ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

韓国社会福祉学会について

2008年04月30日 | 社会福祉士
 韓国社会福祉学会と日本社会福祉学会が研究交流の覚書を交わし、毎年交流をしている。今回は、韓日のシンポジウムには私も含めて2名がシンポジストになり、さらに会長、事務局長が出席し、交流を深めた。また、自由報告では日本から6名の会員が発表した。

 ちょうど、この交流が始まって、今年が10年目になるが、始まった直後の9年ほど前に、太田市での学会に伺って以来である。当時は、まだまだ個人的な交流の側面が強かったが、今回感じるのは、制度的にしっかりした国際交流になってきたというのが印象である。この10年の日韓の学会の歴史は大きいと思う。

 韓国社会福祉学会は、約3000名が会員であるが、参加者は300名程度でさほど多くはない。発表の数も日本に比べてはるかに少ない。学会は一年に春と秋の二度開催される。

 発表内容は、1人あたりA4で4~8頁程度のフルペーパーで提出することになっており、日本では、A41頁分とは、大きく異なっている。日本でもフルペーパーでの発表になれば、発表の質は上がるのか?

 今回の学会のテーマが『韓国福祉国家の将来』であり、1日目の午後は、国家に加えて、市場、第3セクターの役割分担についてのシンポジウムを行っていた。日本で2000年当時の介護保険制度が始まった時期の議論と類似している感がした。

 さらには、私の参加した「介護サービスの評価のあり方について」のシンポジウムでは、韓国の先生方は、7月から始まる介護保険制度の対する不安や不満が噴出していた。これも、2000年当時の日本の状況とよく似ている。

 日韓学術交流のメインは毎度ノミニケーションにより高めることになっている。私は、昨年六月から休酒宣言をしており、何とか崩れそうになりながら10ヶ月近く続いている。韓国では、皆さんお酒が強く、ノミニケーションで休酒宣言の旗を降ろさなければならないのではと心配していたが、何とか休酒を続けることで、無事帰国できた。

韓国の介護保険制度はうまくスタートできるのか

2008年04月29日 | ケアや介護
 7月から韓国で始まる介護保険制度について、韓国の先生方と議論に花を咲かせた。ご存じのように、韓国の介護保険制度は、2割の自己負担と要介護3程度からの給付であることに特徴がある。そのため、大量の利用者が発生しないという可能性もあるが、最も心配することは、日本でも介護保険制度が始まったときに言われた、「保険あってサービスなし」にならないかである。

 韓国では老人ホームの数もわずかであり、さらにヘルパーについては、日本の家庭奉仕員制度の時代のように、生活保護を受けている男性一人暮らし高齢者への家事支援が一般的な状況である。こうした中で、申請者がサービスを利用できるのかが心配である。韓国の研究者も同様の心配をされていた。

 その点、日本では平成元年の「ゴールドプラン」に始まって着実に、施設・在宅を合わせて各種介護サービスのインフラ整備を20年間程実施してきた下地があって、農村部も含めスムーズな実施となった。

 韓国の場合はそれが心配で、以前に、大手の民間介護企業に、韓国でヘルパー育成教育事業をやってはいかがと勧めたことがある。その後、韓国では、外国資本による教育事業は難しく、50%以上が韓国の資本でなければ実施できないことが明らかになり、進出計画は流れたことがあった。

 また、韓国の介護保険制度では、ケアマネジャーは配置せず、全国統一で実施する国民健康保険公団の職員が申請の窓口になり、若干のアセスメントでモデルプランを手渡し、最終的には利用者が判断することになる。これは、ケアマネジャー制度を導入すれば、経費がかかり過ぎるとの判断があったと聞いている。今後、日本と韓国ではどちらが利用者の適したサービスが提供され、在宅生活を長く維持でき、利用者や介護者のQOLを高め、同時にコストがかからないかに注目し、研究をしていくことを感じた。焼き肉パーテイ―に参加した韓国の研究者の多くは、ケアマネジメント・システムを導入すべきであるとの考えが強かった。

 私の意見は、利用者のQOLを高めたり、自己決定を促進したり、コストを適正なものに抑えるためには、韓国でもケアマネジャーは必要である。しかしながら、ケアマネジメントを何も介護保険制度の中に組み込まなくてもよいと考えている。逆に、現在のケアマネジメントの実績を作ろうとしているコミュニテイ・センターが行うことで、逆に韓国で未だ残っている家族や親族、さらには近隣のインフォーマルケアを意識した支援が可能ではないかと思っている。これは、ある意味、日本の介護保険制度でのケアマネジメントに若干の反省を込めてのものである。

 そうした中で、ある市町村では、長期療養保険を契機に、韓国版「在宅介護支援センター」を作りという興味のある試みが見られる。ここが機能することで、保険サービス外も利用して貰い、高齢者の在宅生活をできる限り長く支えていくことを計画しているという。始まれば、一度、このまちに見学に行きたいと思っている。

2008年韓国社会福祉学会春期大会で韓日シンポジウム(「介護サービスでの評価のあり方」)原稿

2008年04月28日 | 論説等の原稿(既発表)
 4月25日と26日にかけて、韓国の社会福祉学会が光州で開催され、日本社会福祉学会との学術交流により、学会に参加し、シンポジウム「介護サービスでの評価のあり方」で、日本側の一人として、以下のような報告をしてきた。
 7月から長期療養保険制度が始まることで、期待と不安の混じった、日本が1999年当時と同じような状況であった。次回以降、韓国の社会福祉の状況について書いていきたい。

     日本における介護・福祉サービス評価・開示制度の現状と課題
          ―韓国の長期療養保険に示唆できること―

1 評価・開示制度スタートの情況と背景

 日本では社会福祉基礎構造改革が進められ、社会福祉事業法から社会福祉法に改正され、同時に介護保険法が成立した。この結果、介護や福祉のサービスが従来の措置から契約による利用へと移行した。具体的には、利用者が介護や福祉のサービスを利用するに当たって、行政がサービス量、内容、利用機関を決定し、それに基づき利用する措置制度の仕組みから、利用者がサービス事業者と直接の契約でもって、サービスを利用する契約制度へと大転換した(児童福祉の一部施設は除く)。この転換の結果、利用者が契約で適切にサービスを利用する上での環境の整備が整えられてきた。環境整備の一環として、200年4月に施行された社会福祉法により、福祉サービスに対して「第三者評価制度」が進められることになり、また2000年4月からスタートした介護保険法の2006年法改正により、一種の評価的要素をもつ「介護サービス情報の公表制度」を開始することになった。

2 評価事業の意図

 契約によるサービス利用システムが円滑に機能するためには、個々のサービスを評価し、開示することが必要である。具体的には、第一には、一定の評価結果が開示されておれば、利用者は介護や福祉のサービスを選択する際に、それらを活用することで、利用者の事業者選択に資することになる。第二に、利用者から選ばれる事業者となるためには、自己評価をベースにした第三者評価を行うことで、サービス事業所内での自らのサービスの質を高めることに結びついていくためである。評価事業のこれら二つの意図が、適切に機能しているかどうかを検証し、韓国のスバル保険のあり方に示唆するものとしたい。

