ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

「出し惜しみはしない」

2008年11月29日 | 社会福祉士
 「出し惜しみはしない」は橋田壽賀子さんが連載ドラマを脚本するときの信条であるということを、内館牧子さんが彼女から教えてもらったとある雑誌のエッセイで書いていた。内館さんが初めてNHKの朝の連続テレビ「ひらり」で脚本を書くことが決まった時の、橋田さんのアドバイスであった。

 私は橋田壽賀子の作品が大好きで、「おしん」は私が家族と一緒にアメリカに留学していた20数年前に放映されたものであるが、日本からビデオを送ってもらって、日曜日にまとめてみることを日課としていた。特に、この時少女期の「おしん」を演じていた小林綾子と娘(当時小学校2年生)がよく似ていたため、涙して鑑賞した記憶がよみがえる。今でも、テレビ番組の「渡る世間は鬼ばかり」は、単純ではあるが、心休まるためによく観ている。

 この橋田さんの「出し惜しみはするな」という教訓は、すべての人生に当てはまるような気がする。仕事に全力を注入せよとのことであろう。確かに、そうだと納得するのであるが、そこには継続して全力を注入できるエネルギーが大事であろう。ただ、このエネルギーをもっているのが橋田さんの強さであろう。一方、その時点で全力を出し切ると、次に新たなアイデアが出てこないのではないかという不安になる。これには、さらに良いアイデアが出せる自信が橋田さんにはあってのことであろう。

 今後の原稿作成については、「出し惜しまず」を信条にしたい。そうすれば、少しはまとまりが悪いかもしれないが、魅力的な論文になるような気がする。また、現在(社)日本社会福祉士養成校協会会長として、その日その日を全力で走り切ることに努めたいと思う。ブログについても、時々書き惜しむことがあり、今後のために、これは残しておこうとすることもあったが、今後は「出し惜しない」ことにしたい。乞うご期待下さい。

 なお、内館さんのエッセイでは、伊東に向かう「踊り子号」で、50代の男が嗚咽しており、妻を最近亡くし、涙声で「旅行とか人気のレストランとか温泉とか、行きたがっていたのに、俺は『定年後はいつでも行ける』とか言って、仕事や自分のことを優先してーー」の後悔話が続いている。妻にも出し惜しみはできないと自覚した。

 皆さんも、出し惜しみをしない人生を送って下さい。そうすれば、後悔のない人生を送れるように思えます。(内館牧子「「踊り子号」の男」『トランヴェール』11月号、2008年)

日本におけるサービス・デリバリー・システムについて(5)

2008年11月27日 | 社会福祉士
5 日本におけるソーシャル・デリバリー・システムの課題
 
日本におけるサービス・デリバリー・システムを確固たるものとしていくためには、以下の4点の課題を克服していく必要がある。

①全ての利用者を対象としたサービス・デリバリー・システム
高齢者のサービス・デリバリー・システムと障害者のサービス・デリバリー・システムは現状では別個のものとなっている。現実には、高齢者は介護保険制度の要支援・介護者であり、同時にその人々は半数以上が身体障害者手帳取得者である。そのため、同じ人が別のサービス・デリバリー・システムを活用することにもなっている。そのため、すべての住民を対象としたサービス・デリバリー・システムを作り上げていくことが第1の課題である。

②生活圏域を基盤にしたサービス・デリバリー・システム
現状では、利用者を発見したり、支えあったりしていく場合には、利用者が住んでいる当該地域でサービス・デリバリー・システムを形成していくことが求められる。これが現在言われている地域包括ケアであり、利用者の生活圏域を設定し、当該生活圏域を基盤にサービス・デリバリー・システムを形成していくことが求められる。

③ケアマネジメント人材の養成
このサービス・デリバリー・システムを機能させていく核となる人材はケアマネジャーである以上、この人材の養成が不可欠である。この人材は利用者の自立を支援し、地域でのQOLを高めていく支援が必要である。このような人材養成は現状では様々な専門職に委ねられているが、本質的にはソーシャルワーカーや保健師が適任であると考えるが、大学および大学院教育に位置づけ、そうした人材の養成が求められる。

④追加的なサブシステムの構築
サービス・デリバリー・システムを構築していくためには、利用者が自己決定・選択できるべく情報提供の仕組み、意思表示が十分できない人に対する意思が反映できる仕組み、さらにはサービスに対する苦情を受け付けて質を高めていく仕組みが求められる。こうしたサブシステムを確保することにより、サービス・デリバリー・システムはより適格に機能することになる。

 さらに、多くの質疑の中で、韓国への示唆として、優秀なケアマネジャーなりのサービス・デリバリー・システムの担い手を養成し、同時にそのシステムを作ることができれば、財源の抑制にも効果を発揮するであろうことを強調しておいた。具体的には、以下の5点である。

①病院からの退院を容易にし、医療費の抑制に貢献できる。
②在宅生活の持続が可能となり、施設入所を抑制することで、福祉財源の抑制に貢献できる。
③インフォーマルサポートも活用でき、フォーマルサービスの利用が少なくなることで、財源の抑制が可能になる。
④利用者の意欲を高めることで、セルフケアが活用でき、フォーマルサービスの利用が少なくなることで、財源の抑制が可能になる。
⑤在宅のサービス間での重複を避け、効率的に利用することで、財源を抑制できる。

 このことが実現するためには、日本においてもシステムの見直しとケアマネジャーの養成の両面での課題が大きいといえる。

日本のサービス・デリバリー・システムについて(4)

2008年11月26日 | 社会福祉士
4 サービス・デリバリー・システムの利用者にとっての意義
 
 サービス・デリバリー・システムの意義は、サービス利用を円滑に進めることにある。それは、高齢者の生活の継続性を支えることである。

 生活の継続性(continute of care)とは、高齢者がその時その時に必要な支援が受けられ、普段通りの生活を継続できることである。利用者の全人的な捉え方である「生活の継続性」についての基本的な考え方を示してみる。

