ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

献本でのおもしろい話

2009年08月31日 | 社会福祉士
 我々研究者の世界では、自分が新しく書いた著書を多くの知っている方々に送ることが習わしである。これを献本というが、本を読んでいただいて、意見や評価を頂くためのものである。

 そのため、『福祉のアゴラ』や『ストレングスモデルのケアマネジメント』も多くの皆さんに献本させていただいた。特に、『福祉のアゴラ』は出版社との約束で、印税をお金でなく著書ですべて頂くことになっていたため、本当に多くの皆さんにお送りさせていただいた。

 そこで、唖然とすることが起こった。献本は、本屋に並ぶ前に送ることになるが、一方、販売が始まる直前からアマゾンでは予約を取ることになっている。私は、ブログに貼り付けるため、アマゾンでの『福祉のアゴラ』を開くと、なんと中古品が1冊販売に出されていた。

 これは、未だ一般に販売される前での中古品であるから、私が献本した中の誰かが、読んでか、読まずか分からないが、アマゾンに、献本が自宅に届くか届かない時期に、中古品として出したということになる。当たり前のことであるが、そこには、汚れの程度が「新品同様」と書かれていた。

 これはショックを超えて、素早い動きをした被献本者に拍手を送りたくなった。ただ、それほど魅力がない本なのかと少し悲しくなった。

 随分以前に、岡村重夫先生が亡くなられ、私が『福祉新聞』に追悼文を書かせて頂いた時に、朝日新聞であれば天声人語の欄に相当する「三念帖」というコーナーがあるが、ここに書かれていた内容が今も忘れられない。これは、当然この福祉新聞の記者が書かれたものであろう。

 大学を卒業し、就職のため東京に出てくる時に、ボストンバックの中に、今まで何度も読んだ一冊の本を入れてきた。それが、岡村重夫の『社会福祉学原論』であったという。この本があれば、私が困った時に、助けてくれるであろうと思ったというような内容であったことを覚えている。

 ちょうど、岡村先生が亡くなられた時であり、素晴らしい文章を書いていただいたと感激した。そして、私もいつか、学生の方々が就職のため家を出て行く時に是非持っていきたいと思ってもらえるような一冊の本を、いつかは書きたいと思った。これはまだまだ実現するものではないが、まずは献本して直ぐに中古に出されることのないよう、魅力にある著書を書いていきたい。


白澤がブログで吠えている

2009年08月29日 | 社会福祉士
 こんな言葉を、現場の人から伺った。最近は確かに、余り気兼ねや遠慮もなく、思いのままを綴っていることは確かであるが、吠えるまでは至ってないと思っている。そのため、少々ショックであったが、現在のブログに対する姿勢は今後も一貫して続けていくつもりである。

 これは、ブログを毎日書くことは辛いけれども、それが欲求不満の解消になることができればこしたことはない。ただ、これが過ぎると、ブログ炎上ということになるので、少しは自重することも必要であろう。

 最近のこうした気兼ねなく書くようになった要因は、義理の母親の死で、介護保険制度の問題点が身近に見え、主たる介護を担った妻から、社会や高齢者に役立つことを意識して、研究したり、論文を書くことが大切ではないかと言われたことが、ボディーブローのように効いている。

 同時に、気兼ねなく書くのは、年のせいかもわからない。若い頃は、他の人がどう言っているかが気になり、文献検索をベースにしなければ原稿が書けなかった。最近は、「我は行く」という心境で原稿を書いている。そのため、他の人の考えと調整していないため、突飛な原稿になるかもしれない。

 吠えているブログのためか、アクセス数は急増している。平日は人数で、平均が700名弱で、アカウントで、1500程度である。私の学科の1年の学生は35名程度であるから、毎日学生の20倍が見てくれていることになる。そのために、アクセス数に背中を押され、ブログを休みたくても、休めない状態になっている。以前は、多くのストック原稿をもっていたため、余裕があったが、今はそれも皆無で、その日暮らしの原稿となっている。早くストックを作りたいと思っている。

 もうひとつ、私はアフィリエイトに入会しており、私のブログからアマゾンで図書等を買っていただければ、マージンが入ってくることになっている。会費が月250円であり、これを始めて1年少し経つが、やっと5000円頂戴した。少し黒字ではあるが、商売というわけにはいかない。ただ、私のブログから、『福祉のアゴラ』や『ストレングスモデルのケアマネジメント』が相当売れたことは嬉しかった。お買い上げ頂いた方に感謝申し上げます。


地域包括ケアとは

2009年08月28日 | ケアや介護
 厚生労働省は、「地域包括ケア研究会報告書~今後の検討のための論点整理~」(平成20年度老人保健健康増進等事業として実施された「在宅医療と介護の連携、認知症高齢者ケア等地域ケアの在り方等研究事業」:実施主体:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)を、5月22日に公表している。そこでは、地域包括ケアの定義についての提案がなされている。

 地域包括ケアとは「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(生活圏域)で適切に提供できるような地域の体制」との試案を提示している。さらに、誰か駆けつけるのか知らないが、「おおむね30分以内に駆けつけられる圏域」として、この生活圏域を、中学校区を基本にしてはどうかと問いかけている。

