すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

ヒト・人の非力を想う読書

2024年09月29日 | 読書
 Re71『確かなリスの不確かさ』(ドリアン助川 集英社)は、講演と朗読の会があると知り、事前に読んでおきたいと買い求めた。「動物哲学物語」と題され、21のストーリーが入っている。動物の生態と哲学を絡ませてつまるところ人間を描く。会で朗読された「絶滅危惧種」はアホウドリの話だが、その種とは、実は…。



 冒頭の「クマ少年と眼差し」は、今私たちが直面している問題とも重なり合って、なかなかに心迫るものがあった。第20話の「飛べない理由」はコウテイペンギン。わずか十数ページで語られるにはあまりに過酷な生態だと入れ込んでしまった。もちろん「物語」に違いないが、ヒトのあまりの非力さを改めて感じた。


 Re72『すべてきみに宛てた手紙』(長田 弘 ちくま文庫)は、新聞等へ書かれたエッセーがまとめられた一冊。2001年刊で一昨年文庫化されている。いつもながら、箴言の宝庫である。いつ読んでも何かしら教え諭されるような気がする。読書や絵本のことは定番であり多いが、珍しく「教育」に関して言及している。


 「教」と「育」について、もとめるものの違いは多くの人が述べるところだが、こんなふうに言い表していることは新鮮だった。「『育てる』「育てられる」がいつか教育の意味をもたなくなって、社会になくなったものは未熟さというものに対する自覚です」。教育が「人生の容易さ」へ貢献することで、人間は軽くなった。

 
 先の講演会の著者コーナーで展示があり購読したRe73『線量計と奥の細道』(ドリアン助川 幻戯書房)。東日本大震災の翌年に、東北から北陸、関西まで蕉が歩いた道筋を自転車等でたどった紀行である。実際に歩かなければ書けない醍醐味を感じた。身体的な辛さや目的に対する悩みも吐露され、共感して読んだ。

長月彼岸の頃日記

2024年09月23日 | 雑記帳
9月17日(火)
 今日は十五夜だが天気は良くないらしい。明日からの読み聞かせの下読みや準備をする。お昼はシーズン最後になるか、冷やし中華を食する。10日目を迎えた大相撲は、霧島の不甲斐ない立ち合いで大の里がぐっと優位に立った。今晩から祭典のサイサイ(祭り囃子)の練習に孫が参加するという。どうなることやら。




9月18日(水)
 午前中は今取り掛かっている原稿の手直しをする。やはりプリントアウトして紙面でみると作業しやすい。午後は山間部へ。だいぶ涼しくなってきているのがわかる。高瀬小上学年への読み聞かせは落語絵本『平林』『星につたえて』。読みこなしてはいるが字が小さく見えづらさが募ってくる。さあ、どうする。


9月19日(木)
 午前中は羽後高校2年生で保育の授業。読み聞かせの話と実演をする。面白い選書があって刺激を受ける。この世代にも絵本を親しんでほしい。帰宅して昼食をとってから、午後は羽後明成小5年生へ。絵本は昨日と同様になんとかやりきる。大相撲で若隆景が大の里を破る。意地を見せた勝負。最後まで楽しめるか。


9月20日(金)
 朝の雨が酷く、登校は送っていくらしい。祭典時の天気が心配だ。午前は原稿の手直しを少しして、来週からのこども園、学校の読み聞かせ選書と準備をする。大谷翔平が今日の試合で「50-50」へ、と思ったら「51-52」に到達したらしい。10打点とは何事か。政党内の選挙のつまらなさを吹き飛ばしてくれる


9月21日(土)
 天気予報通り雨が降り続く。祭典でこんなに降るのは記憶がなく残念だ。それ以上に能登の方々には同情を禁じ得ない。午後3時過ぎ、降りしきる雨の中、地域の方々のお世話に頼って、孫がサイサイで太鼓を頑張って叩いていた。来年は出来ないとのことで、いい体験になっただろう。夕方からは皆集まり、小宴。




9月22日(日)
 昨日の酒が残っていて、今日一日は全体(笑)。朝から花火(狼煙)が何発も打ちあがるが雨は止まない。ごろりと横になってテレビを見る。相変わらず政治家たちのPRが続くが、いったいどれくらいの人が信頼して聴くのだろう。撮りためておいたドラマや映画などを観て一日過ごす。久しぶりのノンアルデーとした。

