● エコ建材づくし

この家を設計した建築家Dieter Aeberhard Devauxさんの資料によると、木造建築に蓄熱容量を与えるために、室内には石灰砂岩の
蓄熱壁を設けています。冬には南側の大窓から入ってくる日射がそれを暖めます。夏には、この大窓は庇と日除けスクリーンで守られています。また灰色のトウヒ材外壁には、背面通気層が設けられ、ファザードが熱くなるのを妨いでいます。

断熱材はスイス製のウール。U値は外壁が0.12(断熱材34㎝)、屋根0.15(断熱材27㎝)、窓全体0.85~1.1、床0.14(断熱材24cm)です。気密性0.4h-1。建物の表面積に占める窓の割合27.1% 使用した木材は国産材で、スイス国内で2分以内に育つ量だそうです。さらに室内には粘土塗量、漆喰塗壁などを用い、空気を汚さず、湿度を自然に調整できる建材を選んでいます。

● エネルギー消費量は約6000kWh、生産量は7400kWh

暖房と給湯は空気ヒートポンプ(通年パフォーマンス値JAZ3.47※)で行なっています。ですが電気を食うヒートポンプの負荷を減らすために、居間には薪ストーブがすえられています。熱交換式の機械換気設備には、夜間・昼間に使う部屋に応じて、ゾーン別スイッチがついており、熱損失を減らしているそうです。

このルーダー家の一年のエネルギー消費量は:
暖房 2025kWh
給湯 1119kWh
換気 340kWh
家電と照明 2500kWh(目標値)
合計 5984kWh
エネルギー生産量 7400kWh

というわけで、「計算上」はネット・プラスエネルギーです。もちろん住み手の室内温度の設定や家電の使い方によって、プラスエネルギー度は計算よりも上がったり、下がったりします。

● プラスエネルギー化への追加コストは+5~10%

建築家によると、ニッグリ邸がプラスエネルギーを達成するのに必要な追加コストは、+5~10%だったそうです。比較されているのは、この家をミネルギー基準で建てた場合と、ミネルギー基準をプラスエネルギー化した場合のコストです。普通の建物(規制基準)をミネルギー&プラスエネルギー化した場合との比較ではありません。

ただこのニッグリ邸は、建物の省エネ性能的にはミネルギー・Pには到らないようです。ここまでやるなら、模範生としてミネルギー・P・エコ認証を目指してもらいたかった、と勝手ながら思います。

(参照)ミネルギー連盟プレスリリース、* 出典:ミネルギー連盟プレスリリース



※ ヒートポンプ暖房の年間パフォーマンス値JAZ
年間パフォーマンス値JAZは、ヒートポンプ暖房を一年の気候変化の下での運転した場合に、周辺機器(地下水ポンプや地熱ポンプなど、空気弁)も含めた、システム全体でのパフォーマンスを表す値です(1kWhの電気で・・kWhの利用熱を作る)。対してCOPは、メーカーがヒートポンプ部分のみを水準化されたラボ条件でテストしたパフォーマンス値。前者は、ドイツ語ではJahresarbeitzahlでJAZ。英語ではSeasonal/Annual Performance Index (SPI/API)というそうです。スイスでは省エネ建築の資料ではヒートポンプ暖房システムの効率はJAZで表記されています。通常3~4.5。
参照:http://de.wikipedia.org/wiki/W%C3%A4rmepumpenheizung


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省エネ・エコ建築尽くしの一週間

2010-11-17 21:32:28 | 建築

省エネ&エコ建築視察ツアー

今週は、建築評論家の南雄三先生率いる省エネ&エコ建築視察ツアーを、東スイスの建築にご案内しました。26名という大グループでのハードスケジュールでしたが、何とか無事に視察を終えることができてほっとしているところです。ものすごい熱心さで耳を傾けて下さった参加者の皆様、オーガナイザーの皆様、スイスの建築家やお施主様、どうもありがとうございました。