 この報告を読んでの感想であるが、2点気になることがある。

 第1点は、地域包括ケアの現状についてである。研究会の地域包括ケアの定義に何ら違和感はない。私は、個々の利用者を、空間的・時間的に生活の連続性を支えていくことの重要性をブログでも主張しており、そのことが地域包括ケアであるということで異論はない。

 ただ、こうした利用者の生活の連続性を制度的に崩しておきながら、その検証や検討を論議し報告されることなく、提案されていることが残念である。すなわち、ここで示した2つの図は、時間軸での連続性が、4年前の法改正で崩れたことを示している。現状でのこの窓口が2つ分かれ、要支援者と要介護者での連続した支援が難しくなり、ワンストップサービスやケアの連続性が崩れたことに対する問題提起もなくして、地域包括ケアは推進できるのであろうかということである。




 もう1つ気になることは、中学校区とは昔聞き慣れた言葉で再現してきたことである。これは、平成2年に在宅介護支援センターができた時に、当時中学校区が1万ヶ所あり、1中学校区に1ヶ所の在宅介護支援センターを作ることが、ゴールドプランに記載され、全国に普及していった。最終的には、8千近くまで伸びたが、これが4年前に地域包括支援センターに移行した。

 その時は、高齢者が移動可能な人口2~3万を生活圏域とし、都市部や農村部では人口規模は異なるということであった。そこで、また中学校区を生活圏域にという議論である。このことは、地域包括支援センターの生活圏域設定に問題であったのか、あるいは現状の多くの地域包括支援センターが多くの人口規模を抱えて実施していることへの反省からのものであるのか。これについても、現状の地域包括支援センターの実態とその成果を検討することでの議論でありたいと思う。同時に、個々の市町村においては、生活圏域設定があまり変わるようでは、個々の住民も行政も困惑することになる。

ストレングスモデルは:理念か方法か

2009年08月27日 | 社会福祉士
 先日行われた「C.ラップ先生来日記念学術フォーラム」というテーマでストレングスモデルについてのシンポジウムに関しては、既に一度書いたが、もう1つ考えたことがある。それは、ストレングスモデルは理念か方法かということである。

 具体的には、以下の2つが考えられる。ストレングスモデルは、ソーシャルワーカーやケアマネジャーがもっていなけれればならない理念とし、それが具体的な支援に反映させていくことでよいのか。あるいは、ストレングスを活用する意義を明らかにし、具体的なアセスメント過程でストレングスをいかに発見し、それをケアプランにどのように反映させていく方法として成熟させていくのか。

 ここからは私の考え方である。前者の理念については、既に古くからストレングスを捉えることで利用者の生活が支えられ、これこそが生活モデルでの重要な概念であるとされてきた。そのため、確かに、ソーシャルワーカーやケアマネジャーが理念を大切にすることによって、あるいは創意工夫することで、ストレングスを活用した支援になっている事例が多く存在すると思っている。

 このような理念に従って実施している事例を分析する中で、どのようなアセスメントやケアプラン作成をしていけばよいかを導き出していく作業が必要であると思っている。この結果、ストレングスモデルのソーシャルワークやケアマネジメントの方法が提案させ、それを実践との間でフィードバックさせながら、ストレングスモデルの方法を確立していくべきであると考えている。

 なぜ、このようなことを言うかと言えば、当日のシンポジウムで、日本精神保健福祉士会から報告された岩上洋一さんは、利用者のストレングスを活かした支援の事例を多く報告されたが、彼は、これらの事例をストレングスモデルのケアマネジメントとは言わず、ストレングスモデルらしい仕事と強調されていたのは、その辺にあったのかもしれない。

 もう少し、方法としてのストレングスモデルを究めたと思っている。

「ソーシャルワーカーの専門職としての価値とは」再考(下)

2009年08月26日 | 社会福祉士
 最近気になることは、利用者の強さ(ストレングス)、強靭性・塑性力(レジティマシー)、社会的回復力(リカバリー)が1つの方法としてだけでなく価値観になりつつあるが、それはソーシャルワーク領域だけでなく、医学や看護の領域でもそれを吸収していく状況にある。

 このような考え方は、ソーシャルワークが独自性を有している「利用者の生活支援」と密接な関係をもって、導き出されるものであるが、既に専売特許でないことを自覚しておく必要がある。これは、例えば、精神医学の領域で、統合失調症の患者さんの中で、病気から社会的回復していく人と、そうでない人がいることから、患者さんのもっている回復力を明らかにし、そうした力を支援していこうとする考え方である。私の考えは、利用者の強さ、強靭性・蘇生力、社会的回復力といった価値観を多くの専門職が共有できることは、嬉しい限りであると思っている。なぜなら、価値観を共有することができ、多くの専門職がより連携して仕事ができるからである。但し、この価値を梃子にして、ソーシャルワークはどのよいに方法や目的を高め、同時にそこからソーシャルワークの独自性を見つけ出していくかが問われていると考えている。

