ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

OECDの30ヶ国の貧困調査結果から考える

2008年10月31日 | 社会福祉士
 OECD(Organization for Economical Co-operation and Development )が先般、『不平等は拡大したか?OECD30各国の所得分配と貧困(Growing Unequal? Income Distribution and Poverty in OECD Countries)』の報告書を刊行した。

 この中では、30ヶ国全体の、ここ30年間での所得格差や貧困状況についての調査結果が示されているが、「全体としての結論」が日本語でも書かれているので、紹介をしておく。ここでの結論は、ここ20年間で、全体の傾向としては、各国は所得格差(ジニ係数)や相対的所得貧困率が大きくなっている。ただ、英国、ギリシャ、メキシコ、オースリアは小さくなっており、結論として、これらの解消には、増税や歳出増ではなく、人々が雇用を確保し、昇級していく見通しを作ることが肝要であるとしている。

 「日本の結果」も示されているが、今まで所得格差や相対的所得貧困率は大きくなってきたが、この5年間は下がっている。

但し、貧困率は30か国中で4番目に高いという。さらに、この5年間で、高齢者の貧困率は低くなっているが、子どもの貧困率は上がってきている。

 この所得格差と相対的所得貧困率(ここでは、平均所得の50%以下の者の割合)を図に示しておくが、日本でも、雇用の促進することで、自立支援していくワークファア(workfare)が重要であるといえる。そこには、雇用促進の施策の立案に加えて、個々の人々が就労に向けていけるよう支援するソーシャルワーカーの役割もきわめて大切である。労働分野に、ソーシャルワークが入る込んでいくことが当面の夢である。

ケアマネジメントの支援プロセスとソーシャルワークの支援プロセス

2008年10月30日 | 社会福祉士
 数年前の大震災の際に、私は大学院生と一緒に、震災後にケアマネジャーやソーシャルワーカーは震災の直後にいかに関わったかを学ぶために、現地に一週間ほど入り、調査をしたことがあった。その時に、大変気になり、づっと「なぜだろう」と思っていたことがあったが、理論的に心のなかで整理できたので、書き残しておきたい。

 調査の結果、ほぼ全てのケアマネジャーは利用者の自宅に赴いたり、家族、民生委員、ヘルパー、病院等からの連絡を受けることで、翌日には利用者の所在を確認できていた。その後、利用者のニーズの変化に合わせて、非難所から施設や病院入所・入院、在宅サービスを非難所で実施等を行っていた。利用者の状況の変化に合わせてモニタリング機能が発揮できたことになり、ここから再アセスメントにより、ケアプランを変更させていくことになる。

 一方、公立病院に所属していた数名のソーシャルワーカーはケガなどで病院を訪れる多数の患者さんに対して、重度者を優先して治療するためのツリアージャー(仕分けをする人)の役割をされていたという。その時に思ったことは、ソーシャルワーカーはなぜ相談を受けている人へのモニタリングをしないのかということであった。これらのソーシャルワーカーは特異な例かもしれないが、なぜなのかが心の中でづっとしこりとして残っていた。

 これについて、最近ソーシャルワークに関するアメリカの教科書を読む中で、ソーシャルワーカーが取った行動の背景が納得いく道筋がでてきたように思った。

 教科書では、ケアマネジメントでのプロセスは図1であるが、ソーシャルワークのプロセスは図1と図2の場合がある。

   

 これを一人の利用者を対象とした場合、図1にでは、モニタリングを強調しており、継続した支援が基本である。一方、図2は情報提供や援助計画を実行することで終了し、また困った時は来所を待っているという支援である。

 公立病院の医療ソーシャルワークがしかりのように、ソーシャルワークは図2のプロセスで支援してきたが、ケアマネジメントもソーシャルワークの一機能である以上、図1のプロセスでの支援が必要な利用者もいるのではないかと考える。図2のプロセスを行うことになると、援助計画を立てて修正していくといった「planed change」が強調されることになる。ソーシャルワークは、人のニーズの違いにより、図1で対応する人と図2で対応する人があると言える。これを峻別する基準があると思われる。9月27日のブログが参考になるかもしれない。

 一方、ケアマネジャーの議論で述べてきたことであるが、現在介護保険制度では、特定高齢者、要支援者、要介護者の全てに対して図1に対応をしているが、殆どの特定高齢者や一部の要支援者等は図2で対応することが効果的・効率的であると考える。ここで強調しておきたいのは、介護の必要度とケアマネジメントの必要度は一致しないということである。これについては、9月27日のブログ「ケアマネジメントを必要とする人と必要としない人の基準」で、ケアマネジメントを必要としない人についての基準を書いているので、参考にして欲しい。