話題の場所で多様性を聴く

2024年09月17日 | 雑記帳
 「話題」とは、「全国最年少市長誕生」ということ。むろん、といって半月も経ずに何かが変わるわけはない。街を見れば、以前感じた「ここも隣市と同じシャッター通りが続くなあ」という表現はそのまま当てはまる。ただ市民が託したい何かが、その場所の空気を少し揺るがすかなと、かなり文学的な想いは浮かんだ。




 ところで訪れた9月15日は、名優樹木希林の七回忌。目的の図書館主催講演会で、講師のドリアン助川氏が語った。小説『あん』の作者で、映画化されたことで深く付き合うようになったという。それまで映画祭などに興味を示さなかった樹木希林とともに、カンヌやウクライナに出向いた時の写真が興味深かった。


 今回は、彼の朗読が聴ける機会であり非常に楽しみにしていた。結果的に、取り上げられた最新作『確かなリスの不確かさ』(全21話)中の1話のみで終わり、少し残念。ただ、さすがに鍛えられた声、緩急の表現法は見事だった。講話時の発声とは明らかに違い、物語世界へ聴者を呼び込む空間は非常に心地よかった。


 講話のテーマは「組み合わせから始まる多様性」。自身の子ども時代から現在に至るまでの、特に仕事上のエピソードを入れ込みながら「わたしは鈍い、受身の人間である」しかし「組み合わせからの創造に活路を見出してきた」と語った。平凡な言葉ゆえに意味は深い。また汎用性も広い。老化する頭に刺激となる。


 教えている学生らに訊くと一様に「社会で役に立つ人間になりたい」と返答があると語った。人間原理、生命原理という思想によって、その矮小性を指摘していた。論理は難しかったが、真っ当であり模範的な返答は、自己存在をあまりに社会との関係で意味づけるよう教育された結果ではないか、と哀しくなった。

読み手は「自分」を確認したい

2024年09月09日 | 読書
 SNSやブログなどを通じその動静などを知る実践者や研究者が、今でも数人いる。発信する中には本の紹介もあり、選書の参考にしている。今回、たまたま自己啓発系?の2冊があり読んでみた。お薦め本にはやはり読み手の個性が出る、という当たりまえのことに気づく。生き方や学び方の確認は読書の大事な要素だ。



 Re69『コロナの時代の暮らしのヒント』(井庭崇 晶文社)。書名でわかるように2020年9月の発刊であるが、内容自体は今でも十分通用する。先行き不透明な時代にあって生活をよりよくするために、「いろいろな分野で見出されたコツ・秘訣」が32並ぶ。パターン・ランゲージという方法によってまとめられた。


 現実との向き合い方、発想の転換、提案、工夫等々、著者が実践していることを含め、豊富な例がある。個人的にピピッと来たのは「13 どの未来が来ても大丈夫なように、《未来を織り込む》」「25(略)《貢献の領域》がどこにあるかを考えて行動に移す」の二つ。これらは現状を冷静に把握し、希望を持つために必要だ。


 Re70『続ける思考』(井上新八 ディスカヴァー・トゥエンティワン)は実に有りがちなタイトルだ。しかし、中味には力が籠っている。「ある日、わたしは気づいた。わたしの趣味は『続ける』こと」という一節は興味深い。趣味とは一般的に「個人の趣向」を意味するが、こうなると哲学いわば「美的判断力」に近い。


 著者が箇条書きした「続けていること」は26あり、その大半が「毎朝」となっている。常人には真似できないようだが、挑戦したい?読者のためにヒントも多い。自分に引き寄せ、何かを発起してやるとすれば、次の二つは肝要だ。「記録する」「意味はあとからわかってくる」…「ただ続ける」という心境は奥が深い。


いい本に出合えて、初秋

2024年09月07日 | 読書
 先月から結構な時間をかけて、風呂場読書をした一冊Re67『大事なものは見えにくい』(鷲田清一 角川ソフィア文庫)。新聞などに掲載したエッセイがまとめられている。ページの角を折る箇所が多かった。今、取り掛かっている書き物にも引用したい部分がいくつかある。10年以上前の本だが古さを感じさせない。


 例えば子育て、例えば介護、人と関わることの基本にはどんなに社会が変化しようと、蔑ろにはしてはいけない芯がある。「じぶんがていねいに、そして大事に扱われている、そういう体験こそが…」「『じぶんもこんなになりたい』とおもえるかどうか、そこにこそ…」…他者へ向ける眼差しが持つ心がけの重さを知る。。


 俳優の岸部一徳を取り上げた「脇役」という項目は、ドラマ好きで俳優に詳しい(笑)自分も納得した文章だ。言われれば岸部は「語りのテンションもリズムも声量も一本調子。(略)が、なんともいえない味がある。ありすぎる」それを著者は「『反物語』性」と説いてみせた。割り切れない、嚙み切れない役が似合い過ぎる。