 ここで言う「全人的な捉え方」(holistic approach)とは、利用者を身体・心理・社会的な側面から捉えるということであり、同時に過去・現在・未来につながる存在として捉えることである。そのため、「生活の継続性」とは、利用者のその時点での空間的な生活の連続性と、もう一つは利用者の時間的な生活の連続性があると整理できる。利用者の空間的な連続性とは、利用者に対して、ある時点で、利用者のニーズに合わせて、各種のケアが隙間なく連続して提供されていることである。後者の時間的な連続性とは、利用者のニーズの変化に合わせて、必要なケアが必要な時点から終結時まで、連続して中断することなく円滑に提供されていることである。ソーシャル・デリバリー・システムは、利用者をこうした空間的・時間的な連続性を維持していくという考え方のもとで、利用者を全人的に支援していくことである。
 
 第一の連続性である利用者の空間的な生活の連続性とは、利用者に対して、ある時点での空間的なサービス提供の連なりでもって、利用者の生活が支えられていることを意味する。すなわち、利用者の持つさまざまなニーズが充足されるよう、必要とするフォーマルサービスやインフォーマルサポートが隙間なく利用できていることである。その実現によって、個々の利用者に対して、保健・医療・福祉などの諸サービスが連携して提供されることになり、さらには、家族や近隣といったインフォーマルサポートも、連続して一体的に提供されていることになる。このことは、利用者がある時点での生活上で生じた各種のニーズを過不足なく充足させていることである。この過不足のない社会資源の提供とは、利用者の有しているセルフケアができる限り活用され、さらにそれを補足したり強化するために、インフォーマルケアとフォーマルケアが活用される状態である。すなわち、供給主体の観点から見れば、セルフケア、インフォーマルケア、フォーマルケアが連続して、個々の利用者の生活を作り上げていることである。ニーズへの対応という観点から見れば、利用者の生活上の様々なニーズである保健・医療・福祉・介護・住宅・経済・社会参加等の様々なニーズに、その一瞬の時点で対応できていることである。
 
 第二の利用者の生活の連続性とは、時間的なものであり、利用者に対して、開始時から終結時まで、時系列的に継続して生活が支援されることである。その際に、利用者の持つ過去・現在・未来という時間の経過を追いながら支援していくことである。具体的には、個々の利用者の持つニーズの継続的な変化に対して、ケアマネジャーが敏感に対応していくことである。その際には、利用者の過去の価値観や文化を尊重しながら、現在の生活を支えることを目指す。同時に、利用者が将来的に目指している目標に向けて、現在の生活の状況をとらえていくことにもなる。
 
 このような利用者が有する時間的な経過のなかでの支援から考えられることは、在宅から施設へ、あるいは施設から在宅へと生活の場を移行する際にも、継続した支援が必要である。施設に入所する場合でも、施設や病院から在宅に復帰する場合でも、利用者のニーズに合ったフォーマルケアやインフォーマルケアが適切に過不足なく提供され、同時に利用者がそれまで有していた価値観や文化が継承できるものでなければならない。そのため、高齢であれ障害を持っていようとも、「利用者は自らの自己実現に向けて常に発達していく」といった価値観を持つことが大切であり、そうした視点のもとで、個々の利用者に対して生涯にわたり必要なサービスが継続的に提供していくことが求められる。

 以上に挙げた二つの連続性という観点から、利用者には“シームレス・サービス”(seamless service:縫い目のないサービス)が提供されることになる。すなわち、現時点でも、利用者のニーズに合ったサービスやサポートが連続して縫い目なく準備されており、さらにサービス利用開始時から終結時まで途切れることなく、時間的に縫い目がなく必要なサービスやサポートが提供されていることである。このことは、利用者の置かれている状況を、現在の空間に時間の過程を加えた四次元の全体像としてとらえ、全人的な支援を行っていくことを意味する。
ケアマネジャーは生活の連続性の支援を、直接利用者にサービスやサポートを提供している人々と連携しながら、推進していく役割と責任を担っていると言える。


日本のサービス・デリバリー・システムについて(3)

2008年11月25日 | 社会福祉士
3 サービス・デリバリー・システムの現状分析

 この20年間の評価としては、紆余曲折があったとしても、日本独自のサービス・デリバリー・システムが構築されつつあり、それを高齢者から他の人々にも対象を広げていく方向性も見えてきたことにある。その意味では、将来的には高齢者に限らず、すべての生活上での課題を有した利用者を対象としてシステムへと集約されていくであろう。ただサービス・デリバリー・システムも、財源抑制の結果として、要支援者と要介護者に利用者を二分することで、介護保険制度でのサービス・デリバリー・システムは、その特徴である利用者の生活の継続性の支援を崩してしまった。要支援者と要介護者で窓口が異なり、前者は地域包括支援センター、後者は居宅介護支援事業所が対応し、ケアマネジャーが替わるだけでなく、サービス内容、アセスメント・ケアプラン票さえも変わることになり、生活の連続性を崩すことになった。再度、地域包括支援センターと居宅介護支援事業者が並列の関係から、地域包括支援センターが居宅介護支援事業者を含めてサービス・デリバリー・システムの全体をコントロールするようシステムへの変更が求められている。

 さらに、サービス・デリバリー・システムの中味について、このシステムの中で、利用者が自己選択・決定していく仕組みを意図してきたが、第一には、ケアマネジャーが自己選択・決定を基礎にする支援ができてきたかである。ここには、ケアマネジャーの自己決定支援の力量不足もさることながら、利用者自身の自己選択・決定する意識が必ずしも成熟していないことも大きいと言える。この一例は、自己選択・決定を支援するために改正介護保険において作られた「介護サービス情報の公表制度」が十分に活用されていないことからも窺われる。利用者の自己選択を机上のものから、制度面と人材面から実質なものに変えていく努力が求められる。

 具体的に、制度面では「介護サービス情報の公表制度」は単にサービス事業者に関する情報提供に過ぎず、具体的なサービスの質を評価するものとはなっていない。そのため、事業者間での競争原理が作用するような状況にはなっていない。同時に、利用者にとっては、得られた情報がサービス選択に寄与できるものではないために、低調なアクセス状況になっている。一方、人材面では、ケアマネジャーだけでなく、サービス事業者においても、自己選択・決定に向けての方法を確立していくことで、利用者の意識改革を図っていく必要がある。
 
 また、契約してのサービス利用については、契約弱者である認知症等の権利擁護の仕組みを作り上げてきたが、その効果が問われることになるが、成年後見制度、日常生活自律支援事業(福祉サービス利用支援事業)、高齢者虐待防止法等でもって、この間対応してきた。

 このことは、単に制度の充実だけではなく、地域を基礎にした仕組みが不可欠であるとの認識に至っている。ここでは、地域包括支援センターの一職種として社会福祉士が配置されたが、コミュニテイ・ソーシャルワーカーとしての役割を担いきれていない。それはミクロ領域の個々の利用者に対する相談援助活動がなされているが、マクロ領域の地域のネットワーキング機能については、現実には実施できていないのが現状である。具体的には、被虐待高齢者の発見、地域住民間での要援護高齢者の見守りや支えあいをいった生活圏域を基礎単位とした地域住民のネットワークをベースにして、個別的な支援としてのケアマネジメントの展開が求められている。

 この原因は、ソーシャルワークには、マクロ領域での地域での各種のネットワークをつくり、地域での支えあいの仕組みを作っていく過程が理論的に必ずしも明確にされておらず、そのことが地域へのアプローチを弱くしている。そのために、社会福祉方法論研究者の責任は、マクロ領域での方法論をいかに確立し、それをソーシャルワーカーが実際に活用できるようにするかである。

 さらに言えば、現状の保険財源の下で実施続けるべきかどうかの課題も露呈してきた.ケアマネジメントについては,利用者の介護リスクを越える生活リスクに応え,雇用,住宅,治安等を含めたセフティ・ネットのコーディネーションを行うことが,介護保険財源を活用することで可能かどうかの問題点が生じてきている.これは、効果的・効率的な支援を行うために,利用者の生活リスクへの対応やリスク予防に対してどのような相談支援ができるかが問われている。そのため、保険原理でケアマネジメントを実施していくことの矛盾が生じてきている。
 

日本のサービス・デリバリー・システムについて(2)

2008年11月22日 | 社会福祉士
②第2のターニングポイントの特徴と課題
・2000年;社会福祉法の制定
・2000年;介護保険制度の施行

 この時点が「社会福祉基礎構造改革」に当たるが、2000年に先立ち、既に1997年の介護保険法制定で、高齢者政策が先行する形で、社会福祉基礎構造改革を先導していった。このことは、その後に、障害者や児童のそれぞれに分野で、未だ実施されていない保険によるサービス供給のあり方が議論されていることからも、一歩先んじた改革であったことが窺われる。

 サービス・デリバリー・システムは、在宅介護支援センターから、介護保険制度では居宅介護支援事業所に受け継がれ、ある意味、契約制度を盾にして、利用者が自己責任でサービスを選択することを可能にした。この結果、在宅介護支援センターで困難とされた問題が解消された。それは、すべての介護保険サービス該当者が居宅介護支援事業者のケアマネジャーを介して介護保険サービスを利用することになり、同時に、作成したケアプランは利用者に決定権があることになったことである。ここでは、在宅介護支援センターで養成された人材が、居宅介護支援事業所の主要メンバーとして移行していくことになり、試験と実務研修でもって、社会福祉士を含めて10数種の国家資格取得者等を対象に、介護保険制度実施前に既に16万人ものケアマネジャーを養成した(現在までに、約43万人養成)。

 具体的には、居宅介護支援事業所は単に社会福祉法人、医療法人だけでなく、営利法人にも開放され、実施されることになった。同時に、従来あった中学校区といった地域を限定した活動ではなくなり、個々の利用者とケアマネジャーの関係で対応するものとなった。

 この居宅介護支援事業者を導入したことのメリットは、利用者の見方がサービスの「対象者」から「利用者」といった視点が強くなり、必要な人に適切なサービスを届けることができるようになった。このことは、逆に言えば、ケアプラン作成機関とサービス提供機関が同じ法人内で実施されるため、過剰なサービス利用になる傾向を生み出した。

③第3のターニングポイントの特徴と課題
・2005年;障害者自立支援法の制定
・2005年;改正介護保険法の制定

 第3のターニングポイントの特徴は、現在も続いているが、財務省や経済財政諮問会議から社会保障財源の圧縮を求められる中で、第2のターニングポイントで確立したインフラとそのデリバリーの仕組みをより有効に機能させるための対応と、効率化でもって財源の削減を図ることにある。その意味では、改正介護保険制度同様に障害者自立支援法もそうした意図のもとで制定されたといえる。効果という点では、利用者により質の高いサービス提供を目指すとともに、効率という点では、ニーズの程度が低い部分を削り取り、財源の削減を導き出すことにあった。

 障害者自立支援法は,完全ではないが高齢者と類似のケアマネジメントを含めたサービス・デリバリー・システムを作り、施設も居住の場として位置づけ、保険と租税の違いはあるが、介護保険制度と極めて類似するサービス・デリバリー・システムを作り上げた。これ自体は、ある意味、障害者を介護保険制度の対象に組み入れる方向付けをしたとまでは言わないが、高齢者と障害者を一体的に対応できる体制ができあがったことは確かである。これは、すべてのライフサイクルの人々に対するパーソナル・ソーシャル・サービスやそのデリバリー・システムを一括して対応していくための準備期としても受け取ることができる。

具体的には、相談支援事業所の相談支援専門員がケアマネジャーとなり、障害者ケアマネジメントを実施していくことになる。ただ、このシステムが十分機能していないのは、利用者を重度者や施設退所者等に限定しているため、利用者が利用できていない状況にある。同時に、ケアマネジャーは、一定の研修を受けた者に与えられるため、十分な能力を有した者が実施しているのではないという問題をもっている。
 
一方、高齢者のサービス・デリバリー・システムは、財源抑制の結果として、要支援者と要介護者で窓口が異なり、前者は地域包括支援センター、後者は居宅介護支援事業所が対応し、ケアマネジャーが替わるだけでなく、サービス内容、アセスメント・ケアプラン票さえも変わることになり、生活の連続性を崩すことになった。一方、パーソナル・ソーシャル・サービスを行政措置から、利用者が自己選択する契約でのサービス利用に転換し,それに伴い,第3者評価制度の導入,地域福祉権利擁護事業や成年後見制度といった権利擁護事業の開始,サービス利用に対する苦情対応で,利用者の契約を可能にする体系を整えていった.