3 契約によるサービス利用での条件整備の推進

 こうしたサービスを自己選択することにした前提として、法的には、社会福祉法も介護保険法も、第1条で謳っている、利用者に対する尊厳の保持を理念とすることである。これは、利用者主体のサービス提供システムを構築することであり、ひいてはそのことが尊厳をもって利用者を捉えるということになる。具体的には、介護保険法での高齢者は、介護支援専門員(ケアマネジャー)を介して、障害者は障害者自立支援法のもと、相談支援事業所のケアマネジャーを介して、自己選択のもとサービスを利用することになる。

 そのためには、契約を基調とすることから、①自己決定・選択の可能にする仕組みを中核にして、②結果として、サービス利用後の苦情に対応できる仕組み、および、③意思表示が十分でない者のサービス利用での権利擁護の仕組みが検討されてきた。①については詳細に以下で検討することになるが、②については、社会福祉法では都道府県社会福祉協議会に設置される福祉サービス運営適正化委員会で解決を図ることになる。介護保険法では、サービスへの苦情は都道府県国民健康保険連合会が、要介護認定に関しては、都道府県介護保険審査会が対応することになる。③については、主として日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業)や成年後見制度で対応することになる。

4 介護・福祉サービスを評価・開示する仕組み

 日本では近年、評価・開示の仕組みについて、従来の準公的なサービス分野において、広く進められてきた。例えば、大学の場合は(財)大学基準協会や(独)大学評価・学位授与機構等が評価し、開示することを行っている。また、病院については、病院評価機構が行っている。ただ、いずれの場合も、第三者評価は任意であり、義務化されているわけではない。

 介護・福祉サービスの評価や開示に関しては、社会福祉法での「第三者評価制度」と、改正介護保険法での「介護サービス情報の公表制度」の2つがある。
 社会福祉法では、第78条で、社会福祉事業の経営者は自らその提供する福祉サービスの質の評価を行うことにより、福祉サービスを受ける者の立場に立ち良質かつ適切な福祉サービスを提供するよう努めなければならないといた。具体的には、各都道府県を単位に、それぞれ独自で第三者評価委員会を設置し、努力義務として評価し、自らのサービス内容を点検していくことが進められてきた。
 
 一方、介護保険制度実施5年の評価として、利用者のサービス利用に資する情報を提示することが求められ、改正介護保険法第115条で、介護サービス事業者に「介護サービス情報の公表」を義務付け、全国一律に、公表制度を進めてきた。
両者の関係は、介護保険制度に属している特別養護老人ホームや在宅サービス事業については、両方の制度に該当することになっている。これは、厚生労働省内で、社会・援護局(社会福祉法)と老健局(介護保険法)に分かれていることから生じている。なお、これら以外に、認知症対応型共同生活介護事業(グループホーム)では、こうした制度が始まる前から、(社)全国グループホーム協会が独自に取り組んでおり、現在も進行している。これについては、「介護サービス情報の公表制度」との重複を避けるため、どちらかの評価なり調査を受ければよいことになっている。

5 「第三者評価制度」と「介護サービス情報の公表制度」の比較

 両者の内容を比較検討するために、表1に比較表を作成した。

 両者の比較結果から、「第三者評価制度」は自らのサービスの自己点検に重点が置かれており、他方、「介護サービス情報の公表制度」は利用者にサービス情報という事実を開示し、利用者のサービス選択に資することに主眼が置かれている。また、前者は任意であるため、全国での普及が十分でないが、評価者が基準を設けて、評価することを特徴としている。後者は、義務化されたため、全ての事業者が受けているが、調査内容は、事実を調べることであり、サービスの質の評価については言及しないことになっている。

6 第三者評価制度および介護サービス情報の公表制度の課題

 第三者評価制度では、任意の制度であるため、普及に時間がかかっており、評価を受けた事業者が少ない。かつ評価結果が公表されていない場合もあり、こうしたことをいかに克服していくかが課題である。同時に、毎年の評価ではないため、評価結果に基づき、事業所が自ら改善した内容については利用者に伝えにくい側面がある。
 
 一方、介護サービス情報の公表は、目的が事業者のサービス実施状況に関する事実を利用者に開示することが目的であるため、評価の観点は極めて弱い。同時に、全介護サービス事業者の情報がインターネット上で公開されているが、公開画面アクセス数が約22万件(介護保険認定者458万人、受給者数:365万人、平成19年12月)であり、制度の十分な活用に至っていない。


7 評価や開示の理論的な枠組

 評価には、①自己評価、②第三者評価、③利用者評価があるが、第三者評価制度は、①と②を実施するものであり、③については各都道府県で必須で実施している場合も任意としている場合もある。介護サービス情報の公表制度では、評価には至らず、事実内容の開示に過ぎないが、基本情報は①であり、調査情報は②に位置づけられる。

 評価は、一般に①構造(structure)評価、②過程(process)評価、③成果(outcome)評価があるが、第三者評価制度では、①②が中心であり、構造や過程評価が良ければ、成果評価も高いという考え方がベースにある。但し、いくつかの都道府県では、利用者の満足度調査を義務化しており、この場合は③も実施内容に含んでいる。一方、介護サービス情報の公表は、評価に至るものではないが、構造や過程ついての情報であり、成果についての情報は全く含んでいない。

8 まとめ-韓国の長期療養保険に示唆できること

 評価制度の最終目的は、事業者のサービスの質を高めることと、利用者に評価結果を開示することにある。日本では、主として2つの制度でもって、評価制度に対応してきたが、両制度共に、多くの課題があることを示してきた。

 韓国でも、長期療養保険制度が今年から実施されることになり、利用者が自己選択してサービスを利用することが始まることになる。その際に、日本での評価制度での課題を踏まえると同時に、以下の2点の基本的な視点が重要であると考える。

 ①こうした自己選択の意識を作り出していくためには、国民への普及活動と同時に、利用者がサービス利用を始めたり、変更する場面で、自己選択を支援する人材が不可欠である。これを日本では、ケアマネジャーが担っているが、韓国では、どのような状況でサービスの自己選択を支援していくのかが課題である。

 ②国民が、サービスを自己選択するという意識を醸成しなければ、この制度は有効に機能しない。そのため、普及活動は重要であるが、意識改革には時間を要することも考慮しなければならない。



なお、表内の数値は、「第三者評価制度」では『福祉サービス第三者評価事業 都道府県推進組織 平成18年度事業実績・19年度事業計画に関する調査 集計結果』(社会福祉法人全国社会福祉協議会、平成19年6月)から、「介護サービス情報の公表制度」では『平成19年度第2回全国「介護サービス情報の公表」制度担当者会議資料』(厚生労働省老健局振興課、平成19年11月)から得たものである。


