ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

社会福祉士の今後―「社会福祉士及び介護福祉士法改正」後の課題―②

2009年04月30日 | 社会福祉士
3 社会福祉士養成教育での今後の基本的な方向

 第一の側面での社会福祉士養成教育の現在の状況として、各養成校は、次年度から新たに始まるカリキュラムやシラバスの準備、演習・実習担当教員を養成するために、演習・実習担当教員養成講習会への参加、新たな実習先の依頼等で、実践能力がある人材養成に向けた基礎づくりで、多忙な日々を送っている。同時に、社会的には、実践能力のある人材が合格するべく社会福祉士国家資格にあり方についての見直しの厚生労働省の委員会報告書も刊行され、いくつかの出版社が、新しいカリキュラムに基づく、教科書づくりも始まっている。

 こうした改革での全体の成果は、社会福祉士として様々な領域で仕事をする際に、実践能力が高くなっていることを実証することである。これについては、社会からのニーズのある科目を追加し、実習・演習の質を充実することで実現することを試みることである。ただ、これらは、ミニマムであり、各養成校が、自らの大学の独自性を発揮するために、必要とされる科目を追加したり、演習や実習の時間を拡大することは、大いに歓迎することである。

 これを超えての今後の社会福祉士養成教育での課題としては、次の三点が列挙できる。

①社会福祉士の養成教育の基礎として、人権や豊かな人間性を備え、国際性や情報テクノロジーにも優れた人材を輩出していくためには、教養教育をどのような科目を配置するかである。ここでの教育成果は、実践能力だけでなく、先駆性やユニーク性といった型にはまらない人材を養成していくことに貢献することになる。こうした教育が多様な分野でのリーダーを生み出す源泉となり、大学での基礎科目の履修は社会福祉士を養成していくうえで極めて重要な側面である。

②今回の改革では、ジェネリックなソーシャルワーカーとして社会福祉士を位置づけ、その養成に焦点を当ててきたが、スペシフィックな側面をどのように養成していくのかの課題がある。これには、学部教育内で可能なことと、大学院での養成とに分けることが必要である。その結果、それぞれの社会福祉士養成校は独自性を社会に示すことができ、このスペシフィック教育でもって、個々の大学での教育の特徴を表現することができる。なお、社会のニーズの高いスペシフィックな分野から優先的にスペシフィックな教育をしていくという過程も大切であるが、その際に社会のニーズの後追いではなく、社会のニーズを顕在化させていくという作業を行うことを忘れてはならない。これができれば、社会福祉士養成教育を超えて、ソーシャルワーカー養成教育への展開の道が開けることになる。

③社会福祉における教育では、ソーシャルワーカー養成に含めたり、この養成を超えたり、あるいはこの養成とは切り離して、ソーシャル・アドミニストレーションやソーシャルポリシーと言われる、広く社会福祉政策の立案から社会福祉事業の経営・運営に当たる人材の教育をどのようにするのかといった課題がある。海外でも、両者を一体的に行っている国や大学もあれば、別個にやっている国や大学もある。日本では、今までは、ソーシャルワーカー養成教育の部分的なものとして養成してきたきらいが強い。今回の社会福祉士の新カリキュラムでも、そうしたアドミニストレーションに関する科目やシラバスが部分的に追加されている。日本の歴史的な流れも考慮すると、ソーシャルワーカ-養成教育とどのような関係で教育を行っていくかがポイントになる。具体的には、高度専門職の大学院教育や今後議論されていくであろう専門社会福祉士制度とも関連してくるものと考えられる。なお、ここで重要な問題は、ソーシャルワーカー教育と平行して進めるのか、社会福祉士養成教育の後で育成するのか、ソーシャルワーカー養成教育の後で育成するのかの議論は、社会福祉での制度と方法の関係を再度教育の観点から整理する中で、同時に社会のニーズとの関連で検討することで、一定の方向を出すことができるといえる。


社会福祉士の今後―「社会福祉士及び介護福祉士法改正」後の課題―①

2009年04月28日 | 社会福祉士
 私にとって今回の韓国への渡航の最も大事な仕事は、25日に行われた韓国社会福祉学会での日韓学術交流シンポジウム「社会福祉士の今後のあり方」のシンポジストとしての参加であった。日本は1987年に社会福祉士の資格ができ、韓国は1級の社会福祉士資格が1997年にできたが、両国とも多くの課題をもっており、今後のあり方について有意義な議論をすることができた。

 ここでは、私の報告を6回に分けて紹介し、議論になったことを、最後回でまとめたい。

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社会福祉士の今後―「社会福祉士及び介護福祉士法改正」後の課題―

1 はじめに

 社会福祉士養成校に問われていることは、その集合体である(社)日本社会福祉士養成校協会(以下、「社養協」とする)にも問われることである。本稿では、紆余曲折を経て、参議院で平成19年11月29日に「社会福祉士及び介護福祉士法等の一部を改正する法律」が成立したが、これを受けて、社会福祉士養成校や(社)日本社会福祉士養成校協会には、どのような課題があるかを明らかにしたい。なお、これについては、社養協会長というよりは、今回の制度改革の渦中にいた一個人としての見解であることをお断りしておく。

2 今後の社会福祉士養成の大きな枠組

 社会福祉士制度改革での今後の課題は、大きく二つの側面に分かれる。第一の側面は、養成校内に向かっての側面であり、学生に対する教育をいかに充実させ、社会のニーズに応えられる優秀な人材を養成するかである。第二の側面は、社会に向けての側面であり、社会福祉士なりソーシャルワーカーをいかに社会のニーズに適切にキャッチし、それに応えられるよう外部に対してアクションを起こしていくかである。

 これらの両面については、法改正に当たり、衆議院の附帯決議で社会福祉士に関して記された内容が、今後解決していくべき課題について的確に表現している。衆議院の附帯決議の具体的な内容は、①福祉事務所での社会福祉士の登用、②社会福祉施設の施設長や生活指導員等での社会福祉士の任用の促進、③司法・教育・労働・保健医療分野での社会福祉士の職域拡大、④専門社会福祉士の創設、⑤国家試験の見直し、⑥実習指導体制の充実を図る、の6点であった。

 附帯決議の前提には、法改正の中味そのものである実践能力のある人材養成の推進が基本にあるが、これに加えて、第一の側面である養成教育の課題としては、法改正に基づく教育の推進に加えて、国家試験制度の見直しや実習指導体制の充実を図っていくことである。第二の側面の社会にニーズに応えて人材を輩出していくかについては、福祉事務所や社会福祉施設といった福祉の機関・団体・施設での雇用や、保健医療、教育、司法、労働等の他領域での職域拡大を進めていくことである。

韓国の老人長期療養保険の現状

2009年04月27日 | 社会福祉士
 今日韓国を離れるに当たって、見聞きしてきた老人長期療養保険制度の現状を書いてみたい。その多くは、昨日車先生と鼎談で学んだことが中心である。さらに今後、正確な情報にもとで、それを確認していきたい。

 老人長期療養保険が昨年の7月から始まり、驚いたのは、在宅のサービスだけでなく、施設が急激に建設され、最も施設入所数が増加していることであった。これには、重度者を対象にした制度であること、また今まで施設が少なかったことも原因であるが、これにきちっとした対応ができなければ、逆に保険料がうなぎ登りに高くなり、財源を圧迫することになろう。その意味では、日本では市町村がが介護保険事業計画を作成する際に、参酌基準として入所系サービスを3%程度に抑制することで、施設の増加を抑制している。韓国はの老人長期療養保険も高齢者のコミュニティケアを推進していくことを目的にしているなら、何らかの対策が必要になっていると思った。

 さらに、福祉用具レンタル事業者から聞いたことであるが、寝たきり高齢者に車いすがレンタルなり購入で納められているといった実態が多く見られるとのことを聞いた。

 利用者家族から聞いたことは、訪問介護事業者から少々訪問時間を少なくするが、その分自己小負担となる15%の負担料を無料にするから、使って下さいと言ってくることがあるとの話も聞いた。また、指定の基準が低いため、訪問介護事業者も急激に増えているが、そのため競争が激化しており、ヘルパーが利用者を連れて、別の事業者に移ると言うこともしばしば見られるという。

 こうしたことは日本でもごく一部起こっていることであるが、ケアマネジャーがいることで、さらにケアマネジャーが実施するサービス担当者会議でもって、このようなことへの抑止効果がある。韓国でもケアマネジャーが置かれれば、適切な対応ができるのにといった思いである。

 もう少し詳しくは、今回収集してきた資料を整理することで、昨年の7月に始まって1年たたない老人長期療養保険の状況を報告していきたい。

 

韓国の老人長期療養保険でのモデルプラン

2009年04月25日 | 社会福祉士
 韓国には老人長期療養保険制度ができる前にケアマネジメントを導入するべきかどうかのシンポジウムに参加するため、何回か訪れた。その時の政策側の意見は、日本と比べてGDPが8分の1の国に見合った制度しか作れないという財源問題をあげていた。これに合わせて、ケアマネジメントの導入も当時どの程度経費がかかるか試算をされていたが、そのようなコストがかかり過ぎるものの導入は難しいと、ネガティブな評価であった。その試算額は忘れたが、日本での現実の介護保険でのケアマネジャーに使われている割合より、はるかに高いものであった。

 私は、ケアマネジメントの機能として利用者が適切なサービスを利用し、在宅での生活を支えることが基本であるが、さらにその結果として、今後予想される施設入所を抑制し、病院が不要な入院者を地域に戻すことで、老人長期療養保険だけでなく医療保険の財源抑制に寄与できることでの効果を含めて、試算すべきでないかと主張した。その際に、韓国ではケアマネジャーは置かないが、モデルプランを利用者に渡すことで、ケアマネジメントの代用をしたいということであった。

 そのためこのモデルプランとはどのような代物で、どのような工夫をしているか興味津々であった。今回の韓国訪問では、高齢者長期療養保険制度についての現状や問題点を理解することで、成果を得たいと思っていた。特に、「標準長期療養利用計画書」と呼ばれているモデルプランの中身を確認し、ケアマネジメントの代わりにどの程度役立っているかを理解しておきたかった。

 それで、多くの関係者に尋ねてみたが、要介護認定の決定で、国民健康保険公団の職員が本人にもっていくから一枚の用紙のことであることが分かった。その中には、決定した要介護度、どのような給付の種類、内容が記述されている程度の書類が送られてくるようである。今日の朝に、現物を拝見できることになっている。

 これでは、利用者の生活を支えることはほど遠く、せめて、訪問系のサービスを利用したい場合はAパターン、通所系のサービスを利用したい場合はBパターン、通所系と訪問系をミックスした利用はCパターン、とサービスをミックスして利用できることをサポートするものと思っていた。さらに、このような身体的な問題があるときには、●●サービス、心理的な問題があるときは●●サービスが有効ですといったことが書かれていれば、セルフ・ケアマネジメントの視点を取り入れることになると思っていた。その意味では、期待はずれであった。

 ただ、韓国では何も老人長期療養保険制度のもとで、全く経験のない国民健康保険公団の職員がケアマネジメントに手を出すよりも、韓国では多くのコミュニティ・センターがあり、そこには社会福祉士等のソーシャルワーカーや看護師を配置しており、ここをベースにして、ケアマネジメントを行っていくことの方がベターであると思っている。このことについては、今日の午後、元厚生労働大臣をし、ハンリン大学を今年退職した車先生と、日本の介護保険と韓国の老人長期療養保険を比較し、両者の問題点や課題について鼎談をすることになっているが、このことも論点の1つになるであろう。