 ここから、公立病院でのソーシャルワーカーが行っていた行為が納得でき、私なりのソーシャルワークのあるべき支援過程が整理できた。

ケアマネジャーの研修会に多くが集まる謎

2008年10月29日 | ケアや介護
 最近ケアマネジャーの研修会によばれて行くと、参加者が多いのに驚く。先日も、介護保険のケアプランや請求事務のソフトで第1位のシェアを保っているワイズマンが主催の研修会が有料で開催されたが、200人の定員に400名の参加者を得て、急遽会場を変更していた。こうした動向は、ここ最近の動きである。

 こうした現象は、他の研修会でも見られる、一見介護保険制度が始まる前後と同じような熱気を感じる。但し、大きく違くのは、8年前は、夢をもって、介護保険制度の要としての使命での熱気であったような気がする。

 現状の熱気は、ケアマネジャーは崖っぷちに追いやられており、今回の介護報酬改正で生き返ることができるかどうかを確認するために集まってこられている側面が強いように思える。そのため、確かに、利用者のニーズに合ったケアプランを作成するかについてや、認知症者や困難な事例への対応などを学びたいとの思いに加えて、介護報酬が気になっているといえる。これは当然のことであり、居宅介護支援部門は制度創設以降毎年10%以上の赤字を抱えているセクションになっているからである。

 確かに、居宅介護支援事業の介護報酬は抜本的に変革し、さらには介護報酬のアップが介護支援専門員の給与のアップにつながっていくことが大切である。介護支援専門員を公共性の高い人材として位置づけ、独立性を担保するために、ある程度の給与が保障されなければならない。

 今から山場を迎える介護報酬の議論であるガ、介護保険制度に関連した仕事に従事している人々は閉塞状況にあり、こうした状況をいかに打破していくのかが課題である。介護報酬改正がこうした状況を脱皮する起爆剤になることを期待したい。


四年制介護福祉士養成に期待する

2008年10月28日 | ケアや介護
 四年制大学で介護福祉士を養成している学校は60校にのぼると言われている。専門学校等で学生が集まらないゆえの介護福祉士養成校が一部閉校されている現状に合って、四年制の介護福祉士養成教育も岐路に立っていると推測できる。

 こうした時期だからこそ、高い専門性や指導性をもって介護福祉士のリーダーとなっていく人材を四年制大学で育て、施設や在宅サービスに輩出していっていただきたいという気持ちが強い。この専門性や指導性を高める教科については、高度の生活支援技術や介護技術の習得であったり、施設のケアプランや訪問介護プランの作成・実施に関することであったり、スーパービジョンやチームアプローチ等といった内容が例示できる。

 こうしたリーダー候補生の養成は、施設であろうと、在宅であろうと、現場でのケアワーカーをまとめあげ、彼らは生きがいをもって仕事に就き、離職率をも抑えることに貢献できる人材になれるものと期待できる。

 現実には、養成施設の介護福祉士についても、数年後から国家試験受験が義務化されるため、四年制大学の介護福祉士養成校は、同時に社会福祉士の受験資格を出すことが一般であり、両国家資格の試験日を別の日に実施してほしいとの要望がある。このことについては、当然別の日に試験実施が必要であるが、上記で述べた教科と社会福祉士受験資格のための教科との関係を整理する必要があるように思う。

 確かに、介護福祉士と社会福祉士は同じ対象者と関わる部分が多いが、両者を連続したものとして教育していくことも大切であるが、一方で介護福祉士になる学生への高度な知識や技術を提供し、リーダーになっていくよう指導することが重要である。

 なぜこのようなことを言うかと言えば、訪問介護事業者での要として、ケアマネジャー、担当ヘルパー、利用者の三者をつないでいくサービス提供責任者がケアマネジャーの試験に通ると直ぐにケアマネジャーに転職してしまい、サービス提供責任者が集まらないとの悩みを、訪問介護事業者からよく聞く。この解決は、待遇の改善が第一であろうが、介護福祉士としての専門性を高め、キャリアパスを作ることで、部分的ではあるが、サービス提供責任者として継続して働くことも、解決の道であると考える。

 その意味では、介護福祉士の水準を上げる教科内容を明らかにし、介護福祉士としての高い水準の教育が社会福祉士養成教育のカリキュラムといかに重なっているかを議論することが必要である。その意味では、両者が完全に重なっていない以上、二頭を追うことにならざる得ないであろうが、がんばって教育していただきたいと願っている。

 今後の大学の過度な競争時代を考えると、学生が二つ以上の資格を得ていくダブル・デグリーが一般化していくことになろう。そうした際に、社会福祉分野でも、整合性をもって、多様な資格の組み合わせを創り出していく仕組みが求められてくるであろう。

