今回のコースは久しぶりの丹沢。表尾根の大倉尾根から塔ノ岳-丹沢山-丹沢三峰-宮ケ瀬ダムというコースを選んだ。
コースタイムで9時間あまり。ただし後半の宮ケ瀬ダムに降りるコースは人があまり歩いている様子はない。
大倉尾根は過去に二度下りとして利用したことがある。登りは初めて。塔ノ岳-丹沢山の間は30数年前に大山から出発して蛭ヶ岳-檜洞丸-奥箒沢へ縦走したときに通った。この時は丹沢山のみやま山荘で1泊している。
大倉尾根は下りは快適であった。道は当時もよく整備されていた。今回これを登ったが、なかなかつらいものがある。前半は花立山荘までは快調に飛ばした。そこから前の晩の睡眠3時間半というのが効いてきた。異常な大量の汗をかき、軽い熱中症かと思われたので、ここからはゆっくり登った。塔ノ岳にはコースタイムより少し短めで到着。
残念ながら途中から濃いガスが覆ってきて頂上からの展望はまったく見えない。しかし風の無い濃いガスの山というのもなかなかいいものである。
昔と違うのは、登山道の整備が進み稜線の植生回復のため木道や木の階段、梯子が多用されて直接地面を踏まないようになっている。これはこれで止むを得ないのかと思うと同時に、土の上を歩く感触がなくて寂しさも感じた。
さらに後半からは金属製の網が登山道を挟んで両側に10~20メートル巾で続いている。人が立ち入らないためではなく二ホンジカの食害が守るためということらしい。
すっかり管理され、囲われた中を歩くというのはさびしいとは思うが、とりあえずやむを得ないものと了解はした。
懐かしい尊仏山荘に入り、予定にはなかったがエネルギー補給のためにカップ麺とスポーツドリンクを購入して40分ほど休憩。最後の登りで両足の太腿がつったのは久しぶりの事態で予想外。丹沢山まではこの太腿の痛みを味わいつつも久しぶりの事態を楽しみながら1時間で到着。ここも深いガスの中。
丹沢山で50分ほどの昼食休憩。持って行ったおにぎりが美味しかった。サイダーも購入してスポーツドリンクと混ぜて飲んだ。たぶんこれで以降の太腿の痙攣は治まったと思う。
しかしここでビックリの事態その1。木のテーブルで寝ていたら急に人の気配が大きくなって細目を開けたら、すぐ横にライフル銃らしきものを背負った人が立っている。思わず済州島で出会った韓国軍の行軍演習かと目を疑い、次にとうとう安倍総理のもと自衛隊も行軍練習を一般登山道の山中ではじめたのかと思った。
起き上がってよく見ると迷彩服ではなく、赤とオレンジの目立つ服装で、銃も軍隊用の威力のあるものではなく狩猟用の散弾銃であるのがわかり、少しほっとした。会話を聞いているとこの丹沢山の直下の堂平方面で二ホンジカを撃っているらしい。宮ケ瀬ダムに向かう道から下に向かうグループに登山道から外れないよう話をしていた。登山道を歩いている限りは安全であるとのことであったが‥。私が山に入る日が狩猟の日と重なるのはつらい。 塔ノ岳から聞こえていた遠い雷鳴とは別に下の方で大きな掛け声と鋭い発砲音が聞こえてきた。それでも若い人のグループは堂平に降りて行ったから私も大丈夫と判断した。
宮ケ瀬湖まで11キロ、4時間45分のコースを12時15分に出発。コースは深い森を濃いガスが覆って静かで、幻想的な気持ちのいいコースである。巾20~30メートルの塔ノ岳から続くネットとその趣旨を大書した大きな看板が興ざめではあるが、止むを得ないのであろう。丹沢三峰という三つの峰はいづれも展望は無く、奥秩父の甲武信岳、国師岳付近の縦走路を思い出した。三峰を越えて本間ノ頭までが稜線を辿る道で高低差もある。
ここでビックリの事態その2。三峰の中間峰の太礼ノ頭を超えたところでかなり前方の道に白いものが私と同じ方向に進んでいるのを見た。白いのでクマではない。シカのお尻かと思えた。しかし両サイドのネットを超えて入り込むわけはないので目の錯覚かとも思えてそのまま進んでいくと、下から犬が3頭進んできたのに気付いた。距離にして20メートルほど。思わず「野犬」と思い、その場に凍り付いた。
とっさに間違いなく襲われる、無事ではいられない、良くて重症、多分人生の終了と思った。不思議と足は震えないで意外と冷静に自分を観察するものである。3頭は白い犬を先頭にあたりを嗅ぎまわりながら進んでくる。しかし不思議に私の方をチラッとみたが、身構えるわけでもなく飛びかかる気配も見せない。
そして首に無線をつけているのがわかった。細いアンテナが揺れている。これで猟犬であることはわかった。しかしこの巾30メートルのネットに挟まれた登山道にどうして入ってきたのだろう。これが今でも解せない。そして3頭とも人の歩く登山道沿いに私に向かってくる。