日本のサービス・デリバリー・システムについて(1)

2008年11月21日 | 社会福祉士
 韓国老年学会のご招待で、11月20日に「高齢者のサービス・デリバリー・システム」に関する国際シンポジウムがソウル市内で開催された。最初は、英語のペーパーを送ってほしいとか、英語でのシンポということで気が重かったが、最終的には、日本語とハングルで同時通訳となり、同時に日本語のフルパーパー(7,000字程度)を韓国でハングルで翻訳してくれることで助かった。私のタイトルは、「日本におけるサービス・デリバリー・システムの展開について―高齢者領域を中心にして―」であった。他のシンポジストは、韓国の保健福祉研究所のスンウー(Dul Sunwoo)長期ケア政策チームの長と、オーストラリアのシドニー大学のケンデック(Hal Kendig)教授であった。

 このサービス・デリバリー・システムは、利用者に必要なサービスを配達する仕組みのことである。ゴールドプランの際に作られた在宅介護支援センターが原初形態であり、それが介護保険での居宅介護支援事業者や地域包括支援センターが核となるデリバリーの仕組みを作り上げてきた。そこでのメリットや課題について整理したものである。韓国の研究者や実務者からそれなりの評価を得たと思う。

 そこで、6回にわたり、韓国で発表した内容を掲載することにする。

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1 はじめに

 ここ20年の日本の社会福祉は,高齢者福祉分野が他の福祉分野の政策を先導し,福祉政策全体の流れをつくりあげてきた.これは、1989年の「ゴールドプラン」や1990年の「社会福祉関係八法の改正」がそのスタート台である。さらに、社会福祉基礎構造改革は理念的には2000年に作られた「社会福祉法」のもとで展開していくことになるが、その内実は1997年に制定された「介護保険法」により、高齢者福祉分野が他分野の牽引者としての役割を果たしてきた。

 この20年間での高齢者福祉政策の特徴は,制度としてのパーソナル・ソーシャル・サービスだけでなく,サービス・デリバリー・システムを発展させてきたことにある。ソーシャル・デリバリー・システムとは、「個々の利用者に対して必要なサービスを円滑に届ける仕組み」と定義づけることができるが、このシステムはこの時期になって初めて高齢者福祉政策の一部として位置づけられ、展開してきた。本小稿では、このサービス・デリバリー・システムの展開について、高齢者領域を中心にして論述してみる。

2 高齢者領域でのサービス・デリバリー・システムの歴史的展開

 この20年間の高齢者福祉政策は,大きく以下の3つの時点でターニングポイントがあり,それぞれのポイントにおいて,ソーシャル・デリバリー・システムの発展と転換がなされてきた。それでは、以下に3つのターニングポイントを示してみる。

①第1のターニングポイントの特徴と課題
 最初のターニングポイントは,1990年初頭に起こったが,それは以下の2点で特徴づけられる.
・1989年;ゴールドプランの開始(ヘルパー・デイサービス・ショートステイといった在宅福祉サービスの大幅増の計画,中学校区に1か所の在宅介護支援センターの設置(ケアマネジメントの起こり))
・1990年;社会福祉関係八法の改正(①高齢者保健福祉計画の作成を市町村に義務づけ,②高齢者・身体障害者福祉について市町村での施設・在宅サービスの一体的提供)

 1989年は「高齢者福祉元年」とよばれるように,この時期に,在宅サービスを計画的に増大させ,市町村という最小単位で各種サービスを一元的・統合的に供給する,地域福祉の土台を推進することになった.海外でも同じ動向がみられるが,多様なパーソナル・ソーシャル・サービスを量的に増大させ,同時にそうしたサービスを利用者に適切に届けることが必要であり,それを計画的に始めたのが,この時期の特徴である.アメリカであれば,パーソナル・ソーシャル・サービスが社会保障法第20章のもとで,1つのヒューマン・サービスとして位置づけられたのは1975年であり,これ以降ケースマネジメントが普及していった.イギリスにおいては,10数年遅れ,1990年に制定された「NHSおよびコミュニティケア法」の下,地域福祉を推進するためにパーソナル・ソーシャル・サービスの量的な拡大が計画的に図られ,同時に地方自治体のSSD(social services department)にケアマネジメント・システムが導入される時期に相当する.

 日本においては,当時の厚生省大臣官房老人保健福祉部が、一方で、市町村での計画的にサービスを拡大していく手法の開発を目指して「高齢者保健福祉計画作成研究班」と、拡大したサービスを要援護高齢者にデリバリーしていく仕組の開発を目指した「高齢者在宅ケア・ケースマネージメント研究班」を組織し、市町村が高齢者保健福祉サービスを計画的に作成していくための『高齢者保健福祉計画作成研究班報告書』(1990年)、および高齢者保健福祉計画のもとで作られた在宅サービスを高齢者にデリバリーしていく地域システムを示す『高齢者在宅ケア・ケースマネージメント研究班中間報告書』(1990年)を刊行している.これらでもって,個々の市町村では,地方分権化の下,高齢者保健福祉計画に基づき、在宅保健福祉サービスを計画的に増大させ、他方要援護高齢者にサービスを提供していく地域ケアシステムの初期形態を作り上げていった.