 後日談

 当日「標準長期療養利用計画書」を頂いた。ある意味、どのサービスを使い、お金をいくら払うのかの記載部分がある。その意味では、勿論ニーズ・オリエンティドではなく、サービス・オリエンティドであり、マネー・オリエンティドの計画であるとは言える。

 ただ、韓国での夜の最終日の懇親会で、国民健康保険公団で計画書を本人にもっていっている職員にお会いしたが、彼女は言うには、この用紙以外に「サービス内容の一覧表」も持参し、サービス情報の提供をしていることであった。ただ、彼女によると、職員間の能力に大きなばらつきがあり、彼女の職場で、多くは従来事務作業を行っていた職員が多く、社会福祉士1級をもっている者は14名の職員の中2名であるとのことであった。 

向老期での「老い」を考える

2009年04月24日 | 社会福祉士
 先週の週末、娘夫婦と息子に、私と妻の還暦を祝っていただき、子どもたちと一泊の温泉旅行をしてきた。子どもたちには感謝で一杯である。

 このような機会を得て、60歳という子どもに還る時期を迎え、今の時点での「老い」とは何かを考えた。これは、今からさらに老いていくるであろう、70歳での老い、80歳での老いとは異なるであろう。それゆえ、60歳という向老期での老いを考えることでもある。

 私が学生に頃には、高齢者の生き方として、社会との交流をできる限りもった生活を続けていくことが幸福な老いをもたらすという活動理論(activity theory)と、徐々に社会から身を引き、関係を絶っていくことが高齢者にとっても望ましい姿であるとする離脱理論(disengagement theory)の論争があった。その後、継続理論(continuity theory)といった、中年期から高齢期に移行する際には、生活そのものや行動パターンの継続性を保ちつつ変化していくことが望ましいという考え方が示されてきた。

 その後も、高齢期の生き方として、就労や社会への参加をすることは人生の目的をもっていきることができることで、高齢になっても様々な領域で活躍する高齢期を強調するプロダクティブ・エイジング(productive aging)がロバート.N.バトラー博士によって提唱されてきた。さらには、高齢期の心身の低下や喪失感に対処しながら、幸福な老いを追求するサクセスフル・エイジング(successful aging )が追求され、いかにして高齢者が質の高い生活を送るのかが問われている。

 今の心境は、「継続理論」に近いものであるのかわからないが、2つの気持ちが交差する。一つは、これまでの人生に種をまいた木が育ち、果実を収穫できる「成熟期」という気分がある。もう一つは、徐々に自らの仕事を整理していく「離脱期」という気分がある。

 今まで研究や教育してきたことが、実を結ぶ時期である。これの中心は、今までの研究成果をまとめるべき時期であり、刊行してきた論文をもとにして、著書にまとめることである。これについては、早晩していきたいと思っている。また、形になるかどうかは別にして、多くのことで果実が収穫できると感じることがある。例えば、些細なことであるが、25年以上前から大阪市社会福祉協議会の機関誌「大阪の社会福祉」に毎月書き続けてきた「福祉の用語」をぼちぼち誰かに代わってもらい、お役ご免になり、今まで書いてきた300以上の用語をどのように活用していこうかといったことを考えることである。

 同時に、教育についても、ドクターの学位をできる限りだして、残っている大学院生の整理をしていくべき時期である。私の指導しているドクターの学生は20人ほどおり、定年を最終ゴールにして、それぞれの学生が学位を取得することで実を結んでいく成熟期といった気分になっている。今年度中に、少なくとも7名程度は学位が出せる水準まできていると思っている。

 以上は「成熟期」ということを意識して整理したのであるが、逆の視点からみると、自らの仕事や社会的な役割を整理していることになり、「離脱期」という気持ちになる。例えば、研究にしても整理していくことで、教育にしてもある意味しかりである。その意味では、60歳と言うことで向老期としたが、この時期での気持ちは両者の心境が交差し、何か複雑である。

 「離脱期」の心境は、ジャン=フランソワ・ミレーの有名な絵画「落穂拾い」を見た時に印象に近い。あの絵は、収穫期の刈り入れが終わった後の畑で、貧しい人々が落ち穂拾いをしているものである。あの絵にある何とも言えない哀愁が、「離脱期」の心境である。一方、天性のものであろうが、その年、その年で、全力を注ぐことで、いつも楽しい人生であることも事実である。今では、ブログも楽しい人生の一角を占めている。

明日から韓国で多忙で大きな仕事

2009年04月23日 | 社会福祉士
 今日4月22日から26日の6日間、韓国に滞在することで、夜に飛行機でソウルに着いたところである。ここでの6日間の日程は極めてハードスケジュールである。
 
 今回の最も大きな目的は、韓国社会福祉学会と日本社会福祉学会の交流の一環として、24日と25日に開催される韓国社会福祉学会春期大会での、今後の日本と韓国での社会福祉教育のあり方についてのシンポジウムのシンポジストとして参加することである。これが25日の午前中にある。一方、日本社会福祉学会の国際交流担当の委員長をしており、24日には、今年度日本で開かれる法政大学での日本社会福祉学会での日韓交流について、さらに次年度の韓国の釜山で開催される春期学会の交流内容について、韓国側と調整し決定することも大きな仕事である。昨年、アジア社会福祉学会の再興についても話し合っており、少し話を進めたいと思っている。

 韓国社会福祉学会への参加が決まったことで、後から2つのことを依頼され、引き受けることになった。一つは、前日の23日に、韓国ケアマネジメント学会からの依頼で、午前と午後の5時間、会員向けのワークショップと講演をいこなうということである。テーマは、午前が「ケアマネジメントの本質と方法」、午後は「日本での高齢者や障害者のケアマネジメントの現状と課題」という講演である。