 こちらは寝床読書。Re68『ひとが詩人になるとき』(平川克美 ミツイパブリッシング)。個人的な流れで今この本に出合うのかと感じてしまった。古希近くの読者に「詩とは何か」「何のために書くか」を改めて突き付けてきた一冊。今まで読んできたこの著者の本ではあまり意識しなかった詩情が、実は皆に潜んでいたのか。


 「子どもが生まれ、その名前を考えるとき」人は「言葉に真剣に向き合う」とあり、そこで誰しも「人生に一度は詩人になる」という件が面白い。自分が拘ってきた一つに「名づけ」がある。既存のことも含めて考えていたが、「今まさに生まれようとしているもの」に目をつければ、詩の本質に近づくということか。

怖さ?は心惹きつける

2024年09月05日 | 絵本
 「怖い」絵本をテーマに考えてのこども園読み聞かせ選書だったが、結局それなりになってしまった。子どもの怖がる対象は様々だろうし、まして個々の心もそれぞれだから…と諦めて、評判の高い本や名作を中心に選んでみた。切りだしは、以前語って面白かった仕掛け絵本。やはりこうした動きがあるのはウケる。



 近づいてくるおおかみを、ページめくりを利用して阻止しようとするが、なかなかしぶとい奴で、最後に直前まで迫られ…という展開。どこでも人気が高く、最後の園ではリクエストに応えてもう一度演じた。注意しなければいけないのは、スムーズにページをめくること。手の巧緻性が落ちてきたかなあとやや不安(笑)


 続いて大型絵本で2冊を読む。『へんしんオバケ』『へんしんトンネル』。これは後者の方が評判はいいのだが、実は「オバケ」からの続きパターンになっている。だから2冊重ねて提示し、終わったらすぐ「トンネル」に移る箇所が、子どもたちには新鮮に思えたようだ。どの園でも、声が出て楽しい雰囲気になる。




 モニターを使って大きく紹介する絵本の一冊目は『おそろしいよる』。これは小学校低学年でも読んだときがあり、なかなか素敵だ。暗くなり、怖い者が近づいてくる場面では、声の調子で雰囲気を出せる。そして最後のオチも鮮やかである。「結局、一番こわいのはママだっていう話だよね」というまとめも定番になった。




 最後は『もりのおばけ』という、やや古典的な絵本。兄弟でかけっこ競争し、早く着いた兄が森の中でおばけに追われる。シンプルな筋、モノクロトーンの画と一見地味に思えるが、「この本が好き」と声を出してくれるこどもが結構いた。怖い気持ちかどうかは別に、心を惹きつける要素が盛り込まれているはずだ。



八月は、ひろがる虹で

2024年09月01日 | 雑記帳
 去年も暑い8月だったが、今年はとうとうエアコンをつけずに寝る日が一日もなかった。データはわからないが、蒸し暑さがずっと続いた感じがする。それでも生き物は正直なのか、盆踊りの終わる日を待ち構えていたように秋の虫が鳴きだしていた。気象に関する状況がどうであっても、ここで生きるというように。


 パリ五輪のことはちょっとだけ書いた。正直あまり印象深いことがなかった。誰の顔が忘れられず残っていくのだろうか…メディアによる軽重のつけ方で左右される気がするし、今はなんとも言えない。ただ、チームプレーが求められる団体競技が、ことごとく今一歩だった。大雑把であっても、これは記憶に留めたい。


 私事では、自費出版した記念の会を開いていただいたこと、それに孫との結構長い(笑)夏休みが印象に残る。拙著を一冊仕上げたことで次への意欲もやや高まってきた。孫の宿題や遊びに付き合うと今さらながら「イマドキ」がわかる。だからと言って、自分でやれることが増えるわけでもなく、徐々に輪郭がはっきりしてきた。


 こども園読み聞かせは先月からの延長が一つあって、計5回。楽しくやれた。選書はパターン化しているが、対象が違うのでそれなりに変化はある。自分の読書生活、これは極端に落ちている。メモだと読了が3冊、今読みかけが2冊で最低クラスだ。ただ内容として面白いので、これはペースが落ちても可としよう。


 これほどお天気が気になって、雨雲レーダーを見た数日間はない。5年ぶり、つまりコロナ禍以来の花火大会である。結果、幸いにも雨が落ちることはなく、風がないので煙がこもるのは残念だったが、やはり「大曲」であった。本番開始前に、観客席の声があんなふうに挙がったのを初めて聴いた。広がる虹だった。