今回の道中でも、日本では建築にもうすぐ省エネルギー対策が義務化されるが、まだそのレベルは決まっていない、という話が出ました。日本には、少なくとも次世代省エネ基準、できればそれよりも厳しい省エネルギーレベルに義務値を設定して、そこに向かって建設業界の教育キャンペーンを、大々的に繰り広げて行って欲しいものです。

「住宅建設・エネルギーメッセ」

スイスの側でも、先週は省エネ・エコ建築で盛り上がっていました。
まず首都のベルンで毎年の「住宅建設・エネルギーメッセ」が開催されました。この展示会は、もともと施主&地域の業界向けの「ミネルギーメッセ」として始まったもの。スイスの高度な省エネ基準であるミネルギー住宅や、省エネ改修に対応する建材、構造、建築家、再生可能エネルギー源が展示されています。メインの会場がホール2つという小さなサイズにも関わらず、展示内容が充実しており、手軽に最新情報を仕入れられるのが好評です。


Quelle: Focus Events AG

セミナー「プラスエネルギーハウスへの道」

また木曜日には、同じメッセの枠内で建設関係者向けセミナー「プラスエネルギーハウスへの道~基礎、定義、研究開発、国際的傾向」が開催されました。参加したのは建築家、国や州や市の環境やエネルギー関係の方々、エンジニアなど、国内外から240人ほど。様々なプラスエネルギーと呼ばれる建物がスイスで既に作られている他方で、プラスエネルギーの定義や方法については、まだ様々な意見の間で明確な決着がつかないことが分かりました。

また発表した建築家や技術者の間では、パッシブハウスあるいはミネルギー・Pレベルの断熱性能が安定して機能するプラスエネルギー住宅の前提だとする人たちと、それよりも断熱性能の低いミネルギーレベルでも新しい蓄熱・制御技術によりミネルギー・Pやパッシブハウスよりも少ないエネルギー消費量を達成できるとする人たちで意見が分かれていました。スイスでは前者がメインストリームのように思われます。

後者を代表するチューリッヒ工科大学のハンスユルグ・ライブウングード教授は、太陽光と熱を同時に集めるハイブリッドソーラーパネルと地中蓄熱、ヒートポンプ等の組み合わせによるCO2フリー住宅を発表していました。また彼はCO2フリー=ニュークリアフリーであり、チューリッヒ工科大学としてもそういう考えであると明言していました。

EUからは、ベルギー大学のカールステン・フォス教授が、現在進行中のネットゼロエネルギーハウスの定義について話しました。これも、どこで境界を引いてゼロとするのか、様々なエネルギー源の間での差し引きはどうするのか、といった点についてまだ決まっていないが、おそらく個々の建物ではなくネットゼロエネルギー地区、ネットゼロエネルギー都市といった方向に進むのではないか、という内容でした。

来春導入される新基準「ミネルギー・A」

それから、スイスの高度な省エネ建築を認証するミネルギー基準については、ミネルギー連盟から「ミネルギー・A」という新しい基準を来春に導入するという発表がありました。ミネルギー基準にはこれまで普及型のミネルギー、次世代型のミネルギー・P、ライフサイクルにおける環境と健康に配慮したミネルギー・エコ基準の3種類があります。現在ミネルギーは新築の25%を占めます。パッシブハウス、あるいはミネルギー・Pが随分と珍しくなくなってきた今日、間もなくミネルギーがミネルギー・Pに格上げされる予定です。

そのような中、「ミネルギー・A」(アクティブ、アドバンス)は次の次世代基準として位置づけられています。この基準では、ミネルギーの省エネ性能に加えて、建物の建設にかかるグレーエネルギーに制限値が設けられます。同時に、ようやく家電のエネルギー消費量への制限値も加わります。そして暖房・換気・給湯に関しては、再生可能エネルギーによる自給、ゼロ化が求められます。しかし家電エネルギーに関しては太陽光発電によるゼロ化は求められないといいます。大規模建築でも達成できるように、という話でしたが、真相は謎です。
最終的にミネルギー・Aがどのような基準としてデビューするのか、来春のお楽しみです。