介護職が育ち、増えていく条件

2008年10月27日 | ケアや介護
長年ヘルパー研修を手がけてきた大手の事業者から、ヘルパー研修を受講する者が、ここ最近上向き加減であるとの情報を得た。この原因は、不景気になってき、企業から介護の世界へと、今までとの逆流が起こっているのであろうか。あるいは、マスコミ報道で、介護職の待遇が良くなるのではとの期待感から、集まってきたのであろうか。

 この矢先に、10月24日のブログで書いた「2003年度の次期介護報酬改定で介護報酬を引き上げるため、追加経済対策に約1200億円を計上する方向で調整」のニュースが飛び込んできた。これの具体的詳細は今からの議論になるであろうが、介護職の待遇改善に結びつくことは確かであり、介護職や介護福祉士になりたい人は増えるものと強く期待している。

 ただ、こうして参入してきた人々が今後は長続きし、仕事をしてもらえるかどうかは、事業経営者や職能団体の責任が大きい。それは、参入してきた者が仕事に喜びや生きがいをもってもらえることができるかどうかであり、今度はそのことが試されることになる。

 そのためには、議場経営者は職場内研修(OJT)や職場外研修(OFF-JT)を制度化し、介護職が自らの仕事に意義を見いだせることも必要である。また、職場内では仕事や職場内の人間関係での悩みに応えることができるスーパーバイザーと呼ばれる人材を配置していくことも大切である。施設であれば、主任介護職員や生活相談員等が、在宅では、サービス提供責任者や生活相談員がスーパーバイザーの役割を果たすべきであり、そのための職場外研修の受講も不可欠である。ここでは、仕事での悩みでの相談だけでなく、人間関係での相談にものれることが必要である。ただ、職場で相談することを躊躇うこともあり、行政や職能団体が電話などでの相談事業を実施することも有効である。

 日本の介護制度は他の国と比較して、極めてレベルが高い。そのため、介護職となる人材を発掘し、一定のキャリアパスのレールに乗せて力量を高めていくことが大切である。

 「福祉は人なり」とはよく言われる言葉であり、人材こそが介護の命であるという視点で制度化を図っていく時期である。

 そして、介護福祉の養成施設が定員の5割程しか入学してこない状況に落ち込んでいたが、再度隆盛を極めることを期待したい。同時に、多くの子育てが終わった母親や定年を迎えた人々が、ヘルパー研修会に参加され、優秀な人材がヘルパーになっていってくれることを期待したい。

2008年介護事業者経営実態調査から介護報酬を考える<1事業者当たりの利用者数>(4)

2008年10月25日 | ケアや介護
 今回の2008年調査から分かることで、1事業当たりの利用頻度や利用者数が2005年に比べて減っているものが3つある。それらは、「訪問介護」「訪問看護」「通所介護」「居宅介護支援」である。「訪問介護」では795.2回から725。5回に、1割減少している。「訪問看護」は274.5回から242.7回と、同じく1割の減である。「通所介護」は延べ利用者が538.4人から439.7人と、2割近い減であり、「居宅介護支援」では、91.4人から59.9人と、3.5割減である。このことも、経営を苦しくさせている一因である。

 こうした利用者数の落ち込みは、利用者数の増加以上に、事業者参入が多いことを意味し、この結果が経営に反映していることも事実である。介護保険ではできる限り参入を容易にしており、特にこれら4つのサービスは参入が比較的容易であるため、こうした事態を迎えている。

 このことは過剰競争を引き起こしている言えるが、自然に淘汰していくのを待つのか、あるいは若干の参入規制をすることが良いのか、が問われることになる。

 前者であれば、利用者が別事業者に移るということが生じ、継続的な支援を難しくすることになる。後者であれば、ケアの質が保てなくなる危険性がある。そのため、どちらの選択肢にも問題点がある。そのため、指定権限を有する都道府県は、新規にこうした事業に参入希望する人々に対して、ケアの質を高め、一定の利用者数を確保することができなければ、経営が難しいことを理解してもらうよう周知徹底を図っていくことが必要である。そうして若干の参入への抑制をかけながら、一方で、利用者数が徐々に増加していくことを待っていくことが妥当な方法のような気がする。

 ひいては、利用者の迷惑を最小限に留め、同時にケアの質を担保していくことができる。

介護報酬に関するビッグニュース<別枠で公費の投入>

2008年10月24日 | ケアや介護
 介護報酬に関するビッグニュースが飛び込んできた。以下は11月23日早朝の時事通信の記事で、ヤフーニュースに載ったものである。政府と与党で、次年度1200億円の介護報酬引き上げに追加経済対策に含めるべく調整に入ったということである。

