ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

ケアマネジメントとソーシャルワークの関係23コミュニティ・ソーシャルワーカーのネットワーク調査(3)

2009年06月30日 | 社会福祉士
2.ネットワークの立ち上げ

 CSWはネットワーク立ち上げの準備として【地域に知ってもらう】ことと【地域を知る】活動を行うことにより地域との信頼関係を構築した後、ネットワークを立ち上げるために【ネットワークの啓発】を行っていた。【ネットワークの啓発】というカテゴリーは、<ネットワークを立ち上げるための啓発活動>と<地域住民の地域課題への気づき>という2つの概念からなり、地域住民が主体的にネットワークを立ち上げられるよう関わっていくためのCSWの活動である。

 まず<ネットワークを立ち上げるための啓発活動>は、地域にある課題に対応するための住民主体ネットワークの必要性を地域の人々に伝えていく活動であると考えられた。住民主体ネットワークはその名の通り活動の主体が住民である。そのためCSWは自らネットワークを立ち上げるのではなく、地域住民が主体的にネットワークを立ち上げられるようにするために、このような啓発活動を行っていた。この啓発活動は、非常に長い時間をかけて行う場合もあれば、住民達の問題意識が高まったときに効果的に行われる場合もあった。

 <地域住民の地域課題への気づき>は、この啓発活動を行うにあたり住民自身が地域課題にふれてもらう機会を作ることにより、住民の意識を高めることを目的として行われている活動であると考えられた。この<地域住民の地域課題への気づき>を通して、地域住民の意識を高めることにより効果的に<ネットワークを立ち上げるための啓発活動>を実践し、ネットワーク立ち上げにつなげていた。


3.ネットワーク開始後

 CSWによる【ネットワークの啓発】によって住民主体ネットワークが立ち上がってから、ネットワークを確立していくためにCSWは【住民主体ネットワーク推進のための専門職の技術】を駆使していた。【住民主体ネットワーク推進のための専門職の技術】は、ネットワークが始まってからCSWによる実践の中心となるカテゴリー、すなわちコア・カテゴリーであると考えられた。このコア・カテゴリーはネットワーク初期から安定期まで全般にわたって用いられる【基本技術】と、ネットワークが確立してきた安定期から用いられる【ネットワークの拡充】、【ネットワークの維持】という3つのカテゴリーから構成される。以下、それらについて順に述べる。

(1)ネットワーク支援の【基本技術】

 まず、ネットワーク初期から安定期まで全般にわたり用いられる【基本技術】は、<自発的な住民活動に対する側面的支援>、<住民活動の段階に応じた関わりの調整>、<ネットワーク推進における計画策定>、<ネットワークを継続させる住民の意思の尊重>、<地域住民への介入のタイミング>という5つからなり、CSWが住民主体ネットワークに関わるときの基本的な支援のスタンスを表している。

 この【基本技術】を構成するものは、<ネットワークを継続させる住民の意思の尊重>によって規定されていると考えられた。住民主体ネットワークは、何よりも住民が主体的であることが必要であり、つまり<ネットワークを継続させる住民の意志の尊重>が必要である。CSWは常にこの<住民の意思>を尊重してネットワーク支援に取り組まなければならない。

 <自発的な住民活動に対する側面的支援>とは、まさにこの<住民の意思>を尊重した技術であると考えられた。つまり、CSWは自らの意志でネットワークの方向性や内容を検討するのではなく、あくまでも住民に対して助言やアドバイス、情報提供をすることにより、住民が主体的にネットワークの方向性や内容を決定していけるように支援していた。

 <住民活動の段階に応じた関わりの調整>では、CSWはネットワークにおけるそれぞれの住民活動の段階に応じて関わりを調整していると考えられた。あるCSWは『何か立ち上げる、何か活動を起こす時ってエネルギーがいりますやん。そのときにドッと行って、立ち上がったら少しずつ引いていって』と述べており、ネットワークは初期に多くの支援を必要とするがネットワークの安定とともに徐々に専門職による支援の必要性が減少するため、それぞれの時期に応じた支援を行うことにより、住民の主体性を尊重することとなる。また『だから、ポイントポイントの会議は絶対に出ようと思っているんですけれども…あんまりそんな決め事とかないけど、とりあえず連絡事項とかあるぐらいかなというときは、もう出席していません。』と述べているCSWもおり、安定した後は重要となるポイントを見極めて関わっていくことが重要である。

 <ネットワークス推進における計画策定>は、ネットワーク支援にあたりCSWが持っている今後の方向性や目標であると考えられた。しかし、何度も述べているように住民主体ネットワーク推進においては住民の主体性を尊重することが重要である。そのためCSWは自身の中で目標を持っているが、あくまでも住民の段階に応じた支援を行っていた。そのためそれぞれの目標達成の時期に関しては明確に規定出来ず、それらの計画を書面にしていることは少なかった。

 <地域住民への介入のタイミング>は、CSWが住民の主体性を尊重しつつもネットワーク推進のために支援するにあたり、介入するポイントとなるタイミングであると考えられた。あるCSWが『だから、そんな住民の表情とか発言で、ふと変わるときがあるんですよね。受け身から主体的にね。そのときが狙い目かなと思ったり』と述べており、CSWは効果的にネットワークを推進するために、住民が受け身から主体的に変わるタイミングを見極めて、そのタイミングに介入していた。
これらの技術はCSWがネットワークを支援するにあたり初期から安定期全般にかけて常に用いていたネットワーキングの基本となる視点・技術である。


ケアマネジメントとソーシャルワークの関係22コミュニティ・ソーシャルワーカーのネットワーク調査(2)

2009年06月29日 | 社会福祉士
 (2)【地域を知る】というカテゴリーは<地域に出向き、地域に存在する要援護者の発見>、<地域の住民と仲良くなり地域の情報を得ること>、<催しものにおける地域住民からの情報収集>、<住民の地域活動を通じたニーズ把握>、<地域のキーパーソンの把握>という5つからなり、【地域に知ってもらう】ための活動とともに、ネットワークを立ち上げるにあたりCSWが取り組む、ネットワーキングの基礎を固めるための活動である。

 まず<地域に出向き、地域に存在する要援護者の発見>はCSWが自ら地域に出向いていき、地域に存在する要援護者や高齢者を発見するための活動であると考えられた。出向く場所はCSWによって様々であり飲食店などが多かったが、中には銭湯に行くというCSWもいた。

 <地域の住民と仲良くなり地域の情報を得ること>は、地域の情報が集まりやすいスーパーや飲食店の店員、また民生委員といった様々な地域の情報を持った人々と仲良くなることにより、その人々から地域情報を得るための活動であると考えられた。

 <催しものにおける地域住民からの情報収集>は、催しものを開催してそこに集まった地域住民より地域の情報を収集する活動であると考えられた。これは【地域に知ってもらう】活動の中で行われていた<催しものでの地域住民への専門職の周知活動>と同様に、自ら開催した催しものを通した活動である。つまりCSWは【地域に知ってもらう】ことと【地域を知る】という2つの目的を持ち催しものを開催していた。

 <住民の地域活動を通じたニーズ把握>は、既存の住民が行っている地域の活動に参加することにより、そこで地域課題の情報を収集するという活動であると考えられた。これは【地域に知ってもらう】活動の中で行われていた<住民の地域活動を通した専門職の周知活動>と同様、既存の住民活動の中で行う活動である。つまりCSWは住民活動への参加に対しても、催しものの開催と同様に【地域に知ってもらう】ことと【地域を知る】という2つの目的を持っていた。

 <地域のキーパーソン把握>は、民生委員や福祉委員、自治会長など特にそれぞれの地域に影響力を持った人を把握するための活動であると考えられた。ほとんどの地域においてCSWは民生委員や福祉委員と関係を構築していたが、やはりネットワーキングを進める上で協力を得るために特に地域への影響力を持った人を把握し関係構築を行っていた。


小括

 ネットワークを立ち上げる準備として、CSWは【地域に知ってもらう】ことと、【地域を知る】ための活動に取り組んでいたが、この活動にあたり、CSWは何よりも専門職として、<地域との信頼関係構築>に力をそそいでいた。CSWがまだ地域に馴染んでいないこの段階においては、地域の人々はCSWに対して拒否的な反応や、信頼できるかどうかを試すような態度を示すことがあり、このような場面においてCSWは地域の人々の信頼を得られるように専門職としての技術を駆使することが必要である。


ケアマネジメントとソーシャルワークの関係21コミュニティ・ソーシャルワーカーのネットワーク調査(1)

2009年06月27日 | 社会福祉士
 昨年度、文部科学省の科学研究費をもとに、大学院生との共同研究として、地域のネットワーキングをどのように作り、行っているかについての研究を行った。大学院生が中心になりヒヤリングをし、グランデット・セオリーをもとに分析し、まとめてもらった。私以外のメンバーは、後期博士課程の畑亮輔、増田和高、朝野英子、前期博士課程の豊川美奈子、金銀静、孝承であった。

 調査対象者は、大阪府のコミュニティ・ソーシャルワーカー(CSW)であり、ネットワーク構築を実践できている、あるいは実践した経験がある11名に対してインタビューを行ったものである。分析の結果として、ネットワークには地域住民の繋がりを強化し、地域の福祉力を高めることを目的として地域住民を巻き込んだ住民主体ネットワークと、地域に存在する様々な課題への対応を目的として専門職のみで形成された専門職ネットワークという2パターンのネットワークが存在していることが明らかになった。

 ソーシャルワーカーがネットワーキングを進めていくためには、極めて参考になるものが多く含まれており、分析結果を、数回に分けて、分析結果を掲載することとする。

Ⅰ.住民主体ネットワーク

1. ネットワークの立ち上げ準備

 CSWが地域に住民主体ネットワークを立ち上げるにあたり、まず【地域に知ってもらう】ための活動と、【地域を知る】という活動を行っていることが明らかになった。

 (1)【地域に知ってもらう】というカテゴリーは、<地域の人々に専門職を知ってもらうための周知活動>、<地域窓口への専門職の周知活動>、<催し物での地域住民への専門職の周知活動>、<住民の地域活動を通した専門職の周知活動>という4つからなり、CSWが地域でのネットワーキングに取り組む準備段階として、様々な活動を通して自らを地域住民に知ってもらう活動である。

 <地域の人々に専門職を知ってもらうための周知活動>は、地域に広報誌を配ったり、ビラを公民館や掲示板など地域の人々の目に付くところに貼るという活動を通して、地域の人にCSWまたCSWが所属する機関について知ってもらうための活動であると考えられた。

 <地域窓口への専門職の周知活動>は、地域の人々の中でも、民生委員や福祉委員などそれぞれの地域に精通している人々に知ってもらうための活動であると考えられた。活動は直接民生委員を訪問したり、自治会の会合などに出向いてそこで顔を知ってもらったりと様々な形態で行われていたが、あるCSWも話の中で『やっぱりおっても駄目なんですよね、外へ出て』と述べられているように、地域に出て行くことが必要である。

 <催しものでの地域住民への専門職の周知活動>もまた地域の人や代表者に知ってもらうための活動であると考えられたが、地域に出ていくのではなく地域の人々を集めてそこで周知活動を行うという形態で行われていた。これは、『突然民生委員さんの前に行って「こんにちは」と言ったって、相手は受け入れてくれない』という言葉から分かるように、地域の人は突然専門職が訪ねてきても拒否的な反応を示す可能性がある。そこで、最初から訪ねていくのではなく催しものを開催して地域の人々に来てもらい、そこで周知活動を行うことで人々の拒否的な反応を和らげるという工夫が行われていた。