 このことをさらに推し進めれば、ソーシャルワークはどのような独自性があるのであろうか。それは、単に利用者だけの強さ、強靭性・蘇生力、社会的回復力だけでなく、地域社会のそれにも着目し、地域社会の有している強さ、強靭性・蘇生力、社会的回復力を引き出していく支援方法を確立することも一つであろう。一方、現実の実践の中で、どのように強さ、強靭性・蘇生力、社会的回復力を活用し、方法や目的での独自性を確保したり、自らの実践を強化し、効果や、ひいては効率を高めていくことに貢献していくことであると思っている。

 追加になるが、先日ミネルヴァ書房から刊行した『ストレングスモデルのケアマネジメント』は、後者のソーシャルワークやケアマネジメントが、現実の実践の中で、どのようにストレングスを活用し、方法や目的での独自性を確保したり、自らの実践を強化し、効果や、ひいては効率を高めていくかを狙いにしたと考えている。是非お読み頂き、ご意見を頂戴したい。

「ソーシャルワーカーの専門職としての価値とは」再考(上)

2009年08月25日 | 社会福祉士
 ブログでは、ツールメニューがあり、どの日の項目が読まれたかが毎日データで読むことができることになっている。その結果分かることは、決してその日に書いた新しい内容がトップで読まれているとは限らないことである。

 私は、このことだけは毎日チェックしている。それは、私のブログにアクセスしてくれた人々のニーズが分かるからである。最近の動向は、介護職員処遇改善給付金関係の項目が、常にベスト10に入ることが多かった。

 古くに書いたものでは、2008年6月23日の「ソーシャルワーカーの専門職としての価値とは」が、良く読まれている。それは、ソーシャルワークの価値は大切であるが、それのみにしがみ付いていると、専門職としての独自性が出しないのではないかと問題提起した項目である。逆に、ソーシャルワークの目的や方法といったことでの独自性や固有性を示す活動ができない限り、専門職連携の中で、生きていけないという危機意識を書きたかった。

 この思いは、今も変わっていないし、この危機をどう克服するかで、私自身も苦悩しているということである。

 社会福祉士(ソーシャルワーカー)、介護支援専門員、介護福祉士、医師、看護師はいずれも対人援助(支援)職といわれ、根本的には同じとは言わないが、極めて類似の価値観をもっている。その基礎には、人間に対する尊厳といった価値をもっている。その結果、例えば、介護保険法第一条で利用者に対する尊厳の保持を謳っており、当然のこととして、上記のすべての専門職は、この尊厳の保持を基本的な価値として業務を遂行していくことになろう。

 尊厳の保持から引き出される一つの価値としての、利用者の自己決定の原則を例にとると、医師は利用者の生命を守る立場から、以前はパターナリズムが強かったが、先進的にインフォームド・コンセントの考え方を導入し、自己決定を基本的な考え方にしてきている。確かに、宗教的な考え方から手術や輸血を拒否する人に対して、生命を守るという医師の使命のもとで、医師が価値のコンフリクトや揺らぎが生じることも確かである。一方、ターミナルケアの領域では、患者さんの自己決定が当然の時代を迎えつつあるが、このようなことは、多くの専門職が類似の価値観を共有できることとして、歓迎されるべきことである。

 こうした医師の価値やそこでのコンフリクトは、ソーシャルワークも同様にもっているものであり、専門職を価値の違いで独自性を強調できないと考えている。ソーシャルワークは独自の方法(技術)でもって、独自の目的を達成していくことを強調すべきであると考えている。 

回想法で「まちづくり」は可能か

2009年08月24日 | 社会福祉士
 滋賀県高島市社会福祉協議会が地域の風景画を描いた絵屏風を使って、介護保険の機関やふれあいサロンで回想法を進めている。この回想法を使って、さらにふくしのまちづくりを進めることを目指している。これは、日生財団の助成で行っているものである。

 このことで、脳学者の茂木健一郎さんに基調講演をお願いし、実践報告とシンポジウムが開催された。このプロジェクトは2年半の事業であり、今回は中間報告であり、最後まで後1年を残している。そこで、日生財団の審査委員でもあることから、本プロジェクトに対する講評を依頼され、参加させていただいた。

 茂木さんの講演は、「思い出」について話して頂いたが、脳というのは、里山と同じで、できる限り自然にしておき、時々手入れをすることであるという。この手入れとは、思い出すことであるという。現代人は、インターネットの時代を迎えて、思い出すことの訓練ができにくい環境にいるという。思い出すことを繰り返すことで、脳の活性化ができるという。

 このような思い出を高島市のなかで過去に作られてきた絵屏風を使って話し合ったり、あるいは絵屏風を作ることで、回想法を行っている。これが、介護予防や認知症予防ということであれば理解できるが、このような活動からいかにまちづくりを行っていくのであろうか。

 これは、シンポジウムと実践報告で分かってきたが、回想法は、高齢者が語り合うことがポイントであり、お互いが理解し合うことになり、個々人が介護予防や認知症予防をできたということを超えて、地域での活動に広がっていくことができるという。この評価については、残りの1年間で一層促進して頂くことであろう。さらに、社会福祉協議会は「思い出ガイド養成講座」を行っていくということである。

 個々の地域で高齢者が話し合うことを進めていき、思い出ガイドが、地域の子どもとの交流に活用されることができれば、介護や認知症予防を超えて、ふくしのまちづくりにつながっていくことになろう。今後の活動に期待したい。

