昨日(3月16日)の海外市場の大きな話題は連銀が政策会合ミーティングで市場予想よりハト派的な態度を示し、今年の政策金利引上げはあっても2回という見方が広がったことで株価が堅調に推移したことだ。
だが個人的にはCNBCに出ていたRich countries have a $78 trillion pension problem(豊かな国は78兆ドルの年金問題を抱えている)という記事に興味があり、その元になっているcitiのComing pension crisisというレポートをざっと読んでみた。
年金問題に関心をお持ちの方や年金(企業年金・個人年金)をビジネスにしている人には読むに値するレポートだと思う。こちらから無料でダウンロードできる。 → https://ir.citi.com/A9PruMxsx32cucD9nPyz6VOD1aXLcqQ1bFnuNFZcDqWVvkop5NYU6Q%3D%3D
ざっとポイントを見てみよう。
- レポートによるとOECD20ヶ国は合計で78兆ドル(約88百兆円)の公的年金の積立不足がある。これは20ヶ国の公的債務44兆ドルの2倍近い大きさである。加重平均するとOECDの公的債務はGDPの109%だが、年金の積立不足はGDPの190%に達する。
- 年金積立不足は公的年金の給付水準が高い西欧諸国で顕著である。
- 気になる日本の公的年金の積立不足だが、citiのレポートによると、GDP比約120%の不足でこれはオーストラリア・カナダ・米国についで低い水準にある。
このこと自体は悪いことではないが、公的年金の積立不足は給付水準(所得代替率)に比例する傾向があり、日本の年金の所得代替率が低いことの裏返しともいうことができるだろう。
- Citiのレポートは「公的年金+確定給付年金+確定拠出年金」を年金収入として、平均賃金に対する割合を所得代替率して各国比較を行っている。それによると日本の所得代替率はOECD諸国の中でメキシコの次に低く約40%である。なお日本政府は厚生年金の所得代替率を現在62%と発表している(2043年には50%程度に減らす予定)ので、二つの代替率の間にはかなり乖離がある。ここではcitiレポートを各国比較を行う上で便宜的に使う。
日本のサラリーマンの年金は「公的年金(基礎年金+厚生年金)+企業年金」となっているが、企業年金を実施していない企業もある。現在厚生年金基金加入者4百万人・企業年金加入者8百万人・確定拠出年金加入者4百万人合計16百万人だが、20百万人近いサラリーマンはこれらの企業年金に加入していないと思われる。
OECD諸国に比較して日本の所得代替率が低いことを考えると、企業年金やそれを補完する私的年金の充実は日本で求められることだが、現状は非常に厳しいと判断される。
- 現在公的年金の積立不足は国家の会計システムには反映されていないが、2017年には欧州では明らかにされるようである。積立不足=隠れた財政赤字が公表されると国家の財政の健全性に対する議論や懸念が拡大することは必須であろう。
日本の公的年金については、Citiのレポートを見る限り、財政赤字問題に較べると現状では欧州諸国よりはまだましな状況である。だがそれは公的年金の給付水準が欧州諸国より低いことの裏返しでもある。また今後の長寿化や労働人口の減少が急速に年金財政を悪化させる可能性もある。
もう一度時間をかけて熟読したいレポートである。