 <住民の地域活動を通した専門職の周知活動>は、従前から行われている地域の様々な活動に参加することで地域の人々に広く知ってもらうための活動であると考えられた。このように【地域に知ってもらう】ために、CSWは工夫をこなしながら様々な活動を行っていた。インタビュー対象者の中には『市民さんからみたら「わかりにくい」とよく言われるし、…どういうふうにPRしていくかというところが、やっぱりうちの市ではやっぱり難しいけど、課題なんやろうな』と述べていた方もおり、CSWという地域の人からは分かりにくい専門職であるからこそ基礎となる周知活動が重要であるといえる。

ソーシャルワークにおける普遍性・共通性と個別性

2009年06月26日 | 社会福祉士
 「MSW Lab Blog」(このBlogでは、医療ソーシャルワークに関連する様々な情報を発信している)は、ソーシャルワーカーには勉強になるブログで、リンクを張らせていただいているが、最近の内容に刺激を受け、私も「ソーシャルワークにおける普遍性・共通性と個別性」というテーマで書きたくなった。

 「MSW Lab Blog」の6月15日のブログで、約半世紀昔の論文を引用して、ソーシャルワークのあり方を議論している。それは、川上武「医療チームとソーシャル・ワーク」『医療と福祉』1966、No.17、p.2~6である。内容は、以下のとおりである。

 「医師と患者の間にある疾病にあたるのは、いわゆる”悩み””心配”というようなことばで表現されるものではないかと思う。(中略)疾病にしても俗に808病といわれているのにくらべると、さらに広義の問題と対決しているワーカー・チームの対象がより複雑多岐にわたっていたとしても驚くことにはあたらない。

 しかし、”悩み””心配”が多種多様であるからといって、その間に何の脈略もなく、個人-クライエントひとりひとりによってことなっているのかというと、否といわざるをえない。808病といわれる疾病にしても、感染症、腫瘍、代謝病、奇形…といった視点でみることによって、その疾病構造が究明され、共通の治療法を見い出す上の出発点となっている。

 ワーカーにおいても、この点を明らかにし、それにもとづいた理論体系を作れるかどうかが、ソーシャル・ワークを科学にするか身上相談に終わらせるかの岐れ道だと思う。」(p4)

 私も学生時代に川上武の著書はたくさん読み、研究を進めていく上で多くのヒントを得たことを覚えているが、「MSW Lab Blog」では、「症状と相談内容は同一のものではないけれど、個人差を前提にしつつも何故ソーシャルワークと医学ではその後の対応に差が生じるのか。そのことが私の以前からの疑問である。」という内容に、大きな衝撃を受けた。川上武が50年前に提言したことに、日本のソーシャルワークがほとんど答えられなかったことに、責任と深い反省を感じる。

 このブログで6月20日に取り上げていただいている私のブログでは、2008年2月28日のブログで、今後の新カリキュラムのもとで、新たな教科書づくりで、以下のようなことを主張したものである。

 医学の領域では、「今日の治療指針」(医学書院)という本があり、毎年編集され、今年がその50周年になるという。そこでは、サブタイトルにもなっているが、「私はこう治療している」という内容の疾患別事例集である。ソーシャルワークもこのような著書を毎年刊行できるようになれれば、教科書を補強するものとして、きわめて役立つと思われる。ちなみに、「今日の治療指針」の50年前は、疾患数285数、執筆者250名だったそうですが、50年目の今回は、疾患数1099数、執筆者1075名となっている。ソーシャルワークについても、生活問題類型別の支援指針が示されると、社会福祉士のレベルアップにつながること間違いないと考える。(『福祉のアゴラ』(中央法規、2009年、26~27頁)

 私も事例研究の大切さを述べてきたが、それをもとに、普遍化・共通化できる部分を抽出していくことが重要であり、「MSW Lab Blog」の思いと全く同感である。また、例として、間質性肺炎患者へのソーシャルワーク支援指針を作られているが、こうした類のマニュアルを、どのソーシャルワーカーが行う場合にも共通にもたなければならない視点や方法について整理していくことが大切であると考えている。生活課題を類型化し、そこにオープンソースによる事例での共通性・普遍性の集積を、多くの実践に関わっておられる方々が参加して進めていくことを提案したい。

 なお、私ごとになるが、『ストレングスモデルのケアマネジメント』を1週間ほど前に刊行したが、そこでは23事例を分析するなかで、最終章で、ストレングスモデルを進めていく上で、どのケアマネジャーなりソーシャルワーカーが配慮しなければならない視点、方法、留意点について明らかにしたつもりである。ただし、23事例での結果に過ぎず、さらに多くの事例から、共通項を見つけ出していく作業が必要であると思っている。


ケアマネジメントとソーシャルワーの関係⑳地域包括・在宅介護支援センターのネットワーク調査(2)

2009年06月25日 | 社会福祉士
 そこで、次に、よくネットワークが形成されているとされる地域包括・在宅介護支援センター10ヶ所について、ヒヤリング調査を行い、これら10ヵ所の事例を、大学院生といっしょに分析した。この結果についても、全国地域包括・在宅介護支援センター協議会発行の『地域包括・在宅介護支援センターのネットワークづくりの現状と課題―どうすればネットワークをつくることができるのか―』の中に書かれている。

 ヒヤリング調査をまとめる中で、ネットワークを、「専門職のみの型」「専門職・地域キーパーソン合同型」「地域住民巻き込み型」に分け、ネットワークづくりで必要な工夫や留意点として、以下のような知見を得た。

■「専門職のみ型」 専門職団体や公的な組織に属する専門職で構成。基本的には定期的な会議を通して、参加している機関・メンバーの連携や情報共有を目的としている。
【ネットワークを行う上での工夫と留意点】
①各参加機関・メンバーが日常業務においても連携し合えるような“ギブ・アンド・テイクの関係作り”を行うことで、メンバー集めやネットワークヘの参加意欲を促進していた。
②制度の改正による、参加機関の多忙・機関の再編成によって引き起こされた従前からのネットワークの機能不全が、ネットワーク活動の阻害要因となっていた。