短信

●ミネルギー・Pとパッシブハウスのオープンドアデイ
11月13~14日には、ミネルギー連盟とパッシブハウス振興会が共同開催する毎年恒例の「国のミネルギー・Pの日~オープンドアデイ」が実施された。全国各地にある830のミネルギー・P建築のうち、160棟が門戸を開放。来訪者には、施主や建築家が説明を行ない、ミネルギー・Pを気軽に体験してもらう。下のサイトからパンフを見ることができる。
http://www.toft.ch/(オープンドアの家のリスト)
http://www.minergie.ch/bildgalerie.html#tage-der-offenen-tueren(オープンドアデイの様子の写真)

●学生によるプラスエネルギーハウスの祭典~ソーラーデカトロン・ヨーロッパ
2010年夏にマドリッドで開催された、学生達がプラスエネルギー建築の性能を競う「ソーラーデカトロン」の様子が上記セミナーで報告された。予選を勝ち抜いた19の大学の学生チームが、実際にプラスエネルギーの住宅を建設し、その建物に10日間住んでいる状態で展示・評価が行なわれる。評価の対象は、エネルギーパフォーマンスやデザイン、経済性、快適性、構造、ソーラーシステム等の10項目。74㎡の2人用住居、プラスエネルギーのコンセプトが条件だという。今年第二位になったドイツ、ローゼンハイム専門大学の学生達の「IKAROS」プロジェクトは、担当者のマティアス・ワンブスガンス教授によると、10日間の間に508kWhの余剰電力を電力網に供給、そして「ベスト快適性賞」」「ベストエネルギー効率賞」「照明賞」などを獲得した。また熱いマドリッドの気候下で冷却を行ないながらの、快適性とプラスエネルギー化は大変興味深い。同教授によると、参加には最低でも120万ユーロはかかるが、2年間に渡りプロジェクトに携った55人の学生にとっては最高の学習効果があったそうだ。ソーラーデカトロンは、奇数年はワシントンで、遇数年はマドリッドで開催される。
http://solar-decathlon.fh-rosenheim.de/projektdetails/ (IKAROSプロジェクトの写真やヴィデオが見られます)


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2010年度スイスソーラー大賞は、プラスエネルギー建築目白押し

2010-10-10 16:22:40 | 建築
朝から霧がかかって、昼間も霧が晴れない日が続きます。
庭のダリアがまだ元気に咲いていても、初霜の降りる日はそう遠くはないと感じます。

私は来週から講演会のために日本に帰国します。
帰国前の最後のブログ更新は、9月に発表された2010年度スイスソーラー大賞を授賞した建物たちについてです。

プラスエネルギー建築部門で3住宅、ノーマン・フォスター・ソーラーアワード部門で3建築。計6棟のプラスエネルギー建築が、今年度のソーラー大賞を授賞しています。 いづれも、ミネルギー・Pレベルの断熱・気密性能を持つ躯体と、高効率な家電や照明、再生可能な熱源の設備に、太陽光発電を組み合わせています。それにより消費するよりも多くのエネルギー量を生産する家たちです。この消費量には、暖房・給湯だけでなく、コンピュータや家電や調理、照明など全てのエネルギー消費が含まれます。

まず、プラスエネルギー建築部門での授賞作品の中から二軒を紹介します。表彰ではプラスエネルギー度が%で示されているのが面白い点です。

改修:ヴァドゥッツ市の戸建てO邸、182%
築57年の労働者住宅を省エネ改修。外壁には27センチの断熱強化、窓は三層断熱窓と交換。これまでの総エネルギー消費量(暖房・給湯・電気)を86%減らし、7000kWhに下げた。そして屋根材として使っている太陽光発電パネルが年12700kWhを生産する。プラスエネルギー度は182%。
ごく普通のどこにでもある住宅のシンプルな省エネ改修により、高度なプラスエネルギー度を達成していることが評価された。
写真はこちらの建築家のサイトで見られます。

http://www.lenum.com/plusenergie/index.htm



新築:フォーデムヴァルド村の戸立てB邸、164%
新築のミネルギー・P建築で、外壁の断熱材は33~43㎝。屋根材として使われている出力14kWの太陽光発電パネルが12550kWhを生産。暖房・給湯はヒートポンプで行なっており、これが年3050kWhを消費している。余剰分の年4890kWhを売電。プラスエネルギー度は164%である。 スイスのプラスエネルギー建築には、太陽光発電+ヒートポンプ暖房という組み合わせが多い。


