眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

遊園地

2012-05-13 | 
子供達の声が聴こえた
 少年がボールを追いかけ
  夕映えのグランドに伸びる影を
   校舎の二階の窓から
    小説のページをめくりながら少女が眺める
     夏が去り秋がやって来る
      全てが過ぎ去る
       記憶という表層に
        万年筆で傷を付けるのだ
         無垢な子供達の
          想いは砕け散る

          砕けちった破片を眺めて
         僕は公園の付近を歩いていた
        小さな石を見つけ
       そっとポケットに忍ばせた
      まるで壊れやすい想いの様に
     古びた廃墟の様な遊園地には
    傷ついたメリーゴーランドがあって
   僕はベンチに腰かけはっか煙草に火をつけた
  ぼんやりと煙が風に流された

 ペンキの剥がれかかった白い馬
壊れた腐敗臭をたなびかせるかぼちゃの馬車
 鏡館の不可思議な虚像
  誰も乗らない車の玩具に百円玉を三枚入れたが
   やはり車は動かない
    断裂した記憶は決して動かないのだ
     缶珈琲の空き缶に吸殻を入れ
      僕はこの限りなく虚無を感じさせる
       壊れかけた世界をぐるりと眺めた

       遊園地のの中央には観覧車があった

      かき集めたコインを入れると
     観覧車が音を立ててゆっくり回り始める

    ぎぎぎ

   さびついた扉を開け
  僕は観覧車に乗り込んだ
 音を立てながら世界がゆっくりと流転する
僕は黙って視界の下の風景に別れを告げた
 こうして見ると
  こうして見ると遠ざかる風景は
   まるで記憶の断層の様だった
    沢山の想いや君やかつての少年少女達が遠くに見えた
     それ等は記憶の国だった
      遠ざかる世界にはなにもかもが或る様な気がした
       其処に大切な何かを置き忘れたような気がした
        僕が持っている物は
         煙草とライターと拾い上げた小石だけだった
          
         子供達の声が聴こえた

         僕はぼんやりとこう想った
        今この瞬間は
       あの時校舎の二階で少女が読んでいた
      誰かの小説の類じゃないのだろうか?
     僕等が呼ぶ世界の記号は
    黒板に白墨で描かれた記号暗号のの公式ではなかったのか?
   蝶が蜜を探して花の無い花壇を飛んでいる
  今は届かない想いを探す僕の様に
   無意味に散策する庭に於いて
    僕は虚無に煙草の煙を送り続ける
     誰にも届かない瓶詰めの手紙には
      世界の構成要素の成分が書き記されている
       そうやって時間が流れた

       子供達の声が聴こえた

       
        記憶の国から


       グランドに長く伸びた影


      誰かが影踏みをして遊んでいた






コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする