ヒューマンスキルの面からテレワーク導入対策を考えた場合、特効薬がある訳ではない。ヒューマンスキルの基本にそって、チームの仲間とコミュニケーションを取っていくことに尽きるのだが、幾つか特に注意を払っておくと良いことがある、という程度のアドバイスは可能だ。
その一つが「部下の承認欲求を満たすことを意識して報告を聞く」ということだ。アメリカの社会心理学者アブラハム・マズローの有名な「欲求5段階説」によれば、下から数えて4段階目に「承認欲求」がある。
これは「自分のやった仕事を認めて貰い、褒めて欲しい」という欲求だ。褒められると人はやる気をだし、褒めて欲しい成果を無視されていると人はやる気をなくす。
山本五十六に有名な言葉がある。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ」
である。
最近知ったことだが、この言葉には続きがあるそうだ。
「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」である。
山本五十六の言葉は、ヒューマンスキルの中のリスニング(傾聴)やコーチングあるいはリーダーシップのポイントを突いている。
仕事の先輩である上司は大概のことは自分でやった方がモノゴトは手早くかつ間違いなく進めることができる。だが手際は悪くて失敗するリスクがあっても、部下に仕事を任せていかなければならない。なぜなら任せないと部下が育たないからだ。部下が育たないとチームとして、会社として業績は伸びない。
上司とは教育というLeverage(梃子)を使って、部下を戦力化するのが最大の仕事なのだ。
褒める、ということには抵抗を覚える人もいるだろう。そんなこと出来て当たり前だ、褒めるほどのことはない、褒めるとつけあがるだけだ、という意見もあるだろう。私は何も大袈裟に褒めなさい、といっている訳ではない。
部下がメールなどで報告書を出してきた時に、一言添える。気の利いたアドバイスができれば最高だが、できなければご苦労さんでも良い。Slackなどチャットを使う場合は「いいね!」の絵文字でも良いと思う。チャットをビジネスツールとして普及させたのはSlackの功績だが、絵文字という日本発のコミュニケーションツールをうまく利用して、言葉によるコミュニケーションの届かないところを埋めるツールにしている。
部下が「自分のしていることを上司が見てくれている」という安心感が次のやる気を引き出すのである。
褒めたら任せるのが次のステップだが、最初は糊代を作っておくのが良い。万一部下がスケジュールどおりに仕事がこなせなかった場合、自分がステップインして片付けるための糊代だ。そこまで配慮した上で仕事を任せてくれたことを部下が知ると大抵の部下は感激して努力するから失敗する可能性は低いのだ。
テレワークには苦労はつきものだろうが、自己を鍛える場でもある。特に職場のリーダーにとってはヒューマンスキルを磨く道場である。そこで磨いたヒューマンスキルは、その職場を越えて人生の色々な局面で役立つことは間違いないだろう。