 「政府・与党は22日、2009年度の次期介護報酬改定で介護報酬を引き上げるため、月内にまとめる追加経済対策に約1200億円を計上する方向で調整に入った。他の業種と比べて賃金が低く、離職率が高い介護職員の待遇改善を目指す。計上する約1200億円は、介護報酬引き上げに伴って本来なら負担増となる介護保険料の肩代わり分に充当し、被保険者の負担が急に増えないよう激変緩和措置を講じる。」

 さらに、毎日新聞の同様に記事をリークしているが、そこでは、「公明党政調幹部は22日夜、「介護報酬の引き上げは、自民、公明両党から要望を出しており、盛り込む方向だ」と語った」ということを示しており、両党の意向と言うこともあり、現実性が高いものと思われる。

 このことは、介護保険制度は5割が税金、5割が保険料、さらに自己負担分の1割で財源となっているものである。今回の追加経済対策が実施されると、別枠で公費が投入されることになり、風穴をあけることができたことになる。この動きに注目し、何とか、介護保険制度が危険水位を回避してもらいたいと願っている。

2008年介護事業者経営実態調査から介護報酬を考える<規模別>(3)

2008年10月23日 | ケアや介護
2008年の調査結果から、規模別の収支差率の違いは、図の通りである。今回は、在宅のサービスのみを示したが、それは介護保険施設では定員数でさほど顕著な収支差率での違いがなかったためである。

 ところが、在宅のサービスについては、収支差率がマイナスからプラスに移行する臨界点が明確に示された。その臨界点は「訪問介護」では月600回以上、「訪問入浴介護」では161回以上、「訪問看護」では200回以上、「通所介護」では300人以上、「認知症対応型訪問介護」では200回以上、「通所リハビリテーション」では450回以上、「短期入所生活介護」は200人以上、「福祉用具貸与」は100人以上である。

 なお、「認知症対応型共同生活介護」では9人を1ユニットとしているが、ユニットが多いほどプラスが大きくなるが、1ユニットでも僅かではあるがプラスの収支差率となっている。一方、これらの特徴の例外が「居宅介護支援」であり、利用者数が多くなっても、少なくてもマイナスという状態である。

 このような結果は、零細の事業所は経営が苦しく、大きな事業者は楽になることを意味している。これら零細の事業者を介護報酬で配慮するべきかどうかである。以前にも書いたことがあるが、これら零細の事業者の全てとは言わないが、多くは利用者数が少ないゆえに、きめの細かいケアができている可能性が高いのではないかと思っている。そのため、各事業者に臨界点を超えるよう、規模が大きくなることの指導が適切かどうかである。

 例えば、グループホームは以前は3ユニットも認めていたが、最近はほとんどの新設は1ユニットに行政が指導している。経営のことを考えれば、ユニットが多いほど有利であるが、きめの細かいケアをするには、利用者数も少なく、家庭的な雰囲気が大切であるからの指導であるといえる。


2008年介護事業者経営実態調査から介護報酬を考える<地域区分別>(2)

2008年10月22日 | ケアや介護
2008年介護事業者経営実態調査での地域区分別での収支差率は図のようになっている。2007年の調査結果ほどには、明確に都市部でのマイナスが顕著ではない。この根拠は、都市部では人件費が高いが、介護報酬が全国一律のためであり、都市に係数を掛けるという考えである。

 介護給付費分科会での議論をみると、既定の事実として地域差を介護報酬に反映することで進んでいる。具体的には、現行の地域区分を継承し、土地代や物品費は入れず人件費のみで捉え、人件費比率の高いサービスとそうでないサービスを新たに分けて、地域に係数を掛けることで、地域差を反映することが検討されている。

 図に戻ると、介護保険施設の「介護老人福祉施設」「介護療養型医療施設」や「通所介護」といったサービスにおいて、収支差率で地域差がある傾向がうかがえる。このことは、人件費もさることながら、これらのサービスは一定の土地が必要であり、土地代等の経費がかかることで、都会ほど経営が苦しくなっていることを伺える。

 今回の調査から明らかになったことは、「訪問入浴」については、逆に都市部ほど経営が楽であるという結果がでた。これは、確かに、都市部ほど人件費が高いが、農村部ほど、1軒1軒入浴車で回るのには効率が悪いことが影響しているものと考えられる。「訪問介護」「訪問看護」といった訪問系サービスにはこうした問題はあるが、「訪問入浴」の場合は、同じ車で連続して回ることになり、訪問介護での直行直帰といった柔軟な対応が困難である。その意味では、逆に係数を掛けることも必要な部分が出てきていると言える。

