ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

韓国の社会福祉研究者の政治力

2008年05月01日 | 社会福祉士
韓国の大統領選挙が終わり、李明博(イ・ミョンバク)氏が圧倒的な票を得て、大統領に就任し、アメリカと日本へと就任挨拶に駆け回ておられたが、大変アクテイブな人のようだ。歴代の大統領とは異なり、幼児期を経済的困窮の中で育たれ、若くして企業のトップまでのぼられ、今は大統領と、立身出世の人である。毎日の睡眠時間が4時間であり、コンピューター付きブルトーザーと言われている人物であり、恐らく今までにない新しい韓国を作っていくことになることを期待したい。

 韓国では閣僚の一ポストに保健福祉家族部の長官がある。これは日本では厚生労働大臣に相当する職である。この職に梨花女子大学の社会福祉(児童・青少年福祉)の研究者である金聖二(キム ソンイ)教授が就任した。まずは、社会福祉の研究者が日本で言う厚生労働大臣になったということであり、うれしい限りであり、心からお祝い申し上げたい。この光州での社会福祉学会には、大変無理をして、特別機で来賓としてやってこられ、挨拶で、利用者本位の保健福祉サービスを作っていく意気込みをユーモアでもって強調された。

 金聖二氏は、昨年10月21日に(財)社会福祉研究所主催で灘尾ホールにて開催された「国際ソーシャルワークセミナー-ソーシャルワーク教育における国際的動向とわが国の課題」でシンポジストとしてご報告され、ご一緒させていただいた。先生はアメリカで学位をとられ、日本では大橋謙策先生(日本社会事業大学学長)を始め多くの先生方と親交を深められている親日家であり、世界的な視点をもった研究者である。

 昨年のその時期は、韓国のソーシャルワーカー協会の会長という立場にもあり(現在はアジア・パシフィック社会福祉教育連盟会長)、先生と、国際ソーシャルワーカー協会会長のデビット・ジョンーンズさん、現在イギリスでソーシャルワーカーをしている矢嶋真希さん、それに日本社会福祉士養成校協会会長をしているということで私が加わり、「ソーシャルワーク教育とソーシャルワーク教育との関わり」というテーマで議論を行った。

 先生のお話では、韓国のソーシャルワーカーの職務分析の調査研究から、このブログでも言ってきたのと同じ主張をされた。韓国のソーシャルワーク教育においてもネットワーキング技術の必要性を主張された。さらには、機関や団体のマネジメントに関する教育の必要性も強調された。これは、日本にも全て当てはまることであり、ネットワーキングだけでなく、管理運営に関する教育をどのようにしていくのかの課題があり、日本と韓国は極めてソーシャルワーク教育では共通課題があることが分かった。

 その日は、韓国での大統領選挙で忙しく、韓国から日帰りでの、とんぼ返りの日程であった。彼が保健福祉家族部長官になったことで、韓国のソーシャルワークの発展にも貢献してくれることと期待したい。

 韓国では、この長官ポストには、もうひとり社会福祉の研究者でなった方がいる。この方は車興奉(チャ フンボン)教授である。先生も親日家で、今年、韓国の老年学研究ではトップレベルとされるハンリン大学を退職された。先生は日本によく来られ、昨年は、私と京極先生(厚生労働省社会保障・人口問題研究所 所長)が、「障害者のサービス・デリバリー・システムー韓日の比較ー」というシンポジウムで先生が理事長の団体から招聘していただいた。その時は、障害者に必要なサービスをいかに円滑に届けていくかについて、時間をかけてデイスカッションをした。

 車先生のエピソードで、日本と関係のある興味のある話しがある。先生が長官をされておられた時に、福祉に関する公的責任を果たしていくために、地域に福祉事務所を作るかどうかの議論があったそうである。その時、車長官は和歌山県の福祉事務所に長期間出張し、その仕事を学んだそうである。結果としては、福祉事務所は作らず、現在民間団体が運営しているコミュニテイ・センターに業務を委託して実施していくことを選ばれたそうである。このコミュニテイ・センターには韓国の国家資格である社会福祉士が現在多く活躍している。

 日本では、多くの業務が福祉事務所や町村から、地域包括支援センター、障害者の相談支援事業所、介護保険の居宅介護支援事業者に移ってきている。車先生の将来を見据える眼力には恐れ入るものがある。日本も、もっと早くに民間機関に可能な限りの業務を委託していれば、そこには社会福祉士等の専門職が中心になり、コミュニテイ・ソーシャルワークがもって推進できたのではないかと思う。いかがであろうか。いや、隣の芝生は青く見えるだけなのだろうか。

 この長官ポストには、医者や看護師がそれぞれ数回着いており(官僚から上がる場合も、国会議員がなる場合もある)、社会福祉が2回もとっていることは、日本では想像できない驚きの限りである。その意味では、韓国の社会福祉研究者や実践家は政治力をもっているのであろう。

 その証拠が、韓国では、国家1種の試験に、社会福祉からの採用があり、社会福祉出身の国家公務員という官僚を多数輩出している。日本では、厚生労働省には、専門技官として、医師、看護師等はうようよいるが、社会福祉士が技官としては採用されていない。専門官として、数人の福祉系教員が一本釣りで採用されているに過ぎない。

 これには、確かに、韓国では、日本の東大に相当するソウル大学、京大に相当する釜山大学にも社会福祉学部があるのとは違いも、日本では国立大学にはほとんど社会福祉学部や学科が設置されていないことが大きいかもしれない。しかしながら、そうした道を模索することも必要ではないのか。

 そう言えば、以前にブログにも書いたアメリカのコロンビア大学社会福祉大学院研究科長のジャネット・タカムラ先生は、クリントン政権での高齢者問題の国の最高政策責任者であった。彼女はそこからコロンビア大学の大学院長に転身され、国際的な視野に立って国際交流を積極的に進めていくために、現在活躍されておられる。

 日本でも、どうすれば、国民のためになる社会福祉を、研究者や実務者から政治に向けて発信できることができるかについて、もう少し関心を向ける必要ではないだろうか。但し、こうした広大な仕組みは自然にできるわけではないし、誰(個人ではなく組織)が構想し、実行していくのかが問われている。