定年を数年後にひかえて、博士学位の授与に向けての指導

2009年08月22日 | 社会福祉士
 大阪市立大学の定年は63歳であり、残り2年半に迫り、博士課程の大学院生の学位授与に向けて、指導のピッチを上げている。

 今まで多くの博士課程学生を指導し、最近では、1年に平均2人程度の学生に、博士の学位を授与するよう指導してきた。既に、10名程度を指導し、博士の学位授与に至っている。彼らは、現在大学で教鞭をとっている者がほとんどであるが、その中では韓国からの留学生も3名おり、その内の1人は母国に帰り、教鞭をとっている。また、アメリカの大学でリサーチ・フェローをしている者もいる。一方、大学教員への就職難が福祉分野でも顕著になり、オーバードクターも一人いる。厳しい時代である。

 今後、残りの2年半を考えると、現在私のもので在籍している学生が、博士の2回生から3回生(現実は6回生)まで10数名(2回生4名、3回生4名、3回生以上7名)が残っており、彼らをできる限り博士の学位を授与できるところまで育てる責任があると思っている。

 私の信条は、指導の残りの期間が短くなろうとも、安易に学位を出すことはなく、よりレベルの高い論文を集積し、体系化する指導を行っていきといと思っている。何らかの事情で時間に間に合わない者もでてくることも考えられるが、よく言われる、定年直前での「かけこみ学位」といったものは、絶対に許されないと思っている。そのため、学生には早くからハッパをかけている。

 現状では、大学院を既に単位取得退学している者も含めて、3名が10月の学位授与を目指して申請をしている。8月26日には生活科学研究科の大会議室で、朝の9時30分から夜の7時30分まで、私が主査の3名に、私が副査のもう1名を加えた公聴会である。関心のある方は是非出席して頂きたい。

 さらに、今年度の3月末めどに、学位申請に向けて現在進行形で進んでいるが、もう3~4名ほどいる。学生には、「後1年半で3年以上になり、その間に論文が完成するよう」にと指導している。私の研究科の学位論文のレベルは極めて高いと言われている。私が指導している学生についても、最低4報から5報の論文(多くは、学会誌掲載論文)をコーディネートしたものが学位論文であり、博士の学位授与者として、自信を持って社会に送り出せると思っている。その意味では、若手研究者としてはばたいて頂きたいと願っている。

 さて、来週の公聴会に向けて、もう一度、3人の論文の再点検をしておきたい。

「介護労働者の人材確保に関する特別措置法(案)」の再確認を

2009年08月21日 | ケアや介護
 総選挙に向けて、それぞれの地域で激戦が繰り返されている。マスコミの下馬評では、民主党が圧倒的に有利ということらしい。そこで、介護保険の近未来を探る上で、マニフェストも大事であるが、民主党、共産党、社民党、国民新党の野党連合で提出した法案も点検しておくことが、介護保険制度の今後を予測できるのではないかと考える。これは廃案になっているが、次は、政府案として再登場してくるかも分からないからである。

 それは、自民党が追加緊急経済対策で、ぶちあげた「介護職員待遇改善給付金」の常勤換算で月1万5千円アップの対比として、民主党を中心で野党から出された「介護労働者の人材確保に関する特別措置法(案)」はマークしておいた方が良いと判断した。これは、民主党が多数を取った場合に実現する可能性があるからである。また、介護保険制度に対する今回の民主党のマニフェストの土台にもなっている。

 本法案は、介護労働者の待遇改善のために、介護報酬を加算することを義務づけるものである。一方、事業主に対して、介護職員の賃金の引上げ等の努力義務を課し、その実効性を担保するために、毎年、現行の公表制度に加え、待遇改善の状況の市町村への報告を義務づけている。

 ここでの介護事業者は、居宅サービス事業者、地域密着型サービス事業者、居宅介護支援事業者、介護保険施設、およびこれらで介護予防をする事業者であり、そのような介護事業者が行う福祉サービスや保健医療サービスの業務に従事する者を介護労働者としている。そのため、介護労働者にはケアマネジャーや訪問看護師も含まれることにはなるが、7%の介護報酬アップということで支給されることになる。それを介護労働者の待遇改善に結びつけるために、介護事業者は介護労働者の労働条件改善の内容を、市町村に届けることになっている。

 この増額分がすべて人件費にまわった場合には、介護労働者約80 万人(常勤換算)に対して、一人当たり月額4万円程度の賃金引き上げが可能になるとしている。このことは、民主党のマニフェストと符合することである。なお、法案では、この特別措置は、介護を担う優れた人材の確保に支障がなくなった時に廃止となるとしている。


「ストレングスモデルーその実践と検証」シンポジウムに参加して

2009年08月20日 | 社会福祉士
 カンサス大学のソーシャルワーク大学院のチャールス・ラップ教授を迎えて、早稲田大学で「C.ラップ先生来日記念学術フォーラム」というテーマでストレングスモデルについてのシンポジウムに参加した。この日の参加者は、チャールス・ラップ教授が基調講演とコメンテーターとなり、シンポジストは、谷中輝男日本精神保健福祉士養成校協会会長、野中猛日本精神障害者リハビリテーション学会会長、岩上洋一日本精神保健福祉士協会からの代表、大島巌地域精神保健福祉機構代表理事と私であった。座長は野田文隆大正大学教授・ブリテッシュコロンビア大学特任教授であった。