 具体的には、老人福祉法と老人保健法の改正により、各市町村が高齢者保健福祉計画を作成することを義務づけ、その中で高齢者保健福祉サービスの目標量を設定した。一方中学校区を核にして、全国で1万か所の在宅介護支援センターを設置し、そこでサービスを必要な利用者の発見から、アセスメント、ケアプラン作成・実施、モニタリングといった一連のプロセスを踏んで、利用者がサービス利用への円滑なアクセスを可能にするサービス・デリバリー・システムの原型を作った。

 この当時のサービス・デリバリー・システムは、在宅介護支援センターに保健師と介護福祉士、または社会福祉等のソーシャルワーカーと看護師を配置し、要援護高齢者の相談にのり、ケアマネジメントを実施することであった。このサービス・デリバリー・システムの問題点は、大きく2点あった。第1は、必ずしも全ての要援護高齢者が在宅介護支援センターでケアマネジメント支援を受ける窓口の仕組みではなく、市町村の福祉事務所等や保健センターでも相談窓口になり、支援していたため、オプショナル的な役割に過ぎなかった。第2の問題点は、在宅介護支援センターで作成されたケアプランが必ずしも実施できるかどうかは確かではなかった。それは、福祉事務所等が措置権をもっており、サービス利用の決定やさらには利用できる頻度の決定の権限は市町村にあったためである。

 第1のターニングポイントは、この時期での改革抜きには次の段階がなかったと言える。市町村の責任で長期的に必要な各種在宅サービスのインフラを築き上げ、サービスへのアクセスを促進する人材を養成し、本格的なサービス・デリバリー・システム形成に向けての目安が出来上がりつつあった時期として位置づけられる。


韓国のワークショップで思うことー「生活ニーズは普遍的」

2008年11月20日 | 社会福祉士
 韓国老年学会招きで、30周年記念国際シンポジウムに参加させていただき、「日本における長期ケアでのサービス・デリバリー・システム」について報告させていただくことで、現在ソウルにいる。シンポジウムの合間を縫って、梨花女子大学で、専門職大学院生や現場のソーシャルワーカーを対象にケアプラン作成のワークショップを行った。

 思いとしては、おそらく近々韓国でもケアマネジメントが導入されることになるだろうからである。韓国が一部真似たドイツの介護保険についても、近々ケアマネジメントが導入されることになっている。これは日本からの移出であり、多くを欧米のシステムを真似てきた日本が、逆に移出できるとは大変珍しいことである。こうしたドイツの状況からしても、できる限り早くからケアマネジャーを養成しておくべきであると考えるから、今回は梨花女子大学で開催することにした。日本は、介護保険前に、実験的に10年程度在宅介護支援センターをベースにケアマネジャー人材を養成しており、一定のベースがあったことが大きかった。

 ワークショップには、コミュニティ・センターで相談業務を行っている人やホームヘルパーを派遣している法人でのサービス提供責任者のような仕事ををしている人が参加いただいた。今回梨花女子大を選んだ理由の1つは、この大学では学部のソーシャルワーク教育は廃止し、専門職大学院の教育を行っていることでの期待があった。ある意味、アメリカ流の教育で、新たな学生を掘り起こし、専門性を高めようとしているからである。そうした専門職大学院生に、こうしたワークショップの評価を尋ねてみたかったからである。

 ワークショップの手順は、まずはケアマネジメントについて、特にアセスメントから生活ニーズ把握の方法について講義をした。次のグループで、ハングルでアセスメント用紙に書かれた実際の日本の事例から、生活ニーズを導き出し、最終的には必要なサービス名や内容、さらには頻度や時間数を導き出す作業を行った。これらを各グループが発表し、それに対して講評や議論をしていくものである。

 こうしたワークショップを既に数回、韓国で行ったことがあるが、大変評価が高かった。このワークショップに参加したことから、私の大学に留学してきた実務者もいる。今回も、終わってから、ワークショップに対する評価を調査したが、計画的に支援し、利用者の状況を変えていくことがよくわかったとの評価を得て、無理をしてワークショップをした甲斐があったという気持ちになった。何か、在宅介護支援センターが日本で始まった当時の雰囲気に近いものを感じた。

 このワークショップから学んだことは、生活ニーズは普遍的であり、韓国であろうと日本であろうと、同じ生活ニーズが導きだされてくることである。ある意味、最もな話であるが、同じ状態の人であれば、日本であろうが、韓国であろうが、アメリカであろうが、生活ニーズは同じである。ただし、それぞれの国なり地域の利用できる社会資源の状況が異なる以上、利用するサービスや支援の内容は異なってくることが明らかである。

 このことから、ソーシャルワークは国際的には普遍的な教育が可能であることが分かる。但し、そのニーズを満たすのが、フォーマルケアかインフォーマルケアか、さらには、セルフケアであるかは、それぞれの国の文化や価値観、またサービス基盤整備の状況に影響されることになる。その意味では、もっと国際的な視点での教育や交流が必要ではないかと思う。

麻生首相と同じ程ではないが、自信がないブログの文章

2008年11月19日 | 社会福祉士
 麻生首相は漢字が読めないのか、読み違いをするのか分からないが、ミスが多いそうである。麻生首相の読み方を「あそう読み」といいい、「一般的な辞書の読み」と区別すると、以下のようになる

 言葉 「あそう読み」 「一般的な読み」 
「有無」  ゆうむ     うむ
「措置」  しょち     そち
「詳細」  ようさい    しょうさい
「前場」  まえば     ぜんば
「踏襲」  ふしゅう    とうしゅう
「頻繁」  はんざつ    ひんぱん
「未曾有」 みぞゆう    みぞう

 一方、麻生首相がアメリカでの生活経験が豊富で、英語が堪能であると言われている。英語ができる分、日本語ができないのかもしれないが、一国の首相としては、母国語ができないということは、国民にとっても恥ずかしい限りである。