 最後に、こうした地域区分での違いが全く影響することなく、都市でも農村でも収支差率がマイナスであるのが、「居宅介護支援」であり、これについては現状の介護報酬では全く経営ができる状態ではないことを示している。

2008年介護事業経営実態調査から介護報酬を考える<概要>(1)

2008年10月21日 | ケアや介護
先日の社会保障審議会介護費給付分科会で、「平成20年介護事業経営実態調査結果の概要」が報告された。主としてこの概要結果を分析し、次期の介護報酬額が決まっていくことになる。

 主たる事業者の収支差率は、表に示す通りです。回収率が低く、信憑性には疑問もあるが、私自身としてはほぼ予想通りの結果であった。

 収支差率がマイナスの事業者は、「居宅介護支援事業者」と「小規模多機能型居宅介護」であった。前者の「居宅介護支援」は他のサービスの黒字分で補っているから成り立っているに過ぎない。そのため、居宅介護支援事業を独立してはやっていけない。同時に、居宅介護支援事業者の中立公正を目指すのであれば、同じ法人内でも独立性を保てるよう介護報酬を大幅に上げるべきである。

 後者の「小規模多機能型居宅介護」については、改正介護保険制度で新たに始まったサービスであり、殆どの市町村では、計画したほどには作ることができていない。また、本来は、在宅での中重度者を地域社会で円滑に支えていくために作られたが、病院退院者で施設入所希望者の一時的受け入れ施設といったニュアンスが強い。そのため、当然介護報酬を高くするだけでなく、「小規模多機能型居宅介護」本来の目的を達成するために必要な要件の整備を図る必要がある。

 「小規模多機能型居宅介護」を利用すれば、その人はなおかつ自宅で生活していくにも関わらず、今まで支えてくれていたケアマネジャー、ヘルパー、デーサービスやショートステイの職員との関係が全て切れることになる。そのため、当然「小規模多機能型居宅介護」の利用には躊躇することになる。そのため、最低限の生活の継続性を保つため、せめてでもケアマネジャーについては継続して支えていく仕組みを提案したい。そのため、「小規模多機能型居宅介護」内のケアマネジャーは、利用者間での居室利用の調整を中心に事業者内の業務を行っていくことに変更することになる。

 また、訪問介護といったサービスでは、確かに収支差率が0に近いが、0.7%で黒字ということになっている。このことには、介護報酬を決めるうえで、2つの課題がある。第1は、事業者においては、居宅介護支援事業とは違い、独立性が高く、この事業のみで経営していかなければならず、収支差率が毎年マイナスで推移するわけにはいかない。そのため、経営が悪くなると、人件費比率がほとんどを占める事業ゆえに、サービス提供責任者や担当ヘルパーの人件費を抑えることになる。その結果、離職や人不足が起こっていることを考慮して介護報酬を決める必要がある。

 第2に課題は、事業者のケア内容には差が大きいことである。ケアの水準が低い事業所は、おそらく職場の内や外での研修もほとんどなく、非常勤の比率が高く、専門資格者が少なく、経営者の理念が利潤の追求のみであるようなことが予想される。今回の経営調査には、このような事業者も調査対象になっての分析である。こうしたケアの水準が低い可能性のある事業者を排除して、経営実態を分析すべきである。さもなければ、ケア水準の低い事業者に引っ張られた介護報酬になってしまうおそれがあるからである。このことは、ケアの質が悪い事業者を存続させていけと言っているのではなく、実態を開示していく中で、淘汰できる仕組みを作っていくことが大切である。

なお、収支差率がプラスで最も高かったのは、「認知症対応型共同生活介護」の9.7%であった。当然、経営が楽に見えるが、給与は23万円台とさほど高くなく、17年調査と低くして12%も高くなった(17年では約20万円)ことを考えると、やっと経営が安定したというのが実態であろう。

 介護事業経営調査結果から介護報酬を決めるうえでの基本的なあり方について言及したが、こうした収支差率をもとに決定していく方法だけで介護報酬を決めていくのは難しいのではないか。別の角度からのデータ収集も必要である。

 次回から数回の連続で、もう少し詳しく2008年介護事業経営実態調査について見ていきたい。

ケアマネジメントと公共性

2008年10月20日 | ケアや介護
 先日、介護保険でのケアマネジメントに1割の自己負担を課すことについての疑義を書いたが、その根拠としてケアマネジメントには公共性が高いことを強調した。ただ、公共性が高い事業は直接行政が実施するのがベストとは必ずしも考えていないことを追加的に説明しておきたい。