■「専門職・地域キーパーソン合同型」 専門職に加え、地縁組織や地域団体の代表といった地域住民の窓口的な立場にある人によって構成。虐待・困難事例への対応や、専門機関の役割をPRしていくことを目的としている。また、地域のキーパーソンが参加していることを最大限活かし、地域の現状把握、地域住民の主体性の育成なども目的とされていた。
【ネットワークを行う上での工夫と留意点】
①参加メンバーの積極性を引き出すために、各メンバーが意見を言い合えるような参加型の会議を行なう。
②運営機関が先頭に立つのではなく、一歩下がって側面的に関っていくというスタンスが参加している専門職・地域キーバーソンのネットワークヘの参加を促していた。
③新たにネットワークを立ち上げる際に、専門職は地域の課題などを把握したいという意図を持って地城に関わっていこうとする一方で、地域では仕事が増えることへの懸念などにより、専門職が地域に関わることに対する反発があった。

■「地域住民巻き込み型」 専門職、地域のキーパーソン、地域で暮らす一般住民を広く巻き込んだメンバーで構成。学習会などを通して、地城住民への福祉課題に関する啓発、専門職機関の役割のPR、地域の現状把握が目的として挙げられていた。さらにC型ネットワークの特徴として、住み慣れたまちで安心して暮らせるようお互いが支え合える「福祉のまちづくり」も重要な目的となっていた。
【ネットワークを行う上での工夫と留意点】
①ネットワークを立ち上げたきっかけについては、機関から地域住民に対してよびかけを行なった場合と、地域住民から機関への要望があった場合の2つのパターンに整理することができた。
②参加メンバーの集め方では、専門職に対しては、「専門職のみ型」「専門職・地域キーパーソン合同型」を活用することが多かった.また、地域住民に対しては、ポスター作成を地域住民に行なってもらったり、ビラ・チラシのポスティングを行なうことによって広報を行なうとともに、民生委員など地域のキーパーソンによる声掛け等も行なわれていた。
③ネットワークが始まった後、運営機関が主導で進めることによって地域の人が集まりにくいという阻害要因が示された。また、逆に住民が主体的な地域においてはネットワークが展開しやすい、という促進要因も示された。

 以上は、ネットワークづくりでの断片的な知見であるが、こうした知見に留意し、ネットワークを進めていっていただきたい。さらに、こうした知見を重ねることで、ネットワーキングの理論化をしていくことが可能になっていく。




ケアマネジメントとソーシャルワーの関係⑲地域包括・在宅介護支援センターでのネットワーキング調査(1)

2009年06月24日 | 社会福祉士
 最近の関心はケアマネジメントよりも、ソーシャルワーカーが実施するネットワーキングの方法を確立したいという気持ちの方が強く、そうした研究に関心をもち、また行っている。昨年度、私も参加し、全国地域包括・在宅介護支援センター協議会は、地域包括・在宅介護支援センターのネットワークづくりの現状と、具体的な展開について研究し、『地域包括・在宅介護支援センターのネットワークづくりの現状と課題―どうすればネットワークをつくることができるのか―』の報告書を刊行した。

 現状についての調査は、両者の全国のセンター3817か所に郵送し、1570か所からファクシミリで返答を得たものである。

 センターが形成しているネットワークを複数回答で尋ねたが、4214件のネットワークが明らかになった。一地域包括支援センター当たり3.3、一在宅介護支援センター当たり2.0のネットワークを作っていた。

 その多くは複合的な課題に対応しており、「認知症」、「虐待」、「孤独化」、「介護予防」等の特定のテーマに絞ったネットワークは2割程度であった。ネットワークの構成員は、専門職のみが4割、地域住民のみが2割、混成が4割であった。運営形態は、会議・連絡会が5割、研修会と不定形がそれぞれ4分の1であった。

 「認知症対応ネットワーク」では、「情報の共有・交換」が最も多い機能で、混成が3分の2を占めている。「虐待防止・対応ネットワーク」では、同じように「情報共有・交換」が最も多い機能であるが、「ケースの検討・方法討議」も主要な機能となっており、混成が多いが、専門職のみの構成も多い。「孤独化防止ネットワーク」では、「対象者の発見・把握・見守り」が最も大きな機能で、次が「情報共有・交換」となっていり、構成員では地域住民のみの比率が高くなっている。「介護予防ネットワーク」では、孤立化防止程ではないが、地域住民のみの比率が相対的に高くなっている。「複合的な課題に対応するネットワーク」では、「情報共有・交換」の次に、「学習・構成員の結束強化」の機能を担っている。

 これらのネットワークの成立時点は、介護保険が始まる以前が930、介護保険が始まり地域包括ができるまでが、1464であり、地域包括支援センターが出来てからのものが1739となっていた。

 以上の結果、地域包括支援センターも在宅介護支援センターも、それなりのネットワークを形成しながら、仕事を行っていることが分かった。

どこに行くのか「大阪市立大学」

2009年06月23日 | 社会福祉士
2週間ほど前に、アジアの大学ランキングが出た。これはQSに出ているが、ホンコン大学がアジアのトップで、東京大学が3位である。私の所属する大阪市立大学は63位である。

 このホームページでは、世界の大学のランキングも時系列で見られるが、最新の2008年で見ると、トップがアメリカのハーバード大学で、次がエール大学(アメリカ)で、ケンブリッジ(イギリス)、オックスフォード(イギリス)の順である。東京大学は19位である。

 我が大阪市立大学は、2005年には269位、2006年には232位と上昇したが、その後は2007年には364位、2008年には400位台と低下の一途を辿っている。この原因はどこにあるのかは明白である。

 確かに、個々の教員の努力が足りない部分もあるかのしれないが、ここ5年ほどでの、教員数の合計で3割カット政策で、当然全体の論文数は減少し、また教育は従来通り行っている以上、教育の負担が3割増え、個々の教員の研究力が弱っていることが大きい。

