南の国の会社社長の「遅ればせながら青春」

50を過ぎてからの青春時代があってもいい。香港から東京に移った南の国の会社社長が引き続き体験する青春の日々。

レスリーがこの世に別れを告げた日

2007-10-04 01:50:28 | HONG KONG
午後6時41分、彼は夕暮れの香港の空に向かって跳んだ。
そこは香港マンダリン・オリエンタル・ホテルの24階の
フィットネスクラブ。その時、彼は何を考えていたのだろう。
このところずっと鬱状態だった彼は、その日が4月1日の
エイプリル・フールの日だというのを知っていたのだろうか。
飛び降りた後、「えへへ、嘘だったよ~」と言って、苦笑い
をして生き返えれると思っていたのだろうか。「エクササ
イズのつもりでちょっと飛び上がってみただけさ」と言おう
としていたのだろうか。「さらば、わが愛/覇王別姫」の
ラスト・シーンの程蝶衣のことが、一瞬でも彼の脳裏を
よぎらなかったであろうか。しかし、一旦空中に踏み出した
彼は、そのまま戻って来なかった。

2003年4月1日、香港の俳優レスリー・チャンは、香港の
セントラルのマンダリン・オリエンタルの24階から飛び降り、
自殺。享年46才。

先日たまたまそのマンダリン・オリエンタルの近くに行った
ので撮影した写真がこれです。レスリー・チャンのことは
すっかり忘れていたのですが、先日たまたま香港のレンタル
ビデオ屋で借りた『さらば、わが愛/覇王別姫』を見て、
こういう偉大な俳優が香港にいたんだなあと感慨を深くした
わけであります。

実は、私は、偶然彼と同じ飛行機に乗ったことがありました。
2001年頃でしたでしょうか、私は北京からJALで成田に到着
しました。税関審査を抜けて、自動ドアが開き、到着ロビー
に出たときです。ものすごい数の女性のまなざしが一斉に
私に注がれるのを感じました。それはまさに集中砲火のよう
な感じでした。女性と言っても30以上の女性ばかりのようで
したが、瞳の中には少女漫画のような星のきらめきが見えて
いるかのようでした。

しかし、私であることを確認して、一瞬に安堵というか幻滅
というか、テンションが下がるのがわかりました。カメラを
構えて待ち構える女性軍団の間を抜けて、バスに乗ろうかな
とも思ったのですが、一体、誰が到着するのだろうか見て
やろうと思ったのです。野次馬の中に、成田のガードマンの
人も混じっていました。その人に「誰ですか?」と聞いてみ
たら、「レスリー・チャンって人みたいだねえ」という答で
した。

しばらくしてレスリー・チャン本人が出てきました。カメラ
のフラッシュが一斉に炊かれました。ファン達のハートの
マークが漫画のように見える気がしました。私はその時、
レスリー・チャンがどんな人であるのかよく知りませんでし
た。彼は微笑みもせずにさっさと人混みを抜けていきました。
私の目から見ると、ちょっと疲れて、悲しげな雰囲気がしま
した。まさかその彼がその後二年弱で自殺してしまうなんて。

『さらば、わが愛/覇王別姫』の映画の中で演じられる、
『覇王別姫』の京劇は、実は「項羽と劉邦」の「項羽」で、
四面楚歌で有名なシチュエーションです。高校の時の漢文の
授業で、先生が「力は山を抜き、気は世を覆う。時利あらず
して騅逝かず。騅逝かざるを如何せん。虞や虞や汝を如何
せん」と朗々と読み上げていたのが忘れられません。敵に
四方を囲まれ、四面楚歌の状態となった王様、項羽は、
妻の虞姫(ぐき)を抱き寄せ、悲運を嘆きます。虞姫
(ぐき)は項羽の足手まといになってはいけないと、自らの
命を絶つ、というのが覇王別姫のお話。

愛のために自らの命を絶つのです。映画の中の蝶衣も愛のた
めに命を絶ちます。とすると、レスリーも愛のために命を
絶ったのでしょうか。それは今となっては誰も知りません。

以前、ワン・リーホンのインタビュー記事で読んだのですが、
彼は16歳のとき、この『さらば、わが愛/覇王別姫』を見て
感動してしまうのですね。そして、『蓋世英雄』は、その
映画から得られたインスピレーションで作られたアルバム
なのですが、彼は、レスリー・チャンをかなり尊敬していた
ようです。

ワン・リーホンは、レスリー・チャンに会うのですが、その
時レスリーはリーホンに「人の出会い」についてすごく
カッコいいことを言うのです。それがどういう言葉だったか
検索してみたのですが、見つかりません。人の出会いという
ものは偶然なのだけれど、出会いによって生じる結果は必然
みたいな言葉。この言葉を聞いたときは、レスリー・チャン
ってすごい人なんだなあと思ったのでした。その正確な言葉
が検索できないのが残念です。どっかのウェブで紹介されて
いたのですが、なかなか見つかりませんでした。

さて、私は、今週の金曜日に中国の南京に向かいます。
南京の五台山スタジアムでワン・リーホンのコンサートが
10月6日の土曜日に開催されるのですが、それを見に行きま
す。ファンとしてではなく、実はこれも仕事なのですが。
ではまた。