たとえ襲われても、怪我をしたり殺されてもすぐに人に見つけられることは間違いないな、と他人事のように思ったというのは不思議である。犬は多分シカのにおいを追っているのであろう。まったく人間の私には興味を示さずに、私の足元を尻尾を私の足に触れるように通り過ぎていった。私はただ立ち尽くすばかりであった。
3頭が私の歩いてきた道の方に50メートルほど去って後ようやく私はひとつ深呼吸をして我に返ったような気がした。そして足が震えだした。もしクマが出現してもこのように何もできないうちにきっとクマに襲われるのかな、との思いも湧いてきた。
気を取り直して3分ほど歩いた時、後ろに荒い息を感じ振り向くと先ほどの3頭の先頭にいた白い犬が5メートルの至近距離をこちらに向かっている。このときは足が震えて立ち止った。「襲われる」と観念した。しかし犬はまた私にはまったくなんの興味を示さず通り過ぎて、視界から消えた。他の2頭は見えない。再び歩きはじめると今度は向かい側から先ほどの白い犬が登山道を外れてフェンス沿いに登ってきた。これは少しゆとりをもって立ち止まって見送った。
その後犬を見かけることはなかったが、しきりに下の沢の方から発砲音は引き続き聞こえてくる。あの3頭は間違えて登山道に入り込んだのだろうか。いづれにしろたいへん怖い思いをした。人が引率している犬ならば別だが、こんな怖い思いをさせる狩猟方法はやめてほしいものである。猟友会の役割や苦労についてはマスコミ報道の程度には理解はしているつもりだが、こんな事態は是非やめてほしいと思う。
本間ノ頭の手前で、丹沢山を過ぎてから初めて人とすれ違った。猟犬の話をしたらその人も驚いていたが、私からは「遭遇したとしてもも、猟犬は人には興味をしめさないようだから、静かに見送るしかない」と伝えた。本日ニュースにはなっていないので無事だったのだろう。
この先は1000メートル以下となり稜線というよりも尾根道に入るのだが、道は良くない。急傾斜の山肌を細い踏み跡が続きなかなかスリルがある。ハシゴ、ロープ、クサリがところどころある上に、山肌が崩れて鉄板でわたるなど変化に富んでいる。これまでの登山道とは一味違う。同時にだんだん左足首の痛みがひどくなってきたので、下りは思うように足が前に出ない。いつもの症状である。
途中高畑山の頂上を踏むためにそちらに入ったが、頂上から先は赤いテープがあるのだが、藪漕ぎとなる上にテープが見えなくなってしまった。やむを得ず引き返してトラバース道を歩いた。ここで約30分のロス。
この後は数か所の細いところがあったが道はわかりやすい。しかし足首をかばってゆっくりと歩くことにした。
この写真の先あたりで休憩を取ろうとして枯れ木に座ろうとしたが、腐っていてブヨブヨしていたので止めたが、どうもこのあたりでヒルが登山靴に付いたようである。
この休憩から1時間ほどして登山口に付いた。到着したのが17時30分。丹沢山を出発してから5時間15分。途中30分ほどのロスがあるので、コースタイムより15分程の遅れで着いたことになる。猟犬との遭遇でのロスは5分ほどであったろうか。
さてここでビックリの事態のその3。登山口から宮ケ瀬のビジターセンターまで15分の道を歩き始めてから靴の紐を直そうとしたらヒルが2匹毛の靴下の上から吸い付いているのがわかった。ヒルを見るのは初めてだが、すぐにそれとわかった。右は足の脛の前側、左は脹脛。慌ててタオルを使って引っ張ったが途中で切れるとまずいと思い、そっとはがすように取り除いた。血で太くなっていて長さが5センチ以上に伸びている。それをアスファルトの上でつぶした後、靴をよく見ると3匹が紐の間に隠れている。これを紐を解きながら叩き落とした。靴を念入りに点検し、さらにリュックや衣服も点検してヒルがいないことを確認。
ビジターセンターにある、ホテル「みはる」でお風呂にいれてもらった。お風呂は広くて、とてもいい風呂。登山の最後は温泉でなくともこのような風呂があるとしあわせである。
ここの宿の人からヒルに噛まれた後の血は出来るだけ出し尽くした方がいい、お風呂で流すと血が余計出るが心配するな、とアドバイスを受けた。ありがたかった。シャワーを掛けながら傷口の周囲を押して血をかなり出してから湯船に浸かった。着替えている間にも血がたらたら流れつづけていた。
ビールを待つ間にネットで調べて、ステロイド剤を塗ることがいいことがわかり、医師に虫刺されのときに使えといわれ処方されていたストロイド剤をいつも携行しているのでそれを縫った。食事がすむ頃には血も止まり、ホッとした。
この「みはる」では、レストランも終了間際で、客も私一人であったが、バスのある時間まで約1時間半、ビールとハイボールとつまみ一皿、冷やし中華という客一人にちゃんと応対してもらえた。感謝である。