 このような現実は、大阪市立大学だけではなく、とりわけ、地方自治体が運営してきた元公立大学で顕著である。これは地方財政が苦しく、同時に、法人化することで、自治体からの補助金が少なくなり、研究する体力を弱めてきた。まさに、元公立大学は、従来の国立大学と私立大学の谷間で苦しんでいる。もちろん、国立大学法人や私立大学も厳しいことも理解しているつもりであるが、数年間で3割の人件費削減は余りにも厳しすぎる。

 こうした事態をいかに打開していくのかは、大阪市立大学同様どこの大学も、執行部に委ねることが大きいが、独自で自立してきた私学(私学補助はあるが)から、多くの発想を学ぶ必要がある。経営面では、多様な入学試験や、個々の教員の企業との連携を超えて、大学と企業との制度的な提携といったことで、財源を確保することに努力している。こうした努力が、実質的な効果をさほど期待できなかったとしても、その努力こそが個々の教員の研究や教育への元気を与えることができる。

 また、おしなべてのカットではなく、思い切ったスクラップ・アンド・ビルドが求められる。そこには、個々の大学が誇る部分を伸ばし、他の大学と共通している、ないしは劣っている部分は削いでいく覚悟が必要である。大学の中でナンバーワンやオンリーワンの研究を育てていくことができれば、大阪市立大学も再度ランキングが上昇していくことと確信している。

 個人的には、細々ではあるが、少しでもランキングを高めるために、日々研鑽に努めたいと思っている。 

介護職員処遇改善給付金(仮称)の行方

2009年06月22日 | ケアや介護
 4月11日に書いたブログ「追加経済対策での「介護職員処遇改善交付金」(仮称)への期待」が、今もってよく読んでいただいている。この介護職員処遇改善交付金の具体的な概要を、6月3日に厚生労働省は提示した。「処遇改善計画」は、「福祉・介護人材確保対策について」の中の一部として示されている。

 4月からの介護報酬改定では、ほとんど介護職員の待遇改善にはつながらなかったことから、介護職員の処遇改善に取り組む事業者に資金を交付し、常勤換算の介護職員の1ヶ月当たり平均1.5万円賃金引き上げを目指すものである。

 交付を受けるためには、各事業所が介護職員一人当たりの交付見込額を上回る賃金改善を行うことを含む処遇改善計画を作成し、職員に周知の上で、都道府県に申請する。都道府県から委託を受けた国保連が、各事業者に交付することになる。ただ、平成22年度からは、介護職員のキャリアパスを明確にしていない事業者については、交付金の減額をすることになっている。

 この制度は、21年の10月から始まり、2年半分で、23年度で終わるものであり、合計で3975億円が予算計上されている。

 4月のアナウンスあった時と大きく変わったことは、従来は介護職員の人件費比率に応じた交付率と考えていたが、介護職員数に応じた交付率に見直している。前者であれば、給与水準が高い事業所ほど交付金が多くなるが、後者であれば、常勤職員1人当たりに同じ額が交付されることになるからである。

 そのため、交付率を訪問介護でみれば、「全国の訪問介護の介護職員数(常勤換算)×1.5万円×12ヶ月/全国の訪問介護サービスの総費用額」ということから、訪問介護は4.0%の交付率となっている。最も高いのは小規模多機能型居宅介護の4.2%であり、グループホームが3.9%、通所介護が1.9%、通所リハが1.7%、介護老人福祉施設が2.5%、介護老人保健施設が1.5%、介護療養施設が1.1%となっている。

 そのため、それぞれの訪問介護事業所の交付金は、事業所の介護報酬総額(自己負担分も含めた)の4%となる。それが、個々の介護職に常勤職1.5万円を基準に交付されることになる。

 この交付金については介護職の待遇がよくなることであり、大歓迎であるが、問題は2つある。第1は、平成23年度以降は、どのようになるのかの議論がなされておらず、はしごを外されるようなことがあってはならない。この部分を、国の現状の負担比率の25%をアップし、制度化することで永遠のものにすることを望みたい。

 第2の問題は、介護保険に従事する職員は介護職員だけではない。ケアマネジャーや看護師もおり、例えば、ケアマネジャーについては、国の介護事業者経営実態調査では、2004年から2007年の変化をみると、相当引き下げていることが分かる。その意味では、事務職も含めて介護保険に従事する全体の待遇改善についての議論が残されている。国は、今回の介護職員待遇改善給付金が打ち上げる前には、ケアマネジャー等も含めた「介護従事者」の待遇改善をうたっていたが、それはどこにいったのだろうか。

ブログ「ソーシャルワークのTOMORROW LAND」の現状と今後について

2009年06月20日 | 社会福祉士
 ブログを始めて、1年6ヶ月近くが経った。年4回の10日程度の休みを頂き、日曜日以外のほぼ毎日綴ってきた。その背景には、多くの方々から私のブログにアクセスしていただいていることが、励みになっている。感謝している。

 最近の動向では、平日は500人以上がアクセスしていただき、1500程度のアカウント数となっている。土曜日と日曜日は少しアクセス数が少なく、400人程度がアクセスしていただいている。時間帯では、午前8時、9時、12時と午後の10時や11時のアクセス数が多い。驚くことに、夜中のアクセスも相当ある。プラウザはもちろんInternetExplorer 7.xやInternetExplorer 6.xが中心であるが、dokomoやEzWebといった携帯電話からのアクセスが、3分の1弱程度ある。

 以上のことから、多くは働いている方が職場で見ていただいていることが推測できる。また、アクセスもとでは、(社)日本社会福祉士養成校協会とリンクしてるが、そこから平日は一定のアクセスがある。恐らく、訪問者の多くは現場のソーシャルワーカーやケアマネジャーが中心で、さらにはそれらの領域の養成に関わっている方々ではないと考えられる。

 1年6ヶ月が経ち、できる限り、自らの気持ちや考え方を前面に出すよう心がけてきたが、徐々にプライベートなことが少なくなり、少し硬派になっているのではと分析している。

