http://president.jp/articles/-/24517 略
この「死亡による口座凍結」と同様のことが、「名義人が認知症になったとき」にも適用されることがあるのです。認知症の進行具合によって判断はわかれるようですが、口座凍結となれば大変です。鳥居さんは著書でこんなエピソードを紹介しています。
《周囲の負担が大きいため、本人の同意のもとで在宅介護から有料老人ホームに切り替えることになった、入所費用を母親の定期預金で賄おうとしたが、銀行が母親を認知症だと認めれば、口座凍結されてしまう。母親と銀行に出向いたところ、銀行の担当者は、母親の認知症を疑っているのか、誕生日を聞いたり書類に住所氏名を書かせたりする。鳥居さんはいつもの認知症状が出ないかヒヤヒヤするが、その時の母親は頑張ってなんとかその難関をクリアする》略
「例えば、50代の男性Sさんです。実家でひとり暮らしをしていたお母さんが認知症になり、長男であるSさんは通いで介護生活を始めました。当然、費用がかかります。あいにく『認知症の人の預金は家族が引き出せないこと』を知らなかったようで、ありのままを銀行に語り、お母さんの預金が引き出せなくなってしまった。介護サービスは介護保険によって原則1割負担で利用できますが、何かと出費はかさむものです。Sさんは仕方なく、その費用を自分の預金から払っていたのですが、ふと気づくとその額は100万円を超えるまでになっていた。Sさんには奥さん子どももいるし、このままでは自分の家庭が崩壊してしまうと思い、私に相談してきたわけです」
▼親の預金を自由に使えるようになるわけではない
この時、Iさんは成年後見制度を紹介したそうです。
成年後見制度とは、認知症など精神上の障害により判断能力が不十分で、意思決定が困難な人について、その判断能力を補い、財産などの権利を擁護する制度です。親族が後見人になれば、口座凍結にあっても、介護費用を本人のお金から出すことができます。
ただし、申し立てには、家庭裁判所による認定が必要で、手続きは煩雑です。また親族であれば後見人になれるとは限りません。2015年の統計では、親族が選任されたものは全体の約29.9%。親族以外の弁護士や司法書士といった第三者が選任されたものが全体の約70.1%でした。
後見人は本人の財産を守る存在です。必要最低限の財産使用はできますが、それを超える出費は裁判所の了解を得なければいけません。つまり、親の預金を自由に使えるようになるわけではないのです。追い詰められたSさんは成年後見人になることで自らの生活崩壊を防ぎましたが、代わりに煩雑な手続き抱え込むことになってしまいました。
では、どうしたらいいのでしょうか。
「一番いいのは、親御さんが元気なうちに、もしものことがあった時に備えて金銭面での問題をクリアにしておくことでしょうね。ただ、これが難しい」(Iさん)
▼親とお金の話をしないとお金が“奪われる”
では、どうしたらいいのでしょうか。
「センシティブな問題ですし、親子の関係性によっても異なるので非常に難しいですが、やはり親御さんが元気なうちに思い切って、もしもの時のお金のことを話しておくべきだと思いますね。兄弟がいれば全員の意見を集約して、親御さんに伝える。たとえばこんな風です。『この間、兄弟で集まったんだけど、母さんの話が出たんだ。いいトシになったなって。母さんは元気だし、俺たちもいつまでも元気でいてほしいと思っている。でも、トシがトシだし突然重大な病気になる可能性もあるわけじゃない。そんな事態と想定した時、お金のことでもめたくなと思ったわけ。母さんの財産が今いくらあるかは知るつもりはないけど、もしもの時に対応できるように、預金通帳とキャッシュカード、その暗証番号を書いたものをわかる場所に置いておいてほしいんだけど、どう思う?』。こうした切り出し方をお勧めしたいです」(Iさん)
高齢の両親に「お金の話」をすることに躊躇する気持ちはよくわかります。でも、その作業を放置しておくと、いざというときに親がせっせと貯めていたお金を銀行に“奪われて”しまうことがあるのです。