 それなりの、意義ある議論ができたと思ったが、ここでの大きなテーマは、ストレングスモデルは日本で定着できるのか。定着できるためには、何が必要かというテーマであった様な気がする。

 私は、思想的に利用者の能力や意欲といったストレングスを理解する理念については、日本ではさほど難しくなく定着すると思っている。逆に、日本人はそうした人々の強さを捉える能力が長けており、問題はないと感じている。問題の第一は、利用者がそうしたストレングスを出すことが少ないのが日本人の特質ではないかと思っている。多文化社会のアメリカでは、人々は自己主張が当たり前であり、その意味では、ストレングスを余り表出しない日本では、いかにそれを発見していくかが、ストレングスモデルが定着する課題であるように思う。これは、アメリでの支援者と利用者の関係は言語的コミュニケーションが中心であり、アメリカに比べて日本では非言語的なコミュニケーションが大きな要素になっていると言える。

 そのため日本では、利用者に対する観察を通じて感じたり、気づくことが、ストレングスモデルには不可欠であると思った。同時に、そうした感じたりすることは、日本人の場合には、アメリカ社会に比べて、国民は共通の文化や価値をもっており、気づきや感じることは容易であると考えている。さらに言えば、日本の支援者はそうした方法を有しており、そうした方法をアメリカ等に逆輸入していくべきであると考えている。

 第二の日本で定着する条件は、ストレングスモデルはリスクと直結していることである。例えば、精神障害をもつ利用者が、30歳になり「高等学校に行きたい」というストレングスを有しているとしよう。これを実現するために、ストレングスモデルではケアプランを作成することになる。その結果、利用者が学校に行くことから生じてくるリスクの管理が必要になる。これがアメリカであれば、利用者が自己決定し、自己責任としてのケアプランになる。そのため、リスク管理さえ十分行っており、契約をしていれば、ストレングスモデルは、スムーズに活用されることになる。

 ところが、日本でストレングスモデルを貫徹し、万が一リスクが生じた場合には、おそらく支援者側が責任を取らされることになる可能性が高い。それは、例え、利用者との契約をきちっと行っていた、様々なリスク管理の工夫をしていても、である。そのため、支援者は、ストレングスを活用するよりも、「転ばぬ先の杖」という安全なケアプラン作成になってしまい、ストレングスモデルの定着は難しいと言える。

 それでは、日本ではどのようにしてこのような状況を克服していき、ストレングスモデルを定着させていけば良いのであろうか。

 そのためには、日本に自己責任の文化を創っていることも大切である。同時に、支援者には、専門職としてリスクをできる限り回避するための対応を十分に行っておき、さらにそうしたリスクが生じた場合に、そうした専門職を守る保険等のシステムを職能団体が作り上げる必要があろう。

「在宅ケア新時代」の確立を(「日本在宅ケア学会誌」巻頭言)

2009年08月19日 | 論説等の原稿(既発表)
 日本在宅ケア学会の今後についての抱負を書いたが、この学会は、看護の皆さんが多く入会していただいているが、他の医学、リハビリ関係、介護、福祉の領域の皆さんに入会し、活躍していただきたいと願っている。また、もっと実践現場で働いている方々にご参加願いたいと思っている。そこで、学会誌の巻頭言を再掲しておく。

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「在宅ケア新時代」の確立を 

 今年度から2012年度のまでの3年間,当日本在宅ケア学会の第5期理事長を,第4期に続いてお引き受けすることになった.次の3年間に,日本の在宅ケアの研究・教育は何を目指し,そこから,どのような在宅ケアの実践を拡大・深化させていくことが必要であろうか,またそこから,日本の在宅ケアに関する研究・教育者と実務者が集う本学会およびその会員の担うべき使命について考えてみたい.

1.日本における在宅ケアの現状

 本学会は,介護保険制度の創設と期を一にしており,介護保険法が成立した1997年の1年前の1996年に誕生した.それは,介護保険制度は高齢者の在宅ケアを推進するという理念のもとで作られ,それを理論的に支え,在宅ケアを推進していこうという熱意ある仲間が,保健・医療・福祉に関わる様々な領域の方々に呼びかけ,学会を立ち上げたと言える.

 そして,本学会が創設され,13年の歳月が流れたが,在宅ケアの研究・実践は確かに進み,介護保険制度での,施設ケアに比較される在宅ケアに占める財源割合は,創設時は4割であったが,2008年度でみると6割弱にまで伸びてきている.同時に在宅生活をしている要介護者・要支援者数も,1,840人から2,637万人に増えてきている.このような表面的な成果はあるとしても,現実の在宅ケアには,様々な課題が横たわっていることも事実であり,学会としてはそれらの課題に対応した研究を一層推進し,在宅ケアを量的な観点からでなく,地域で住んでいる高齢者の生活の質という観点から,貢献している責務を負っている.

