4月25日と26日にかけて、韓国の社会福祉学会が光州で開催され、日本社会福祉学会との学術交流により、学会に参加し、シンポジウム「介護サービスでの評価のあり方」で、日本側の一人として、以下のような報告をしてきた。
7月から長期療養保険制度が始まることで、期待と不安の混じった、日本が1999年当時と同じような状況であった。次回以降、韓国の社会福祉の状況について書いていきたい。
日本における介護・福祉サービス評価・開示制度の現状と課題
―韓国の長期療養保険に示唆できること―
1 評価・開示制度スタートの情況と背景
日本では社会福祉基礎構造改革が進められ、社会福祉事業法から社会福祉法に改正され、同時に介護保険法が成立した。この結果、介護や福祉のサービスが従来の措置から契約による利用へと移行した。具体的には、利用者が介護や福祉のサービスを利用するに当たって、行政がサービス量、内容、利用機関を決定し、それに基づき利用する措置制度の仕組みから、利用者がサービス事業者と直接の契約でもって、サービスを利用する契約制度へと大転換した(児童福祉の一部施設は除く)。この転換の結果、利用者が契約で適切にサービスを利用する上での環境の整備が整えられてきた。環境整備の一環として、200年4月に施行された社会福祉法により、福祉サービスに対して「第三者評価制度」が進められることになり、また2000年4月からスタートした介護保険法の2006年法改正により、一種の評価的要素をもつ「介護サービス情報の公表制度」を開始することになった。
2 評価事業の意図
契約によるサービス利用システムが円滑に機能するためには、個々のサービスを評価し、開示することが必要である。具体的には、第一には、一定の評価結果が開示されておれば、利用者は介護や福祉のサービスを選択する際に、それらを活用することで、利用者の事業者選択に資することになる。第二に、利用者から選ばれる事業者となるためには、自己評価をベースにした第三者評価を行うことで、サービス事業所内での自らのサービスの質を高めることに結びついていくためである。評価事業のこれら二つの意図が、適切に機能しているかどうかを検証し、韓国のスバル保険のあり方に示唆するものとしたい。
3 契約によるサービス利用での条件整備の推進
こうしたサービスを自己選択することにした前提として、法的には、社会福祉法も介護保険法も、第1条で謳っている、利用者に対する尊厳の保持を理念とすることである。これは、利用者主体のサービス提供システムを構築することであり、ひいてはそのことが尊厳をもって利用者を捉えるということになる。具体的には、介護保険法での高齢者は、介護支援専門員(ケアマネジャー)を介して、障害者は障害者自立支援法のもと、相談支援事業所のケアマネジャーを介して、自己選択のもとサービスを利用することになる。
そのためには、契約を基調とすることから、①自己決定・選択の可能にする仕組みを中核にして、②結果として、サービス利用後の苦情に対応できる仕組み、および、③意思表示が十分でない者のサービス利用での権利擁護の仕組みが検討されてきた。①については詳細に以下で検討することになるが、②については、社会福祉法では都道府県社会福祉協議会に設置される福祉サービス運営適正化委員会で解決を図ることになる。介護保険法では、サービスへの苦情は都道府県国民健康保険連合会が、要介護認定に関しては、都道府県介護保険審査会が対応することになる。③については、主として日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業)や成年後見制度で対応することになる。
4 介護・福祉サービスを評価・開示する仕組み
日本では近年、評価・開示の仕組みについて、従来の準公的なサービス分野において、広く進められてきた。例えば、大学の場合は(財)大学基準協会や(独)大学評価・学位授与機構等が評価し、開示することを行っている。また、病院については、病院評価機構が行っている。ただ、いずれの場合も、第三者評価は任意であり、義務化されているわけではない。
介護・福祉サービスの評価や開示に関しては、社会福祉法での「第三者評価制度」と、改正介護保険法での「介護サービス情報の公表制度」の2つがある。
社会福祉法では、第78条で、社会福祉事業の経営者は自らその提供する福祉サービスの質の評価を行うことにより、福祉サービスを受ける者の立場に立ち良質かつ適切な福祉サービスを提供するよう努めなければならないといた。具体的には、各都道府県を単位に、それぞれ独自で第三者評価委員会を設置し、努力義務として評価し、自らのサービス内容を点検していくことが進められてきた。