 このことは、韓国でも介護保険制度が始まり、今はケアマネジメントを導入していないが、再度導入の議論があるらしい。最近、多くの韓国の友人から、行政が実施すべきか、民間が実施すべきかに意見を求められる。そして、日本の現状をもとに、両方の意見に分かれているという。

 日本について言えば、結論から言えば、直接行政で実施すべきでなく、民間に委ね、そこで公共性が確保できるようにすべきである。ここでは、なぜ行政がすべきでないのか、さらには、どうすれば公共性が確保できるかについて言及しておく。

 行政がケアマネジメントを実施した場合の6つの問題点を提起しておきたい。これは、平成2年に在宅介護支援センターが創設された時の根拠でもあったが、最近は行政の姿勢も変わり、この約20年間に問題点が部分的には解消されつつあることも認識している。

①9時から5時、土曜、日曜、休日が休みの体制では、利用者を継続して支えていくケアマネジメントは難しい

②公務員の場合には人件費が高くつく

③利用者にとっては行政が敷居が高く、相談に行きにくい

④同じ部署で同じ人が職場で長期に勤めることが難しく、利用者への継続的な支援が難しい

⑤行政は従来から利用者からの申請をベースにしており、アウトリーチ的な志向に不安がある。

⑥行政にはジェネラリスト採用が殆どで、専門職採用が難しい

 そうだとすれば、民間に委ねる場合に、どのようにして公共性を確保していくのか。これについては、持論であるが、4点を提案しておきたい。

①ケアマネジメントは公共性の高い業務であることを、経営者を含め法人自体が認識していく。

②万が一、ケアマネジャーの中立性を損なうことがあれば、社会的・法的に罰する仕組みを作る。

③ケアマネジャーは専門性や価値を意識し、利用者本位のケアプランを作成・実施する。

④ケアマネジャーの給与を含めた社会的地位を高める。これにより、経営者からの意見が挟まない状況を作っていく。(ある良心的な事業者では、経営者がケアマネジャーのケアプランに介在しない契約をしていた。)

⑤独立系のケアマネジャーでも経営できるだけの介護報酬をだすことで、個々の居宅介護支援事業者が法人の中で、精神的に独立して仕事ができるようにする。


 日本での地域包括支援センターは7割が民間、3割が行政で運営されている。ただし、このセンターの実施主体は行政であり、民間で実施している場合にも公共性は発揮できる仕掛けになっており、必要であれば、行政は公共性をもって仕事を進めていくよう行政が企画や指導をすることができることになっている。

 韓国の場合も、日本同様に行政がやった場合の5つのデメリットがあれば、民間のもとで公共性を模索すべきである。逆に、韓国の行政は日本のようなデメリットがないようなら、行政がケアマネジメントを実施すれば良いのではないかと考える。なぜなら、イギリス、カナダ、オーストラリアでは行政には日本のようなデメリットが少ないため、公務員や準公務員が行っている。但し、韓国の場合も、行政が直営でやれば、コストが高くつくことは間違いない。

 

韓国の社会福祉士の課題

2008年10月18日 | 社会福祉士
 先日岡山県立大学で開催された日本社会福祉学会で「ソーシャルワーカー養成教育での改革と今後の課題」をテーマにして、日韓学術シンポジウムを行った。韓国社会福祉学会会長で梨花女子大学の韓仁永(ハン インヨン)教授と同学会の総務委員長で梨花女子大学のチョンインシュク教授が韓国側のスピーカーであった。私はコーディネーターを務め、牧里毎治先生(関西学院大学)が日本側のスピーカーとなっていただいた。

 韓国の社会福祉士が直面している課題は日本と極めてよく似ていると思った。そこで、現状での問題点を整理し、両先生の課題解決の考え方を紹介しておきたい。

 韓国では、1997年に国家試験が導入され、この試験を受けて合格した1級社会福祉士が現在約7万2千人おり、他に2級が17万人、3級が1万人いる。1級社会福祉士が日本の社会福祉士に相当する。韓国では、インターネットによるサイバー大学等が急増し、社会福祉士の人数も急増し、質の低下が懸念されている。給与も低く、離職率も高いと言う。

 韓先生は、改革の方向として、①教科内容の基準化や専門職大学院の活性化、②実習教育制度の強化、③文化の多様性の理解を促進、④資格取得要件の強化、⑤資格取得後の生涯学習システム、⑥1級社会福祉士から細分化された専門社会福祉士の志向、を挙げている。

 チョン先生は、児童福祉分野の研究者であるが、改革の方向は、第1には、1級社会福祉士から専門性の高い「児童専門社会福祉士」の創設を提唱している。第2には、1級社会福祉士の免許更新制度でもって、質的な管理をしていく。なお、2007年に「社会福祉士補修教育関連法」が作られ、2009年から、資格取得後の補修教育を受けることが義務化されることになっている。第3は、賃金体系の改善等でもって、勤務環境を改善していくことである。