地域でのネットワーキング論?(6)<ケアマネジメントの機能範囲>

2008年04月27日 | 地域でのネットワーキング論
10年程前に、イギリスの福祉施策を研究されている有能な若手の先生から、ご質問を受けたことがある。「ケアマネジメントは制度ですか、それとも方法ですか」という唐突な質問に、返答に詰まった。とっさに、以下のような説明をさせて頂いた記憶がある。

 「ケアマネジメント研究の第一人者であるオースチンは、ケアマネジメントは『実践』と『システム』から成り立つとしたことを引用し、私の場合は、主としてケアマネジメント『実践』に力点を置いて研究しているが、ケアマネジメント『システム』についても研究すべきだと思っており、それにも関心をもっています。両者がなくては、現実にケアマネジメントが円滑に実施できないからであり、あなたのおっしゃってられることからすれば、方法は実践に、制度はシステムに相当するのではないでしょうか」

 あの当時、そのように応えたが、質問をされた方は、現在社会福祉政策研究の第一人者になられているが、そのことについて今彼がどのように考えているか、聞いてみたい気がする。

これについては、後日談であるが、私はケアマネジメント同様、ソーシャルワークが日本に定着しない理由の一つに、ソーシャルワーク実践の研究や人材の養成は十分ではないが、それなりに実施されているが、ソーシャルワークシステムの研究やその実践がないからうまくいっていないのではないかとの考えに至り、アメリカでソーシャルワークを研究してきた人たちに、アメリカでは『ソーシャルワークシステム』といった概念なり、キーワードはないか尋ね回ったことがある。この結果については、見たことも聞いたこともないということであった。

 これは、アメリカと言うところは、専門職への信頼の厚い国であることに起因していると分析をした。日本では、ソーシャルワークのネットワークを作り上げ、それを合わせて、ソーシャルワークを制度として定着させていくことが必要であると考えたし、今もそう確信している。

 ケアマネジメントは広い概念であり、狭くすれば、コーデイネーションのみであり、広くとらえれば、地域でのネットワーキングも含んでいるといえる。H.ローズは(prceeding of the confarence on evaluation of care manehement programs,1980)図(クリックすれば、大きくなります)のように、ケアマネジメントを3つに整理している。

 その意味では、前回議論した、在宅介護支援センターでの研究の際に、もっと地域でのネットワーキング手法について詰めておくべきであったと反省する。それができなかったことが、その当時チャンスがあっただけに、至極残念である。

 またチャンスは地域包括支援センターのもとでやってきた。このチャンスを逃さないよう努力しましょう。

ケアマネジメントの効用?

2008年04月26日 | ケアや介護
 三菱財団から頂いた研究助成で行ってきた研究(共同研究者:綾部貴子梅花女子大学講師、所道彦大阪市立大学准教授他)で、少し興味のある結果が出た。これは、新規に介護保険の在宅サービスを利用することになったケースについて、利用開始時、半年後、1年後の状態についての、総計3回のパネルで、利用者や家族介護者に聞き取り調査を行ったものである。ここでは、利用者や介護者が半年後、1年後にどのように変化しているかをみたものである。なお、この1年の間に、施設や病院に入った人や死亡した人は除外されており、1年間在宅生活を継続した者についての結果である。

 最も興味のある結果は、図(クリックすれば、大きくなる)のような利用者と介護者の自宅での介護継続についての意識の変化についてである。利用者の場合も、介護者の場合も、サービス利用開始時に、自宅での生活の継続意識が低かった者は、1年間で継続意識が高くなっている。一方、サービスを新規に利用する際に、自宅生活維持意識が高かったものは、1年間で徐々にある程度まで低くなっていることが分かった。そして、ほとんどの利用者も介護者も、1年後には、利用者は、少しは不安はあるが、自宅生活を続けていく意識が高く、介護者も、少しは不安があるが、自宅生活を継続していく意識が高くなっていた。

 このことは、利用者本人は、世話をかけるが、できる限り自宅で生活を続けたいという気持ちであり、介護者は、時には苦しいこともあるが、なんとか自宅で継続して支えていきたい意識になっている状態と整理できる。この結果から、ケアマネジャーやそこで活用する社会資源により、利用者や介護者は、ちょっぴり不安をもちながらも、在宅介護を続けることに自信をもつようになるといった効用があることが分かった。自信の低い人はある程度の高さに落ち着き、自信の高すぎた者は現実性のある自信に変わっていったことになった。それも、最初の6ヶ月間での効果が大きいことを図が示している。

 さらに、本研究では、このような在宅生活の継続意向だけでなく、利用者のQOL意識、ADL、利用している介護保険サービスのコスト、介護者の介護負担感等についても調査しており、それらの変化についての分析は、逐次学会や論文で公表していきたいと考えている。


地域でのネットワーキング論?(5)<ネットワーキングができていない現状②>

2008年04月25日 | 地域でのネットワーキング論
 ここでは、昨日のブログで書いた、地域包括支援センターの社会福祉士の業務についての自己評価と同じような調査結果を報告したい。

 昨年度、大学院生数名と2つの調査対象者に対して職務内容に関する調査を行った。調査対象者は、1つは大阪府が独自で実施している「コミュニテイ・ソーシャルワーカー」であり、もう1つは介護保険制度の「ケアマネジャー」である。その際には、多くの皆様に調査にご協力を頂いたことを、心から感謝する次第である。

 職務内容については、30ほどの職務内容について、実施状況についての自己評価と自らの役割としての認識状況を尋ねるものであった。

 ここで3つの職務内容について、両職種での実践意識と役割認識度についての自己評価違いをみてみたい。それは極めて興味深く、かつ思っていたとおりの結果となったことである。ここで取り上げる3つの職務内容は、利用者への個別支援である「利用者への支援計画作成(プランニング)を行う」、「地域にある様々な団体や機関を組織化(ネットワーク)する」、「地域に存在しない社会資源を作り出す」についてである。

 その結果が、上記の図であるが、ケアマネジャー(CM)はコミュニテイ・ソーシャルワーカー(CSW)よりも、利用者への支援計画作成(プランニング)を行うことの実践度も役割認識度も高い。一方、地域にある様々な団体や機関をネットワーキングすることについては、CSWはCMよりも役割認識度が高いが、現実の実践度では有意差がでなかった。さらに、地域に存在しない社会資源を作り出すソーシャルアクションについては、CSWはCMよりも実践度も役割認識度も高くなっていた。

 この結果の意味であるが、コミュニテイ・ソーシャルワーカーはネットワーキングを自らの業務として認識しているにも関わらず、その職務が十分にはできておらず、現状ではケアマネジャーの実施している意識情況とあまり変わらないことが分かった。ソーシャルアクションについては、両者の実践情況や役割認識の自己評価に違いがあることが分かったが、現実の実施度では、8割のソーシャルワーカーが実施していないといった自己評価であった。