Quelle: Minergie
®

対して、英国の著名な建築家ノーマン・フォスター氏の名を頂いたノーマン・フォスター・ソーラーアワードのうち、興味を持ったのが下記の2件です。

新築:ベンナウ村の集合住宅「発電所B」、110%
ミネルギー・P・エコ基準で建てられた7世帯の入る集合住宅。外壁の断熱材の厚さは44cm。一年の総エネルギー消費量は62000kWh。南側のファザード材として146㎡の太陽熱温水パネル、屋根材として32kWの太陽光発電パネルを用いる。余剰分の太陽熱のうち10000kWhは隣接する建物に供給、太陽光電力のうち7000kWhは売電する。プラスエネルギー度は110%である。
 

Quelle: Minergie
®

改修:グリュッシュ村のツュスト社オフィス、112%
住宅設備設計事務所ツュスト社のオフィスは、築100年の納屋をオフィス建築に改修したもの。改修後の断熱性能はミネルギー・P基準を達成する。屋根材としては出力22kWの太陽光発電パネルを利用し、17830kWhを生産。さらに5㎡の太陽熱温水器で3200kWhの温水を生産。総生産量は21030kWh。需要量は18683kWhである。同社の社員数は昨年倍増して15人。それでも112%のプラスエネルギー度を達成しているのは見事である。


Quelle: Minergie
®

どの授賞作品も、屋根材一体型の太陽光発電パネルの収まりが綺麗です。
また授賞建築の中で4軒は一戸建てでした。これは住人数に対する屋根面積が大きいためプラスエネルギーを達成しやすいためだと思います。中には巨大な一戸建てもあり、プラスエネルギーを達成している自然建材の家でも、これはエコロジーと言えるのかな?と疑問を持つ家もありました。
そういう意味で、小さなオフィス建築や集合住宅でプラスエネルギーを達成している上記の二軒は、高く評価されるべき例だと思いました。

2010年度スイスソーラー大賞のパンフレットを下記からダウンロードできます。
他部門で授賞した建築作品の写真も見られます。

http://www.solaragentur.ch/dokumente/G-10-08-18_Solarpreispublikation_kleinsteDatengroesse.pdf?PHPSESSID=d0b7030eca94689d08306a676b19ee57



それでは、11月にスイスに戻りましたら、またご報告しますので、時々覗いて見てくださいね!



短信

● 来年からスイス産、圧縮空気車の製造開始
スイスのCatecar㈱は、来年3月よりレコンビリエ村で圧縮空気車の製造を開始することを発表した。一年以内に月150台の生産を目指す。第一号のモデルは、「Airpod」と呼ばれるミニカー。重量250kgで、都市部での移動や輸送の市場を狙う。走行距離は200km、最大時速は70km、価格は約100万円程度。この車は、フランスのMDI社が開発した圧縮空気モーターを用いて、圧縮した空気を動力として動く。圧縮空気は電力で作られるため、圧縮空気が一種のバッテリーとなっている。自動車メーカを持たないスイスだが、同社の空気自動車が、本当に生産に漕ぎ着けられるのか、今後注目したい。
http://www.catecar.ch

