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平成末期に昭和の本読み

2019年04月26日 | 読書
 この頃、「問題意識」という語をなんとなく多用している気がしたからか、古本屋で背表紙を見てすぐ、思わずカゴにいれてしまった。扇谷正造という人の顔は昔TVで何度も観ている。しかし著書を読んだことはなかった。家で開いてみたら、なんと(いや、やはりか)「昭和」の本だった。エッセイ、書評集である。


2019読了41
 『街に学ぶ~問題意識とは何か』(扇谷正造  グラフ社)



 奥付に発刊年月日がなかったので読了後検索すると1987年つまり昭和62年刊だった。バブルが始まった頃だ。「リッチな十二歳」という頁は、当時の「日本人の評判が芳しくない」ことから、ある米国人が日本人をそう揶揄したとして紹介してある。その12歳から30数年経ち、我々はどんな姿になったと言えるのか。


 リッチとは物質的な意味と絡ませ「ブクブクふとった姿を連想させる」と書いている。時代の流れに沿うと、現在の姿はみすぼらしく不健康な中高年のイメージか。そう想う原因がいくつか浮かんでくる。政治経済的な理由は持ち出すまでもないが、個々の人間の精神面が連動するように、不健全な「成長」を遂げた。


 この本の中心をなす第二部「問題意識とは何か」は、「第〇講」と章立てされている。「時間にツメを立てろ!」「空気にツメを立てろ!」「聞き上手のすすめ」「アイデアは『現状否定』から」等…自己啓発本にありがちなタイトルは、昭和の頃から不変のようだ。それは結局、人格形成の課題も不変ということと言える。


 「ツメを立てる」は慣用句として「逆らう、抵抗する」の意味がある。時間に逆らうことはできないが、時間に振り回わされずに有効活用を図る意味だろう。また空気にツメを立てるとは、情報をいかにキャッチして発想していくかと捉えられる。つまり、時間と空間を把握して、己の位置を確かめることが問題意識だ。


 書評では一人の学徒兵の日記が紹介されている。著者自身の思いが重なるとみると、昭和18年という時からして暗示的である。「5月27日 バスが走る。電車が走る。彼等は叩かれた馬車馬のごとく、あわただしく走つて行く。そして走ることの忙しさのために人間を運搬するといふ重大目的を忘れてしまつたかのごとく。