 これらの発言内容は、日本の社会福祉士が直面しており、ここから脱皮していく方向が極めてよく似ており、学ぶべきことも多い。同時に、一緒にスクラムを組んで、進むべき方向付けを議論することは意義がある。


ケアマネジメントに自己負担を取ってもいいのか

2008年10月17日 | ケアや介護
 介護保険の介護報酬改正の時期を迎え、財務省は現在利用者に自己負担を課せてないケアマネジメントについて、他のサービス同様に1割負担を課してはどうかとの提案が出されていた。また、社会保障審議会介護給付費分科会でも、1割の自己負担をとってはどうかといった意見が一部出ている。ただ、1割の自己負担を課すためには、介護保険法の改正が必要であり、今回の介護報酬改正では無理であると思っている。

 私自身は、このことについてどのように考えているかを披露し、意見表明しておきたい。介護保険制度が始まる時に、私も介護保険制度に関わる委員会のメンバーであったが、国民は相談サービスについては無料といった意識が強く、利用者からお金を取ることは時期尚早であるという結論になったことを覚えている。

 まず、世界の多くの国でケアマネジメントを実施しているが、アメリカでのごく一部で実施されるプライベート・ケースマネージメントと呼ばれるもの以外は、原則利用者は無料である。このプライベート・ケースマネージメントの実態を見たことはないが、お金持ちが法的な網を潜って、どのようにうまくサービスを利用できるかの相談があるといったことを、アメリカ人に聞いたことがある。

 ここからは、私の意見であるが、そもそもこうしたサービス利用に繋いでいき、在宅生活を支えていく支援は、日本では介護保険以前は行政の責任で実施してきた。このことは、多くの国で今でもケアマネジメントを行政責任で実施している現状と一致している。

 それゆえ、ケアマネジメントは公共性の高いサービスであり、サービスが十分でない人にはサービス利用を支援し、社会的にみて過重なサービス利用者には、利用を抑制する支援もしている。そのため、ある意味、利用者を守ると同時に、ゲートキーパーとして、サービス利用の門番的な役割を果たしていることも事実である。

 こうした門番的な仕事に対して、利用者は自己負担するのであろうか。私の意見は、今後も利用者は無料でケアマネジメントが利用できる仕組みであるべきであると考えている。

 特に、利用者の1割負担の議論が生じてくるには、介護保険のサービスの1つとして組み込まれているからであり、他のサービス同様に自己負担してもらってはどうかという単純な話しである。これについては、ケアマネジメントは本来介護保険制度だけで対応するべきものでない。利用者に介護だけでなく、医療、就労や社会参加、住宅等のサービス、さらには家族や近隣といったインフォーマルケアとも繋ぐことになり、基本的には介護保険制度の枠外で実施すべきものであり、介護保険のサービスとは、本来分けて考えるべきであると考えている。

 なお海外では、自己負担とは逆に、ケアマネジャーからの支援を受けず自らサービスとコーディネーションする人に対して、ケアマネジャーの人件費に相当する部分を利用者に渡す制度がある。これは、イギリス、カナダ、アメリカ等でも制度化されており、特に身体障害者を対象にして実施され、ダイレクト・ペイメント(直接利用者に支払うこと)と呼ばれている。

 ちなみに、介護保険制度ができる時に、ケアマネジメントを介護保険制度に入れることにはアンビバレントな思いがあった。本来は、介護保険制度の枠外でケアマネジメントを実施していくべきであるという思いがあった。一方、介護保険制度にケアマネジメントが入らなければ、日本のケアマネジメントは10数年本格的な導入が遅れるのではないかと危惧した。そのため、後者を選択し、ケアマネジャーに介護保険の枠を超えた仕事をしてもらうよう教育活動を行っていくことで解決していくことを覚悟した当時の気持ちを思い出す。
 

日本保健医療福祉連携教育学会の設立に向けて

2008年10月16日 | 社会福祉士
 イギリスやカナダでは、専門職連携教育(inter-professional education)が活発に推進されている。確かに、地域や、さらには病院や施設でも保健・医療・福祉・介護の連携が現場サイドで叫ばれ、その努力がなされているが、教育現場では今からの課題であると言える。

 そこで、新潟医療福祉大学の学長である高橋栄英明先生等が中心になり、「日本保健医療福祉連携教育学会」を立ち上げることになった。11月29~30日に第1回の学術集会を埼玉県立大学で行われることになった。私も発起人の一人として、この学会について思うことを書いてみる。