 ●再生可能エネルギーはドイツのジョブモーター
ドイツの環境省の新しい調査によると、ドイツでは昨年、再生可能エネルギー源からの電力・熱・燃料の生産分野で、34万人分の雇用があった。これは2004年の数の二倍であり、これまでの予想を大きく上回るという。太陽光発電の分野では2009年度6.47万人、太陽熱温水気の分野では1.59万人、バイオマス分野で12.84万人、風力分野では10万人が働く。調査では、控えめなシナリオでも2030年までに、ドイツの再生可能エネルギー分野での雇用は50万人に上ると予測されている。

www.bmu.de


 ●ヨーロッパ最高峰の風車パーク
アルプスの標高2332mのギュッチュには、8年前よりヨーロッパ最高峰の風車が運転されている。先週、これに2基の風車が追加され、小さいながらヨーロッパ最高峰の風車パークとなった。風車には、突風が吹く厳寒地域に適したEnercon社のE-44というタイプが選ばれた。高さは55m、風車の半径は44m、出力は各900kWだ。運転するのは地元の電力会社Ursern電力。三基合わせると、年325万kWhを発電し、1部はチューリッヒ市の市営エネルギー会社などに売電される。この地域では、今後も、近くの山地に2基の風車建設が計画されている。スイスでは、フィードインタリフにより今年度の風力の発電量が倍増、72GWh(2万世帯分)を生産する。

www.ew-ursern.ch



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センパッハ鳥類研究所の木造&省エネ新オフィス

2010-07-20 14:48:25 | 建築
スイスもまだ暑い日が続いています。日中は暑い空気を室内に入れないために窓を閉めているため、涼しい風の入る夕方が待ち遠しい毎日です。夕べには窓からコオロギの声と牧場で眠る牛のカウベルの音が聞こえてきて、スイスの夏の風情を感じさせます。

先日、中央スイスのナーサリーに植物を選びに行った帰りに、センパッハ鳥類研究所のオフィス建築に寄りました。この建物は、ルツェルン州で初のミネルギー・P・エコ認証を受けたオフィスビルで、木造プレファブパネル構法の三階建て。昨年の秋に竣工しました。

中庭を囲むようにL字型に2つの真っ赤な箱を並べた形をしています。 5000㎡の室内は、大空間オフィスやカフェテリア、ラボ、セミナールーム、図書館、倉庫などに利用されています。木造3~4階建てのオフィスや集合住宅はスイスでは珍しくはなくなりましたが、ミネルギー・P・エコの木造高層オフィスはまだ多くありません。

センパッハ鳥類研究所は80年の歴史を持つNGOで、80人の研究員のほか、数多くのボランティアと共に、鳥類の研究や調査を行なっています。スイスでは知名度も、評価も高い団体です。その研究所が次の100年に備えて新築したこのオフィスでは、2000W社会のビジョンを追求すべく、「ミネルギー・P・エコ基準」が選ばれました。



「ミネルギー・P・エコ」とは、スイスの省エネ建築基準の「ミネルギー・P」と、エコロジー建築基準の「ミネルギー・エコ」の両方を満たす建物のことです。今のところ「ミネルギー・P・エコ」は、スイスでは最も高度な省エネ・エコ性能を持つ建築の認証基準となっています。しかし認証作業に手がかかるため、まだスイスでは83 棟しかありません。ちなみに「ミネルギー・P基準」は682棟、普及型の省エネ建築の「ミネルギー基準」は1.7万棟あります。

まず、ミネルギー・Pはドイツのパッシブハウス基準に相当するスイスの基準です。オフィス建築では、暖房・給湯・換気に必要とするエネルギー消費量の制限値が25kWh/m2年です。その他、照明、オフィス機器にもトップ効率の機器が求められますし、気密性能もパッシブハウス基準と同様の性能が求められます。

センパッハ鳥類研究所の新オフィスでは、U値(W/m2K)は、外壁が0.09、屋根が0.10、窓が0.63~0.84、地下室(非暖房)に対する床が0.13、地面に接する床が0.22となっています。

またミネルギー・エコ基準は、ライフサイクルに渡り健康と環境に害のない建築を認証する基準です。同研究所では、例えば建材はFSC認証を受けたスイス材と南ドイツ材で、出来る限り地域の建材を選んでいます。

