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株高なのに実感がないのはなぜ? 日本経済の「症状」をエコノミストが診断 インフレでかさ増しされる「GDP」のカラクリとは? 唐鎌大輔 2024.3.29楽待新聞

2024-03-30 20:36:11 | 日記

株高なのに実感がないのはなぜ? 日本経済の「症状」をエコノミストが診断
インフレでかさ増しされる「GDP」のカラクリとは?
唐鎌大輔
2024.3.29楽待新聞

前回のコラムでは株高はインフレの賜物なのではないかという趣旨で議論させて頂いた。

株高にもかかわらずそれを喜ぶ議論があまり見られず、実体経済の弱さばかりに焦点が行きがちだ。

そもそも日本の家計において株式の保有比率が低いという以前に、インフレになった分が十分、家計に分配されていないという根本的問題があるだろう。

「株式保有比率が低い」という点については目下、「資産運用立国」論を旗印として対処中である。善し悪しは別として、今後は違った姿に変わっていくことが期待される。この点は時間の問題であり、待つしかない。

株高(や円安や不動産価格上昇など)がインフレ由来のものであったと考えた場合、実体経済を分析する上ではGDPの「名実格差」に触れないわけにはいかなくなる。

本稿では、名目GDPと実質GDPの乖離具合に着目して、日本経済の現状を読み解いていきたい。
給料が2倍になっても豊かさを実感できない理由

デフレ下の日本ではGDPの名実逆転(実質GDP>名目GDP)が象徴的な事実として取り上げられてきた。

定義上、「名目GDP-インフレ率=実質GDP」となるため、通常想定される姿は「実質GDP<名目GDP」なのだが、インフレ率がマイナス(デフレ)の状態では「実質GDP>名目GDP」という大小関係にしばしばなることがあった。

当然、国民が景気実感を伴う成長は、インフレ部分を除去した実質GDPで見ても経済が拡大している姿である。仮に自分の給料が2倍になったとしても、世の中の物価が2倍になっていたら景気実感は変わりようがない。

しかし、このようなケースでも名目GDPは顕著に膨らむことになる。だからこそ、インフレ社会ではGDPの名実格差を見ることが重要なのだ。

今後、本当に日本がインフレ社会となれば、通常想定される姿(実質GDP<名目GDP)が定着することになる。

すでに政府見通しが出ているように、2024年度の日本経済は第二次安倍政権が掲げていた「GDP600兆円」という目標達成が視野に入っている(※安倍政権が「2020年度までに600兆円」と掲げたのが2015年だ)。

この点、好意的な報道が多いと感じるが、そもそも600兆円は名目ベースの目標であり、実質ベースの目標には何も言及されてこなかったことに注意を要する。
名目GDPが増えても「無い袖は振れない」

よく知られている通り、インフレになれば名目GDPは当然膨らむ。100円で売っていたお菓子が120円や150円になったりすれば、同じ量を売っていても売上高が膨らむように、財・サービスの値段が上がるだけで名目GDPは膨らむ。

しかし、本質的に重要になるのはインフレを除いた部分、要するに実質GDPでどの程度の伸びを実現しているかという点だ。

「名目GDP600兆円」だけが独り歩きしがちだが、それは必ずしも景気実感を約束するものではない。具体的に数字で見て行こう。

例えば2022年から2023年にかけて名目GDPは約560兆円から約591兆円へ、約31兆円増えた(グラフ1)。

グラフ1

しかし、同じ期間に実質GDPは約548兆円から約559兆円へ約11兆円しか増えていない。つまり、残る約20兆円がインフレによる上乗せであり、この部分は日本国民にとって成長とは言えない。

このような状況もあって2023年の日本経済では名目GDP成長率+5.7%に対し、実質GDP成長率は+1.9%にとどまっている(グラフ2)。

グラフ2

さらに身近な例で言えば、家計最終消費は名目ベースでは約11.4兆円伸びているが、このうちインフレによる上乗せは約9.4兆円で、実質ベースでは約2兆円しか増えていない。

