本日は春一番の風の強く吹く中、昼直前に「有元利夫」展を見るべく半蔵門駅の傍にある小川美術館に妻と出かけた。
有元利夫という画家については私はまったく知らなかったのだが、「時には本の話でも」のブログで知って興味を持った。
ネットで検索するとウィキぺディアでは、
「1946年-1985年。イタリアルネッサンス期のジョット、ピエロ・デラ・フランチェスカや、日本の古仏、「平家納経」などを敬愛し、それら「古典」や「様式」のもつ力強さに惹かれ、影響を受けた。生涯に制作したタブローは400点にみたない。それらは岩絵具や顔料を色材とし、アクリル、膠等の媒剤を用いて、ごく少数の例外を除きみなキャンバスに描かれている。女神を思わせる人物像をモチーフとした作品がほとんどで、雲、花弁、トランプ、カーテン等をモチーフを彩る素材として好んだ。 タブロー以外では、塑像や木彫、版画等の制作に意欲を見せ、水性絵具による素描も残している。 また、バロック音楽を好み、自身でリコーダーの演奏もした。わずかだが作曲も試みている。
卒業制作ではピエロ・デッラ・フランチェスカらの作品を引用しつつ独自のスタイルを探る連作を出品し、作品は大学買い上げとなった。若くして安井賞を受賞し、画壇に華々しく迎えられたが独自のペースで制作を続け、作風にも表立って大きな変化はない。初期には額も自分で制作していた。絵画のほかに素朴な木彫やブロンズも制作した」
とある。
また彼の作品を所蔵しているという彌生画廊のホームページには、
「岡山県津山市に生まれる。1969年東京藝術大学美術学部デザイン科に入学。在学中に渡欧した際、イタリアのフレスコ画に強く感銘を受けフレスコ画と日本の仏画に共通点を見出し、岩絵具を用いることを決心する。1972年卒業制作「私にとってのピエロ・デラ・フランチェスカ」10点連作が大学買い上げとなる。卒業後、有元利夫はデザイナーとして電通に勤めるが、1976年より画業に専念。展覧会出品を重ねながら、1978年「花降る日」で安井賞特別賞を受賞。1981年には「室内楽」にて第24回安井賞を受賞する。その後有元利夫は彌生画廊を中心として数々の作品を発表し多くの賞を受けるが、1985年2月24日逝去。岩絵具を使い、風化を意識した絵肌を持たせた静寂感のある有元の美しい作風は今も多くの人々を魅了し続けている」
と紹介されている。
夭逝した画家であるが、絵はとても落ち着いて大成した画家のようにも見える。
展覧会は小川美術館であるが、そこは彌生画廊と同じところにあるようで、この両者の関係やこの作者とこの二つの施設の関係もよくわからない。入場料無料というのも不思議な感じがする。この小川美術館での展覧会は毎年2月下旬に短期間だけ行われるようで、私にはますます不思議な感じがする。
そのようなことを抜きにして本日はこの小川美術館というところに出かけた。半蔵門という東京のど真ん中のいかにも高級で閑静なところにあるビルにある美術館は初めて訪れた。
作品をじっくりと見ることができたが、不思議な絵である。どこか祈りの場に迷い込んだような雰囲気が充満している。
描かれているのはいづれも女性。それもほぼ単身の女性が単色の服をまとい、何か不思議な所作をしている。決してあわただしい動きではなく、静謐な動きという不思議な形容をするしかないような所作である。
女性は極端に小さな頭部を持ち、それに比して以上に誇張・拡大された二の腕や首が印象的だ。この強調された人体は何を象徴しているのか、見終わっても結局はわからずじまいであった。
彩色は淡い色でうす塗り。人物の背景は、ヨーロッパのルネサンス期以前の調子であったり、あるいは日本の琳派の絵を真似たような四角の金箔地のように描かれていたりする。あるいは「厳格なカノン」のようにシュールレアリズムの絵を髣髴とさせるようなものもある。さらに背景に時々書かれる木々は必ず葉を落として冬の枯れ木・裸木の様相である。「一人の夜」など月が描かれたものもあるが、それは何か日本画の雰囲気も醸し出している。また「出現」は遠目には光背のような太陽を背にしてキリストの出現のようにも見えたが、描かれているのは女性である。
また絵に描かれた要素として、花びら(桜なのかもしれないが不明)があり、これは当初私は遠くから見て、クリオネか人魂と勘違いしたが、この花びらがとてもなまめかしい。人物よりも数段はっきりと描かれ、絵から飛び出しているように見える。これも不思議な感覚を助長している。
バロック音楽に興味を持ち自らもリコーダーを演奏したということだが、確かに静かな画面の奥からヨーロッパの古音楽が聞こえてきても不思議ではない雰囲気がある。同時に、描かれた雲、花弁、トランプ、カーテンといった要素が何を暗示しているのか、何の象徴なのかはまったくわからないもどかしさを味わった。
展示では絵の題名も制作年代も示されていないので、有元利夫という画家の絵の変遷も、題名と描かれた絵の関係などはわからない。ただ絵を見て感じてください、というような展示である。これはこれでいいのだが、有元利夫という画家をもっと知ろうという人にはチョッと不親切かもしれない。
作曲も手がけたようで、その音楽が会場に静かに心地よく鳴っていた。CDも売っていたが購入にまで頭は回らなかった。購入してもよかったと反省。図録は5000円を越えていたので、16枚セットの絵葉書を購入した。
また新庁舎から有元利夫の妻であった有元容子という陶芸家・実践女子大教授との共著「絵を描く楽しさ」「花降る日」という著作が新潮社から出版されているので、これを今度は購入して有元利夫という人物について勉強してみたくなった。作品はどれも心惹かれる何かがある。しかしなぜ惹かれるのかも含めて、まだよく私の中ではこなれていない。
取りあえずの報告ということで、本日はこのへんで終了とさせてもらいたい。