同オフィスは設備面では、熱交換式の機械換気設備の給気を、地下に敷いたヒートチューブを通して取り入れています。ヒートチューブの数は34本×30m(!)だそうで、冬の間に給気を暖めるだけでなく、夏の間に穏やかに給気を冷やす効果も狙っています。また暖房設備は低温床暖房を使っており、この冬は非常に快適だったとか。床暖房の設備は夏には必用があれば高温床冷房に使うことができます。

熱源は木質バイオマスのチップボイラーを使っています。これは小規模な地域暖房として、隣の敷地に新築された集合住宅地と共有しています。そして最後に屋根の上に設置出力20kWの太陽光発電が年間約1.9万kWhを生産する計算です。



コスト面では㎥あたり約600フラン、総額1400万フラン(約11億4800万円)。その半分以上が州、スポンサー、様々な基金、市民からの募金により出資されたそうです。

年1万人の来場者があるというセンパッハ鳥類研究所。その新オフィスは、スイスの鳥類保全・研究活動の中心地としてだけではなく、市民への環境教育の場としても重要な役割を果たしていきそうです!



こちらで、建設の様子が見られれます。
http://www.vogelwarte.ch/home.php?lang=d&cap=thema&subcap=seerose&titel=Ein%20neues%20Nest%20f%FCr%20die%20Vogelwarte#fortschritt


短信

●6月にビオシティ45号「遊びのエコロジカルデザイン」が発売されました。
拙筆の記事2本「スイス・モビリティ~国全体をスローツーリズムのパラダイスに」と「柳の建築~遊びのソーシャル・エコデザイン」が掲載されています。どうぞご覧になってみて下さい!
http://www.biocity.co.jp/



●また、日本初のパッシブハウス認証を受けた住宅「鎌倉の家」(設計:キーアーキテクツ)についての共著記事が、スイスの建築雑誌TEC21と雑誌「再生可能エネルギー」で掲載されました。スイスの人たちからも日本のパッシブハウス建築の動向は注目されています。
http://www.ee-news.ch/index.php?option=com_content&view=article&id=1502:das-erste-passivhaus-in-japan-wuestenblume-oder-pionierpflanze&catid=14:news&Itemid=34


チューリッヒ在住の近自然学の専門家である山脇正俊さんが、スイスの森林官ロルフ・シュトリッカーと共に日本各地で9月末~11月にかけて講演会を実施するそうです。近自然の森作りや木質バイオマスエネルギー利用の話なども期待できそうです。
http://web.me.com/masatoshiyamawaki/homepage/info-jp.html


ニューヨーク在住のファッションビジネスコンサルタントの田中めぐみさんが、昨年「グリーンファッション入門」という本を出版されました。学生への教科書として考えられただけあって、フェアで環境負荷の少ない、サステイナブルな衣料産業のあり方について、体系的、総合的に解説されており、お勧めです。 http://www.senken.co.jp/book/respective/m_green.htm



ベルン州にあるミューレベルグ原発は40歳近い高齢原発ですが、昨年末スイスの環境交通エネルギー通信省より、無期限の運転許可を得ています。その安全審査書類がが、他の原発の書類とは異なり、なぜか一般公開されませんでした。それに対して、市民が告訴、国立行政裁判所で勝訴しました。しかし隠さねばならなかった理由は、まだ分かっていません。ミューレベルグの無期限運転の取り消しを求める団体を支援する委員会には、原発利用に反対し、既に脱原発しているジュネーブ市も参加しています。
http://www.ee-news.ch/index.php?option=com_content&view=article&id=1513:bahnbrechender-erfolg-der-muehleberg-gegner&catid=14:news&Itemid=34

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省エネ改修にUBS銀行がキャッシュボーナス

2010-05-26 00:45:25 | 建築
ここ数年、サブプライム問題に巨額ボーナス議論等、聞こえの良くないニュースが続いているスイスのUBS銀行。
先日、私用でUBS銀行に出かけた折、待ち時間の間、住宅融資に関する展示物を眺めていました。そこで目に留まったのが、同社で今月から開始された省エネ改修へのキャッシュ・ボーナスというキャンペーン
CO2税の還付金を利用
する、面白い内容だったので紹介します。