 以上の結果、ソーシャルワーカーの仕事をファジーにし、独自性を見えなくさせていることが分かった。我々が考えていた仮説の通りであるが、コミュニテイ・ソーシャルワーカーが地域でのネットワークを作っていくことができているという意識になるよう、どうすべきかを考えることが今回のテーマに応えることになるといえる。

 どのようなソーシャルワーカーの属性や特徴の場合には、ネットワーキングやソーシャルアクションをやっている意識になるのかについての本調査の詳しい分析も必要である。同時に、今後議論していくことになるであろう、どのような手順や方法でネットワーキングやソーシャルアクションが実施可能かについての教科書や手引き作りも重要である。そうしたことに示唆する議論を今後重ねていきたい。

地域でのネットワーキング論?(4)<ネットワーキングができていない現状①>

2008年04月24日 | 地域でのネットワーキング論
 私自身は在宅介護支援センターを中心にして、コーデイネーション論なりケアマネジメント論の研究を深めることが出来た。

 在宅介護支援センターを作るときに、当時の厚生省の老人福祉課は私のケアマネジメントの論文をよく読まれて、大蔵省への在宅介護支援センターの予算を取るための説明に臨んだことを、最近当時老人福祉課課長補佐であられた長橋茂さん(現在、(社)シルバーサービス振興会常務理事)等から聞かしていただいたことがある。大変、名誉なことであり、学者冥利につきることである。

 私も意気盛んな年で、当時の在宅介護支援センター職員の人々と関西だけでなく全国に亘っていくつもの事例研究会を立ち上げ、そこでのメンバーとの関わりや支援のおかげで研究を深めることが出来た。当時の在宅介護支援センターのメンバーの顔が何人でも頭をよぎる。私のとっては、あれが理論と実践をつなげる大きなばねになったと思うと、感謝の気持ちで一杯である。

 ここでは、みんなでコーデイネーション機能をいかに果たすかという、今まで漠としていたことが見えるようになり、在宅介護支援センターの職員が生き生きしていたという印象がある。私も、見えなかったことが見えてきたことで、楽しかった。それまで、措置権をもっている機関がサービスの資格要件を尋ねることの相談(例えば、福祉事務所での老人福祉の担当者は、ヘルパーが利用できる資格要件が整っているかどうかの相談をすること)から脱皮し、生活上でのニーズを明らかにし、そのニーズを満たすためにサービスの利用を支援していく仕組みができあがり、そうした実践ができることに、意義を見いだしていた様な気がする。

 ただ、その時には、確かにひとりの要援護高齢者を支援するコーデイネーションの方法については相当解明されたと思う。しかしながら、当時個々のセンターの基礎となる「中学校区」で何をするのかについては、気になりながらも、ほとんど煮詰めることができなかったと考えている。

 あえて言うなら、個々の高齢者を支援することに関心を向けることだけで精一杯であった。当時から、地域の実態把握といった仕事も求められていたが、十分理論化され、実践されてはいなかったことが反省点である。あの時期に、多くの研究者が参画し、現場と力を合わせておれば、もっと、中学校区でなにをすべきかについて、理論と実践をつなげられたはずである。

 そのことができなかったことが、今日の生活圏域を基にした地域包括支援センターが出現してきたのではにだろうか。今度こそ、生活圏域をもとにした支援体系を作らなければならない。

 これについて、未だ地域でのネットワーキング機能が弱いことを示した調査結果がある。それは(社)日本社会福祉士会の地域包括支援センター評価研究委委員会が昨年度地域包括支援センターの社会福祉士を対象とした『平成19年度 地域包括支援センター社会福祉士職 業務環境実態調査 調査結果の概要』である。

 ここでは、利用者といった個別レベル、地域包括支援センター内の組織レベル、生活圏域といった地域レベルで、様々な業務ができているかについての自己評価を、社会福祉士に尋ねている。その結果、地域レベルでの業務実施の自己評価が他に比べて極めて低くなっていた。

 これは、私たちが実施した調査でも、調査対象者は異なるが、同じような調査結果がでており、次回にでも紹介したいと思う。

 ここで問題にしたいのは、この結果は社会福祉士に時間がなくてできていないのであれば、それは人を増やせば解決できることである。実際には、そうした地域レベルでの活動方法が分からない、さかのぼれば、学生時代に教えてもらっていない、さらにさかのぼれば、具体的な方法が理論的に明らかになっていない、とすれば、ソーシャルワークの教育者としてだけでなく研究者としての責任も極めて大きいと言わざる得ない。そのことがあって、この不連続の連載を始めることを決意したのであった。



在宅サービス事業者は一致団結してこの難局に臨むべき(2)

2008年04月23日 | ケアや介護
 「介護保険制度研究会」は、学識研究者、介護保険制度に参入している主要な民間事業者団体、および介護保険サービスを利用支援している団体が結集したことは、前回報告した。調査結果をもとに、舛添要一厚生労働大臣に要望書を提出したことも報告したが、今回は具体的にどのような内容の要望をしたかを、紹介しておく。

 要望内容は、①緊急に実現していただきたい要望、②数年後の法改正に向けての要望、の2点である。

(1)緊急に実現していただきたい要望

 緊急に実現して欲しい要望は、「訪問介護員の介護報酬を大幅にアップしていただきたい」ということである。これについては、調査結果でのお寒い状況を示し、追加的な理由としては以下の通りである。

①訪問介護の介護報酬には、法的に設置が義務づけられている管理者やサービス提供責任者の賃金分を含めたものとなっているが、現状ではそうした賃金分が担保されていない。

②訪問介護は利用者への継続的な支援が重要であるが、低賃金ゆえに生じる現実の離職率の高さは、ケアの質の低下をもたらしている。ケアの質を維持するためにも介護報酬のアップが求められる。

③現在の訪問介護事業所の人件費(比率)は極めて高く、そのことが訪問介護員の賃金の低さに影響を与えており、現状の介護報酬では賃金を上げることが困難である。

④ヘルパーの定着率を高めるためには、サービス提供責任者のスーパービジョンや内部での研修の実施、外部での研修への参加が重要であるとされているが、事業者がそうした研修体制等を確保するためにも、介護報酬のアップが求められる。

⑤社会保障審議会介護保険部会では、訪問介護は将来介護福祉士を基本とすべきという提案がなされており、このことからも介護報酬のアップは必要である。
   

(2)数年後の法改正に向けての要望としては、以下の通りである。

 調査結果では、「介護保険制度の現状はだんだん悪くなっている」と思っている事業者が、法人全体で82.0%(訪問介護事業者:75.9%、通所介護事業者:75.6%、居宅介護支援事業者:78.5%)もあり、「介護保険制度は、将来的に立ちゆかなくなる」と考えている事業者は、法人全体で53.8%(訪問介護事業者:57.3%、通所介護事業者:60.6%、居宅介護支援事業者:66.0%)もある。一方、「介護保険事業の将来の見通しは明るい」と感じている法人はわずか10.7%(訪問介護事業者:5.2%、通所介護事業者:4.3%、居宅介護支援事業者:6.0%)に過ぎない。