 ブログのリーダーでもあり、何回か紹介した梅田望夫は、サバティカルに入ってが、事実私は、どうするのか、悶々としている。ブログに費やす時間もバカにならない。これで、論文を書く時間や本を読む時間が少なくなり、出版社にも多大な迷惑をかけている。毎日500名程度が訪問していただいている以上、サバティカルという訳にはいかないが、少し、ブログに割く時間を少なくすることを考える必要があるのかなと思っている、今日この頃である。

 7月から少し変更になりかもしれない。梅田も言っている「何を書いてもどこかで書いたことのリフレインになってしまう」恐れというのもあり、貯金を使い果たした感もなきにしもあらずで、少し貯めたいという気持ちは、少しは当たっている。 

『ストレングスモデルのケアマネジメント』(ミネルヴァ書房)を刊行

2009年06月19日 | 社会福祉士
 『ストレングスモデルのケアマネジメント』をミネルヴァ書房から刊行され、6月18日から始まった日本ケアマネジメント学会、日本老年社会科学会等が合同開催となる日本老年学会から、販売が始まった。良いタイミングに刊行されたと喜んでいる。

 この本は、利用者の好み、能力、意欲を活かしたケアプランをいかに作成していくかを、理論的におさえ、そこから具体的な23の事例でもって、どのようにストレングスを活用してケアプランを作ったかを示している。

 この23の事例から、ストレングスを活かしたケアプランがどのようにできるかを整理し、まとめたが、多くの示唆が得られた。これは最終章にまとめてある。これらのことを学んで、ストレングスモデルのケアマネジメントを行ってもらいたいと思っている。

 現場の皆さんから提出いただいた23事例は、もちろん利用者や家族から報告することの了解を得たものであるが、在宅の介護予防に方、要介護の方、認知症の方、身体・精神・知的障害者の方のケアプランである。さらには、介護老人福祉施設や介護老人保健施設といった介護保険施設だけでなく、障害者支援施設の入所者のケアプランである。

 こうした事例から学んでいただきたいことは、全ての利用者がストレングスを有しており、こうした肯定的な人間観を確立し、ストレングスモデルのケアマネジメントを実践して欲しいと願っているからである。

 こうした結果、利用者の潜在化していたものも含めて、意欲や好みや能力が活用することで、利用者が自信をつけたり、自分で課題を解決していったりする、エンパワーしていく支援をしていってほしいと願っている。

 今回は、高齢者や障害者領域でのストレングスモデルであるが、母子家庭やホームレス支援においても、また生活保護での自立支援においても、ストレングスモデルを使った支援の方法についても模索していきたいと思っている。

 近々書店にも出回ると思いますので、関心のある方は、是非手にとってご覧下さい。アマゾンでも早く買えるようにしたいと思っています。 

ケアマネジメントの第2ステージへの船出

2009年06月18日 | 社会福祉士
 6月18日から6月20日まで、横浜のパシフィコ横浜で日本ケアマネジメント学会第8回研究大会が開催される。今回の学会のテーマが「横浜から第2ステージへの船出ーケアマネジメントの可能性を求めてー」である。私はどのような第2ステージなのか分からなかった。

 この研究大会の会長を引き受けて頂いている橋本泰子先生から、第2ステージの意味をお聞きし、理解できた。

 この学会の会員は圧倒的に介護保険の介護支援専門員であったり、その介護支援専門員の業務に関心のある者である。そのため、発表も、ほとんどが高齢者のケアマネジメントである。そこで、横浜学会から、高齢者領域を超えて、より幅広くケアマネジメント研究を進めていくことをスタートさせる研究大会にしたいということである。それで、第2ステージという表現になっている。

 最終日の20日午後に「ケアマネジメントの未来」というテーマのパネルディスカッションの座長をお引き受けしたため、ディスカッタントの方々との打ち合わせをした時に、そのような思いを橋本先生から伺った。このような思いは私も同じであり、多様な領域でのケアマネジメントの研究者や実務者を作っていくことが必要であると思っていたため、座長をお引き受けした良かったと思っている。

 当日は、介護支援専門員に加えて、母子生活自立支援施設、精神障害者の地域活動支援センターのメンバーがそれぞれの領域でどのようなケアマネジメントを行っているかをご報告いただくことになっている。

 そこでは、基本的にケアマネジメントをやっている仲間であるとの認識をもってもらうことと、お互いが他の領域から学び合うことが多くあることを認識して欲しいと思っている。

 同時に、蔡2ステージに入っていくためには、学会からどのようなメッセージを出していくかである。それは、個々のケアマネジメントを実りあるものとする研究の発表も大切であるが、もう一つ大切な課題をもっている。それは、それぞれの領域でケアマネジメントを制度的に位置づけていくための研究も大切であると思っている。

 高齢者領域では介護保険制度のもとで制度化され、障害者領域では障害者自立支援法のもとで、相談支援事業者が位置づけられ、制度化されたが、十分機能しておらず、今回実施する法改正で、ケアマネジメントが機能するよう方向づけしてくれるものと期待している。

 これら以外では、今回ご報告いただく母子を含めた児童・家庭の領域、生活保護家庭を含めた低所得世帯の領域、ホームレスの領域等が考えられるが、これらの領域でケアマネジメントが確立してくると、次にはケアマネジャー間での連携が必要になってくる。例えば、生活保護を受けている要介護高齢者については、現状では介護支援専門員が核になり、ケアプランを作成し、チームアプローチで支えている。それが、今後は、福祉事務所のケアマネジャーと介護保険での介護支援専門員が、どのように役割分担するかが議論になってくる。

 このような連携が求められる時代を作っていくことが大切であり、一時期混乱が生じるとしても、これが第三ステージへの船出になると思っている。それは、地域住民全てを対象にしたケアマネジメントの仕組みが出来上がっていく段階である。

 これが最終的な到達点であると思っているが、いつになれば、こうしたシステムが作り上げられるのであろうか。このような展望をもっている政治家や行政マンをあまり知らない。ある意味、私にとっては長きに亘って、夢をもって仕事ができそうである。これができれば、地域社会をベースにした、理想のサービス・デリバリー・システムが構築できることになる。

