ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

訪問介護等の居宅介護サービスの介護報酬は低すぎる

2008年05月13日 | ケアや介護
 介護職が離職し、集まらないという中でも、施設の介護職もそうであるが、特に訪問介護のヘルパーが離職し、集まらないという話題が多い。その理由は、確かに、一部は仕事を意欲的に続けていく環境が影響していることもあろう。具体的には、スーパービジョン体制が不十分なことで不安になったり、職場内外の研修機会がなく、仕事を続けていく上での刺激が弱くなることで、離職していくことはあるだろう。しかし、私たちが行った調査では、圧倒的に賃金等の社会的待遇の悪さが原因となっていた。

 詳しくは、『介護保険制度の持続・発展を探る―介護保険改定の影響調査報告書―』(「改定介護保険制度」調査委員会、平成20年2月)では、赤字の事業者割合が訪問介護事業者で32.4%で、通所介護事業者で36.7%、居宅介護支援事業者で63.7%となっており(但し、収入と支出の両方を記入してくれた事業者が少なかった)、同時に、法改正前に比べて、その赤字事業者の割合は増加していた。そのため、事業者自体が介護保険制度の将来に不安を抱き、閉塞感が漂う結果となっていた。そのため、是非とも、次期の介護報酬改正では、在宅サービスについては大幅なアップが必要と感じていた。

 一方、先日、全国社会福祉協議会地域福祉推進委員会発行の『社協情報ノーマ』(No.215、2008年3月号)では、社協の介護サービス経営の現状と課題が報告されていたが、よく似た実態であるが、書き方が変われば、捉え方も違ってくることを感じた。これは、市区町村社協介護サービス経営研究会の会員を対象にした調査であり、一般化できないとは思うが、潜在的費用も含めて収支差率をみると、「居宅介議支援」は案の定厳しい経営状況(-7.03%)、「通所介護」は小幅な赤字(-0.29%)であるが、「訪問介護」については辛うじて黒字の経営状況(0.89%)にあるという。

 次年度が介護報酬の改正年であり、それは事業所の経営調査をもとに報酬改正が行われる以上、看過できない。訪問介護が「辛うじて黒字の経営情況」という言葉を捉えれば、全ての訪問介護事業者が黒字経営をしているかのような印象になるが、これは平均であり、逆に言えば、収支差率がマイナスの社協も多く存在することになる。この収支比率がマイナスの事業所が多いとということが、あるいはそれに近い状態にある事業者が多いという事実が重要である。言葉というのは、注意して書かたい、見なければ、誤解が生じかねない。

 なお、上記の、『介護保険制度の持続・発展を探るー介護保険改定の影響調査報告書ー』では、減価償却分や潜在的費用を含めていないため、それを含めるとさらに赤字事業者は増えることになる。
 
 こうした類の調査は事業者が赤字か黒字かの指標に過ぎず、職員に必要な一定の賃金が確保されての黒字か赤字かの議論も必要である。なぜなら、経営者は、総収入から職員への報酬を渡すことになるが、高い報酬を出したくても、人件費比率は一定の水準を超えれば、事業自体がバンクするからである。そうすれば、どの部分の人件費が押さえやすいかを探らざる得ないのではないか。その時に、特に非常勤職が圧倒的となる担当ヘルパーの報酬を押さえることになってはいないのか。

 このことを突き詰めれば、サービスの質を担保しての収支差議論が必要である。現在の介護報酬の決め方は、単純に言えば、収支差がマイナスであれば上げ、プラスであれば下げる方式であり、サービスの質を落とすよう誘導しているに過ぎないのではないか。この意味では、サービスの質が高い事業者が淘汰され、質の悪い事業者が生き残る仕組みになりかねない。

 さらには、赤字事業者がどの程度までに抑えるのかで介護報酬を決定することも必要ではないのか。さもなければ、利用者は、多くの事業者の倒産で、継続したサービスの利用ができなくなることが頻繁に生じるからであり、同時に、一定の安定した経営ができる優良な事業者を確保する必要があるからである。
 
 いずれにしても、非常勤職を含めて職員の一定の賃金を担保するため、介護報酬が決められ、さらに事業者は、その報酬から一定の賃金を保障していく仕組みが必要である。是非、次の報酬改正では、在宅サービスの介護報酬が大幅にアップし、同時にそれが、働いている人の給与に反映していただきものである。同時に、経営者の理念や姿勢も極めて大切であることを付け加えておきたい。