 直接利用者にケアを行っている居宅介護事業者がこのように介護保険制度の将来に大きな不安を感じているとすれば、国民の介護保険制度に対する不安は一層大きいと推察される。同時に、現状から考えれば、在宅介護サービス事業者の撤退はあっても、新たに参入してくる事業者は見込めないといっても言い過ぎではない。国民の不安を払拭し、サービスを担う介護保険事業者も、介護保険制度に対する不信感を払拭することが必要である。


 そのために、以下のような4点について、介護保険制度の改革を要望した。


①介護保険制度は利用者の在宅支援を原則としており、在宅介護事業者やその職員は社会資本であるとの観点から、そうした事業者が一定の安定した経営が成り立つ仕組みを作っていくこと。

②介護職が魅力ある専門職種であるとする社会的な意識を醸成していくための施策を推進すること。
 
③利用者にできる限り介護保険サービスに関する情報を公開・提供することに加えて、利用者が介護保険サービスを利用しやすい制度やその運用となるよう進めること。

④介護保険制度は保険原理をもとに成り立っており、地域支援事業については一般財源でもって実施することを検討すること。同時に、居宅介護支援事業についても、一般財源の導入を検討すること。


 なお、この要望書は「介護保険制度研究会」として提出され、研究者委員としては、私以外の、樋口惠子(高齢社会をよくする女性の会理事長、東京家政大学名誉教授)、高木郁朗(日本女子大学名誉教授)、加瀬裕子(早稲田大学教授)、安立清史(九州大学大学院准教授)、 柴田範子(東洋大学講師)であった。事業者・当事者委員としては、兼間道子(NPO法人日本ケアシステム協会会長)、山本敏幸(JA高齢者福祉ネットワーク事務局長)、高田公喜(日本生活協同組合連合会福祉事業推進部部長)、扇田守(有限責任中間法人「民間事業者の質を高める」全国介護事業者協議会専務理事)、北村俊幸(有限責任中間法人日本在宅介護協会研修広報副委員長)、山田和彦(全労済(全国労働者共済生活協同組合連合会)介護事業室室長)、牧野史子(NPO法人介護者サポートネットワークセンター アラジン理事長)、河口博行(NPO法人ニッポン・アクティブ・ライフ・クラブ専務理事)、中村喜佐子(NPO法人市民福祉団体全国協議会常務理事)であった。

 なお、事務局として全体をまとめる努力をして頂いた、NPO法人市民福祉団体全国協議会特定非営利活動法人の専務理事田中尚輝さんと福原秀一さん(アドヴォカシー担当)等の、黒子の仕事があってまとまったものである。

 こうした利用者と事業者の思いが実現することを願っている。




在宅サービス事業者は一致団結してこの難局に臨むべき(1)

2008年04月22日 | ケアや介護
 介護保険制度は、コミュニテイ・ケアを推進することを目的にし、実際、特別養護老人ホームや老人保健施設といった介護保険施設の建設は定率を決めて、抑制している。それゆえ、利用者が施設志向から在宅志向になっていくためには、在宅サービスが充実したものになっていくことが不可欠である。

 しかしながら、在宅サービスの現状はお寒い限りである。ヘルパーの離職率が高く、辞めていく理由が待遇面をあげている。介護の担い手も集まらない。一方、赤字事業者が増えている。こうした事態がさらに続けば、将来40~60万人さらに必要であると予測されている介護職が集まらないばかりか、介護保険制度そのものの存続が危機的になると考えられる。

 私も参加した介護保険制度研究会では、訪問介護事業、通所介護事業、居宅介護支援事業を実施している総計439法人、およびそれらの各事業者(訪問介護313事業所、通所介護209事業所、居宅介護支援419事業所)に、改正後の介護保険制度の影響について調査を行った(委員長:安立清史九州大学大学院准教授)。その結果、在宅介護サービスを実施している事業所はその存続の危機を含め、極めて劣悪化した状況にあることが分かった。経営問題のみならず、介護職の離職率が高く、人材確保が極めて困難な労働環境が生じていた。

 具体的には、訪問介護事業での1年間での離職率は21.8%(法人全体では25.9%)であり、その理由は「賃金が低い」と「収入が不安定」を合わせると、延べで9割(法人全体では89.9%)を占めている。一方、事業者自体も、赤字経営の事業者割合が約3分の1(法人全体では37.4%)もあり、法改正以前よりも赤字の事業者割合は増加しており、早晩廃業に追い込まれる事業者が多数でてくることが予想される。

 こうした結果をもとに、舛添要一厚生労働大臣に訪問介護の介護報酬を大幅アップしてくれるよう要望書を2月の12日に介護保険制度研究会(委員長:白澤政和)から提出をした。

 この要望書の中味も大切であるが、この会のメンバーが重要である。この会は学識研究者、介護保険制度に参入している主要な民間事業者団体、および介護保険サービスを利用支援している団体が結集してのものであることに意味がある。特に、在宅サービスを実施している主要な事業者団体が参画していることである。

 こうした団体は、要望書の提出と同時に、「介護人材確保のために」という内容の宣言をしている。具体的には、介護人材確保が困難な昨今の状況に鑑み、在宅介護サービスの質の向上、介護保険制度の維持発展に向け、事業者団体間で調整を図りながら介護人材確保のための取り組みを進めていくこととしている。

 介護人材確保が極めて困難な状況については、国・自治体、介護サービス事業者等関係者あげた取り組みをすすめていくことが重要であり、国・自治体には、この危機を脱するために必要な財源の確保を期待し、事業者団体では、魅力ある職場づくり、働き続けられる環境づくりのため、介護現場で働く人びとの労働条件の改善、キャリアアップの仕組みの導入、研修体系の確立・実施、そして、コンプライアンスの遵守など介護サービス事業者自身の取り組みを推進していくとしている。

 ここで言う在宅介護サービス事業者とは、「JA高齢者福祉ネットワーク」、「NPO法人市民福祉団体全国協議会」、「社会福祉法人全国社会福祉協議会地域福祉推進委員会」、「全労済(全国労働者共済生活協同組合連合会)」、「有限責任中間法人日本在宅介護協会」、「日本生活協同組合連合会」、「有限責任中間法人「民間事業者の質を高める」全国介護事業者協議会」である。これらの団体でもって、主要な在宅サービスを網羅しており、これらの組織が今後も一致団結して、国や地方自治体に対して介護職員の介護報酬が一定水準を確保するよう要請し、同時に自らのコンプライアンスと同時に、介護報酬が介護職員の給与に直接流れていく仕組みが大切である。