 関心のある方は、20日午後のパシフィコ横浜でのパネルディスカッション「ケアマンジメントの未来」に是非ご参加下さい。

見える「ソーシャルワーカー」を作る

2009年06月17日 | 論説等の原稿(既発表)
 関西社会福祉学会のニュースレター(2009年度 1号)を発行するので、巻頭言を依頼された。関西社会福祉学会は日本社会福祉学会の独立した要素をもった地域組織ですが、毎年、学会を行い、年に2回ニュースを出している。今回、次号の関西社会福祉学会のNLに掲載予定の原稿であるが、その発行前に載せさせていただくことの許可を頂いた。

 それは、早く「ソーシャルワーカーデー」が創られたことを知って欲しかったからである。

 国際ソーシャルワーカー連盟は、2008年は4月15日を、世界ソーシャルワークデーと決めています。日本では、新たに7月20日(海の日)に、新たに日本の「ソーシャルワーカーデー」を決め、準備をしていが、多くの人に参加していただきたい願っている。

 ソーシャルワーカーデー中央集会会場は全国町村会館(〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-35)で、7月20日午後1時受付です。無料ですから、関心のある方は是非ご参加下さい。お持ちしています。 

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 巻頭言     見える「ソーシャルワーカー」を作る

 「ソーシャルワーカー」という言葉を知っておられる日本人がどれほどいるであろうか。さらに、ソーシャルワーカーはどのような所で、どのような仕事をしているか、ご存じの日本人はほとんどいないのではないだろうか。こうした状態で、社会福祉士や精神保健福祉士といったソーシャルワーカーの社会的地位を高めていくことは到底無理である。

 1960年代の古くに、全米ソーシャルワーカー協会(NASW)はソーシャルワークの枠組を提示しているが、そこでは、①目的、②価値、③知識、④方法と並んで、⑤社会的承認をもって、ソーシャルワークが構成されるとしている。その意味では、ソーシャルワークの価値、知識、方法を習得し、ソーシャルワークの目標達成に向けて教育や実践を一層充実していくことも大切であるが、他方、国、都道府県、市町村、ソーシャルワーク実践機関・団体・組織、利用者、国民に対して働きかけ、ソーシャルワークの社会的承認を得ていくことが不可欠である。結果として、ソーシャルワーカーの採用や利用を増大していくことになり、ソーシャルワーカーに実力さえがあれば、社会的評価を高め、ひいては待遇の改善にもつながっていく。

 こうしたアクションが日本では弱かったのではないかという反省に立ち、最近は何とかソーシャルワークの承認を高めていく努力が始まってきている。この最も大きな目玉が、今年から毎年7月20日に実施していくことになった「ソーシャルワーカーデー」である。ここでは、社会福祉士や精神保健福祉士といったソーシャルワーカーについて、広く国民の理解を得ていくことを意図している。また、日本社会福祉士養成校協会は、昨年二度にわたり、朝日新聞の一面を使って、「社会福祉士が、変わる」「社会福祉士が、広がる」というタイトルで、社会福祉士の活動を紹介した。その時は、多くの読者から驚くほど高い反響を得た。そのため、今年も社養協では、各養成校にお願いして、新聞広告を出すことを計画している。

 これら以外に、各都道府県単位で、日本社会福祉士会、日本社会福祉士養成校協会、日本社会福祉教育学校連盟等の団体が一緒になり、都道府県や政令指定都市に対して、行政の社会福祉士に限定した採用や社会福祉士や精神保健福祉士によるスクールソーシャルワーカー採用を働きかけることを始めている。また、社養協では、各都道府県単位で、高校の進路指導教員と社会福祉系大学教員との意見交換の場を作れないか、模索中である。

 このようにアクションを起こすことで、社会に見える「ソーシャルワーカー」を作っていくことを、様々な対象に向けて、様々な方法を使って進めていかなければならない。

「地域の中で暮らす」ことを支えるケアマネジメント

2009年06月16日 | 論説等の原稿(既発表)
 コミュニティ・ソーシャルワーカーのネットワーク活動で有名な豊中市社会福祉協議会の勝部さんから依頼されて、社協からケマネジャーとの連携を求めた『ケアマネジャーと地域福祉活動の連携のためのガイドラインパート2』の刊行にあたって、ケアマネジャーへのメッセージを依頼された。その再掲である。

 ケアマネジャーが地域のインフォーマルな資源にも関心をもち、それらを利用者のニーズと結びつけていくだけでなく、開発していくことに関心をもって欲しいと願っている。

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 ケアマネジメントは、人々が地域で住み続けるために、または、施設や病院から地域に復帰していくために開発された方法です。そのため、後者であれば、病院や老人保健施設を退院や退所する場合に、病院や施設との連携が不可欠であり、今回の介護報酬改訂でも加算が付いた。

 一方、どのようなケアマネジメントであっても、人々が地域社会で生活する以上、地域で活用可能な様々なフォーマルなサービスだけでなく、家族、親戚、近隣、友人、ボランティア、民生・児童委員、保護司、教会、等と人々を結びつけることで、より質の高い在宅生活(QOL)を目指すことになる。ケアマネジャーは単に、介護保険制度で利用できる介護サービスと結びつけることではない。

 このような仕事をケアマネジャーが進めていくためには、人々が地域生活をしていく上で生じている、「困っており、解決したい方向や結果」(ニーズ)について、人々から聞き出し、一緒にその解決方法を考えていくことである。その時、公的なフォーマルサービスには多くの利用制限があり、利用できないことも多いが、地域社会は「オアシス」であり、ある意味社会資源の宝庫である。この「オアシス」に視点をあてることで、人々は質の高い生活が可能になるといえる。