2.本学会に求められる研究課題
 
 具体的な研究課題としては,地域での医師と看護師の連携のあり方,看護と介護の機能的な役割分担,ケアマネジャーと医師・看護師・介護福祉士だけでなく,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,管理栄養士,薬剤師等専門職だけでなく,多様な専門職との連携方法のあり方,病院や老人保健施設とそこの退院者を円滑に地域で受け入れるべくサービス・デリバリー・システムの確立,さらには病院と診療所の病診連携のあり方といった基本的な問題をさらに究明し,あるべき方向を示していくことが急務となっている.

 同時に,こうした在宅ケアを担う専門職の確保と人材育成の課題が横たわっている.とりわけ,昨今介護職の離職と人材不足が緊急課題となっているが,こうした課題に対して,エビデンスに基づき,地域ケアを担う人材養成に対して提言をしていく役割を担っていかなければならない.これについては,制度面での待遇改善といった社会に向けての課題と,学校教育とその連続する継続教育についての課題,さらにはスーパービジョン体制といった職場環境にもメスをいれていく研究課題がある.

 さらに,地域で高齢者が生活するためには,介護保険制度のサービスは勿論であるが,在宅医療を進めていくサービスや高齢者の権利擁護に関する制度,また住宅サービスの充実が不可欠であるが,そうしたサービスに関する研究を一層推進し,個々のサービス内容の質的充実を図っていくとともに,それを支える財源拡大にも寄与できることが,本学会の役割である.これら制度・サービス面での課題を解明していくことに加えて,現実の在宅ケアの大きな担い手となっている家族にも照準を当て,家族介護者のあるべき方法に関する研究を深めていかなければならない.同時に,在宅ケアは海外では広くコミュニティ・ケアでもって総称されるが,近隣,NPO,ボランティアといった人々を含めたコミュニティのあり方についての研究課題を有している.

 在宅ケアは高齢者だけでなく,身体・知的・精神といった障害者(児)の課題でもある.おりしも,2006年に障害者自立支援法が成立したが,ここでは障害者の地域での自立生活を支援することを理念にしている.そのため,本学会も高齢者に加えて,障害者領域での在宅ケアに関する研究にも関心を拡げていくことが求められる.この場合の在宅ケアでは,医療・保健・福祉・介護・住宅といった領域だけでなく,就労・教育や社会参加といった領域が不可欠な要素になってくる.このような専門家を一層会員として迎え入れ,研究の幅を拡げていかなければならない時期にきている.

3.本学会の特徴と使命

 以上のような研究課題を総括すると,日本の在宅ケアは,在宅ケア利用者を増やしていく量の時代から,一人ひとりの利用者が質の高い生活を確立していく「在宅ケア新時代」を迎えている.これを実現するためには,本学会は,会員全員の努力でもって,「在宅ケア新時代」の牽引者としての役割を果たしていかなければならないと考えている.

 そのためには,本学会は自らが有している特徴を大いに活かし,「在宅ケア新時代」に向けて貢献していくことが大切である.その特徴の第一は,在宅ケアに関わり医学,看護学,保健学,理学療法,作業療法,栄養学等の医療系の方々と,社会福祉学や介護学といった福祉系の方々が参加し,交流することで,在宅ケアの水準を高めていく学際学会であることである.この特徴を活かし,これら以外の在宅ケアに関わる専門領域の方々,また現在会員割合が低い福祉系の専門職に参加を得て,学際的に深みと広がりのある研究集団になっていくことである.

 本学会の第二の特徴は,研究者と実務者を擁していることである.このことは,両者が学会を介して,在宅ケアに関する実践と理論の橋渡しをすることができることにある.この利点を活かし,実践現場と教育現場との両者が共同研究等を通して一層交流を深め,多くの在宅ケアに関するエビデンスを蓄積してことを願っています.そのため,現状では,研究者の割合が7割程度と少し高く,実務者の入会が最近は増加していますが,実践現場からの参加者を増やしていく必要があると考えています.

4.本学会の具体的な活動に向けて

 こうした学会の特徴を活かすために,一つは,実務者の会員数を増やしていく中で,在宅ケアの事例なり症例研究の雑誌の刊行ができないかと考えている.これが刊行できれば,学際的な在宅ケアの専門誌として,研究面だけでなく,日本の在宅ケアの実践・制度面にも大きく寄与できると考えている.

 二つめの提案は,本学会で明らかになったエビデンスを社会的に明らかにしていくことで,実践や政策の発展に寄与することである.実践の発展への寄与については,学会の社会貢献でもある公開講座を実務者や市民向けに開催していくことである.これについては,本学会はこうした活動に取り組んではいるが,十分ではなく,この充実を図り,広く在宅ケアに関わっている専門家や地域住民に対する啓発的・教育的機能を果たしていく必要がある.

 一方,研究成果を介護保険制度や医療保険制度に活かしていくために,看護学では看護系学会等社会保険連合が(社)日本看護協会のもとで組織され,活動を始めている.本学会もこの看護系学会等社会保険連合に参加しているが,学会の研究成果が体系的・円滑に研究と政策が繋がっていく仕組みを作りことに,本学会は積極的に関与していく必要があると認識している.そのため,福祉系においても,このような団体が作られことに関心を向け,積極的にこのような研究集団である学会と実務者集団である団体が一体となり,研究成果が政策にも影響していく時代を作っていかなければならないと思っている.