 もう一つは、これまで毎年大阪市立大学で、三育大学大学院と市立大学大学院の学術交流の一環として、両大学大学院学生の英語での口頭発表を行ってきたが、今年の四回目を三育大学がホスト役を引き受けてくれたため、前日のコミュニティセンターでの活動(特に、相談支援)の見学を含めて、26日は教員の講義や大学院生が発表し、ディスカッションすることになっている。これをお互い英語がセカンド・ランゲージである大学院生同士の発表であり、海外で話すことの自信をつける良い経験となり、次の国際会議での発表への足がかりとなっている。

 24日の韓国社会福祉学会終了後の午後に、私のもとで学位を取り現在韓国に帰って大学教員をしているイムさんから、その大学で、韓国の元厚生労働大臣の車先生(前ハンリン大学教授)と私で、日本と韓国の介護保険制度を比較して、現状での問題点について鼎談をすることを頼まれた。ここでは、韓国の高齢者長期療養保険がどのような状況になっているかについて理解する上で、大きな収穫が得られそうである。

 さらに、26日に2時の飛行機でインチョンを発つことになっているが、午前中の時間を使って、国民健康保険公団の職員が利用者に渡すという「モデルプラン」とは何ものであり、それが日本のケアマネジャーの業務とどこが違うかを知りたいと思っている。具体には、利用者がそのサービスを利用する際の指針として、公団が提供する「標準長期療養利用計画書」には適切なサービスの内容や利用回数、費用などが明示されているとのことであり、公団には専門職員を配置して、サービス利用や契約などをサポートする利用援助サービスを実施すると聞いており、しっかりと聞くなり、見学をしてくるつもりである。

 さらに、その間をぬって、私の取った科学研究費で「ソーシャルワーカーのネットワーキング方法」についての日本と韓国・中国とで行っている共同研究についての、今年の研究内容についての打ち合わせもして帰らなければならない。

 可能であれば、韓国にいる間に、韓国の長期療養保険の最新情報を書ければと思っている。

バリアーフリー展の感想

2009年04月22日 | 社会福祉士
 大阪のインテックスで4月16日から18日に行われたバリアフリー展に、今年もいったが、少し規模が縮小したような気がした。そう言えば、「日産」がブースをもっていなかったが、これも不景気のあおりであろうか。

 このバリアフリー展は今年が15回目であるそうだが、東京の既に35回開催している国際福祉機器展 (H.C.R.)と並んで、日本ではバリアフリー製品に関する二大イベントである。私は、介護保険制度ができる前の1995年頃から毎年行っているが、時代と共に出展事業者も浮き沈みがあり、変化してきたことを、ひしひしと感じている。

 介護保険前夜の時は、ヘルパー事業者や介護のソフト事業者、福祉用具事業者が多かったが、2006年からの介護保険改正前の時期には、筋力トレーニングの機器が多くを占めていた。ここ最近では、介護報酬のマイナス改正もあり、介護保険に関する事業者が縮小し、大手の自動車会社が大きなスペースを使って、「車いす仕様車」を展示することが特徴であった。今年は、これも縮小気味でなっている。た。

 今年の展示で目立ったのは、1つは韓国がコーナーを設けて、韓国製介護機器の展示が行われていた。介護保険制度ができ、一応は福祉用具のレンタルサービスも始まっており、将来は韓国との福祉用具の販売競争が日本でも起こるような予感がした。

 もう一つ、多くの人が集まり人気があったのは、大和ハウス株式会社が展示していたロボットスーツ「HAL(TM)」福祉用であった。これは、搭載されたセンサーが筋肉を動かそうとする脳からの生体電位信号を皮膚表面で検出・増幅し、内蔵されたコンピューターに送信し、装着されている方の動作を支援する、自立支援ロボットである。この展示場では、このロボットの疑似体験ができるようになっていた。ここからは、バリアフリー展で、介護等の作業用ロボットの展示が大きなスペースを取る時期がそう遠くないように思えた。

 今までのバリアフリー展を振り返ると、介護保険を含めて、日本の介護の動向を読み取れるように思う。是非、来年は、多くの事業者が展示してくれる、右上がりのバリアフリー展になって欲しいと願っている。来年のバリアフリー展は、4月15日から17日に開催されるそうである。

リスク・マネジメントの必要性?(『ストレングスモデル精神障害者のためのケースマネジメント』から④)

2009年04月21日 | 社会福祉士
 チャールズ・ラップとリチャード・ゴスチャの両氏による『ストレングスモデル 精神障害者のためのケースマネジメント(第2版)』を読んで、納得することが多いが、一点気になることがある。それは、ストレングスを支援すればするほど、それから生じるリスク・マネジメントが必要不可欠ではないかと思っている。さらには、ストレングスを活用することで、他者との葛藤が生じる可能性があるが、それについて応えることが必要ではないかと思っている。

 本著では、読む限りにおいては、このことについてふれられていない。ラップ教授にもカンサス大学に伺った時にも直接尋ねたことがある。それは、ストレングスモデルで個別計画を作成し実行していく場合、ブローカーモデル以上にリスクや他所との葛藤が伴うことになるからである。

 例えば、精神障害者の「学校に行きたい」というストレングスに応えた場合、入学時の人間関係や試験期間等に不安になり、リスクが生じるといったことになる。こうしたリスクは、本人にとって新たな可能性を引き出すストレングスであることについては理解できるが、ストレングス視点を保つほど、多くのリスクが生じてくるが、ストレングスモデルはそうしたリスクの予防や管理についての論究が必要不可欠ではないかと思っている。

