https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170720-00010000-php_s-bus_all
心と口はつながっている
※本記事は、吉野敏明著、PHP新書『健康でいたいなら10秒間口を開けなさい』(はじめに)より抜粋
たとえば、背中の痛みは、筋肉痛ではなくて初期の膵炎(すいえん)が原因であることがあります。初期の膵炎では、血液検査をしてもアミラーゼ、リパーゼといった病気のマーカーが検出されないことがあります。なので、ただの筋肉痛と間違えてしまうのです。ちなみにこうした痛みは、食事療法をするだけで治ってしまうことがあります。
また、左肩のこりが異様にひどくなり、痛んだり胸のほうまで及んできた場合は、狭心症や心筋梗塞の疑いがあります。逆に右肩の場合は、肝炎や胆石という可能性もあります。たんなる肩こりと片付けないで、注意する必要があります。
同じように、聴力は正常、MRIや脳波では異常が認められないにもかかわらず耳鳴りが止まらないことがあり、そうした場合、ストレス性の食いしばりが原因であることがよくあります。
食いしばりがあると、あごの関節の位置がずれ、下あごの骨の関節の頭(関節頭といいます)が、受け手の耳のすぐ前関節(関節窩)を圧迫してしまうのです。すると、聴覚の骨である耳小骨や、平衡感覚をつかさどる三半規管や蝸牛などの組織を強く圧迫してしまうのです。
このようなときは、翳風(えいふう)という耳の後ろのツボに鍼治療をします。すると、あごの関節円板の位置が一瞬で元に戻り、これによってあごの関節の位置もその場で戻りますから、耳小骨や三半規管などは圧迫からすぐに解放されます。そして、この動いた下あごに対してほんのちょっとだけ歯のかみ合わせの治療をすると、瞬時に耳鳴りが治せるのです。翳風は、耳鳴りやめまいのツボでもありますが、心包系といって、心、すなわち精神にもつながるツボです。ストレスの回避にもつながるツボですので、押すと耳鳴りと同時に原因であるストレスの治療もできる。つまり、一石二鳥というわけです。
体は全てつながっています。血管や神経、リンパ系なども全ての臓器につながっているのです。同じように、心も体とつながっています。たとえば、緊張すると「手に汗握る」状態になりますよね。いつの間にか、手に汗をかき、手をギュッと握りしめているのです。緊張という感情が、手の汗腺と手の筋肉・関節とつながっていることがわかるでしょう。
また、緊張すると「のどが渇き」ます。怖いときは、あごを「震わせる」といい、歯をカチカチ鳴らします。お化け屋敷に入ったら、そんな感じになりますよね?
中学高校の運動部では、顧問の先生が「歯を食いしばって頑張れ!」と生徒を励ましますし、聖書にすら、忍耐するときや悔しいときに歯を食いしばる、という表現が繰り返し出てきます。
つまり、心の状態とのどを含めた口の中の状態とは、切っても切れない関係なのです。あくびをするなど、リラックスしているときを除き、緊張・恐怖・不安・怒り・不平不満・忍耐などストレスが多いとき、人は歯と歯を合わせる、つまり食いしばりをするのです。
なぜ風邪をひくと肩がこるのか
実はこのように、人はストレスフルで困難な状態になったとき、食いしばることで脳内麻薬であるβエンドルフィンというモルヒネに似た幸せホルモンが分泌されることがわかっています。このβエンドルフィンには、ストレス緩和のほか、免疫力を高めることによって病気を治す作用もあります。
風邪を引いたときに、肩がこりますよね? これは、風邪を引いて寝ているときに、食いしばることによってβエンドルフィンが脳から分泌され、それによって免疫力を高めて風邪の原因であるアデノウィルス、エンテロウィルスなどの微生物をやっつけるためです。風邪を引くと肩こりになることが多いのはこのためです。
