泉山の草木花

ひそやかに咲く花々や、やさしさに溢れた植物を皆さんに紹介したいと思います。

たらのき

2011-11-25 | 樹木
  たらのき  ウコギ科
7月に花を紹介したタラノキの果実です。
もうすでに乾燥して、つやもなく、
まばらになって、少しさびしい感もありますが、
冬のはじめの薄日に、黄葉した葉とともに淡く浮き出て、
白く粉をふいた様子は、思わず歩を止めてしまうような、
やさしげな印象があります。

タラノキはウドやヤツデなどと同じウコギ科の植物ですが、
この仲間には、有用植物が多く、
ヒマラヤから中国四川省、日本へと繋がる、
根菜農耕文化の重要な食料のひとつでした。

稲が渡来する前の、縄文人の豊かな食生活の痕跡が、
最近次々と明らかになってきていますが、
豊かな森と、豊かな海の、無尽蔵の食べ物によって、
争いもほとんどなかったと想像する、平和な集落で暮していた、
彼らの温厚な姿を、この果実の様子に重ねてみるのです。

春には木の芽を採り、草を摘み、
夏には、貝を掘り、魚を獲り、
秋には、木の実を拾い、山芋の根、ウバ百合の球根を堀りあげて、
冬には保存食に加工したそれらを煮て食べている、彼らの姿が、
植物を通じて、見えて来る気がするのです。

マテバジイと言うどんぐりには、渋みがなく、シイの実は生でもおいしく、
ウバ百合の球根は茹でると、ホクホクとして絶品だし、
ノビルは疲れた男たちを元気にしたであろうし、
栗は大きな実の生るものを選抜して、集落の周りに植え、
その栗や楢の枯れ木に生えるキノコを汁にして、
食事をしている彼らの集落が、ひとつの家族のようであった、
つましい時代を、想像してみるのです。

やぶむらさき

2011-11-18 | 雑感
  やぶむらさき/藪紫  クマツヅラ科
ムラサキシキブという美しい植物があります。
花も実も、うっとりとするほどの樹木です。

コムラサキという可愛い植物があります。
紫色の実が鈴なりになって、それはそれは見事なのです。

ヤブムラサキという、目立たない植物があります。
花もささやかで、実も葉陰に隠れるように付いていて…

でも、このヤブムラサキに惹かれるのは、なぜでしょうか?
控えめだから?
けなげだから?

見るからに貧相な植物でも、
見方によって、観察の仕方によって、
驚異の世界を覗くことができることを、知っているから?

そうなのです。
植物画を描いていると、自然に観察が深くなり、
気づかなかった美を発見することが多いのです。

このヤブムラサキの果実。
見つめていると、紫色の珊瑚に見えてきます。
萼片の毛深いところも、チャーミングですね。
枝をルーペで覗くと、びっしりと星状毛が生えていて、
雪の結晶のようにも見えるのです。

「幹は強靭で、道具の柄や杖にする」と、
本には書いてあります。

藪の中で、人が振り返らない存在でも、
そこに存在する意味すら知らなくても、
営々と繰り返す生のいとなみの中に、
「美」を、秘めていることを、
誇りとして、ヤブムラサキさん、
いてください。

さざんか

2011-11-11 | 樹木
  さざんか/山茶花  ツバキ科
サザンカが咲き始めました。
うす桃色の八重咲きの花が、うつむいて、エレガントですね。

サザンカはツバキと同じ仲間で、園芸品種もたくさんあります。
特徴は花にカビのような匂いがあり、また花茎と子房に毛が生えています。

山口県の古都萩市に、北限であるサザンカの自生があります。
その原種のサザンカは、白の一重で、花弁は細く、
野性味溢れる花です。

かつて萩城のあった指月山に、そのサザンカはあります。
指月山は140メートルあまりの、海に突き出た小さな山で、
スダジイやヤブツバキなどの照葉樹林に被われ、国の天然記念物に指定されています。

ふもとには明治の初めまで毛利家の居城、萩城があったのですが、
今は城址公園として整備されています。
指月山に登ると、うっそうとした古木に囲まれて山城跡があり、
静けさのなかに、いにしえの人々の息づかいを感じて、
やや心ざわめく感をおぼえます。

萩のサザンカは、薩長同盟の後、薩摩より持ち込まれたのではないかとも、
考えてしまうのです。
九州の北限地の佐賀県から萩までの間、他に自生地があればそんな邪推をしなくてもすむのですが、
歴史的な街、萩という舞台と、城址と、印象的な形をした美しい指月山とを想う時、
人々の交流のなかに花も加わり、ドラマのひとこまとしてのエピソードが残っていると、
面白いなと、ただただ考えてみたのです。

指月山のサザンカは、萩城址側にわずかに自生があり、大切に守られているので、
そういう想像をしてしまうのかもしれません。


つちぐり

2011-11-04 | 雑感
  つちぐり(土栗)  ツチグリ科
ツツジ園の道のコケの上に、異星体のように乗っかっていました。
「どこから来たの」と、問いたくなりますね。

可愛いキノコです。
柿のへたのようなスカートは、湿り気を含みとこのように広がり、
乾くと白い内皮を包むように閉じて、風に吹かれて、
移動していくそうです。

キノコの本体である菌糸は、普段はなかなか眼にすることはできないけれど、
地中や樹木などあらゆるところにいて、なにかのきっかけで姿を現します。
それが「キノコ」で、繁殖のための胞子を撒布する基地ともいえます。

生命に溢れたこの地球上で、菌類の役割は大きいものがありますが、
それらはけっして単独での生存はありえず、
生命の循環の輪のなかのひとつの鎖として存在しています。

その連鎖は、複雑に入り組み、あらゆる命の生と死の繰り返しを連関付けて、
この不思議に満ちた星を形作っています。

私たちとはあまり関係深くないように見えるこのツチグリを眺めていると、
むしろ、私たちがこの地球上に生きている意味を考えさせてくれます。

それは、この地球上のどの生物も、ひとつの大きな輪のなかに生きて、
それぞれの役割を果たし、それぞれに美を形作り、
そして、消え、また産まれて、それぞれの命をつないでいっている事を。