 このことについて、5月末にミネルヴァ書房から私の編集で『ストレングスモデルのケアプラン』を刊行することになっているが、ここでは多くのストレングスを活用した事例が載せられている。その中で、リスク・マネジメントについてのケアマネジャーのあり方についてや、他者との葛藤への対応方法についての事例も多くあり、同時にその対応方法について私の気持ちをコメントを書いている。

 気になることは、ストレングスモデルはこうした対応についてどのように方向づけるかは、大きな課題であると思っている。ただ、こうした課題に対して、ストレングスモデルは十分多くの答えをもっていると思っている。

フィデリティ尺度の必要な時期(『ストレングスモデル 精神障害者のためのケースマネジメント』から③)

2009年04月20日 | 社会福祉士
 今回田中秀樹さんを中心に翻訳された『ストレングスモデル 精神障害者のためのケースマネジメント(第2版)』には、江畑敬介さんが翻訳した初版本がある。その意味で、リチャード・ゴスチャが新たな著者に加わることで、どのように内容が変わったかが最も関心の高いことであった。

 今回新たに追加されたことは、大きく2つのことがあった。特徴の一つは、「リカバリー」である。これは、人々が生きる価値を見い出せる生活を実現することであり、この用語は精神障害者でよく使われるが、利用者一般についていうと、「人々が主体的にQOL(生活の質)を獲得していくこと」と近いように思う。ストレングスモデルに必須の概念としてリカバリーを位置づけており、これを達成するのを困難にしているベルリンの壁と呼ぶ心理主義(疾患的な視点)、貧困、恐怖感、専門家の実践、精神保健システム等があるとしている。これに対して、本著は当事者の「希望」、「復元力」、「エンパワメント」といった心理学的状態と、ノーライゼーションといった地域で普通の生活をすることで、リカバリーが起こることを説得力ある説明をしてくれている。

 第二の特徴は、ストレングスモデルのケースマネジメントに適合している程度であるフィデリティ尺度の開発を行っていることである。これは、ストレングスモデルを実施する望ましい状況であるかどうかを尺度化したものであり、今後の日本でのケアマネジメンにおいても研究開発が求められる部分である。

 具体的には、構造特性である7項目(「担当者のケースマネジメントに費やす時間の割合」「担当ケース数」「一人のスーパーバイザーのもとでのチームの人数」「他の専門家の参加の程度」「スーパーバイザーのケースマネジャーをサポートする時間の割合」「グループスーパービジョンに費やされる時間の程度」「グループスーパービジョンで特定利用者に限定して討論する時間の割合」)、および実践者の行動に関連する5項目(「ストレングス・アセスメントのツールを使っている割合」「ストレングスモデルの個別計画にツールに準じている割合」「地域の中で利用者と会っている時間の割合」「公的サービス以外の地域の資源を活用している割合」「利用者の希望を引き出す行動の程度」)であり、総計12項目を5段階の尺度で基準化している。

 これらの項目でもって、ストレングスモデルのケースマネジメントは、日本でのケアマネジメントでの質を高める基準づくりにも有効であるといえる。

 最後になったが、本著自体が実践的・具体的にブレークダウンした実践家にはひしひしと実感できる内容となっている。さらにその訳がこなれた日本語となっており、私にとってはとても理解しやすかったというのが実感である。是非、多くの研究者や実務者は本著をお読みいただくことで、日本でもストレングスモデルに基づくケアマネジメントを発展させていただくことができると願っている。

グループスーパービジョンに感動(『ストレングスモデル 精神障害者のためのケースマネジメント』から②)

2009年04月18日 | 社会福祉士
 今回は、3年ほど前に、カンサス大学を大学院生等と訪問した時の思い出を書いてみる。この時は、既にリサーチフェローとなっていた福井貞亮君にも大変お世話になった。 

 ここでは、ストレングスモデルについて多くのことを学んだ。この時は、ゴスチャさんから、ストレングスモデルのワークショップを受け、最後の日は、私も日本でのケアマネジメントの紹介と私が志向しているストレングスモデルについて講演を行った。

 その間に、ゴスチャさんの車でカンサス・シティ3時間ほどかけて、カンサス州とオクラホマ州(?)の境にある田舎町に連れて行っていただき、実際にケアマネジャーと同行して、ケアマネジャーが精神障害者にどのような支援をしているかを見せて頂いた。同時に、事例検討会に近い、グループスーパービジョンを見せていただいた。

 まずは、ケアマネジャーの車に乗せてもらい、利用者の自宅やシェルタード・ハウジングを訪問したが、驚いたのは、日本であれば、病院からの退院がおそらく不可能に思えるような重篤な方が地域で生活していることであった。この人は、1人でシェルタード・ハウジングに住んでおれれるが、投薬管理が欠かせないことで、ケアマネジャーはそのチェックをしながら、モニタリングを行っている。本人は認知症の方自宅に食事の世話に毎日行っているとのことである。また、多くの利用者については、職を得るためにスーパーマーケットやレストランに、また食事の糧となるフッド・スタンプを得るために事務所に、ケアマネジャーが車で送ってあげ、利用者が自分で対応することを、車の中で待つという対応をされていた。印象として、障害者のケアマネジメントの特性なのかどうか分からないが、ケアプランの実施に多くの時間を費やされていた。
 
 さらに、そこで行われているグループスーパービジョンにも参加させていただいたが、まずは私たちが「守秘義務の確認書」を書くことから始まった。ここでのケアマネジャーの学歴は、必ずしもソーシャルワークや保健・看護の大学院をでている人ではなく、経済出身、短大出身といった専門の大学を出て仕事をしているようではなかった。スーパーバイザーはゴスチャさんと助手的にこの機関の長であるMSW(Master of Social Workerー大学院をでているソーシャルワーカー)が行っていた。その意味では、逆に日本の方が専門性の高い者がケアマネジャーになっているという印象であった。日本のケアマネジメントは発祥の地アメリカでのレベルを超えられる可能性があるのではと秘かに自信をもった。