 介護保険の介護報酬の見直し議論が始まり、また民主党が提出している福祉人材確保法(案)の審議が始まるに当たって、当事者団体に求められる役割は大きい。

介護の世界での『タテ社会の人間関係』を再考する

2008年04月21日 | ケアや介護
先日、文化勲章受章者で東京大学最初の女性教授であり、日本のタテ社会の研究で著名な中根千枝先生のお話を伺った。テーマは「法的規制と集団的許容度」であった。学生時代には、新書版であった『タテ社会の人間関係』(講談社)を何度も読んだことを覚えている。

 今回は、食品や古紙等の偽装等の企業の問題をテーマにして、日本のタテ社会の問題点を浮き彫りにするものであった。高齢であるにも関わらず、先生のライフワークを今なお深めようとされておられる先生に敬意を表すると同時に、私もこのようにライフワークを一生探求する研究者になりたいと思った次第である。

 お話の具体的な内容は、日本は、従来から企業などはタテ社会であり、閉鎖性が高く、今回のような偽装といった悪事を企業内で押さえ込むことになる。その反動として、閉鎖された悪事を抑制させるために、政府の法的規制は些細なことにまで及び、ひいては必要不可欠な法的規制を超えて、必要以上の規制となっていなかというテーマであった。これを、昨今の賞味期限等の偽装事件をもとに、理論的に説明していただいた。具体的には、①事細かな規制が生まれてこざるえない日本の企業のタテ社会なり閉鎖社会に対する問題提起と、②法規制の内容が形式的であったり、本当に必要なものなのかどうかの問題提起とがなされた。

 この話をお聞きして、共感することが多かったが、こうしたことは、介護や福祉の世界も分析できるように思う。

 介護保険の領域で考えて、例えば、コムスン問題も同じような問題をもっている。第一に、コムスンは内輪の中で偽造処理をしており、そうした企業という村社会から脱皮して、もっと公共性を基盤にしたコンプライス(法令遵守)が重要であるが、そうしたことが現実出来ていないことを示すものであった。これは企業自体がCSR(企業の社会貢献)以前に、いかにガラス張りの経営をしていくかである。

 第二には、タテ社会である介護企業に対しても、事細かな部分で雁字搦めに法律で規制していくことになり、コムスンのような問題が起これば、さらに事細かな法的規制を生み出していくことにもなる。その法的規制が、場合によっては、本来は必要が無い、企業に委ねておけばよいようなことまでの規制が生まれてくることになる。

 今回のような問題が起こると、規制が強化されることになり、ひいてはタテ社会が強化されるよういう、規制と企業のタテ社会の悪循環が生まれる可能性も高い。

 介護保険制度でのこうした法的規制は、公的な財源を9割以上も使って行うサービスに対しては、一層コンプライアンスでもって公平な支援を提供することが必要であろう。しかしながら、こうした法的な子細な規制内容は、保健医療・介護・福祉の専門職にとっては、利用者の尊厳を保持した自立支援を難しくする場合もある。例えば、ホームヘルパーの生活援助の内容では「買い物の同行支援」は可能であるが、「散歩」はできないことになっている。杖歩行等の人によっては、こうした散歩の支援を行うことで、閉じこもりを予防し、さらには歩行のADLを高める効果もある。こうした個々の高齢者の状況により、ケアマネジャーやヘルパー事業者といった専門家に一定の自由裁量が与えられれば、介護保険制度はより生きた制度になると思うが。制度が謳う、尊厳の保持による自立支援が行われることになる。

 こうした自由裁量を得るためには、社会からの信頼とそれにマッチした倫理観や知識が事業者や専門職側で必要であることも確かである。

 法律が整備されればされる程、個別的な対応をしなければならない仕事である専門家は仕事がしづらくなっていく姿を、私自身はケアマネジャーの生成期からの歴史で見てきた。現在ケアマネジャーをしており、在宅介護支援センター時代から仕事をしていた人は、あの当時は「楽しかった」「良い仕事ができた」ということを懐かしまれる。これは、倫理観と知識や技術をもって活動していたほとんど全ての人の感想であるが、あの当時は、法的な規制が少なく、職員の自由裁量が高かったことに起因していると思うがいかがであろうか。

タテ社会の人間関係―単一社会の理論
中根 千枝
講談社

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介護施設は「うば捨て山」ではない

2008年04月20日 | ケアや介護
 実は、私の妻の母親が要介護5で、現在介護老人保健施設に入所している。妻の兄にお世話していただいているが、夫婦のみであり、共働きということで、実質自宅での介護が難しい。

 そのため、妻も毎日のように、老人保健施設に介護のために行っており、義理の兄も仕事が終わって、毎日駆けつけている。随分、兄妹ともに親思いであり、私は極希に、時間が空いた日に妻と一緒に駆けつけるだけである。そのため、申し訳なく思っているし、妻にも感謝している。
 
 この老人保健施設では、4人部屋であるが、夕方から夜にかけては、4人とも誰も子どもが介護に毎日来られている。おそらく、本当は自宅で介護したいが、やむなく入所してもらっている場合も多いと思われる。決して、高齢者の施設が子どもとの関係が途切れてしまう「うば捨て山」ではない。子どもがやってきて、とりわけ情緒的な支援をする場である。

 一方、国では、特別養護老人ホームや老人保健施設はこれ以上作らないという方向にある。その意味では、老人ホームまでとは言わないが、家族もできる限り介護を手伝いながら、「食事と一部介護付きの住まい」がもっと作られれば、共働きなど、家族介護力の弱くなった家庭の、住宅での介護も少しは可能であると思える。具体的には、「住宅と食事に加えて、程度別の介護を付加した住まい」を作ったいただくことができれば、少しは家族介護賄えるであろう。

 こうしたことで、往復4時間をかけて行き来している妻の介護疲れが心配である。そのため、妻も家に帰るのが遅く(私は仕事で遅く)、ここ20年間はほとんどなかった、夕食を外で二人だけでする機会が急に増えた。ある意味、もう一度新婚時代が戻ってきた気持ちでもあり、新鮮な雰囲気になっている。

 いずれにしても、ご苦労さんです。

なぜ事例検討を続けているのか-実践を理論を循環するために-

2008年04月19日 | 社会福祉士
 先日頂いたコメントから、気づいたことがある。

 私は常々実践と理論の循環をいかに作るかについて、その重要性を幾度となく述べてきた。先日頂いたコメントも、現場でネットワーキング実践をなされている方からで、大変うれしかった。こうした人から、例えば「今日は○○の仕事をしたが、その時○○の問題が発生し、○○の対応をすることで切り抜けることができた」といった具体的にコメントを多数頂き、そうしたことを集積・整理していけば、コーデイネーションでもネットワーキングでも、もっと現実的な支援方法論が築けていけるのではないかと考えた。その意味では、実践現場から、具体的なコメントをもっと欲しいなあと思っている。