 確かに雨後の筍のように学会が増えてきている。そのため、入会すれば、会費が増え、学会出張の回数が増え、付き合いが大変であるというのが実情である。ただ、この学会は他とは違うユニークさがあるように思う。それは、多くの学際学会は、個々の専門職が個々の専門性をいかしながら、他の専門職と連携していくことを狙いにし、実践現場や一定の対象をベースにした学会である。例えば、私が理事長をしている「日本在宅ケア学会」や理事をしている「日本老年社会科学会」はこうした類の学会であると言える。今回の「日本保健医療福祉連携教育学会」設立のメインの目的は、いかに多くの専門職を連携させながら教育することで、教育現場でより高い水準の能力を身に着け、さらに現場にでた時にチームアプローチを可能にできる人材を養成することにあるといえる。

 ここには、文部科学省の「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(現代GP)なり「特色ある大学教育支援プログラム」(特色GP)を取り、実際に専門職連携教育を実践されている大学メンバーが多く参加している。私の大阪市立大学生活科学部でも「現代GP」を頂き、「QOLブロモーターの育成」というテーマで専門職連携教育を行っている。これは、管理栄養士になる学生、社会福祉士や精神保健福祉士になる学生、将来カウンセラーになる学生、将来建築士になる学生を一緒にして、個々の利用者の生活の質(QOL)を高めることを目標にした人材養成を行っている。これは、既にGPで文部科学省からの補助金はなくなったが、大学から補助を頂き、継続して推進しており、一定の科目を履修した者には、卒業時に大学独自の「QOLプロモーター」という資格を出している。

 こうした教育を進めていく上では、座学に留まらず、演習・実習科目も不可欠であり、この学会に期待すること大である。ただ心配するのは、福祉系の先生が発起人に少なく、バランスの良い会員構成にならないのではと心配する。福祉や介護の教員や実務者にも是非参加して頂きたいと願っている。

介護給付費分科会に在宅介護事業者団体から委員が入る

2008年10月15日 | ケアや介護
 4月22日と23日のブログで、「在宅サービス事業者は一致団結してこの難局に臨むべき」のタイトルで、2回にわたり一致団結する必要性を説いたが、この時に行ったことがやっと実を結び、少しは満足している。

 私の思いは、介護保険制度は、コミュニテイ・ケアを推進することを目的にしているのも関わらず、居宅介護サービスの介護報酬はお寒い限りである。より、利用者も事業者も在宅に目を向けるシステムに変えていく必要があると思っている。そのため、私自身は、委員長という御輿にのった側面もあるが、在宅介護事業を担っている主要な団体を結集し、介護保険制度研究会を立ち上げ、調査結果をもとに、厚生労働大臣に要望書を提出した。この時に気持ちは、要望書を出した内容よりも、今までバラバラだった在宅の事業者団体がまとまって行動できたことが大きかった。

 その時も述べたが、今までバラバラに活動していた居宅介護サービスの主要な事業者団体が結集した。具体的には、「JA高齢者福祉ネットワーク」(農協)、「NPO法人市民福祉団体全国協議会」(NPO)、「社会福祉法人全国社会福祉協議会地域福祉推進委員会」(社協)、「日本生活協同組合連合会」(生協)、「全労済(全国労働者共済生活協同組合連合会)」、「有限責任中間法人日本在宅介護協会」(民間事業者の団体)、「有限責任中間法人「民間事業者の質を高める」全国介護事業者協議会」(民間事業者の団体)である。

 この研究会では経営実態調査を行い、その結果、要望書を提出することと同時に、魅力ある職場づくり、働き続けられる環境づくりのため、介護現場で働く人びとの労働条件の改善、キャリアアップの仕組みの導入、研修体系の確立・実施、そして、コンプライアンスの遵守など介護サービス事業者自身の取り組みを推進していくことを自らの目標としていくことを認識し合った。

 このような活動が実を結び、その後シルバーサービス振興会が事務局となり、これらの団体がまとまった。結果として、民間介護事業推進委員会代表として、介護報酬を検討する社会保障審議会介護給付費分科会に、9月18からメンバーを送り出すことができた。やっとのことで、介護報酬が決まる前にメンバーシップを得たことはラッキーである。

 居宅介護支援サービスや訪問介護の介護報酬は低く、このことが介護保険を危険水域に近づかせているといえる。委員会メンバーになるだけでは意味がない。在宅支援が本来の介護保険の目的であることを委員会で再認識してもらい、安定した介護保険制度の確立に向けてがんばって欲しいものである。

 私が少し関わったことを発端として、在宅中心に移行していく過程ができ始めたことが嬉しくなり、書いてみた。今後の活動に大いに期待したい。