どんなにかみ合わせがよく、仮に医学的に100%完璧なかみ合わせの人がいたとしても、ストレスがあればやはり食いしばりをし、それにより耳鳴りや肩こりが生じてきます。つまり、かぶせ物(入れ歯、クラウン、ブリッジ)をしたり、矯正など歯科治療でかみ合わせを治しても、ストレスがあれば食いしばりをしてしまい、結果としていろいろな身体症状の異常が出てしまうのです。
たとえば、スマホを見ながらの「ながら歩き」です。このような状態であると、必ず歯をかみしめないと歩けません。ためしに、スマホを見ながら口を開けて歩いてみてください。
のどが苦しくて呼吸できないはずです。
また、パソコンを長時間扱う人も同じです。人間はそもそも、下を見ながら手のひらを下にして机の上に手を置くような姿勢をとるのが非常に不得手な解剖学的構造になっています。肩甲骨が内側に入り込み、食いしばりを誘発する姿勢なのです。肩甲骨は、口を開ける筋肉(肩甲舌骨筋)とつながっており、この筋肉の動きを邪魔するので、かみしめやすくなってしまうのです。
そこで、発想の転換です! このような状態を回避するには、口を開けるような生活をすればよいのです!
そもそも、かみ合わせが多少悪くとも、食いしばりさえしなければ、頭痛・肩こり・耳鳴りなどは起こりません。
また、食いしばりによって、頸椎の位置がずれ、これがさらに胸椎・腰椎に歪みが及ぶことで、腰痛になります。この腰椎の歪みが仙腸関節に及ぶことで子宮の位置異常が起こり、月経困難などを誘発します。当然、この骨盤の中には小腸大腸などの消化器も入っていますから消化器にも影響を及ぼします。その仙腸関節が歪めば、足の長さが変わりますから、膝や足先にまで影響します。食いしばりの習慣をなくしたら膝が痛くて歩けない人が歩けるようになったなど、我々のクリニックでは日常茶飯事です。
もちろん、なかには本当に運動機能をつかさどる小脳やその近くの脳幹に異常があってめまいや吐き気が出ている人もいますし、子宮や卵巣の異常で月経困難になっている人もいますから、鑑別診断は重要ですし必ずするべきです。しかし、そのような専門外来に行っても「異常がないです」と言われ、自分の担当科の臓器に問題がなければ心療内科などに紹介されて、抗不安薬や抗うつ薬で治療をされてしまっているケースを散見するのです。
歯根破折が激増している
頭痛やめまい、耳鳴りなどの身体症状だけでなく、この食いしばりが原因で激増している疾患に、歯根破折があります。
40年以上前までは、抜歯する患者さんのなかでは虫歯で歯を抜く方が一番多かったのですが、歯磨き習慣や小中学校での検診の徹底により、虫歯は激減しました。ところが、義務教育を終えると、大学や会社では歯科検診はほとんどされないために、口腔への関心と管理が薄れ、今度は歯周病が激増しました。その結果、歯を抜く原因の第1位はしばらく歯周病でした。歯周病は歯周病菌による細菌感染症です。ですから、対策としては物理的に歯周病菌を除去する、ブラッシングが大変有効です。
歯周病は歯を失うだけでなく、口臭の原因にもなり、人間関係も悪くします。また、肺炎の原因となり、糖尿病や高血圧症を悪化させて、早産や低体重児出産など妊娠や出産にも影響する怖い病気です。そのため、現在の日本人の口腔清掃に対する意識は、20世紀末に比べ格段に高くなっています。歯の残存率も統計を取るたびに改善していました。
ところが、数年前から全く違った状況になり始めています。歯ぎしりや食いしばりで、患者さんが自分で自分の歯を無意識に破壊し、歯の根を折ってしまう歯根破折が激増しているのです。
このような頭痛、肩こり、めまいやうつ症状などのストレスを回避するために、「開口」をぜひ、おすすめしたいと思います。