 もう一つ気づいたことがある。私は現在は4つの雑誌で、事例検討の編集を行っている。ここで最も苦労するのは、事例を発表することの了解を利用者から得ること、出来る限り状況を変えることで利用者が確定しない配慮をすること、さらには、読者に具体的な支援をもとに普遍的な支援方法についての提案ができるかである。最後の具体的な支援の原則や方法の提案がどの雑誌も目玉にしており、それがあれば、次号も読者の現場の方に読んでいただけることになる。そのため、このことは、事例提供者と私の真剣勝負であり、報告者に気持ちなどを言語化してもらったり、内省してもらうことで、生み出されることもある。

 具体的には、「ストレングスモデルに基づくケアマネジメント」(『月刊ケアマネジメント』(環境新聞社))、「事例検討 予防に焦点をあてたケアマネジメント」(『介護支援専門員』(メデイカルリビュー社))「認知症高齢者のケアプラン」(『デメンシア・ケア・サポート(Dementia Care Support)』(メデイカルクオール社))「在宅のケアマネジメント」(『ふれあいの輪』((財)フランスベッドメデイカルホームケア研究助成財団))の4つの雑誌で、誌上での事例検討を、長年行っている。

 今回のコメントで気づいたことは、私が研究や教育を続けていくためには、このような作業が不可欠であり、無意識の内に長く続けてきたのであろう。以前は、実践現場をもっていたが、今はそうした時間や機会がない私にとって、誌上での事例研究が、ほぼ唯一の実践現場と研究・教育をつなぐ場となっている(時には、事例検討会を行っているが)。

 現在は、年間25事例程度についてコメントを行っており、これが介護保険制度が始まる以前からやっているから、300ケース程度になるのではないかと思う。一度、明らかになった支援の考えや方法・技術についての知見を全体としてまとめる責任があると感じている。この間、登場していただいた方、発表者の皆さんに感謝し、その労に報わねばと思っている。
 
 この仕事を、今後も大切にして、実践現場から学んでいきたいと思っている。また、とりわけ若い研究・教育者には、どのような形であれ、実践現場と関係をもつ工夫をしながら、研究や教育を進めて頂きたいと思います。

 追伸

 そう言えば、私が大阪市立大学の助手になった時、私の師であった岡村重夫先生は、「大学に来ても、学ぶことはそれほどない。出来る限り、実践現場にでていって、勉強してきなさい」とありがたい言葉を頂いた。そのため、私の助手時代は、給料を大学から貰いながら、2カ所の現場で実践を積むことが出来た。今となっては、そうした指導頂いたことに対して感謝の気持ちで一杯である。

月刊ケアマネジメント 2008年4月号 [特集 4月からこう変わる 高齢者の医療と介護]
今井修司(表紙イラスト)
環境新聞社

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地域でのネットワーキング論?(3)<在宅介護支援センターからの宿題>

2008年04月18日 | 地域でのネットワーキング論
私がケアマネジメントの研究成果を得ることができたのは、平成元年のゴールドプランで中学校下に1カ所を目標にした「在宅介護支援センター」ができ、そこで現場の人々と一緒に仕事ができたことが大きく、在宅介護支援センターには愛着も強く、その当時現場でおられた人には大変お世話になり、感謝している。また、その後、今日まで多くの皆さんと親交を深めてきた。

 ここで、確かに、日本のケアマネジメントは大きく発展し、その後の障害者領域でのケアマネジメントや介護保険での介護支援専門員に引き継がれていった。その意味では、当時、このセンターの創設は画期的なものであったと考える。これを企画したのは、当時の老人福祉課長であった辻哲夫さん(前厚生労働省事務次官)であった。辻さんからは、ゴールドプランで多くのサービスを量的に充実していくが、それをいかに利用者のもとにデリバリーしていくかの仕組みが不可欠であるとの自らの信念を、何度か伺ったことがある。

しかしながら、センターをベースに現場の人々が仕事を進めていく上で、センターの職員は辛苦をなめることも多かった。その最大のことが、在宅介護支援センターで利用者と一緒に作成したケアプランが実行できないことに遭遇することであった。当時は、措置の時代であり、行政がサービスの利用決定やサービス内容を決定しており、在宅介護支援センターで利用者と一緒にケアプランを作成しても、そのプランが絵に描いた餅となることがしばしばであった。

 そのため、当時の厚生省の老人福祉課にいくつかの提案をしてきた。その成果の一つが、それぞれの市区町村で高齢者サービス調整チームを作り、実務者会議と代表者会議を行うことで、措置の弊害を除こうとしたことである。この会議を介して、作成したケアプランが適切なものであれば、実質化できることも目的の一つにした。もう一つ、在宅介護支援センターが行政に代わって、代理決定できないか厚生省に詰め寄ったが、当然無理であった。ただ、利用者に代わって、在宅介護支援センターから行政にサービス利用の代理申請できることにはなり、それならの成果を納めることができたが、気分としては繕いものをしているような情況であった。

 こうしたことから、ケアプランには、①実践を高めること(practice)と同時に、②システムを作ること(syastem)が重要であることを強く知らされた。これは、ケアマネジメントの第1人者でもあるカナダのカルガリー大学教授オースチンも言っていることである。後者は、ネットワーキング論を示唆するものでもあり、センターがある中学校区なり、その市区町村で、どのようなサービス等の社会資源のデリバリー・システムを作るかであった。

 その宿題が今も残されており、これは連載している意味でもあろう。

「現場力」を鍛える

2008年04月17日 | ケアや介護
 私は、長距離の仕事に行くときは、その仕事の往復乗車時間で読めそうな本を買い、夢中に1冊を読んでしまうことが多い。

 今は、どのようにケアやソーシャルワークの理論と実践をつなぐかに関心があるため、今日は伊丹空港で『現場力を鍛える』(遠藤 功、東洋経済新報社)を買ったが、東京羽田との往復の2日間で読み終えた。

 今までであれば、よく分かったといって、リサイクルに出すのが常であったが、今はブログで、感想らしいことを書き留めることができるようになった。

 この著書から、社会福祉においても「現場」を大切にし、そこを強めることが大切であるが、現場力の強さを測るのには、「品質」、「スピード」、「コスト」、「持続性」という物差しをあげている。私はケアの基準となる品質には、「安全・安心」、「自立」、「快適」といった物差しがあると考えてきたが、これら品質に加えて、安く(コスト)、早く(スピード)、継続して(持続性)提供していくことも大切であることが理解できた。従来の社会福祉分野では、そうした「コスト」、「スピード」、「継続性」といった物差しを議論することは気づかなかったが、組織マネジメントの視点からは、当然必要な基準であることを学んだ。

