骨は、大きく分けると、内側から骨髄(こつずい)、それを取り巻く海綿質(かいめんしつ)、緻密質(ちみつしつ)で成り立っています。
海綿質は骨梁(こつりょう)と呼ばれる細い骨が集まってできており、板状と棒状の骨梁が絡み合って一つの形を維持しているものです。工事現場の足場を想像すると、より分かりやすいかと思います。その足場が架かっている硬い壁が、緻密質です。
骨を構成する主な細胞には「破骨細胞」「骨芽細胞」の2つがあり、それぞれがバランスよく活動することで骨は維持されています。骨は赤ちゃんの時の骨がそのまま伸びたものではなく、ある一定期間をもって新陳代謝が繰り返されています。骨は、破骨細胞によって、古くなったものからどんどん壊されていくのです。
これは「骨吸収」とも呼ばれ、その後に骨芽細胞が、コラーゲンを生成しながらカルシウムを動員し、新しい骨をどんどん作り出しています。こうして骨の新陳代謝が繰り返されることで、1年間に30%近くの骨が入れ替わることになります。
骨粗しょう症とは、この新陳代謝のバランスが崩れ、骨の質が弱くなる状態を指します。緻密質に含まれるカルシウムやリンなどのミネラル成分が減り(骨量の減少)、海綿質の骨梁が折れたり細くなったりすることで(骨密度の低下)、本来は絡み合ってしっかり作られているはずの網目がスカスカになります。
骨粗しょう症の初期には、だるい、痛いなどの自覚症状がありません。しかし、骨が弱くなっているため、転んだり、ぶつけたり、くしゃみをしたりするなどの小さな衝撃でも骨折してしまうことがあります。
骨折は、運動に制限もなく、健康的な若い年齢であれば、安静療法や固定療法、または手術療法で完治を望めますが、高齢においては、部位によって、寝たきり生活を送らなければならなくなるリスクを抱えます。寝たきり生活では、不自由さを感じるばかりではなく、体全体の新陳代謝が悪化し、脳卒中や心臓病などの病気に発展する可能性があるため、軽視できないのが骨粗しょう症なのです。
【加齢】
骨の新陳代謝が活発なのは思春期~18歳ごろで、その後、40代から徐々にバランスが崩れていきます。65~70代くらいから徐々に、骨形成よりも骨吸収(破壊)が進み、骨量が減少していきます。骨が形成されるには、カルシウムのほかにもコラーゲンであるタンパク質も重要です。加齢に伴い全身の代謝が悪くなると内臓機能が低下するため、食事の量も減り、さらに、食べ物の消化力や腸における栄養分の吸収力が減退し、カルシウムもタンパク質も不足しがちになります。
【女性ホルモンの減少】
女性ホルモンのエストロゲンが定期的に分泌することで、骨形成を促し、さらに骨が破壊される機能を抑制する働きをします。ところが、卵巣摘出などの手術を受けたり、閉経したりするとエストロゲンが減少し、骨粗しょう症の発症リスクが高まります(閉経後骨粗しょう症)。女性の発症率は男性に比べると2倍です。
【血液内のカルシウムが不足】
血液中のカルシウムは全体量の1%と少なく、その他は骨に貯蔵されています。少しでも血液内にカルシウムが不足した状況になると、骨から血液内にカルシウムが移動してしまい、結果として骨粗しょう症に向かうことになります。
【コラーゲンの減少】
骨の中にはカルシウムが存在しますが、それを固定しているのがコラーゲンです。コラーゲンが年齢に伴い減少したり、酸化などが原因で質が悪化したりすると、カルシウムをうまくつなぎ留められなくなります。そうなると、骨生成がしにくくなるばかりでなく、骨の柔軟性も失われ、何かの刺激で簡単に骨折しやすくなってしまいます。
【栄養不足】
骨粗しょう症は高齢者ばかりの病気ではありません。ダイエットなどによって、成長期に栄養不足になると骨質に支障が出て、骨粗しょう症の原因になります。特に、骨の主要であるカルシウムや、カルシウムを形成するために必要なビタミンD不足は、直接的に悪影響となります。
【運動不足】
新しい骨を作るには、骨への適度な圧力が必要です。運動のやり過ぎは骨に負担をかけることになりますが、全くせずに骨を休ませてばかりでも骨芽細胞が活動しなくなってしまい、骨粗しょう症になります。宇宙飛行士が、骨に圧力が加わらない無重力空間で過ごすと骨粗しょう症になるのは有名な話です。
【喫煙、飲酒】
喫煙は体内を酸化させ、代謝をはじめとする全機能をマイナスにします。また、アルコールとともに内臓の働きを悪くするので、腸からのカルシウム吸収の弊害となります。
【遺伝】
はっきりと立証されてはいませんが、家族に骨粗しょう症に罹患(りかん)した方がいる場合には、リスクの一つと考えた方がよいとされています。略
【食事】
カルシウムは最低でも1日600ミリグラムは必要とされます。閉経後は2倍の摂取量が必要です
カルシウム:牛乳、乳製品、小魚、干しエビ、小松菜などに含まれる
タンパク質:肉類、魚、卵、乳製品、大豆製品などに含まれる
ビタミンD:サケ、ウナギ、サンマ、シイタケ、キクラゲなどに含まれる
ビタミンK:納豆、ホウレン草、ニラ、ブロッコリー、キャベツなどに含まれる
【運動】
骨は、適度の刺激や負荷をかけることでカルシウムの取り込みが良くなります。ただし、普段から運動していない人が急激な運動をすると、転倒や骨折などの原因にもなりますので、軽いウオーキングから始めましょう。毎日1000歩程度を目標に、少しずつ距離をアップしていくようにすることが望ましいです。
また、紫外線は皮膚に良くないと言われますが、カルシウムを作るのに必要なビタミンDを作り出す力を持っているので、紫外線予防しながら、なるべく外での運動を心がけましょう。
「骨粗しょう症は、かなり進行しなければ痛みや苦痛を感じるものではありません。しかし、気づかないうちに骨がもろくなっているため、転倒などによって骨折し、運動制限が起きてしまいます。高齢になってから数週間ベッドの上で生活することになれば、すぐに筋力や内臓の機能が低下してしまうことも考えられます。
いつまでも、元気で明るい生活を送るために、早いうちから骨を弱めないための小さな心掛けを行っていくことが大切です。食事の改善や運動など、できることから始めてみましょう。また、少しでも気になる症状があれば、すぐに整形外科を受診し、必要に応じて骨密度測定など検査をしてもらうことをお勧めします」