一方、介護保険制度実施5年の評価として、利用者のサービス利用に資する情報を提示することが求められ、改正介護保険法第115条で、介護サービス事業者に「介護サービス情報の公表」を義務付け、全国一律に、公表制度を進めてきた。
両者の関係は、介護保険制度に属している特別養護老人ホームや在宅サービス事業については、両方の制度に該当することになっている。これは、厚生労働省内で、社会・援護局(社会福祉法)と老健局(介護保険法)に分かれていることから生じている。なお、これら以外に、認知症対応型共同生活介護事業(グループホーム)では、こうした制度が始まる前から、(社)全国グループホーム協会が独自に取り組んでおり、現在も進行している。これについては、「介護サービス情報の公表制度」との重複を避けるため、どちらかの評価なり調査を受ければよいことになっている。
5 「第三者評価制度」と「介護サービス情報の公表制度」の比較
両者の内容を比較検討するために、表1に比較表を作成した。
両者の比較結果から、「第三者評価制度」は自らのサービスの自己点検に重点が置かれており、他方、「介護サービス情報の公表制度」は利用者にサービス情報という事実を開示し、利用者のサービス選択に資することに主眼が置かれている。また、前者は任意であるため、全国での普及が十分でないが、評価者が基準を設けて、評価することを特徴としている。後者は、義務化されたため、全ての事業者が受けているが、調査内容は、事実を調べることであり、サービスの質の評価については言及しないことになっている。
6 第三者評価制度および介護サービス情報の公表制度の課題
第三者評価制度では、任意の制度であるため、普及に時間がかかっており、評価を受けた事業者が少ない。かつ評価結果が公表されていない場合もあり、こうしたことをいかに克服していくかが課題である。同時に、毎年の評価ではないため、評価結果に基づき、事業所が自ら改善した内容については利用者に伝えにくい側面がある。
一方、介護サービス情報の公表は、目的が事業者のサービス実施状況に関する事実を利用者に開示することが目的であるため、評価の観点は極めて弱い。同時に、全介護サービス事業者の情報がインターネット上で公開されているが、公開画面アクセス数が約22万件(介護保険認定者458万人、受給者数:365万人、平成19年12月)であり、制度の十分な活用に至っていない。
7 評価や開示の理論的な枠組
評価には、①自己評価、②第三者評価、③利用者評価があるが、第三者評価制度は、①と②を実施するものであり、③については各都道府県で必須で実施している場合も任意としている場合もある。介護サービス情報の公表制度では、評価には至らず、事実内容の開示に過ぎないが、基本情報は①であり、調査情報は②に位置づけられる。
評価は、一般に①構造(structure)評価、②過程(process)評価、③成果(outcome)評価があるが、第三者評価制度では、①②が中心であり、構造や過程評価が良ければ、成果評価も高いという考え方がベースにある。但し、いくつかの都道府県では、利用者の満足度調査を義務化しており、この場合は③も実施内容に含んでいる。一方、介護サービス情報の公表は、評価に至るものではないが、構造や過程ついての情報であり、成果についての情報は全く含んでいない。
8 まとめ-韓国の長期療養保険に示唆できること
評価制度の最終目的は、事業者のサービスの質を高めることと、利用者に評価結果を開示することにある。日本では、主として2つの制度でもって、評価制度に対応してきたが、両制度共に、多くの課題があることを示してきた。
韓国でも、長期療養保険制度が今年から実施されることになり、利用者が自己選択してサービスを利用することが始まることになる。その際に、日本での評価制度での課題を踏まえると同時に、以下の2点の基本的な視点が重要であると考える。
①こうした自己選択の意識を作り出していくためには、国民への普及活動と同時に、利用者がサービス利用を始めたり、変更する場面で、自己選択を支援する人材が不可欠である。これを日本では、ケアマネジャーが担っているが、韓国では、どのような状況でサービスの自己選択を支援していくのかが課題である。
②国民が、サービスを自己選択するという意識を醸成しなければ、この制度は有効に機能しない。そのため、普及活動は重要であるが、意識改革には時間を要することも考慮しなければならない。
なお、表内の数値は、「第三者評価制度」では『福祉サービス第三者評価事業 都道府県推進組織 平成18年度事業実績・19年度事業計画に関する調査 集計結果』(社会福祉法人全国社会福祉協議会、平成19年6月)から、「介護サービス情報の公表制度」では『平成19年度第2回全国「介護サービス情報の公表」制度担当者会議資料』(厚生労働省老健局振興課、平成19年11月)から得たものである。