 さらに、私は「安全・安心」、「自立」、「快適」という三つの目標とすべき基準について、3つは相互に相反するものであるが、これら相互に矛盾する3つの基準を高めていくことを強調し、その力点を3つのどこに置くかで、組織の特徴なり売り物ができると考えてきた。この点について、この本から多くの示唆を得た。トヨタでは、「品質とコスト」「品質とスピード」「機能とコスト」といった一見両立が困難な目標にチャレンジすることがトヨタらしさであるそうだ。二律背反克服の精神が、強い現場を根っこから支えるものであると言っている。私は、今まで3つの基準のみの二律背反の克服を主張してきたが、さらにこれらに「スピード」、「コスト」「持続性」も付加して、6つの矛盾する基準を一体的に高めることで、現場力を高めることを理論化していきたい思っている。

 現場を鍛えていくことは、企業でも、病院でも、社会福祉施設や機関でも共通する部分がある。時には、こうした類の本を読むことで、他の領域から学ぶことも大切である。

現場力を鍛える 「強い現場」をつくる7つの条件
遠藤 功
東洋経済新報社

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『児童養護』 Vol.38 No.4 2008(全国児童養護施設協議会)論壇

2008年04月16日 | 論説等の原稿(既発表)
今後、カテゴリー「論説等の原稿(既発表)」でもって、短編の既発表論説やエッセーも、掲載させていただきます。

              『児童養護施設とケアマネジメント』

 私は長年ケアマネジメントに関する研究を続けている。児童福祉領域の皆さんには意外に思われるかもしれないが、私がこの研究を始めるきっかけとなったのは、児童養護施設の退所事例に出会ったことからである。児童養護施設のある児童が中学校を卒業し、施設退所して社会人になったが、悪友ができて仕事が続かなくなっていく事例であった。30年以上も前に事例検討会で議論した事例であるため詳しくは覚えていないが、自立の際に困難をかかえた子どもには、施設退所時にできる限り多くの「つっかい棒」をつくることで、倒れないよう支えていくべきではないかというのが当時の私の思いであった。この「つっかい棒」をどう作っていくのかに思案を重ねる中で、ケアマネジメントと出会うことになった。

 この「つっかい棒」が、ケアマネジメントで言われる社会資源に相当し、利用者の生活を維持するための種々のニーズに合った種々の「つっかい棒」を作ることで、生活を支援することになる。私は主として高齢者や障害者のケアマネジメントについて研究しているが、30年前の思いは今も変わらない。児童養護施設の子ども達にはケアマネジメントが有効であり、そうした力量を施設の中で整えていって欲しいと願っている。さらには、児童のニーズを最も理解できているのは、児童相談所職員でも市町村職員でもなく、日々日常的に関わっている児童養護施設の職員であり、こうした職員こそがケアマネジメント支援のできる人材であるとの自負心をもって、そうした実力を身につけていただきたい。さもなければ、児童の思いを理解したケアマネジメントはできない。

 児童養護施設の子ども達が、施設退所して社会に出て行ったり、あるいは自宅に戻っていく際に、その子どもがたとえどのような問題を抱えていようとも、家族員だけでなく、多くの他の人々による「つっかい棒」作りが不可欠である。

 ずいぶん昔、虐待を受けた子どもを養護施設から自宅に帰して欲しいと願う虐待した親への対応に私も関わったことがある。この事例で、一方で母親が親としての力を獲得していくよう支援することを合わせて、ケアマネジメントを核にした支援でもって、行政等のフォーマルケアと、友人や児童委員といったインフォーマルケアを活用して、親と子どもを地域全体で見守っていく支援計画を作成した経験がある。

 児童養護施設において、このような支援を実施していくためには、児童養護施設は単に入所してきた子どもを施設内でどのようにケアしていくかだけでなく、どのように地域社会や家族にソフトランディングさせていくのかの視点での支援が求められる。

 こうした仕事は決して児童相談所だけのことではない。平成16年の児童福祉法改正は市町村で要保護児童連絡協議会を作り、多くの関係者が連携して虐待や子育て不安に対して市町村も対応していくものであるが、前述の親が引き取っていく事例の過程で、そうした地域の人々の支援が得られれば、より有効な援助ができるであろう。

児童養護施設で以上のような支援を進めていくためには、人材の確保と養成が不可欠である。昨年11月28日に出された社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会報告書「社会的養護体制の充実を図るための方策について」でも、施設での自立支援計画等の作成・進行管理、職員の指導等を行う基幹的職員(スーパーバイザー)の配置や職員研修について提案を行っている。これらは時宜を得た提案であるが、さらには、ファミリーソーシャルワーカーの量・質の一層の充実を求めていくことも重要である。以上のような方策のもとで、現状での児童指導員や保育士の業務として、このような視点での支援方法を確立していくことが求められている。

 一般に、ケアマネジメントが円滑に実施されるためには、2つの要件が必要であるとされる。その第1は、ケアマネジメント・システムと呼ばれるもので、児童養護施設内外でそうした支援ができる環境設定を整えることである。具体的には、職員がそうした支援を行うことを当然とする状況になっており、取り巻く地域でそうした支援をサポートしてくれる環境が整っていることである。そのためには、国、施設経営者、地域の関係者が、こうしたシステムづくりにそれぞれの役割を果たすことが必要である。

 第2の要件は、職員がケアマネジャーとしての能力を高めることである。このためには、児童養護施設協議会が組織的に研修を行っていくことを中心に、職場外研修(OFF-JT)と職場内研修(OJT)でもって、職員のケアマネジメント能力の水準を高めていく必要がある。さらに、制度的には、保育士や児童指導員がソーシャルワーカーとしての意識をもって働き、社会福祉士といった資格取得を結び付けていくことが必要であろう。

 以上のような対応ができれば、児童養護施設での児童の安心で円滑な退所を促進することが可能となり、家族復帰を進めることになる。同時に、中学校や高等学校等を卒業して社会に巣立っていく児童に対して、安心して見送れることにつながる。

児童以外の世界では、措置から契約に移行しており、契約施設では利用者から選ばれるべく、あるいは開示されるサービス評価結果を意識して、利用者へのサービスの質を高めるための工夫を駆使している。そのため、契約施設では、こうしたケアマネジメント支援は当然のものとなっているが、措置施設でも当たり前の業務になるのであろうか。さらには、こうしたケアマネジメント支援が実施されることで、自宅復帰や円滑な社会生活が可能となるため、2次的には社会的なコストの削減にも結びつくことに繋がる。
 
外部から児童養護施設を眺めてきた門外漢からの発言であり、十分に理解できていないことから誤解があるかもしれないが、それも、児童養護施設利用者への適切な支援を願ってのことであり、是非ご容赦いただきたい。一方、外部からの思いだからこそ、今後の業務に新たなヒントを見いだしていただけるならば、このうえない喜びである。

(『児童養護』 Vol.38 No.4 2008(全国児童養護施設協議会)論壇)