 ここでのスーパビジョンで最も感動したのは、あるケアマネジャーが担当している利用者が職に着くことができたことを話したときに、みんなが一斉に拍手をしたことである。発表者もその拍手に応え、立ってみんなと握手をしていた。これこそがストレングスモデルのスーパービジョンなり事例検討会であると思った。

 日本のカンファレスでは、ケアマネジャーの問題を指摘することが多く、参加することや、事例を出すことをいやがる傾向が強いが、日本でも、利用者のストレングスだけでなく、ケアマネジャーのストレングスに立脚したスーパービジョンやケース・カンファレンスを確立していきたいものである。

ケアマネジャーの担当ケース数?(『ストレングスモデル 精神障害者のためのケースマネジメント』から①)

2009年04月17日 | 社会福祉士
 先日、チャールズ・ラップとリチャード・ゴスチャ著、田中英樹監訳『ストレングスモデル 精神障害者のためのケースマネジメント(第2版)』(金剛出版)の書評を依頼され、2000字足らずの原稿を書いた。

 私自身は、この著書にも二人の著者にも大変お世話になっている。それは、以下の4点であり、著書や著者から学んだことを、数回にわたって綴ってみることにする。

①私自身ストレングスモデルの基本を学んだのは、本著の初版の訳書(江原敬介監訳)であった。

②ラップとゴスチャの両氏にはカンサス大学で大変お世話になり、ゴスチャのワークショップを受け、ケースマネジャーとの同行訪問や、グループスーパービジョンにも参加させていただいた。

③私のもとでドクターを取った福井貞亮君がラップ教授のもとでリサーチ・フェロー(有給研究員)としてご指導を頂いている。

④私が大会長をお引き受けした2003年の第2回日本ケアマネジメント学会大会(大阪市国際交流センター)で、特別講演とシンポジウムのコーディネーターをゴスチャさんに依頼し、お引き受けいただいた。

 今回は、④の時のことで、ケアマネジャーの適切な担当ケース数について書くことにする。

 介護保険が始まって3年目に入った2003年に大会を大阪で開催したが、ゴスチャさんには講演で、当然「ストレングスモデル」のケアマネジメントについて話をして頂いた。その後のシンポジウムのコメンテーターとしての彼のコメントを思い出す。私がシンポジウムのコーディネーターを担当したが、介護保険制度が始まった3年以上立っていたが、日本でのケアマネジャーの際限のない担当ケース数が気になっていた。シンポジウムの最後に、ゴスチャさんから、ケアマネジャーの担当数は30~40ケースに限定すべきであるとのコメントを頂いたことをはっきりと覚えている。

 学会の前に2003年4月から最初の介護報酬改正のもとで進められていたが、要介護度に関係なく同じ介護報酬単価(850単位)になった改正の時である。その後の2回目の2006年からの介護報酬改正で、ケアマネジャーの担当ケースは35ケースを標準とすることになり、40ケースを超えると減算する仕組みが出来上がった。この改正には、ゴスチャさんの発言が影響を与えたのではないかと直感したことがある。同時に、この時に要介護1と2は1000単位、要介護3,4,5が1300単位と格差をつけることになった。そして、今回の介護報酬改正につながっていった。

 ある意味では、大阪市国際交流センターでゴスチャさんの発言が、結果的に2回目の改正に活かされたことになった。私は、ケアマネジメントの仕組みとして、州により部分的に異なるが、カナダのシステムが良いと思っていたが、ただケアマネジャーの担当ケースが100ケースを超えており、モニタリングが十分できないことを以前にみていたので、35ケースを標準とすることになったことについては、介護報酬改正を評価した。

 ただ、ゴスチャとラップの本著書では、精神障害者という対象についてではあるが、ストレングスモデルのケアマネジメントでは、1ケアマネジャー当たり12ケースから20ケースを推奨している。(287頁)日本の介護保険では、現実のケアマネジャーの担当数は2007年に実施した介護サービス事業者経営調査では、平均担当ケース数は26ケースであった。

 35ケースという基準、26ケースという現実、アメリカの精神障害者へのストレングスモデルで推奨される12~20ケース、今後日本での最適な担当ケース数については、実証的な研究が待たれる。それは、利用者のQOLを高め、結果として施設入所を抑制することにもなる適切な担当ケース数である。

社会福祉系の研究者は「内弁慶」?

2009年04月16日 | 社会福祉士
 古い話であるが、2月20日のブログで、社会福祉研究者は新たなテーマや課題に取り組むことに対して無関心なようなふりをし、他の専門領域と他流試合をすることを好きとしない、「食わず嫌い」が多いのではないかというようなことを述べた。この時は、在宅ケアに関する研究組織である日本在宅ケア学会への社会福祉や介護の関係者の参加が極めて弱く、その参加を呼びかけたことから書いたものであった。日本在宅ケア学会は学際学会として活動しており、現在私が理事長であるが、依然として看護の方々が中心で、社会福祉や介護の研究者・実務者の参加が弱いことで責任を感じている。是非、社会福祉系の研究者や実務者にもご参加いただき、積極的に活動していただきたいと願っている。

 さらに、4月10日に鈴木亘准教授の介護・保育の規制緩和論に対してコメントを書いたが、その後慶応大学権丈善一授からメイルを頂き、先生のホームページがあることが分かった。そこでは、以下のようなことが書かれてあった。
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3月16日に少し気になる文章が日経にあった。
それは、学習院大学准教授鈴木亘氏「経済教室 介護・保育 サービス拡大へ規制緩和」の中の次である。

「介護も保育も家族が行ってきた分野なのであるから、常識的に考えて高度資格が『全員』に必要だとは考えられない。実際、現場では、専門知識が無くてもできる単純労働も意外に多い」