 私もほぼ毎日ブログを書いており、読者から日本語がなってない、誤字が多いという評価を受けないようにと思っている。そのためには、書いてからの推敲が必要なのでしょうが、書いては即掲載という自転車操業の繰り返しのため、ついつい文章を見直すことがないのが現状である。あまり、恥をさらさないよう、少しは見直しをして、極力誤字を少なくして、掲載していきたい。

 この誤字の話題になると、私はいつも師である岡村重夫を思い出し、襟を正すことになる。私は少しオリジナリティがあると思った論文や著書については先生に送ることにし、叱られる可能性のある論文は送らないことにしていた。ただ、後者についてもどこかで読んでいて、色々と厳しいコメントを頂いたものである。前者の送らせていただいた論文には、必ず返事が返ってくる。その最初の文章が、「まずは、誤字がーーーにあり」で始まる。その後で、先生のコメントとなるが、ご返事であまり褒めて頂いた記憶はない。このようなご返事は、亡くなられる前まで続いたが、弟子にとっては、大変有難いご指導であった。先生にとっては、最後まで師であることの証として、こうしたことを貫かれていたのであろうと想像する。

 私も多くの方々から献本されることが多い。最近は若い方々からの論文や著書も多くなっている。読むには読み、忘れることがない限りは、お礼状を出すことにしている。ただ、「誤字がーーーにあり」といったコメントを書ける若い皆さんへの師としての自覚は未だない。
 
 そこで、今後は献本頂いた論文や著書はできる限りブログの中で紹介させてもらい、岡村流の誤字探しからの厳しいものではないが、ストレングスの視点からコメントもさせていただくことにしたい。





地域包括支援センターの真なる仕事に向けて

2008年11月18日 | ケアや介護
 最近、地域包括支援センターの真なる仕事についての講演を依頼されることが多い。地域包括支援センターの職員は、特定高齢者や要支援者ケアマネジメントで多くの時間が割かれているが、おそらく地域包括支援センターの真なる仕事を模索しているのであろう。

 特定高齢者の介護予防については要支援になることを予防する効果がなかったという厚生労働省の委員会報告が出ているが、真なる仕事は、平成2年度にできた在宅介護支援センターの時代からの宿題がまだできてないことにように思える。

 確かに、個々の利用者に対してアセスメントし、ケアプランを作成・実施するケアマネジメントが一定の成果を上げることが、在宅介護支援センターの時代にでき、今日まで発展してきた。しかしながら、地域の中で、ケアマネジメントを必要としないよう予防する仕組みがあったり、問題をもっている利用者を発見し、伝えてくれる仕組みがあったり、地域住民で助け合う仕組みがなければ、効果的なケアマネジメントができない。こうした種々の仕組みを作り上げていくことが積年の課題であったが、それを地域包括支援センターに求められていると言える。こうした仕組みを生活圏域で創っていくことが、地域包括支援センターの真なる仕事であると言える。

 これを実施していくためには、地域の課題を見い出し、当該地域のその課題の状況を詳しく捉え、解決する計画原案を作り、関係者が会して合意を得て、計画を実施していくことになる。さらに、実施状況を評価し、計画内容を修正・実施していくことである。これは、個人へのケアマネジメントと同じ過程であり、問題の発見→アセスメント→仕組みづくりの計画作成→仕組みづくり計画実施→モニタリング、の過程をとることである。

 ただし、地域包括支援センターがこの過程を辿っていくためには、補助的に支援できるアセスメント用紙や計画作成用紙があることが望ましい。現状ではそうした用紙がない以上、現場での創意工夫や、現場から用紙の提案が求められる。

 こうした計画がきちっと実施されれば、地域包括支援センターは計画的に地域社会や時には地域の組織を変えていく(planed change)ことができ、1つの地域包括支援センターの実践が全国の他のセンターに波及していくことができる。ひいては、全ての地域包括支援センターはまちづくりでよく使われる「プラットホーム」になることがきる。すなわち、支援が必要な人も支援を提供してくれる人もやってくるセンターとなり、そのセンターから、やってきた人が乗った多様な電車が発車していくことになる。結果として、電車が走っていていくことで、地域の仕掛けが作られ、個々の住民が地域の中で支えられていくことになる。

 このようになれば、将来に、万が一要支援者が介護保険制度の予防給付から外され地域支援事業に移行することがあっても、地域包括支援センターは真なる仕事を行っており、生き残ることができる。

 どこかの団体がアセスメントや計画の用紙作りを考えておられるなら、私も是非参加させていただきたいものである。

追加経済対策1200億円は介護職の報酬等の待遇改善につながるか

2008年11月17日 | ケアや介護
 追加経済対策として1200億円が計上されるが、その概要が示された。結果として、介護報酬を3%上げるが、その際に保険料の軽減対策に使われることになった。具体的に、第1号被保険者の65歳以上高齢者については、図に示してあるように、3年分を合わせると、3%の上昇分の半分を国庫負担にするということである。これら以外に、40歳から65歳未満の第2号被保険者については、財政状況の特に悪い医療保険者に限定して1年目は300億円、2年目は150億円国庫負担をすることになる。

 この結果、一つの課題は、国や、都道府県、および保険者は3%分に相当する財源が来年度から必要になる。国であれば210億円程度(公費の2分の1)の新たな持ち出しと自然増分(全体の4分の1)の工面してこなければならない。

 高齢者にとっては、3年をトータルに捉えると、3%上げるうえで自己負担する分が半分軽減されることになるが、ここに3年間での自然増分があり、自己負担は増加することになる。

 次に、こうした介護報酬の引き上げは、介護職の報酬を上げることで定着率を高め、多くが介護職になってもらうために行うものであるが、果たしてそうしたことに連動するかは不透明である。こうしたことが実現するためには、介護職の報酬を直接上げる方策の方が有効であるが、現実には保険料を抑えることに力点を置き、そのことが介護職に報酬にインパクトを与える方法をとることになった。

 そのため、介護職の報酬を上げるためには、さらに別の方策が求められる。例えば、人件費比率を一定の比率以上にすることを義務付けることができるかどうか分からないが、最低限、人件費比率を公表するシステムを作り必要がある。