 以上のような活動を進めるために,今期から理事定数を4名増やし,16名とし,評議員も10名増やし,40名にした.理事や評議員の皆さんに加えて,学会の主役である会員の皆さんと一緒になり,日本在宅ケア学会が学問的にも社会的にも一層発展することに力を尽くしていきたいと思っている.


「主任介護支援専門員」研修会の位置づけの不思議

2009年08月18日 | ケアや介護
 多くの都道府県では、今年の主任介護支援専門員研修会は回数や定員を倍増して実施している。いくつかの研修会に講師として伺ったが、いずれも大盛況である。それは、特定事業者加算Ⅱをとるために必要であるからである。さらに、加算の関係もあり、厚生労働省は、受講希望者を拒んではならないと指導している。

 主任介護支援専門員研修の受講者層はこの4年間で、目まぐるしく変化してきた。4年前の改正で新たに地域包括支援センターができ、初年度の受講者は、当然のことであるが、受講者は地域包括支援センターに配属される主任介護支援専門員の資格を求めてのものであった。

 ところが、その後の2年間は、地域包括支援センターの職員というよりは、居宅介護支援事業者のケアマネジャーが圧倒的に多くなっていた。この受講理由は、ケアマネジャーが自らの能力を高めたいがためであった。さらには、地域に中でリーダーなりスーパーバイザー的役割を果たしたいという思いからであった。例えば、大阪府の主任介護支援専門員研修での受講者資格には、地域のリーダーとなっているか、なる自覚があるかどうかが、、研修会受講の1つの条件になっていた。

 しかし、今回の介護報酬改訂で、特定事業者加算の敷居を低くするⅡが新設され、この加算を取りたい事業者のケアマネジャーが多数参加している状況である。そのため、受講対象者は、猫の目のように毎年のように変わっている。そのため、受講生の視点からすれば、講義内容も毎年のように変えざるを得ない側面もある。

 この主任介護支援専門員の法的根拠をみると、まずは地域包括支援センターに配置することが「介護保険法」に位置づけられており、そこでの研修の要件や内容が「主任介護支援専門員研修要綱」に明記されているに過ぎない。その意味では、介護報酬の特定事業者加算の要件に主任介護支援専門員が位置づけられてはいるが、法的には、地域包括支援センター職員としてのものであり、ケアマネジャーとしての水準を高め、スーパバイザーとして養成していくことを目指すことを目的にしたものではない。

 その意味では、「つぎはぎ」的に主任介護支援専門員を位置づけるのではなく、ケアマネジャーのキャリアパスの一貫として位置づけ、研修内容は居宅介護支援事業者や地域でのスーパーバイザーとしてだけでなく、施設の管理者としても育成していくカリキュラムを構築していく必要があるのではないか。当然、この研修を構造化することで、ケアマネジャーの社会的地位や待遇を高めることに位置づけるべきである。

ケアマネジメントとソーシャルワーの関係31まとめ(完)

2009年08月17日 | 社会福祉士
 「ソーシャルワークとケアマネジメントの関係」の最終回に当たって、両者の関係については整理できたが、今回は現実にソーシャルワーカーとケアマネジャーという職種が現実に存在しているが、両職種の相違について考えてみたい。

 ある掲示板で、「社会福祉士」と名乗ってする仕事がほとんど無いことが指摘されていた。このことは、「社会福祉士」やソーシャルワーカーという名称で仕事が出来る場を、制度的にも、社会的にも広げていくことが求められているということである。

 一方、ケアマネジャーの強みは、介護支援専門員をモデルにして、多様な領域で今後ますます高まるものと予想できる。根本的には制度の裏付けの有無に起因している。社会福祉士はやっと3年半前に、地域包括支援センターへの配置が制度化された。これは画期的なことであるが、相当努力をしなければ、将来的な展望があるわけではない。

 ケアマネジメントとソーシャルワークを比較すると、ソーシャルワーカーは実践力を高めると共に、組織としての政治力が必要であると思う。これを一歩、一歩積み上げていくより他ない。ただし、政治力は、社会的正義を貫いての、媚びることのなく、実践として政治的な力を得ていくことである。

 現場のソーシャルワーカーもそのように理解していることが、人気のブログ「MSW Lab Blog」の古くなるが4月11日の「箱入りソーシャルワーカーと介護支援専門員」からも理解できた。そこでは、以下のようなソーシャルワークに対する痛烈な批判をし、あるべき方向づけを行っている。


 「自分自身が経営者だったら、ソーシャルワーカーにケアマネも兼務させて仕事をさせるであろう。「医療職→MSW→ケアマネ」というルートは介在する人が多すぎてまどろっこしい。そう言われるのが嫌であれば、地域に出て、地域を知って、ネットワーキングを体現すること。こういうルートでやる方がお互いにメリットがあると思われるような仕事をしなければいけない。

 知識だけだったら、他職種でも多少勉強すれば知ることが出来る。知識だけでなく、それらを本人・家族の具体的利益となる様にマネジメントし、ネットワーキングする。そしてその技術を他職種にアピールし、診療・介護報酬に反映されるようロビーイングする。それが箱入りソーシャルワーカーが生き抜くための必要条件であろう。」