人的参入規制を緩和すべきとする持論の根拠として論じているんだろうけど、どうなんだろ?
介護、保育団体が、黙っているところを見ると、これって、その通りなんだろうか。
その判断は介護・保育の専門家集団に任せるとして・・・
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 最後の「介護、保育団体が、黙っているところを見ると、これって、その通りなんだろうか」「その判断は介護・保育の専門家集団に任せるとして・・・」との文面である。これについて、実際に介護や保育の研究・実践を行っている者は、自らに降りかかってくる火の粉は自分で払い除け、「取るに足りない話」として無視するのでも、出来る限り論争を避けるということでもなく、議論なり意見を表明していく必要があると考える。

 それは、利用者の生活を守っていくという使命を研究者も実務者ももっているからであり、社会福祉系の研究者や実務者は無口なのか、自分に自信がないのか、自らの殻の中で仕事をし、他流試合を好まないように思っている。結果として、「鈴木准教授の言う通り」というように世間には映ってしまうことになる。

 是非、内弁慶を克服し、他領域と交流できる人材が必要であるが、これについて、鹿児島国際大学の古瀬徹先生は毎日何回か更新するブログ「坂之上の昼下がり」を運営されており、私にとっては大変勉強になっている。4月5日のブログで、私のブログ本を読んでいただいた感想から、学会誌や大学の研究紀要に書かれた論文は、一般には読むことができないが、ブログは誰でも読めるということで、ほかの社会福祉系の先生方にも広がることを書かれている。

  相撲でも、出稽古ということで他の部屋に行って稽古をし、武道でも自分の道場以外で武者修行するように、外に向かっていくエネルギーがなければ、社会福祉は社会からその必要性があるとしても、学問的にも実践的にも衰退していくのではないかと危惧する。

 社会福祉系の研究者や実務者よ、奮起せよ。

介護支援専門員の給与等の待遇改善は困難?

2009年04月15日 | ケアや介護
 離職率と職場環境との関係について、介護保険サービス事業者の管理者を対象にして調査を今年の1月に実施したが、その中で気になる別の事実に気づいた。この調査は、訪問介護事業者、居宅介護支援事業者、介護老人福祉施設と介護老人保健施設を対象にしたものであるが、この中で、気になったのは大阪市の居宅介護支援事業者の悉皆調査での結果についてである。 

 居宅介護支援事業者については、今回の介護報酬改正で特定事業者加算の敷居を低くし、新たに特定事業者加算(Ⅱ)が作られた。この加算を取れるどうかが、赤字解消の決め手であるということは確かであるが、加算要件の1つがクリア出来るかどうかがポイントであった。その要件とは、2名以上の常勤・専従のケアマネジャーがおり、別個に主任介護支援専門員を配置していることとなっており、3名以上のケアマネジャーがいる居宅介護支援事業者でなければ、加算がとれないことになっている。

そこで、今回行った居宅介護支援事業者調査では、現状の常勤・非常勤のケアマネジャー配置状況は、以下のような結果となっていた。

   

これは、それぞれの項目に数字を入れてもらうことになっており、「無回答」が多くなっているが、この結果からは、現状では6割から7割の多数の事業者は、特定事業者加算(Ⅱ)をとれないことが明らかである。さらに、この調査は大都市の大阪市のデータであり、農村部ではさらに小規模な事業所が多いことが予想される。まさに、独立型を含めて、小さな事業所を切り捨てていくことになるのではないかと心配である。

 確かに、この調査で、訪問介護や介護保険施設に比べて、今回の介護報酬改正で職員の給与などの待遇改善を図れるかとの質問に対して、居宅介護支援事業者は最も改善が図れないという結果となっていたことも頷ける。これは、先日の4月13日のブログにそのデータを入れてあるので、参考にしていただきたい。

 また、講演等で介護支援専門員に加算(Ⅱ)が取る予定について尋ねてみても、4分の1ないしは5分の1程度しか予定事業者がいないのが現実である。特定事業者加算(Ⅰ)だけの時は、99%の事業者は高嶺の花と諦めていたが、今回の改正では、敷居を低くしたにも関わらず、そのおこぼれを頂戴できるのは僅かであるということになる。

 そのため、今後の方向であるが、追加経済対策での「介護職員処遇改善交付金」(仮称)について、居宅介護支援事業者にも公費が投入され、介護支援専門員の待遇改善にも寄与して欲しいものである。

シルバー産業新聞で連載をスタート

2009年04月14日 | ケアや介護
 シルバー産業新聞で「介護保険10年 ケアマネジメントいまとこれから 白澤教授の快刀乱麻」という連載を4月から始めることになった。シルバー産業新聞は唯一大阪発信の業界紙であり、介護保険は地方分権を旗頭にして始まったが、実質は中央集権的要素が強いと思っている。そのため、大阪を本社にする事業者は、情報収集の点からすれば、不利な位置にあり、東京オフィスを開設して努力をしている。一方、地方ならではの情報や考え方を発信していくことは、本誌が得意とする部分であって欲しい。月に1回ということもあり、お引き受けすることにした。

 第1回が4月号に出ているが、再掲しておく。

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 ケアマネジメントは「自立の支援」という理想の理念をもって始められたが、その行く末について混迷している。快刀乱麻とは、もつれた事柄を、もののみごとに処理することとされるが、本連載でケアマネジメントは暗いトンネルから出て行く光明を見つけ出さすことができるであろうか。ご一緒に考えることで、光を見つけ出していきたい。

 第1回 介護報酬改正 サービスの質に関わりなく格差が生まれる
 四月から始まった介護報酬改正では、40を超える加算が作られ、それに3%のアップ分がほとんど使われた。そのため、個々の事業者は、加算を取ることに血まなこになっており、それは利用者への質の高いサービス提供を目指すこととは必ずしも一致しているようには思えない。