社会福祉士の職域拡大と待遇改善への意見(2)

2008年11月15日 | 社会福祉士
 ②職能団体や養成団体の現状と課題
 社会福祉士やソーシャルワーカー養成団体である(社)日本社会福祉士養成校協会や(社)日本社会福祉教育学校連盟は社会福祉士やソーシャルワーカーの権限委任を得るために何をしてきたのかと問われれば、反省すること大である。また、職能団体である(社)日本社会福祉士養成校協会は、継続教育機能が中心であり、社会福祉士が国や自治体、国民、利用者から承認を得て、さらに結果として職域拡大や待遇改善に結び付けることをしてきたであろうか。

 確かに今回の「社会福祉士および介護福祉士法」改正では、法改正の推進や付帯決議のためのソーシャルアクションの実施を職能団体・養成団体が実施したことは評価できるが、具体的に、社会福祉士が社会的承認を得ていくための行動は不十分であったことを反省し、新たな一歩を踏み出す必要がある。

 具体的には、職能・養成団体は、自らが社会福祉士に社会的承認を与えていくことと、他の行政や雇用団体、国民、利用者から社会的承認を得るために、働きかけていく必要がある。

 ③雇用者団体や施設団体への働きかけ
 (社)社会福祉施設経営者協議会、(社)老人福祉施設協議会を始め領域別での協議会、老人保健施設協議会は自らのみでは社会福祉士の待遇改善のために動くのには限界がある。そのため、職能団体や養成団体が承認を得られるよう、雇用者団体や施設団体に働きかけていくことが不可欠である。例えば、どのような社会福祉士機能を強化すれば、利用者支援や施設マネジメントに役立つかといったことを、定期的に議論し、教育・研修することで、雇用先での承認を得ていくことが道筋であろう。

 ④利用者や国民からの承認
 国民から社会福祉士の権限委任の承認を得ていくためには、社会福祉士に関する啓発活動が不可欠である。これには、職能団体と養成団体がスクラムを組んで実施していく必要がある。さらには、支援をしてきた利用者から社会福祉士が高い評価を得ることで、社会的承認を得る必要がある。この利用者には、個人だけではなく、家族、地域の団体、地域住民全体である。ここでは、社会福祉士の実力が試されることになる。そのため、大学教育や継続教育の必要性や職場環境の整備が不可欠なってくる。

 結論として、職域拡大や待遇改善に向けて、私が会長をしている(社)日本社会福祉士養成校協会が実施しなければならない仕事が多数あることが分かり、その解決に向けて邁進しなければならない。但し、(社)日本社会福祉士養成校協会は大学や一般養成施設の集合体であるため、個々の会員校の教員がそのような意識を持って、それぞれに働きかけてくれることが基本であるように考える。

 もう一つの結論は、権限を多方面から社会福祉士に委任されるためには、図では、赤で囲ってある、「価値」「知識」「方法・技能」「目的」を有した優秀な人材を確保していくことが基本であることである。このことは、教育と継続教育を推進し、優秀な人材を養成していくことが、すべての基本であるといえる。

社会福祉士の職域拡大と待遇改善への意見(1)

2008年11月14日 | 社会福祉士
 11月8日と9日にかけて、2008年度全国社会福祉教育セミナーが東海大学で開催され、「社会福祉専門職の職域拡大・待遇改善と社会福祉教育ーいかに危機をのりこえるか」のシンポジウムのコメンテーターとして参加した。この中で、私は「どうすれば、職域拡大・待遇改善ができるか」についてコメントしたが、今日のブログで、その時に話した内容を説明しておきたい。なお、私は(社)日本社会福祉士養成校協会会長という立場でのコメントであったため、社会福祉士という視点からの職域拡大・待遇改善であることを、お断りしておく。

 全米ソーシャルワーカー協会(National Association of Social Workers:NASW)が古く1957年年に出した「ソーシャルワークの枠組み」は、①ソーシャルワークの目的(object)、②ソーシャルワークの価値(value)、③ソーシャルワークの知識(knowledge)、④ソーシャルワークの技能・方法(skill/method)、⑤ソーシャルワークに対する社会の承認(social sanction)の、5つで構成されるとしている。 これは、英国ソーシャルワーカー協会(British Association of Social Workers : BASW)が1977年に出版した『ソーシャルワークの課業』でも,この五つの全体布置でもってソーシャルワークを構成するとしており,そのいずれもが欠落してもソーシャルワークを構成することがないとしている。

 これは以下のような図になる。


 このソーシャルワークに対する権限の委任は、逆に言えば、ソーシャルワークに対して社会全体からその存在について承認を得ていくことである。この委託してくれるなり、承認してくれるのは、一体「誰」であるのか。これについては、以下の5つがあると言う。①国や自治体、②雇用団体や個々の雇用機関・団体、③職能団体や養成団体、④利用者、である。(Elizabeth M. Timberlake, Generalist Social Work Practice : Strengths-Based Problem-Solving Approach)

 これら5つから権限の委任を得ていくことで、日本でのソーシャルワークの職域の拡大と待遇改善を図っていくべきである。これには、新たに参入していく部分と、従来の領域を充実していく部分がある。

①新たに拡大していくこととしては、教育、更生、労働の領域での職域の開拓と、行政での社会福祉士に限定した専門職採用の推進であると思っている。

②現状を充実していくこととしては、社会福祉施設および介護保険施設の相談員の配置の推進と社会的待遇の充実と、在宅サービスの相談員や社協職員等での配置の推進と社会的待遇の充実である。(例:加算を土台にした待遇の改善)

 以上のような職域拡大・待遇の改善に向けての具体的な展開について、社会福祉士の観点からは、権限を委託される視点から整理することができる。

 ①国や地方自治体からの権限の委任
 現状では、国は社会福祉士の国家資格を創設し、地域包括支援センターに社会福祉士の配置を義務化することで、まさに社会福祉士に権限の委任がなされてきた。地方自治体については、社会福祉士に限定して職員募集をする自治体が増加してきており、これも社会福祉士への権限の委任である。

