S嬢のPC日記

2004年から2007年まで更新を続けていました。
現在ははてなで活動しています。

存在の証明

2005年04月22日 | たったひとつのたからもの
うちの娘は歌を歌う。

「この子は発語がありませんね」

そう、発達検査で言われていた時代から、歌を歌う。
日常生活で言葉というものをほとんど口にしなかった頃から、
その頃から、歌を歌う。

何度も聴く曲の歌詞を耳で覚える。
拙い発音で歌を歌う。
人に聞かれていると意識すると、やめてしまう。

やがて稚拙なりにも、言葉を使うようになった。
13歳の現在、彼女の持つ言語能力は、
3歳児にもまだ届かない程度だと思う。

他者が自分の知的能力をどう評価するか。
そんなこととは無関係に、娘は歌を歌う。
「歌う」ことが課題のひとつの「音楽」の授業では、
いまだ、声を出して歌わない。
口を閉じ、音楽のリズムに合わせて体を動かす。

「音楽」の授業では、歌わない。
でも、式典のときには、歌を歌う。
小学校の卒業式のときに、
卒業生として別れの歌を歌うのを、
卒業生として校歌を歌うのを、
担任は、娘に気づかれないようにそっと見ていた。
彼女が歌うことを気づいているのがバレると、
そう意識させてしまうと、
彼女は歌わなくなるのを知っていたから。

この3月に、養護学校の卒業式に在校生として出席。
まだ一年しか在籍していない学校の校歌を、娘が歌う。
「音楽」の授業で歌わないことを知っている担任が、
その姿をそっと見守ったという。

わたしは BUMP OF CHICKENの「sailing day」 がとても好きで、
一時期、車の中で何度も繰り返しかけていたことがある。
娘はこの歌の歌詞の断片を記憶する。

今、この曲を車でかけると、彼女は歌う。
サビの部分を、彼女は歌う。

「精一杯 存在の証明」

この歌詞を、きっと彼女は一生漢字で書けることはないだろう。
この歌詞の意味を、言葉で説明できる力を持つこともないだろう。

でも、わたしは、彼女がこのサビの部分を歌うたびに、
それを聞く度に、感動する。
わたしが聞いているのを悟られないように、
細心の注意を払いながら。
運転に専念しているようなフリをしながら。
そんな嘘の素振りをしながら、
この曲をリピートさせるスイッチをそっと押す。

最新の画像もっと見る