泉山の草木花

ひそやかに咲く花々や、やさしさに溢れた植物を皆さんに紹介したいと思います。

くろもじ

2012-03-30 | 樹木
  くろもじ/黒文字  クスノキ科
今年は一週間ほど遅く、ようやく蕾が開いてきました。
小さなロウ細工のような淡い黄色の花は、春本番を告げてくれます。

クスノキ科には常緑と落葉樹とありますが、
クロモジは落葉樹の仲間。
その枝は香りよく、和菓子用の楊枝を作ります。

高校3年の時、窓の外に大きなクスノキの茂みがあり、
春のアップルグリーンの新葉に、ほんとうに感動したものです。
ほんのりとかぐわしいクスノキの森は(一本でも森のように見えますね)、
一年を通して、想像をかきたてる、物語のような印象を残してくれました。

クスノキの仲間は葉や茎に精油細胞を持ち、芳香のあるものが多くあります。
カンフル、つまり樟脳はクスノキから作られていました。
またシナモンを採るニッケイや、月桂樹やアボカドもクスノキ科です。

この時期に見るクロモジの花は、風が冷たくとも、あたたかみを感じます。

くろき

2012-03-25 | 樹木
  くろき/黒木  ハイノキ科
かつて樹木の勉強を始めたころ、
近くの浅い山にたくさんあったこの木の名が分からず、
図鑑を何度も何度も繰り返し見るけれども、
判別できませんでした。

それは、10代の頃より常にそばにあった『牧野新日本植物図鑑』(S36年初版)。
牧野富太郎の弟子たちが、牧野の死後作り上げた図鑑です。
この図鑑で育って来たと言って過言ではありません。
じつはこの図鑑に「クロキ」は載っていなかったのです。

過日、山と渓谷社のハンディ図鑑『樹に咲く花』3冊を購入し、
ようやく同定することができたのです。

『牧野新日本植物図鑑』は線画の標本画が描かれていて、
もちろん彩色はされていないのですが、
むしろ植物の特徴を頭に入れるには最適な描画方法で、
また、その美しさは強く印象に残るものでした。

また、『樹に咲く花』はとても長い取材を通して、
写真でも検索できるよう、細かい部位までも撮影をしていて、
今まで積み重ねてきた知識に色彩をつけるがごとく、
新鮮な感動を持って、読むことのできる本なのです。

本にはそれぞれに特徴もあり、個性もあり、
そばに置いておきたいと思わせる価値を見出すことで、
宝物となっていくものですね。

…「クロキ」の花は枝を覆うように咲いて、いい香りを放っています。

ひさかき

2012-03-16 | 樹木
  ひさかき  ツバキ科
この時期、どこからともなく、風が香り、早春を感じさせてくれます。
10代の頃、山歩きをはじめた時は、なにが香っているのか、
すぐにはわからなかったけれども、このヒサカキの花が香って、
山中を春めかしていることがわかると、いっきにこの樹木と友人になれたものです。

ヒサカキには雄の木と雌の木があって、上の写真は雄花です。
びっしりと花を付けて、直接鼻を近づけると、やや強烈な匂いです。

雌花は数も少なく、ひっそりと咲いている感じです。
子孫を残すために、逆に目立たず、人に切りとられないようにしているのでしょうか。

         ヒサカキ雌花

「風香る」という表現は素敵です!
5月はもちろんたくさんの香る花が咲いて、この表現がぴったりの時候ですが、
むしろ若き日の記憶に支配されがちな年頃になると(思い出は甘いのです)、
この早春の風の香りは、いっきに、過去を鮮明によみがえらせるのです!

やぶこうじ

2012-03-09 | 樹木
  やぶこうじ/藪柑子  ヤブコウジ科
林床の赤い実は、よく目立って可愛いものです。
ヤブコウジは、小さくても樹木のひとつ。
趣のある植物ですので、古くより園芸植物として、
庭園や盆栽に使われています。

「柑子」はミカンの一種です。
ヤブコウジは、藪にある柑子という、その連想は、
現代人の想像力には、ないように感じます。

また「柑子」という襲(かさね)の色があります。
濃い朽葉色と言う説明がありますが、
西洋色で言えば、カーキ色に近い色です。

ヤブコウジ科に「ツルマンリョウ」という地面を這う低木があります。
山口市に国の天然記念物に指定された自生地があり、
本州では数ヶ所のみ確認されている極めて希少な植物です。

「マンリョウ」もヤブコウジ科です。
萩市にある古刹の裏庭で、子供の背丈ほどもあるマンリョウを見たことがあります。
年月とともに重厚さを増す建築と、年を経て静寂を漂わす庭の木々の一体感は、
訪れる人のこころをも沈めてくれようです。

林の下にひっそりとあるヤブコウジに、
いろいろな思いがめぐってくるものですね。

まめづた

2012-03-02 | 雑感
  まめづた/豆蔦  ウラボシ科 
春先の、まだ静けさに満ちた林の中の、
常緑樹の幹に緑濃い丸い葉を並べているのは、
羊歯(シダ)植物のマメヅタです。

ほんの1センチほどの葉は厚くて、寒い冬でも緑を保っています。
中に細い葉がところどころに見えますが、
それは胞子葉で、裏にびっしりと胞子嚢がついています。

羊歯を見るといつも思い出すことがあります。
それは二十歳の頃、市内周辺の山を、
羊歯植物を訪ね歩いていたときのこと、
ある山道で、このあたりでは大変珍しい羊歯を見つけたのです。

さっそく採取し、家で栽培を始めました。
それから数年後、またその場所に行ってみると、
ダム工事によってその山道は跡形も無くなっていたのです。

結果的にその珍しいシダを救出したことになりますが、
通常、野生植物を採取することは、小さな自然破壊とも言えるのです。
しかし、人間の欲望と言うものは、自我を優先してしまうものです。
盗掘とも言われるように、植物泥棒は時として、
環境や他の人々を傷つけることにもなります。

注意深く、その周辺の植生を観察しなければと、いつも思うのです。

のちに、この羊歯の市内での過去の記載場所を図書館で調べると、
まさに自分が採取した場所だったのです。
その羊歯は現在もなお、30年余り、庭で生き続けています。

なにが良くて、なにが悪いのか、人知ではなかなか量ることができませんね。