 居宅介護支援事業については、ほとんど全ての事業者が赤字状況を継続しており、今回の介護報酬改正の内容が生命線的な意味をもっている。実際には、介護報酬単価は従来通りで、「認知症」や「独居」の利用者に対する加算が新設されたことに加え、従来の「特定事業者加算(Ⅰ)」に加えて、敷居を低くすることで取りやすくするため「特定事業者加算(Ⅱ)」が新設された。この追加された加算には、事業所内の連携や研修、さらには利用者との連絡体制を整備することが条件であり、サービスの質を高める要素が入っているが、取得上のポイントは常勤・専従の介護支援専門員2名以上と、主任介護支援専門員が配置されていることが条件であり、1事業所に3名以上のケアマネジャーがいなければ取れないことになっていることである。

 前回の改正で新設された特定事業者加算(Ⅰ)の場合は、ほとんど全ての事業者にとって高嶺の花であったが、今回の特定事業者加算(Ⅱ)については多くの居宅介護支援事業所が取れるよう努力するであろう。現実的には、3分の1程度の事業所は取得可能であろうことを考えると、居宅介護支援事業者間での経営上での格差が生まれてくることは間違いない。
その際に、一定の規模がなければ加算が取れず、小規模事業者は不利であることは間違いない。そうすれば、今後は小規模の事業者は集合離散していく運命になるのであろうか。ここに、ケアマネジメントの質の高さというよりは、事業所の大きさにより、格差が生じてくることになる。一方、小規模の居宅介護支援事業者故に、利用者に対するケアマネジメントの質が低いことが実証されてはいるわけではない。

 この加算については、今まで進めようとしてきた方向とは逆方向に転換してしまったのではないかと思う。前回の介護報酬改正では独立型のケアマネジャーに加算をつけるような議論があった。これは、独立型のケアマネジャーを増やすことで、中立公正を担保していくことを考えていたからである。この独立型は、ほとんどが1~2名で細々と事業をしているのが現状であり、今回の特定事業者加算(Ⅱ)をとるのが難しい。

 経営的な視点からいえば、まずは出来る限りの事業所がこの特定事業者加算(Ⅱ)を取得することにチャレンジしていただきたい。同時に、独立型や小規模の居宅介護支援事業所は、生き残るために、合併や合同事務所の創設といった方策も考えていただかざるを得ない。介護報酬は事業者の生殺与奪の力をもっていることを認識し、慎重に決めていただきたいと願うと同時に、介護報酬でこのように事業所が振り回されることは、至極残念なことである。

 加算の新設は以上のような歪みをもたらすだけでなく、介護保険制度をより分かりにくい、複雑なものにしている。さらには、サービスの利用者や被保険者にサービスなりケアの質が高いゆえに、介護報酬が高くつくことの説明ができる材料が揃っていることが、加算新設の条件であるが、多くの加算にはそうした条件が整っている分けではない。その意味では、基本となる介護報酬単価をアップすることで、事業所の経営の安定を図ることが一番良かったのではないかと考えている。その場合には、事業所の増収がガラス張りになり、介護従事者への給与アップにも寄与できたのではないかと考えている。
 
 さらに将来的には、居宅介護支援事業の介護報酬は、抜本的な改革が求められる。具体的には、ケアマネジャーは個々の利用者に対してだけでなく、地域での活動等の多様な業務に従事しており、常勤ケアマネジャーを基礎にし、基本給プラス1ケース当たりの介護報酬単価をミックスすることの議論が必要である。

介護報酬3%アップでの介護従事者の待遇改善は可能か

2009年04月13日 | ケアや介護
 追加経済対策で、「介護職員処遇改善交付金」(仮称)への期待を前回述べたが、昨年度の3%の介護報酬アップで、現実にどの程度介護従事者に対する待遇改善に結びついているのかの正確な事実も必要である。実際、それ以前の2回の介護報酬改正で、5%低下させてきたわけであるから、3%アップでは不十分であることは十分予測できることではあるが、今日は、昨年度に行った調査結果から、示唆を得たい。

 今年の1月に、大阪市内の「訪問介護事業者」と「居宅介護支援事業者」、および大阪府下の「介護老人福祉施設」・「介護老人保健施設」(合わせて、以下「介護保険施設」)について、その経営者に対して悉皆調査を行った。「訪問介護事業者」428事業者、「居宅介護支援事業者」436事業者、「介護保険施設」156事業者から、年度末のお忙しい中で、回答を頂いた。

 この調査項目の一つに、今回の介護報酬改正で、介護従事者の待遇改善ができるかどうかの調査項目を設定しておいた。結果として、「かなりできる」と応えた事業者はそれぞれ1ヶ所のみであったが、「かなりできる」と「ややできる」を合わせた「少しは改善できる」事業所割合は、「訪問介護事業者」が20.1%、「居宅介護支援事業者」が5.9%、「介護保険施設」が30.7%となった。

 逆に、改善を「ほとんどできない」と「全くできない」を合わせた改善できない事業者割合は、「訪問介護事業者」で33.2%、「居宅介護支援事業者」で50.0%、「介護保険施設」で18.6%となった。

 この調査は大阪市内・府内の結果であり、日本全体の集約はできないが、概して言えば、今回の介護報酬改正で、施設に比べて在宅の事業者の方が、介護従事者の待遇改善が難しいとの結果となった。最も待遇改善が難しいのは「居宅介護支援事業者」であり、「訪問介護事業者」も厳しいことが分かった。

 一時言われた常勤換算で、介護従事者の給与が1か月2万円上がるといったこととは、大きくかけ離れる結果であった。そのため、「介護職員処遇改善交付金」に対する期待が大きいが、サービス事業別で介護従事者の待遇改善に差が生じ、従事者間で格差が生じていることを、交付金では配慮されることができるのであろうか。