成長率で見れば、名目ベースでは+3.8%に対し、実質ベースでは+0.7%なので、殆どの消費行動がインフレに食われていることが分かる。

繰り返しになるが、インフレになれば短期的には売上や利益は増えて、株価も押し上げられやすくなる。

しかし、それは消費者が「無い袖を振って」消費している結果でもあるため、結局は「株高にもかかわらず内需の勢いに乏しい」という現在の日本の様な状況が生まれる。

基本的に「無い袖は振れない」ので、長期的には名目GDPと実質GDPの乖離は拡がっていく。
輸出企業はインフレ分を価格転嫁できている

ちなみにグラフ1を見ても分かるように、実質GDPの中でも、輸出だけは健闘しているように見える。

名目ベースで約8.1兆円増加しているのに対し、実質ベースでは約3.3兆円、インフレによる上乗せ分は約4.8兆円とやはりインフレ部分が大きいものの、家計最終消費や設備投資と比較すれば相対的にましという印象を受ける。

これは輸出企業が海外において、インフレ部分を価格転嫁できている証拠でもある。

この事実は関連統計からも確認できる。2023年7月以降、輸出物価指数は契約通貨建て(≒現地通貨建て)で見ても上昇基調に入っており、内外のインフレ圧力と整合的に価格転嫁を実現している様子が透ける(グラフ3)。

グラフ3

理論上、円安が輸出企業に与える影響は「現地通貨建て価格の引き下げ→輸出数量増加」という経路だ。

例えば、実勢相場が「1ドル100円」の時に1ドルでボールペンを輸出していたとする。ここから「1ドル120円」に円安が進めば0.83ドル(0.83×120円≒100円)で輸出しても円建て売上高を維持できる。

しかし、この統計を見る限り、今の日本の輸出企業がやっていることはボールペンを1.2ドルや1.5ドルなどに引き上げる動きである。当然、円建て売上高も大きく膨らむ(例:1.2ドル×120円≒144円)。

もっと言えば、この例よりも遥かに円安は進んでいるので、輸出企業の円安による業績改善幅はさらに大きいものになる。それも今の日本の株高には影響しているだろう。やはりインフレが関係している。
株高は「先進国」からステップダウンの兆候?

結果、輸出企業は実質ベースでの成長も相応に確保できているのだとすると、それを国内の家計部門(≒名目賃金)に還元できるかが焦点になる。

結局、いつもの話に戻ってきてしまうわけだが、それが十分ではないからこそ実質ベースで見た家計最終消費が殆ど伸びていないという実情があるのだろう。

日銀の言葉を借りれば、「賃金・物価の好循環(いわゆる第2の力)」が発揮されているとは残念ながら言えない。

前回コラムでも紹介した通り、過去1年間の主要株価指数に関して世界を見渡せば、日経平均株価指数よりも高い上昇率を実現しているのはアルゼンチン、ナイジェリア、トルコ、エジプトなど高インフレの途上国が並んでいる(グラフ4)。

グラフ4

インフレ体質の国では自国通貨が減価しやすく、それにより自国通貨建てで見た株価指数の水準も押し上げられやすくなる。そのような症状は途上国に多く見られるが、日本のような先進国ではあまり見られるものではない。

日本がそれらの国と同じとまで言うつもりはないが、現状の日本株上昇が先進国や途上国といった所属する国グループについて猜疑心が向けられた結果という可能性も一考に値するだろう。

途上国から脱し、先進国に至る途上にある国を中進国と呼ぶことがあるが、その容疑がかかっているのだろうか。

株高の背景にあるものが「インフレに押し負ける実体経済情勢」であり、それが先進国から中進国へステップダウンを織り込む相場だとすれば、まだこの円安・株高には先があるようにも読める。

現状、そのような仮説を覆すだけの十分な材料が無いのは残念ながら事実だろう。

(唐鎌 大輔)

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