 課題としては、国が司法領域、教育領域で新規にソーシャルワークに関わる事業が新規に始まっており、この事業について社会福祉士を基礎にすることの承認が得られるよう働きかける必要がある。労働領域についてはソーシャルワークが不可欠な領域であり、社会福祉士を基礎に制度化することの承認していくよう新たに働きかける必要がある。

 また、地方自治体については、社会福祉士に限定しての採用試験を実施するよう、実施していない自治体に働きかけることで、職場の仕事の一部を社会福祉士に権限を付与する仕組みを作っていく必要がある。さらには、都道府県や市町村が実施している相談事業での社会福祉士資格の要件をつけることで、社会福祉士の承認を得ていく。これには、例えば、大阪府がコミュニティ・ソーシャルワーク活動事業を実施しているが、これを社会福祉士に限定するよう働きかけることになる。
         

学部レベルでの社会福祉専門職養成教育における達成課題について(5)

2008年11月13日 | 論説等の原稿(既発表)
5.あるべき社会福祉専門職像のイメージ
 以上のような幅広い養成教育を行っていくためには、膨大な時間を要し、必ずしも十分なことができないことは明白である。但し、こうした養成教育を推進していくためには、あるべき社会福祉専門職像を示し、そうした人材をいかに養成していくかの具体化を示すべきである。

 創設時に社会福祉士制度は、社会人が一般養成施設に入り、国家資格を取得していくことを基本に作られ、社会福祉領域で働いていたかどうかは別にして、社会人が社会福祉士国家資格を取得していくことをモデルにしてきた。そのため、大学を卒業して即社会福祉士になることは亜流として位置づけられてきた。そこには一定の成熟した社会人が専門教育を受けて、社会福祉士という専門職になるという専門職像があった。

 しかしながら、本質的に大学教育を介して社会福祉士を育成すること、さらには現実的に大多数の国家試験受験者が大学の新卒者であるという事実からも、大学を卒業し社会福祉士として働く人の像をモデル化し、そこにどのような養成教育を実施すべきかを考えるべきである。

6.社会福祉専門職確立に向けての戦略
 こうした大学を起点にした社会福祉専門職養成教育を考えると、単に大学教育で終始するのではなく、大学院での専門職教育や継続教育によって賄わなければならない部分も多い。しかしながら、大学院専門職教育を推進するには、一定の社会的待遇と職場確保が不可欠である、現時点では大学院専門職教育に大きくシフトすることには無理があるといえる。

 ここでは、結論として、図4のように社会福祉専門職教育を、「社会人としての基礎知識」「専門職としての基礎知識」「ジェネリックな社会福祉専門職としての価値・知識・技術」「スペシフィックな社会福祉専門職としての価値・知識・技術」、さらには「マネジャーとしての価値・知識・技術」の5つの社会福祉専門職養成教育を連動させることで、社会的に信用され、かつ実践応力のある人材を養成できるかである。さらに、最も右にある「スペシフィックな専門職としての価値・知識・技術」については、個々の大学の特徴を発揮することで対応したり、社会福祉系大学での単位互換でもって対応していくことが考えられる。

学部レベルでの社会福祉専門職養成教育における達成課題について(4)

2008年11月12日 | 論説等の原稿(既発表)
4.専門教育の課題
 一方、専門教育の充実も不可欠である。ここでは、基本となる専門職養成のジェネラリスト教育の確立と多様な領域で高い専門性を有したスペシャリスト教育への拡大の二方向が基本となる。社会福祉士養成はジェネラリスト教育であるが、この教育については新「社会福祉士養成課程」により、一定実践能力のある人材づくりに着手した。ただ、国際的に比較して実習教育は不十分であり、未だ実習教育の量的充実は残された課題である。
 
 他方、国際ソーシャルワーカー協会(IFSW)と国際ソーシャルワーク教育連盟(IASSW)が合同で、2004年にGlobal Standards for the Education and Training of the Social Work Professionを作成し、ソーシャルワーカー養成でのグローバルスタンダードを作成した。今回の新カリキュラムなりそのシラバスでは、この基準を当然満たすべきである。具体的には、①大学の目的なり使命の明示、②課程の目的とその成果、③実習を含む課程のカリキュラム、④コアカリキュラム(ソーシャルワークの分野、ソーシャルワーカーの分野、ソーシャルワークの方法、ソーシャルワークの枠組)、⑤ソーシャルワーク教職員、⑥ソーシャルワーク学生、⑦機構、管理、統制および資源、⑧文化的・人種的多様性、⑨ソーシャルワークの価値と倫理的行動綱領について、基準を遵守した教育をしていくことになる。

 さらにソーシャルワーク領域でも国際化が進む中で、国家資格がある日本、韓国、さらには中国との間においても、国家資格の互換性がなされていない。さらには、認証制度であるアメリカやイギリスの認証ソーシャルワーカーとの互換性は当然無く、国際化に中でこれらの互換性を作り出していくためには、一定の共通した科目履修や実習を整え、国際的な資格制度を指向していかなければならない。

 一方、スぺシャリスト教育の必要性が社会的に生じてきている。専門性の高い社会福祉士等が求められる情況が司法、学校、医療・保健、施設領域で生じている。特に、司法領域では出所者の社会復帰、学校領域では生徒やその家族に対する支援で、社会福祉士に対する期待が高まりつつある。それに応える教育としてのスペシャリスト教育が求められている。例えば、他領域では、スクール・カウンセラーが大学院卒の専門性が強調される中で、そうした専門性とごして仕事をしていくことが迫られている。「ソーシャルワーカーの基本は教えたから、後は就職先で教えてもらいなさい」では通用しない状況が起こっている。

 そのため、大学教育においても、単にジェネラリスト教育では社会的に通用しない時代を迎えている。そのため、可能な限り学生が卒業して就職する職場で適応するだけでなく、その領域での一定の知識と技術を備えた人材を輩出していくことが求められているといえる。