 ただ、誰もが地域社会で生活できることが当たり前ではある(ノーマライゼーションの考え方)が、現実には在宅生活に限界が生じたり、劣悪な在宅生活を余儀なくさせられている人々が実際に数存在している。こうしたことから、ケアマネジャーには、フォーマルな公的サービスを充実するために関わったり、地域が「オアシス」となるよう、地域住民に働きかけていくことにも着目しなければならない。地域には、既存の組織や団体に加えて、新たな組織も出来てきており、子どもから高齢者まで、潜在的な力が潜んでおり、これらの力を引き出すことで、人々が安心して、かつ質の高い生活ができるよう目指さなければならない。これは、まさにそれぞれの「地域」がもっている独自の強さ(ストレングス)を、探し当てていく作業であるといえる。

 さらに、ここでの人々とは、介護保険でのサービス利用者である要介護者や要支援者のみを指すのではない。障害者、刑を終えて社会復帰した人、子育てに不安のある家庭、虐待のおそれがある家庭、多重債務で悩んでいる家庭等である。こうした人々やその家族は、まさに地域の中で暮らしており、それ故、地域の中で、生活が支えられ、暮らしていけるよう働きかけていくことが、ケアマネジャーには求められている。

 その意味では、ケアマネジャーは、個々の人々だけでなく、地域の様々な人々や組織・団体・施設と密接に関わる必要がある。
 

ソーシャルワークにおけるレジリエンス(resilience:弾力性・回復力)という用語について

2009年06月15日 | 社会福祉士
 ケアマネジメントやソーシャルワークにおいて、「ストレングス」について研究し、それを実践に結びつけることを試みてきたが、最近、レジリエンス(Resilience)という用語が使われるようになってきた。

 医学界新聞2380号(2009年5月18日)では、このレジリエンス(Resilience)について、3人の精神医学の教授が座談会をしている。タイトルが「人間の主体性を再び取り戻すために」となっており、大変興味をもって、読むことができた。

 精神科では、精神疾患は「脳・中枢神経の脆弱性と心理社会的な有害因子(ストレス)の相互作用によって発病する」という脆弱性ストレスモデルが主流を占めていたが、ある衝撃が加わった場合に、それを跳ね返す力、回復力をもった状態を表す動的な概念がResilienceであるという(自治医科大学精神医学講座加藤敏教授)。例えば、同じ症状の統合失調症であっても、人のレジリエンスにより、回復する力が異なり、患者さんに語ってもらうこと(ナラティブ)等により、レジリエンスが発揮できる治療の重要性を指摘していた。

 これは、まさに生活モデルであり、医療自身も生活モデルを取り入れており、ソーシャルワークは、医療以上にこのレジリエンスを大切にして、利用者の支援をしていく必要がある。

 ソーシャルワークでは、このレジリエンスという用語を個人だけでなく、地域社会にも当てはめ、支援していくことが論じられることが多くなった。これは、私などが研究しているストレングスと類似の用語ではあるが、よりアクティブな用語であり、今後の課題としては、レジリエンスと、利用者、組織・団体や地域社会のどのような言葉や状態の中で発見され、この発見されたレジリエンスを、どのようにプランに移行していくかの、具体化が求められる。 

 レジリエンスに加えて、精神科領域では、リカバリーという用語も使われており、この用語にも注目し、利用者や地域社会支援に活用していくと同時に、レジリエンス、ストレングス、精神障害者でよく使われるリカバリーという用語の共通した思想なり考え方と、3つの用語の違いを整理する必要に迫られている。

ケアマネジメントとソーシャルワーの関係⑱ソーシャルワーカーに必要な「ネットワーキング」能力

2009年06月13日 | 社会福祉士
 今まで書いてきたことで、ソーシャルワークはケアマネジメントより広い仕事であることを示してきた。但し、これは、ケアマネジメントの機能を広げて捉えた場合は、両者は際限なく同じ業務なり機能になるであろうが、現状のケアマネジャーの仕事を見る限りではそうでないということである。

 それでは、両者を峻別する機能は、地域の中で、様々な「ネットワーク」を作りだし、それを機能させることで、人々が生活する土台である地域社会の基盤を作ることであるといえる。具体的には、ネットワーキングと呼ばれるネットワークを作る仕事もあれば、それを活用して、住民の権利を守っていくアドボケート(弁護的)機能があったり、こうした活動を続けるために財源確保の機能があったりするであろう。このネットワーキングはかってのコミュニティ・オーガニゼーションに置き換えても、齟齬がない。

 この人々が生活する土台である地域社会の基盤作りで思い出すのは、かって私が学生であった当時の大阪市立大学社会福祉学科では、コミュニティ・オーガニゼーションが社会福祉援助Ⅰであり、社会福祉援助Ⅱがグループワーク、社会福祉援助Ⅲがケースワークであった。当時、ほとんど全ての福祉系の大学は、ケースワークがⅠであり、もっぱらこの手法が社会の主流であった。このように他大学と違うかを、岡村重夫は、まさにコミュニティ・オーガニゼーションでもって地域社会の基盤を作らずして、個別のケースワークはあり得ないということで、そうのようにしたと自慢げに語っていたのを覚えている。

 このようにネットワーキングはソーシャルワーカーには極めて大切な手法であるが、方法論として十分に確立しておらず、例えば、地域包括支援センターの社会福祉士は、この「ネットワーキング」が必要に迫られているが、実際にどうしていけばよいのかで苦悩している。

 私自身も、ケアマネジメントの研究をすることで、ネットワーキングの研究は地域福祉の研究者が取り組むものと考えていた。しかしながら、このような現状にあって、大学院生といっしょに、ネットワーキングについての研究をここ数年積んできた。

 次回以降では、昨年の研究成果を報告し、ケアマネジャーとソ-シャルワーカーが峻別される方法について言及してみる。なお、ソーシャルワーカーはケアマネジメントの主機能であるコーディネーションと一緒にネットワーキング機能を果たすのか、あるいはネットワーキングを専属で実施するソーシャルワーカーを作っていくのかは、昔からのテーマである。これについても一度議論をしておく必要があると思っている。