まず背景を少し。スイスでは2008年度より灯油にCO2税が課されています。初年度は100ℓあたり3フラン(約240円)から始まり、今年は9フラン(約720円)に値上げされました。こうして集まったお金の1部は今年よりスタートした省エネ改修補助プログラムに使われ、残りは全世帯と企業に一律額が還付されます。また、政府系機関と省エネ協定を結んで、計画通りに省エネが進む企業はCO2税が免除されます。

企業へのCO2税の還付は今年が始めてだそうで、UBS銀行には計400万フラン(約3億2千万円!)が還付されるそうです。それを同社では、省エネ改修の融資を受ける顧客にボーナスとしてあげますよ、というのです。一世帯あたり最高8500フランをキャッシュでプレゼント。省エネ改修大ブームの今、改修市場で顧客獲得するための戦略です。

UBS銀行の省エネ改修ボーナスで面白いのは、改修により省エネ度が上がるほどボーナスも上がる点。その判断の基準となるのが、建物エネルギー証明書(GEAK)による等級です。スイスの建物エネルギー証明書(GEAK)は、建物の躯体の断熱性能と、設備や家電を含めた一次エネルギー消費量の2つの項目について、それぞれA~Gの7等級に建物を分けています。Aが最高、Gが最低です。

それでUBSの省エネ改修ボーナスでは、建物エネルギー証明書による改修前の等級と改修後の等級の差が大きいほど、ボーナス額も高くなります。例えば、等級差が1の場合は2500フラン、4の場合は8500フランです。また躯体と総合性能の2つの項目のうち、等級差の大きい方が採用されます。

例えば躯体性能がDからBへ、総合性能はDからCへ上がった場合には、2等級差となり、4000フランがもらえます。これなら、施主はエネルギー証明を作成して、頑張って良い等級を取ろう思います。建物の種類によって、実施可能な対策は異なりますから、躯体に重点を置く顧客にも、再生可能な設備に重点を置く顧客にも、両方に配慮したかったのでしょう。

こういう条件では、顧客は建物のエネルギー証明書をまず作らなければなりません。おそらくUBSがボーナスを出す意図には、融資客に建物エネルギー証明書を作らせることにあるのではないかと思います。建物エネルギー証明書のアドバイスレポートには、何を行なえばどんな省エネ効果が得られ、どの等級を達成できるかが明確に記載されています。

エネルギー証明書を作ることで、持ち家主は、初めから総合的に省エネ改修を計画するようになります。顧客が高いレベルのエネルギー等級を目指すほど、建物の抵当権を持つ銀行にも興味深い物件となります。

他の銀行では、ミネルギー基準への改修(A~C等級)には、低利子融資を行なうなどしていますが、このようなキャッシュボーナスは始めて見ました。なんか民間版エコポイントみたいですが、現金ですし、また対象となる省エネ改修の成果は日本のエコポイントよりもずっと厳しくチェックされていると言えるでしょう。(省エネ改修を行う際も、法規で義務づけられているU値を満たさねばならないためです。)

というわけで、UBS銀行の少しだけ明るいニュースでした。


★スイスの建物エネルギー証明書★
スイスの建物エネルギー証明書(GEAK)は、各州で登録された専門家が、実際に建物を訪問して集めたデータと、施主が提供する資料を元に作成します。

主に二種類あって、
①通常の「建物エネルギー証明書」には、証明書と対策概要がついています。
②対して「建物エネルギー証明書プラス」は、細々としたアドバイスレポート付き。対策バリエーションと優先順位、コスト概算が明記され、何をするといくらかかり、どれだけ等級が上がり、どれだけコストが節約できるかが良く分かります。

前者の作成費は400~600フラン(3.2~4.8万円)、アドバイスレポート付きだと1500フラン(訳12万円)くらいかかります。アドバイス付き建物エネルギー証明書には、州によっては1000フラン(約8万円)くらいの補助金を出しているようです。

いかに州が、行き当たりばったりでない、総合コンセプトに基く省エネ改修を重視しているかが分かります。

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