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 同感である。同時に、この責任の多くは大学等の教員が負わなければならないと思っている。それは、実践を理論化六課・普遍化する作業を疎かにしてきたことが大きく、今後はソーシャルワークが社会から評価され、その成果がでるよう、やれることは何でもやっていきたいと決意している。

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 これで、「ソーシャルワークとケアマネジメントの関係」を終了します。次の連載については、現在構想中ですが、近々始める予定です。2つの構想があり、1つは、「社会福祉士の可能性」、もう一つが「岡村理論とソーシャルワーク」ですが、思案をしている。


介護保険施設や訪問介護事業者の離職要因について②

2009年08月15日 | ケアや介護
2 訪問介護事業者における職場の特徴と施設職員の離職との関係<施設管理者への調査をもとに>

 訪問介護事業者では担当ヘルパーの雇用が難しい状況がある。本研究では、担当ヘルパーが長期に雇用されるためには、どのような職場環境が必要であるかを明らかにすることにある。

 調査方法は、大阪市の訪問介護事業者1191箇所の管理者を対象に調査し、35.9%の有効票を回収した。

 調査結果として、管理職の離職意識として、離職が「大変高い」4.0%、「高い」26.6%、「低い」38.6%、「大変低い」28.5%となっていた。事業者により意識の差が大きいが、低いとする割合が3分の2近くもあることは注目に値する。

 管理者の捉える職場の特徴は因子分析の結果、職場内外の「職員の研修に対する体制整備」、給与・福利厚生等の「職員への待遇」、上司や仲間との関係や有給休暇や公正な人事といった「職場内の環境」、職場の社会からの評価といった「職場外との関係」の4因子に分かれた。

 次に、管理者の離職意識について、4つの因子でt検定をみると、「職場内の環境」のみに有意差がみられた。その結果、上司や仲間との関係を良くし、公正な人事や有給休暇といった制度を取り入れていくことが、担当ヘルパーの継続した雇用につながると意識していることが分かった。

 そのため、訪問介護事業者の職場内の環境を作り上げるために、職場内での職員を指導や支援していくスーバイザーの配置や、できる限りガラス張りの運営が求められる。管理者の意識として、これらが確立すれば、担当ヘルパーの定着率が高まることにつながることが分かった。

 これは、管理職の意識調査であり、離職者調査でない限界はあるが、管理職の意識として、国なり訪問介護事業者がどのような施策を行う必要があるかが明らかになった。

 今年度は、いくつかの訪問介護事業者にモデル的にお願いして、これらの明らかになった課題を具体的に解決していくことで、離職率に抑えることができるかを検証してみたいと思っている。

 最後になったが、調査にご協力いただいた皆さんに、心より感謝申し上げる次第である。有り難うございました。

介護保険施設や訪問介護事業者の離職要因について①

2009年08月14日 | ケアや介護
 介護職の離職や高いということで介護職が集まらないということで、大阪府下の特別養護老人ホームと老人保健施設の介護保健施設を悉皆で調査した。他方、大阪市内の在宅の訪問介護事業者を悉皆で調査した。これは、事業者の管理者を対象にした実態・意識調査であるが、調査にお応えいただいた皆さんに感謝する次第である。

 そこで、介護保険施設と訪問介護事業者の2回に分けて、調査結果のポイントと課題について示しておきたい。

1 介護施設における職場の特徴と施設職員の離職との関係<施設管理者への調査をもとに>

 介護保険施設の需要が高まっているが、介護施設における職員の離職率が高く、問題となっている。本研究では、施設管理者に対する調査をもとに、どのような職場の特徴が、職員離職率に関連しているかを明らかにし、施設における職員定着率を向上させるための提言を行う。

 調査方法は、大阪府の介護保険施設527ヵ所の管理者に郵送調査を実施し、回収率は29.6%(N=156)だった。

 調査の結果、離職割合について、「大変高い」が4.1%、「高い」が47.6%、「低い」40.4%、「とても低い」が4.8%と管理職が意識しており、離職意識に介護保険施設間で大きな差があることが分かった。

 管理者の捉える介護保険施設の状況について因子分析にかけた結果、「職場内外での関係」、「職場の研修体制」、「職員の待遇」、「事業所としての支援体制」、「職員に対する尊重」の5因子が抽出された。すなわち、管理職の意識として、上司や同僚や地域の人の評価といった「職場内外との関係」、職場内と外での「研修体制の整備」、給与等の「職員の待遇」、休暇等の「事業所としての支援体制」、職員の意見の反映といった「職員に対する尊重」の5つでもって、介護保険施設の構造としていることが分かった。

 この5因子を従属変数、離職状況を独立変数としてt検定を行った結果、「職場内外の関係」と「職員の待遇」において高い有意差が示された。これにより、施設内において良好な人間関係を保つことや、利用者・地域からの高い評価を得ること、職員に対する給与や福利厚生を充実させることが、施設の介護職の離職を改善することに有効であることが分かった。

 これは、管理職の意識調査であり、離職者調査でない限界はあるが、管理職の意識として、国なり介護保険施設がどのような施策を行う必要があるかが明らかになった。

 今年度は、いくつかの介護保険事業所にモデル的にお願いして、これらの明らかになった課題を具体的に解決していくことで、離職率に抑えることができるかを検証してみたいと思っている。